2012年12月29日土曜日

ローラント・フェリッヒの若きソウル・メイト、ハネス・シュスター その1

ハネス・シュスター Hannes Schusterと最初に遇ったのは、2009年の初春、拙著の取材でモリッツMoaricのローラント・フェリッヒをグロースヘーフラインの自宅に訪ねた時でした。

この時ローラントは、新プロジェクト“ヤギーニ Jagini”を、この若きパートナーと立ち上げた、と説明してくれ、雪の中、新プロジェクトの一部となるブラウフレンキッシュの古木の畑に車で案内してくれたのですが、何せプリンセスの関心事、というかその時のお仕事はモリッツのワインについて。しかも取材スケジュールは超タイト。ハネスとは挨拶程度で別れてしまいました。

そして2度目に言葉を交わしたのが、今年の収穫直後、再びローラントを訪ねた際に、またまた彼がハネスを電話で呼び出し、今度は彼のワインをじっくり味わう機会を得ました(ブログ10月21日参照)。

その際彼のSt Laurent Burgenlandのコスパの高さに度肝を抜かれ、テイスティングの最中に早々と日本市場への興味を打診。本当はすぐにでも彼の畑とワイナリーを訪ねたかったのですが、プリンセスの帰国やら何やらで、結局年末になってしまった、というのがここまでの経緯です。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

27日か28日であれば丸一日時間が取れる、というハネスの言葉を真に受け、たっぷり畑を見せてもらおう、と、朝9時半前にミュレンドーフ駅に到着。

降りてみれば、ここは10月にローラントを訪ねた時に待ち合わせた駅。ローラントの自宅のある、かつての銘醸畑がほぼ全て宅地に姿を変えてしまったグロースヘーフラインを抜け、ツァーガースドーフからSt  マルガレーテンに散逸する彼の主要な所有畑とリース畑を巡りつつ、車中でワイナリーの成り立ちなどについて話してもらいました。
父親は1900年代初頭からツァーガースドーフでワイナリーを営む家系で、かつアイゼンシュタットの通称HAKA(職業学校)で醸造を教える教師。母親はSt マルガレーテンの出身。
当初ハネスも父の学校に進学を考えていましたが、講師陣のほぼ全てを赤ん坊の頃から知っているような環境はいかがなものか、という理由でクロスターノイブルクKlosterneuburgへ進路変更。

このクロスターノイブルクというのはオーストリアに幾つかある醸造学校の中では最も歴史のある、いわばエリート校ですが、ハネス曰く「学校で学ぶことなんか何も役に立たないよ。もちろんある程度のベーシックは必要だけれど、そんなことは実地で学ぶ方が早いし、ワインを造る上で一番大切なことは、どういう味わいのワインがいいワインなのか、ということと、それを味わい分ける能力だけれど、学校ではそんなこと教えないから」と言うのです。

在学中からかなり独立精神旺盛というか、反骨精神に溢れるタイプだったようで、実家のワイナリーについても変えたいことばかりだったらしい…。それを父親は「まあ、卒業してからだな」と鷹揚に受け止め、実際卒業すると、――父親と同じ品種でワインを造ると「RosiとHannesのどちらがいいか」と較べられるのが嫌だから僕は父さんの作っていないシャルドネを造る――というハネスの主張を受け入れ、あまりに病害に耐性が弱く、収量も少ないため抜こうと思っていた古木のSt ラウレントを、ハネスの制止によって残すことにし…。

ところがそうこうしている、ハネスがまだ23歳だった2005年、父親は突然亡くなってしまいます。変えたい事が沢山あったはずですが、いざ突然全てを引き継ぐとなると、当惑するもの。

彼の偉かったところは、その時自分の一番やりたいことが何かを、じっくり見据えたこと。
最もやりたかったことは、品質の高い、テロワールを表現したワインを造ること、というのは明白でしたが、どうしたらそういうワインが造れるのかは、わからなかったそうです。

そこで彼は、2003年に最初のヴィンテージを味わい、その質の高さとワイン造りのポリシーに感銘を受けたローラント・フェリッヒに相談を持ちかけます。
その結果実現したのがツァーガースドーフのブラウフレンキッシュの古木の借地畑を二人で耕作し、ハネスのセラーで二人で醸造するヤギーニ・プロジェクトだった、という訳。

共同プロジェクトでローラントの哲学と技法を体得したハネスは、今度はそのエスプリを自分のワイナリーに翻案することになります。

彼の狙い目は古木のザンクト・ラウレント。

…という訳で次回はツァーガースドーフ、St マルガレーテン、ルスターベアク、オスリップ、ドネアスキアヒェン…と、3時間以上かけてプリンセスを連れまわしてくれた、畑巡りの様子をお伝えします。

2012年12月28日金曜日

プリンセス、七転八倒も音楽の都を満喫 後編

24日の夕方には軒並み閉まりまくるヴァイーナハツ・マークト(=クリスマス・マーケット)。イヴでお仕舞のところもあれば、25,26日には再び開いているところもあります。

そこでプリンセス、25日は気を取り直してホテルの朝食をゆっくりたっぷり食べ、ひと仕事した後、お昼前からマーケットへリベンジに繰り出しました。
二つのミュージアムに挟まれたマーケットは賑わっていました。
最初のプンシュ(果汁入りのワイン、或いはジュースとシュナップスのミックス)は、温まりの足りない液体にドカンと乗ったホイップクリームが、得も言われず浮きまくり、脂っこく…でも喉が渇いていたので流し込みました。
苦しゅうない…
あたったのはこの生クリームか?
ほどなく小腹が空いたので、シュタイヤーマークから来た肉屋の屋台で、リンゴ入り豚肉のパテのゼンメル・サンドと、飲み物は…プンシュの甘ったるさに辟易としていたので、シュナップスを所望。ニーダーエスタライヒ住まいとしては「マリーレン(アプリコット」と反射的に口をつくのですが、ここにはなし。…で、飲んだことのないナッツのシュナップスとやらを頼んでみます。
それともこのパテか?
うーん、どっちもあんまり美味しくない…。
しかし、脂っこいパテもなんとか高アルコール度のシュナップスでやっつけて、これもなんとかお腹に詰め込みます。
まだ苦しゅうない…。
マーケットではこれと言って買いたいようなものもなかったので、早々に地下的に乗り、3時の教会でのオルガン&ソプラノ演奏会を目指しで1区のど真ん中を歩き始めると…、冷えからでしょうか。お腹に刺すような痛みが…。

次第に痛みは酷くなり、そのうちあまりの痛みに脂汗が滲み…。
プリンセス、いと苦しゅうございます!
エルメスのお抱え馬車か、と思うほど嵌った光景
トイレをめがけてカフェに直行…、と行きたかったのですが、視界に入って来たのは”ウィーンの森”だかなんだかの名前のついた、いかにもどーでも良さそうなレストラン。
背に腹は代えられません。忌み嫌っていた観光客向けレストランに飛び込むしか選択肢はありませんでした。
 
Mission accomplished : )

オーダーの際「コーヒーだけ?」と訝られましたが、ま、チップを少し弾んだので許してもらえたでしょう。

うーん、クリスマス・マーケットにリベンジする積りが逆にリベンジされちゃった感じ…。もう来年からは行きません…。
外観からして庶民的で親しみ深いフォルクスオーパー
さて、午後6時からは、フォルクスオーパーでヘンゼルとグレーテルを観劇です。
残念なことに開演時間になっても胃に穴が開いたような痛みと熱っぽさが取れません。何かに当たったのか、お腹に来る風邪か…。

ところで、この演目は前日にネット予約したもの。何せ出し物が出し物だし、いっちゃん安い席でいいでしょ、ということで、4階右横のボックス席後列 :)。
これがその姫特別席:)からの眺め。上部ワイヤー伝いに魔女が飛ぶ「宙吊り」シーンもあり。
席に着いてみれば、まがりなりにも周囲から隔離されたボックス席だし、後ろにヒトはいないし(4人席で前に家族連れが3人)、立ちあがると、演者が舞台右端に行かない限り一応芝居も見えるし、オケピットを観察するには特等席だし…プリンセス、気に入りました。
これで€7です。まあ、歌舞伎座の幕見席みたいなもんですね。
プリンセスと同様の席の対面の様子。一列目の価格は一挙に€40くらいに跳ね上がります。
こういうところ、自国の伝統芸能には手厚い、っていうか、日墺それぞれ文化的懐の深いところを見せてくれて感心です。
ヘンゼルとグレーテルはフォルクスオーパーのクリスマス恒例の出し物だそう。
実は25日に見つけられた出し物は、本当にこれが唯一。コンツェアトハウスもムジークフェラインも、シュターツオーパーもまだ休み。仕方なく来た演目でしたが、子供向け芝居と思っていたら大間違い。フンパーディングのヘンゼルとグレーテルは、音楽も歌も、さすがはフォルクスオーパー。昼の無料オルガン&ソプラノより百倍レベルが高かった! 
プリンセス、音楽の中ではオペラは断然苦手科目なので、気の利いた解説はできませんが、オーストリア的というよりはドイツロマン派的音楽で、多少の体調不良も吹き飛ばす、スケールの大きな演奏でした
思っていたよりずっと「大人も楽しめる」舞台でした。
さて、その後プリンセス、26日は日本人向けのカトリックのクリスマス・ミサに信者でもないのに参加し、27日には期待の造リ手、ロージー・シュスターRosi Schusterを訪問して来ました。

明日はその様子をお届けします。お楽しみに!

2012年12月26日水曜日

プリンセス、クリスマスの晩に”音楽の都”を満喫 前篇

プリンセスのブログを読んで下さっているウィーン在住の方やウィーン通の方々は、「1区に行けばいくらだって開いてる店もあるし、人も沢山出て賑わっているのに」と思っていらっしゃるでしょう。

わかっています。でも、去年も今年も、観光客で溢れる一帯は意識して避けました : )。
ジモティーの過すクリスマスがどんなものか、体験したかったんですよ。

日本の友人知人からは、「オーストリアのクリスマスはさぞかし綺麗でしょうね?」などとよく言われますが、確かにウィーンのクリスマスマーケットやイルミネーションは趣があります。が、世界中からお上りの集う1区を除いて、イヴは本当に泣きたくなるくらい静かで寂しいものです。
商店もコンサートホールも劇場も、まともなレストランもカフェも…とにかく閉まりまくっているのは、考えてみれば日本の元旦のような感覚なのでしょう。でも日本では人出のあるところの店はちゃーんと開いてますよねぇ…ブツブツ

さて、ド田舎ゴーベルスブルクを離れてせっかくウィーンに上って2日目。「イヴの二の舞は沢山」、ということで、プリンセス、クリスマスシーズンの狙い目である教会に目をつけました。それも、CDなどを出している音響の良さそうな教会をピックアップ。

本当はイヴのミサに出る積りだったのですが、0度をちょっと上回る気温下、霧雨にむせぶ…という夜中に一人でトボトボ出かける意欲をダントツ削ぐ状況だったため、パス。
絢爛豪華、とはこのこと。これはリハ中に撮ったカットです:)
 その代わり、クリスマス当日は、午後3時からSt. Peters 教会でオルガンとソプラノの無料コンサートに参加。バッハ、ヴィヴァルディ、ヘンデル、モーツアルト、フランク…とお馴染みの曲が続き、最後に誰もが知っているクリスマス・リートが数曲歌われました。

子供の頃はミッチミラー合唱団がジャズやポップスのスターと組んだクリスマスアルバムが大のお気に入りで、長じては中世やらバロックのクリスマス・アルバムも沢山聞いてきたプリンセスの耳には、多少注文をつけたくなるところもある演奏ではありました。
それに、さすがは1区で開かれる無料コンサート。訳のわからない観光客(ってプリンセスも立派にその一人ですが)も多く、演奏中だと言うのに、オシャベリするヒトあり、後ろを振り返るヒトあり、シャッター音を響かせて写真を撮るヒトあり…。ちょっと興醒めです。

しかーし! 

とにかくこのSt Petersという教会は、見事なバロック様式建築。音響は素晴らしい! 
天使の声のごとく天から降り注ぐソプラノ、大礼拝堂全体が唸るように響くオルガンの重低音…。段々音楽に入り込んでいたプリンセスは後半、Paris Angelicusに差し掛かったところで、感極まって涙が流れそうに…

…と、その時です。欧か中東系と思しき父子が礼拝堂中央の通路に現れ、祭壇を背にピースサイン。その3mほど手前には、しゃがみこんでカメラを構える母親が…。感動の名曲もなんのその、しっかりフラッシュを焚いて、写真を撮ると、中央花道をさっさと退却…。

チョチョ切れそうになっていた涙も引っ込み、プリンセス、唖然
前方に座っていたジモティーらしき老齢の女性が「ここは教会ですよ」と、さすがにたしなめていました。

クリスマスにウィーンを訪れる皆さん、教会には敬虔な信者も沢山来ています。彼らの邪魔にならぬよう、最低限のマナーは守りましょう。
そして、どこも無料で我々観光客を受け入れてはくれますが、こうした歴史遺産の維持には当然莫大な費用がかかります。有料の蝋燭に火を灯すなり、ミサの最後に回ってくる寄進の籠に小銭を投じるなり…できる範囲で鑑賞のお礼くらいはして帰りましょう。

2012年12月24日月曜日

きよしこの夜は誤訳である?!

早いなぁ、もうクリスマスイヴ…。

クリスマスと言えばクリスマス・ソングですが、皆さん「きよしこの夜」がオーストリアで作られた曲だって知っていましたか?

だけどこの曲名、ドイツ語ではStille Nacht=静寂な夜、です。

どうして日本語では“きよしこの夜”と呼ばれているんでしょ? 英語だって"Silent Night"ですよ。

…と思って歌詞を追ってみれば、こんな調子です。
Stille Nacht, heilige Nacht, 
Alles schläft; einsam wacht
Nur das traute hochheilige Paar.
Holder Knabe im lockigen Haar,
Schlaf in himmlischer Ruh! 


つまり、オリジナルでも英語でも、歌い出しを曲名にしているのに、日本語では次のフレーズ、ハイリゲ・ナハト=聖なる夜、をタイトルとしたんですね。

そこまでは、まあいいでしょう。
けれど、歌の中ですら、最初の”シュティレ・ナハト”を完全に落としてしまったのは問題です。
それに原曲では全然星なんか光ってないです、ってば : )

極寒で山の多いオーストリアでは、クリスマスはミサに出かける以外、家に籠って純粋に家族だけで過ごす時間。そんなオーストリアのクリスマスを、この“シュティレ・ナハト=静寂な夜”ほどよく表現した言葉はないからです。

考えてみれば、教会には出かける欧米人であっても、例えばアメリカ人にとっては、やはりクリスマスはパーティー・タイム。そこら辺は同じキリスト教徒でも、全くクリスマスの意味合いが違うことを、プリンセスはこちらに来て痛感しています。

…という訳で、去年に引き続き、ここオーストリアに家族の存在しないプリンセスは、これからウィーンでクリスマスマーケットを冷やかし、夜中には音楽の充実していそうな教会のミサに紛れ込もうと思っています。
…だって商店はおろか、シュターツオーパーも、フォルクスオーパーも、ムジークフェラインも、コンツェアトハウスも…、ぜーんぶ今日は閉まってるんですよ…。

心底からSolitudeを愛するプリンセスが、一年のうちにただ一度だけ、Lonelinessを感じる一瞬です。

そんな心持だからこそ、日本の皆さん、Frohe Weihnachten! Merry, merry Christmas!
日本ならではのコマーシャルで : ) 賑やかなクリスマスを満喫して下さい!

2012年12月23日日曜日

ワインディナー@ラ・グラップ in 西麻布 

こちらは昨日土曜からクリスマス休暇に突入。
連日雪が降り、町はシンと静まり返っています(…っていつものことか:)

さて、ここでまた、PC不調でアップできなかった、帰国中のご報告をひとつ。

プリンセス、帰国の度に一度は自分自身も行ったことのない、オーストリアワインもオンリストされていない、というお店でワイン・ディナーを行うことにしています。
日本の外食事情を少しでも肌で感じたいのと、オーストリアワインに馴染みのあまりないシェフやソムリエさんに、その味わいを身近に感じて欲しい、という双方向の狙いがあってのこと。

今回の“お初”ワインディナーは、11月20日のITコンサルタントのH氏ご推薦の西麻布ラ・グラップで、H氏の全面支援の基に行われました。
因みにワインはオール“お城ワイナリー”のトップブランド〝シュロス・ゴーベルスブルク”(エステートの単一畑モノと瓶内二次発酵のゼクト&プレディカーツヴァイン限定)から、です。
写真撮りに集中して話の内容を失念…
プリンセス、サイテー…
集まって下さったのは、H氏関係の食通の面々に、こちらもワインと食、そしてワイン絡みの旅に関しては強者揃いのプリンセスの古くからの生徒さんが合体したような恰好。
「百年レストラン」の続編を出されたばかりの伊藤章良氏にまでお越しいただき、プリンセスちょっと緊張…。
著書交換の図。エビタイとはこのこと:)
ディナーの始まる1時間ほど前にお店に入ると、とっても親密で自然体の、けれど緩みや澱みのない、真っ直ぐないい感じの空気が流れていました。

この「空気感」にすす、っと馴染めれば、後は大体上手く行くものです。

嬉しかったのは、加藤シェフがこの日のディナーに先立ち、ご近所のプロヴィナージュを訪ね、オーストリアワインを色々試して下さっていたこと。

その結果、用意していたメニューのほとんどを変更!

実際にオーストリアワインを味わう前にはどう思っていて、味わった後の変更のポイントがどこだったか…。その辺りを加藤シェフにご説明いただいたはずなのですが、何せ半分以上が初対面の方々とのディナーということで、根は極度に人見知りのプリンセスは、緊張のため内容が頭に入っていません(泣)。

が、確か「意外にしっかりしている」と仰っていて、予定されたウニのコンソメジュレは里芋の燻製テリーヌに、金華豚は蝦夷鹿に。食感&風味のかなりしっかりとしたモノを持って来たのかな?

その変更は、全体として、当たり! 確かにオーストリアワインって、アクや押しは少なくとも、サブスタンスはちゃんとあるんです。

前菜に供された燻した里芋は、グリューナーのちょっと曇ったスパイシーな風味、そしてラーゲンものの幅とコク、重量感に実によく合いました。
お魚も、旨味たっぷりのソースにグリューナーがぴったり。

けれど、実は最初のメニューに対応できるワインも、オーストリアには多いんです!!

例えばウニのコンソメジュレには、貴腐果率の高い、ヒルツベルガーのようなリースリング、或いは少し寝かせたリースリングが名コンビと思われます。

また、加藤シェフが試した赤は、おそらくノイジードラーゼー=ヒューゲルラント辺りのブラウフレンキッシュ。鹿は絶対ブラウフレンキッシュか、濃くて野趣溢れるタイプのツヴァイゲルトを想定してのメニューでしょう。

しかし、この晩に供したのは非常に上品な、ツヴァイゲルト。ソースのパワーにちょっとワインが負けていたかも…。そしてワインの逡巡する内向的魅力に対し、お肉はあまりに潔すぎたかも?? もしかすると、金華豚にリースリングとツヴァイゲルト両方合わせるのも面白かったなぁ、なんて思いました。



デザートはババの予定を「アウスレーゼに合わせて軽めのフルーツデザートに」というプリンセスのリクエストに応え、リンゴ(だったはず?)と塩キャラメルのアイスに変更して下さいました。これ、ワインの酸&残糖のバランスと、フルーツの甘酸っぱさのアジャスト加減がドン・ピシャリ!
ただ、塩キャラメルは風味的に新樽で寝かせた甘口の領分のような気もちょっとしました。或いはグリューナーの軽い貴腐でもよかったかも。

…と、色々妄想が膨らみます。

それもこれも、誠実に作られた、きちんと素材の味わいの生きたお料理だからこそ。
また機会があれば、今度はお店の通常メニューに私がワインを選ぶカタチでやってみたいなぁ、と感じました。
ワイン会初登場のゼクトがとても好評でした。
そして〆には、ちゃんとしたお食事には必ずデザートが2コースつく、スイーツの国のお作法に則って、リースリングTBAにプリンセス手持帰りの、スパイシー・トリュフ・チョコを合わせます。…と、お店の方でもちゃんとプチフールの用意が!

お土産チョコは、店の設えがお洒落だった割には、別にどうということのないお味。しかしTBAはそれ単体でブッチギリの存在感! まあ、作ろうと思って作れるものでないだけに、そしてできたとしても、腐ったり、鳥に食べられたり、霜や強風で木から落ちてしまったり…と自然の脅威から潜り抜ける大変さも身に染みてわかってきただけに、TBAを飲むときはかつてにも増して『生きててよかった! 出会えてよかった!』という思いが強くなりました。

参加者の皆さん、お楽しみいただけたでしょうか? 加藤シェフ&H氏、大変お世話になりました。
H氏完全面割れの図。
ものすごーくタイミング遅れましたが、皆さん楽しい時間を有難うございました! 
来年もまた、よろしくお願いしますね!

"Schloss Gobelsburg" Wine Dinner at La Grappe in Nishiazabu
http://la-grappe.net/

2012年12月20日木曜日

2012のエアステ・ラーゲン、続々とテスト・ブレンド完了!

お城周辺はすっかり冬景色。
去年もそうでしたが、セラーへ降りるドアが開け放たれ、冬の冷気にタンクや樽を触れさせる時期となりました。
セラー入口には、注意! 発酵中! 生命の危険! と、モノモノしいサイン
そしてケラーマイスターのカーナーさんは今週、遂にエアステ・ラーゲのテスト・ブレンドに着手。
できたてほやほやの赤ちゃんを、プリンセスも昨日試飲させていただきました。

まず、午後にラボで試飲したのはグリューナーの単一畑4種。
グラスが4つ並んでいるだけで、何の表示もありませんから、どれがどの畑かはわからぬ状態での試飲です。

最初のワインは一番ベイビーちゃんっぽいプヨプヨした感じ。
2番目は、はっきり1番目より酸が乗って、この段階でも透明感があり、エレガント。
3番目は多少酸化っぽいレモニーな香味。スルンと口中に入りますが、余韻はスパイシー。どうもチグハグな感じ…、と思ったら、これだけ2日前のブレンドで大分時間が経っている、とのことで納得。
4番目は一番重量感があり肉付きもよく、けれど酸もしっかりあり、余韻も一番長い。独特のミネラル感はまだ全然感じられませんが、言われなくても、これはラムに違いない、と思いました。

正解は1. Steinsetz 2. Renner 3. Grub 4. Lamm

実はまだ澱引き前の、バトナージュもしていないベイビーちゃんを味わい分けることはとても難しい。何故って、どれもちょっとパイナップルを思わせる酵母の香味が前面に出、ワインに切れや締りが感じられず、畑特有のミネラル感はまだ背後にひっそり隠れている感じだからです。

それでも、とってもエネルギー感に溢れていて、生き生きしていて、ベイビーちゃん、やるな、って感じ。どでも美味しいです!
プリンセス的には好きな順にRenner > Lamm > Steinsetz > Grubでした。ただしグルップには大きなハンデがあるので、澱が沈み、ワインを本当にブレンドしてから、再び味わってみないことにはなんとも言えません。
ワインはまだこの中に。ブレンド後、大樽に移されます。
昨年はテスト・ブレンドを味わうチャンスがなかったので、プリンセス自身は両年の比較ができないのですが、カーナーさんによると、昨年より味わいのバランスが良い(暖かい年だったけれど腐敗果がほとんどなく、酸もしっかり保持された)ことは勿論、ブレンド時に単一畑ものから格下ゴーベルスブルガーやドメーネへの格下げを余儀なくされるバッチもあるのが普通ですが、今年はグリューナーもリースリングも、すべてのバッチが何の問題もなく発酵を終え、味わいも文句なく、格下げが一切必要なかった、とのこと。

カーナーさん、本当に嬉しそうです。
プリンセスが「レンナーが今の段階では一番好き」と言うと、もっと嬉しそうな顔になり、「レンナーがラムより、ガイスベアクがハイリゲンシュタインより3割も価格が安いのは変。まあ、それはボスの決めることだけどね」と一言。

そして夕方、今度はリースリングのDomaeneドメーネ, Urgesteinウルゲシュタイン, Gaisbergガイスベアクのブレンドしたてを味わいます。

うーん、こちらはベイビーというよりエンブリオか : )?
独特の白い花の香りもなければミネラル感もなく、特にガイスベアクは酵母の甘い香味ばかりが目立ちます。まあ、ドメーネよりウルゲシュタインの方が多少締まったテクスチャーであるくらいの違いはわかりますが…。
ポーズ取って! と頼むと照れ笑い : )
それにしても、この状態で各畑の名を冠するのに相応しくないワインを撥ねていく、って…。やっぱりカーナーさんの舌の感度の良さは只者ではない!!

それとも慣れの問題なのでしょうか???

2012年12月18日火曜日

親友の還暦祝@ミシェル・ブラス トーヤ・ジャポン

話は1カ月以上前に遡りますが、今年収穫のフィナーレを見届けずに日本へ帰国したのには、実は訳がありました。
豪シドニーで暮らす親友の還暦祝いを、洞爺湖のミシェル・ブラス トーヤ・ジャポンで、ミシェルご本尊が腕を振るうフェア期間中に行うためだったのです。
車の運転のできないプリンセスにとって、ライオール本店を詣でる機会はまずないでしょうし、本店のソムリエや近隣の御贔屓ワイナリーらも伴うフェア期間に洞爺湖店を訪れ、ついでに禁断症状気味の新鮮な魚介を、帰国直後に北海道でタンマリ注入しておくのも悪くない、という判断で、誘いに乗ることにしました。
彼女の60才の誕生日祝いとして、ドイツのポート専門店で彼女の生まれ年、1952年のKopke Colheitaを購入。オーストリアより持ち返りました。
さて、なんだか無用にただっぴろいザ・ウィンザーホテル洞爺のミシェル・ブラスに入ると、フェア期間中ということで、テーブルに通される前にガイヤックから遥々やってきたBernard Plageolesベルナール・プラジョールのワインが、生産者本人と本店のシェフ・ソムリエであるSergio Calderonセルジオ・カルデロンの解説付きで振る舞われます。
南西フランスということで、当然ワインは赤が中心だとばかり思い込んでいたプリンセス。ライヨールの辺りは白主体と聞いて、なんだか嬉しくなります。しかもモーザック種からの軽い辛口はなかなかいいミネラル! ミュスカデルの甘口も、アウスレーゼ程度の貴腐混じりで、とっても自然な癒し系のお味。
お食事については色々なところで嫌と言う程書かれているので、繰り返しませんが、素材を生かすシンプルで清らかな料理は、今でこそ逆に王道のように見えますが、彼がこうしたスタイルを創造した頃にはさぞかし独創的だったのでしょうね。
また、料理を食べてみて、この地のワインは白が主体である、というのが妙に腑に落ちました。。
…というより、白主体のテロワールが生んだ必然的な料理スタイルである、と気付きました。
残念だったのは、せっかく本店のシェフ・ソムリエ氏が来日していながら、テーブルでは彼のサービスが一切受けられなかったこと。
とは言うものの、トーヤに常駐の仏人ソムリエと仏で収穫も体験したという日本人ソムリエのサービスも十分に寛げるものでしたし、フォワグラが出たところで、食前に試飲したミュスカデルをグラスでオーダーできるかどうか打診したところ、”そんなに素晴らしい提案は、合わせてみない手はありません、マダム”とかなんとか如何にもラテンなノリで、なんどグラス3人分をサービスで持ってきてくれました。
こういう応対にこそレストランの余裕みたいなものが現れますよね。
バジェット・コンシャスな主賓のために選んだワインはこれ :)
主賓の友人にはバースデーケーキならぬバースデー飴細工がサーブされ、蝋燭を吹き消す彼女はとても嬉しそう。こちらもなんだか暖かい気持ちに包まれます。
テーブルに出て来て下さったミシェル・ブラスご本人は、年を重ねて枯れてこう変化したということなのか? と訝りたくなるほど、三ツ星レストランターにありがちな、良くも悪くも超個性的でギラギラとエネルギッシュなところの欠片もない、とってもしなやかで物静かな優しさ溢れる、心の透明そうな方でした。
そして食後には再びバールームで、Laurent Cazottesローラン・カゾットの蒸留酒がより取り見取り…。うーん、食前酒もワインもたっぷりいただいた後だけに危険…。
とは思いつつ、やはりひと通り試さずにはいられないプリンセス : )
特に桜の花びらのシュナップスが、まるで桜餅のような香りを湛えていて…来シーズンこそ3年ぶりで観られそうな桜に思いを馳せながらいただきました。
心温まる夜でした。