2012年2月29日水曜日

ただいま~! ワイン会@代官山イル・チルコロ

本当は日曜のお昼には日本に帰っていましたが、昨晩最初のワイン会を行い、ようやく本格的に東京モードに切り替わったプリンセス。
さて、会場のイル・チルコロは代官山駅30秒の立地にある、15人も入れば満杯のコジンマリとしたイタリアン。三浦さんの暖かく明るいサービスと後藤シェフの心と技のこもったお料理、若い二人の息のあった親密な空間が魅力です。

今回の柱はふたつ。ひとつはグリューナーだけでない、オーストリアの多面的魅力を知ってもらうこと。そしてもうひとつはBartolo Mascarello バルトロ・マスカレッロの蔵出し手持ち帰りバローロマグナム1990(おまけにマリア=テレーズのサイン入首掛けラベル付き)と同じく現地購入手持ち帰りDosio ドージオのバローロ1990をイタリア料理で堪能すること。さらに付け加えるなら、ピエモンテとニーダーエスタライヒの持ち味のコントラストが描けたら最高だな、と思っていました。

午後6時半、昨日お店に持込み、お昼過ぎには抜栓をお願いしておいた2つのバローロが非常に素晴らしい状態であることを確認した段階で、このワイン会は成功!…とプリンセスは確信しました。
ゲストもワインに負けずに多彩な面々で、予想通りとっても楽しい会になりました。

最初のVilla Franciacorta Brut 2006は、熟成感もあり、前菜"ブラウンジャンボマッシュルームのフリット"のくぐもりのある旨味によく合いました。
次の"Schloss Gobelsburg シュロス・ゴベルスブルク Grüner Veltliner Steinsetz グリューナー・ヴェルトリーナー シュタインセッツ 09"は、お城ワイナリーの上級(=エステイト)ラインの中では最もベーシックなベストセラー。暖かい09の小石土壌ということで、果実味の凝縮感はあるのですが、ストラクチャーが10年などより多少緩いので、もう少し冷やしてもらうべきだった…。でも"手打ちパスタ・タリオーリ お肉と根菜のラグー"の、根菜とはとてもいい相性
同じくShcloss GobelsburgのZweigelt ツヴァイゲルト 09は、「親しみやすいがややフィネスに欠ける」ことの多いZweigeltを、オーストリアいちエレガントに造った、いわば隠れたレアもの。元々このツヴァイゲルトはSt LaurentとBlaufraenkischの交配品種。そしてSt LaurentはPinot Noirと不明品種の自然交配なので、血統的にピノのクオーター。ピノ・ファミリーの末っ子的存在。お城ワイナリーでは、大半の果実をDomaeneやGobelsburgerといったベーシックなワインに回し、このSchlossラインは最高のブドウだけで造っています。ピノの血筋にフォーカスした、なかなかの傑作! ラグーと合わせることを想定して選びましたが、実際には最後の"牛肉のほほ肉の赤ワイン煮込み"にも、バローロとはまた違った趣でよく合いました
続くHiedler ヒードラー Riesling リースリング Heiligenstein ハイリゲンシュタイン 08は、「Steinhaus 2010欠品のため、ほんの少し在庫のあった2段階くらい格上のフラッグシップワイン Heiligensteinの08ヴィンテージを、格安価格で出した」という、プリンセスのみの知り得るインサイダー情報を嗅ぎ付け「じゃ、それ飲まなきゃ損!」ということで、これは国内調達。08らしく派手なところはありませんが、エクストラクトとミネラルのしっかりと中身の詰まった味わい。その内に秘めたエネルギーが、お魚(旬魚のソテー スルメイカとトマトのソース)によって引き出された感じです。このブログにも何度も書いていますが、トマトとリースリングは毎度のことながらいい相性


そして、ふたつのバローロが注がれます。ドージオはどちらかと言えばバラの花びらなど植物的な風味の優勢な、いかにもLa Morraな品の良い個性。バローロとして、いわゆる中堅生産者のもので、90年は正直ピークを越していても不思議はない、と思っていたのですが、いえいえ、とても美しいワインでした。
一方のマスカレッロは、さすが90年。強くて豊か! バローロを"タール”と表現するのが何故だかよくわかる、お手本のように濃密なキメの細かいネットリ&クログロとしたタンニン。本当に複雑なワインで、土、ミネラル、ブルーン、チェリー、バラ、黒トリュフ、木の皮…と、時間の経過に従い、様々な表情を見せてくれます。でも、22年経過しているとは信じ難い、若々しいベリー風味に溢れます。いやあ、すごい!少なくともあと20年は美味しく味わえそうな果実味の鮮度&エネルギーです。周囲の誰もがロト・ファーメンテーション&新樽を採用し、シングル・ヴィンヤードのバローロを造る動きの中、父娘にわたって、頑固に黙々とウルトラ・トラディショナルを貫くことの潔さと、信念の強さが、ワインからビシビシと伝わってくる…。プリンセス、涙が出そうでした!
また、バローロの後にツヴァイゲルトを飲むと、正しく歳を重ねるということがいかに素晴らしいことか、また逆に若さの魅力とはどういうものなのか、をしっかりと感じ取ることができました。
さて、ドルチェに合わせる予定だったワイン(リースリングのアウスレーゼクラス)が、まだ手許に届かなかったため、プリンセスの大好きなルストの生産者、Wenzel ヴェンツェルの、Ruster Ausbruch ルスター・アウスブルッフ 06と、尊敬するサース夫人のNikolaihof TbA 01、という凄いワインのハーフを2種投入。参加者に好きな方を選んでいただきました。ただ、デザートを元々のアウスレーゼに合わせ「甘味をやや控えてフルーツの酸を生かして」とリクエストしていたため、ワインに負けてしまわないか心配でしたが、いかにもルストの貴腐らしい輝くような酸のあるWenzelは、見事にデザート"イチゴのババロア ベリーソース"をブライトに引き立てました。ニコライホーフはかなり貴腐香の強いタイプで、熟成香も出ており、ちょっとこのデザートには重く濃厚すぎましたね。




ピエモンテとニーダーエスタライヒのコントラスト、という意味では、以前内藤師匠のお店でブルネッロの会をHeidi Schoereck ハイディ・シュレックの貴腐で〆た時の方が、イタリアの豊満&妖艶と、オーストリアの透明&端正な個性の対比は鮮やかだったような気がします。ピエモンテとオーストリアはむしろ性格的に近い…今度熟成したブラウフレンキッシュとバローロの対比も是非やってみたい、と思うプリンセスでありました。

イル・チルコロの三浦さんと後藤さん、そして参加して下さった皆さん、本当にありがとうございました! 皆さんと素晴らしいワイン達をシェアできて、プリンセス幸せです!!

2012年2月27日月曜日

亜硫酸=ブラジャー説???




プリンセスはこれまで、亜硫酸無添加の問題点を、ワインに雑菌やら悪い酵母やらがついたり、酸化が進んだり、揮発酸が多量に存在したり…要はワインが汚く劣化することに特化して捉えていました。
そして、逆に添加の問題点は、身体や味わいへの悪影響だとしか、考えたことがありませんでした。
ところが生産者と亜硫酸の話をしていると、特に亜硫酸添加をなるべく減らそう、という自然派の生産者の話を聞いていると、彼らが「亜硫酸はワインをフィックスする」、或いは「ワインが閉じてしまう」という言い方をしばしばすることに気付きました。

先日訪ねたエーヴァルト・チェッペは「2007年以来ずっとサン・スーフルに興味を持っており、いつかは実践したい、と思いながら、一方で1年の労働の賜物を劣化状態にはしたくないので、やりたいのはヤマヤマだけれど、まだ決行できない」と言っていました。現時点では「亜硫酸を添加しつつ、いかにワインをオープンな状態に保てるか」が課題だと、そう言うのです。理由は「亜硫酸はワインにシェイプを与え、フィックスする。同時に閉じた状態にする」からなのだそうです。
実際のワイン造りには様々な物質が用いられます。
これは珪藻土フィルタリングの様子。
また、ユルチッチのシュテファニーは「乳酸発酵が起こったからと言って、それを亜硫酸で止めるだなんてあり得ない! 止めることはできても、乳酸の風味を余計ワインに固定することになってしまうから」と語りました。

どうやら、良かれ悪しかれ、亜硫酸がワインを「固定する」というのは間違いないようです。
つまり、殺菌・除菌・抗酸化剤としての働きの他に、"fix & catpure"⇒ワインにあるシェイプを与え、その姿を固定する、という、教科書では教わらなかった働きが亜硫酸にはあり、亜硫酸添加に神経質な生産者は、そうすることでワインが柔軟性をなくしたり、あるひとつの殻に固定されてしまったり、状況に呼応する開放的な性格を失ったりすることが、嫌なようなのです。
上の装置の横に置かれた珪藻土濾過剤。
なるほど。亜硫酸添加って、写真のコントラストを高めるような行為でもあるんですね。
ある意味コントラストを強調した方が、インパクトの強い写真になる。適度に調節すれば、写真にメリハリがつく。上手に使えば、味わいの透明感やミネラル感といった、好ましい要素をサポートすることだって可能
けれどやりすぎると、本来の姿と別の図像になるし、いずれにしても何らかのカタチで、程度の差こそあれ、ワイン本来の持つ色合いやテクスチャーを隠したり潰してしている訳です。だから、ニュートラルなオリジナル画像からは、色々なニュアンスが引き出せますが、一旦コントラストを強調してしまった画像は、その固定的・断定的イメージから二度と逃れられません

別の比喩をするなら、「カタチのないものや崩れたものに好ましいカタチを与える」亜硫酸添加は、つまり、ワインにとってのブラジャーみたいなもの???

正&盛装をする際に、或いは身体の線のはっきり出る装い(ワインに敷衍するなら、焦点の定まった、ピュアでリニアなスタイル?)のとき、「なし」ってちょっと考えづらいもの、ありますよねぇ…


2012年2月26日日曜日

エーヴァルト・チェッペ 中編: 畑とワイン

ただいま~! 今朝日本に戻って来ました!
さて、早速エーヴァルト・チェッペ情報の続きです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
エーヴァルトは言葉を選び、非常に慎重に、また逆説的にモノを語る人です。

エーレンハウゼンからワイナリーに向かう車中、ワイン街道沿いに建設中のあれやこれやの建物を示しながら、「ここ20年あまりのシュタイヤーマークのワイン産業の発展は目覚ましく、お蔭で若い世代が次々に意欲的な挑戦ができるようになった」と説明してくれました。
一方で彼は、後のテイスティングで「ここ20年あまり、シュタイヤーマーク・ワインは間違った方向を目指してしまった」とも語りました。「全なる自然(彼の言葉ではNature as a whole)にフォーカスすべきなのに、ブドウ品種にフォーカスしてしまった」と。

確かに。プリンセスもシュタイヤーマークを執拗にソーヴィニヨン・ブランの産地に押し込めてしまうことに抵抗を感じていました。そこまではわかりやすい。
西南西側から畑を望む。手前の森の下方の向こう側の家がチェッペ家。その後方斜面が彼の畑
手前森後方斜面の畑 を南東側より望む、。下からEx Vero I, II, IIIの斜面がはっきりと視覚的に捉えられる。
けれど、皆さんは、品種 vs テロワール。つまり、当たり前のように「自然&伝統を尊重する生産者は品種個性よりテロワール個性を尊重し、テロワールを最も端的に象徴するのが、単一畑だ」と、考えていますよね? プリンセスも今まで、それを疑ったこともありませんでした
でも、エーヴァルトの場合、どうやらそれもちょっと違うようなのです。「あまりに多くの生産者が畑のテロワール、テロワールと言うけれど、ほとんどの単一畑ものワインはテロワールの味なんかしていない」と。そう言い放つ彼は、畑名の中に真実を見たり、畑間に優劣をつける「Erste Lage(やらGross Lage)」推進の動きとも、歩調を合わせません。だから、彼のワイン名に畑名は入っていません。

ここら辺は穿った見方も可能です。
シュタイヤーマークのスター、ソーヴィニヨン・ブランは貝殻の出る石灰土壌(太古の浅い海)で、最もその透明感のあるピュアな果実味を魅力的に表現します。石灰の多い砂地(太古のビーチ)でもサラサラと品の良い綺麗な果実味になります。けれどムスターやヴェルリッチ(=Ewald Tscheppeのワイナリー名)のあるオポーク土壌(深い海の底)では、抜けの悪いドン臭い持ち味になりがち
いやいや。その傾向は、シャルドネだろうが、ヴァイスブルグンダーだろうが、ヴェルシュリースリングだろうが、五十歩百歩
石灰分が多ければまだしも、だから粘土質の多いオポーク土壌に、いわゆる銘醸と呼ばれる畑は存在しません。彼の持つ8haの畑はほぼ一面に見渡せるひとつの大きな丘にありますが、そこは地区名はあっても、畑名のない斜面なのです。
以上も背景として知っておくべきでしょう。
山小屋風の家屋&ワイナリー

ニコライホーフの菩提樹同様、この木の周辺にはいい気が漂っているような…
 それにしても、では、彼の目指すところは何なのでしょう?
「命の味がするワイン」だそう。命の味とは「土或いは腐葉土の味」腐葉土の味は「どのようにミミズなど土中生物が植物を食べたか」を反映するそうです。…う  ん  ち の味かぁ…
うへ、不味そう…
もとい
そうなるように「自然が機能する状態を保持」することを心がけます。自然を「フィックスする」のではなく、「自然が何かを為すことのできる状態」にしておく。「今日人間がしているように、自然を利用することを控える。自然を侮辱しない」こと。そうすれば「本当のワイン、特定の市場を対象にしたワインではない、オリジンを宿したワインになる」、というのが彼の考え方。「自然以上に何かを上手く為すことのできるものは存在しない」と言っていました。
Vero Iの畑。彼の考えでは、新梢が上を向く仕立てはヴェジテーション: 成長にエネルギーが向けられ、
このように下に向く仕立は、ジェネレーション: 子孫にエネルギーが振り向けられる。
Vero IIの畑。I-IIIまで、全てこの 1.8mくらいはあろうか、という  高い仕立。
Vero Iの50年程度の古木。父の代から化学肥料、除草剤、殺虫剤は一切
非使用だったため、ビオへの転換は他ワイナリーほどには無理がなかったかも、と言う。
さて、彼のワイン。普通の(…といっても味わいはかなり個性的な)ワインと、果皮とともに醸した、通称「オレンジ・ワイン」があります。
普通のワインにはEx Vero I, II, IIIがあり、I: 斜面下部、II: 斜面中部、III: 斜面上部からのブドウを用い、年により比率は変わりますが、大体ソーヴィニヨン・ブラン主体に、最大で半分近くのシャルドネがブレンドされます(ムスターのようにCo-fermentとは言っていなかったような…)。Iは発酵&熟成の全ての過程を大樽で。II & IIIは、発酵は新樽を含む小樽で、熟成は大樽で行います。
セラー。「整然と」とはお世辞にも言えません…
Ex Vero I 09
うーん、正直、美味しいとは言い難い。特に酸が妙。酸化しているのだか、揮発酸が高いのか(でも亜硫酸は添加している)、生々しいのか、鮮度を欠くのか、それすら判断に困る。エーヴァルト自身、あまり今いい状態にないことを認める。

Ex Vero I 08
ノーズに白カビとオレンジ。09より味わいのバランスもいい(妙な酸の存在が気にならない)。エーヴァルトによれば、まだボトリング前の亜硫酸添加(total 60mg/l)の影響下にあり、かなり閉じた状態だと。その割にstructureは前者より柔らかい気がする。

Ex Vero II 08
より香りも味わいも締りが出て、ミネラル感と軽い蜜的余韻がある。Iより長い。
…ここでプリンセス、彼のワインがひと口目とふた口目で、味わいが常に変化していることに気づく。ひと口目は、やはり酸が「おや?」だし、味わいもつかみどころがない。ふた口目になると、より果実味が捉えやすくなる。何故だ?

Ex Vero III 08
伸びのいい柑橘系の香り。酸にもより勢いがあり、ミネラルも豊富。やや神経質ながら長い余韻があり、1, 2年待てば良くなりそう。

Ex Vero II 07
柑橘とミネラルのいいバランス。最初フィニッシュが単調だと思ったが、時間とともに、オレンジを感じさせるいい余韻が出てくる。エーヴァルト曰く、暖かい年だったので「いいハーブの香りが出ている」とのこと。ハーバル=青い系ではなく、フレッシュ・ハーブのような繊細さと味わいの深まりを意味しているようで、ブルゴーニュ(の場合、樽由来の場合が多いそうだが)にもよく感じられるニュアンスとか。

Ex Vero II 06
香りが量的に足りないし、ホコリっぽくで冴えない。味わいも何かそっけなく、痩せたストラクチャー。余韻もさっぱり。彼曰く、06は一年を通して温度のアップ&ダウンが激しく、常にブドウは小さなストレスに晒されていたため、ワインにトラウマが残っているのだとか。「多少の酸化的ノーズは、ワインが次のステージに移るサインなので、変化に期待している」そう。

☆Ex Vero III 06
ノーズにミネラルと、いい意味でのオイリーさ。「これは開いているね」とプリンセスが言うと、「今日になって初めて、このワインがチャーミングな顔を見せた」と彼。つい最近までガチガチに閉じていたそうだ。今まででのワインの中で一番伸びのいい酸があり、暖かい果実味と漢方薬のような風味が共存。余韻も長い。
シャイなのか、カメラを向けると目を伏せてしまうエーヴァルト。
ピント合ってませんが、これは比較的「開かれた」表情。
Werlitsch 08(上の写真のワイン)
ふたつあるオレンジワインの、こちらは大樽で熟成させた方。よりはっきりと今までのワインにもしばしば感じた漢方薬のような香りが出る。オレンジワインならではの、タンニンがワインを喉元に呼び込む感覚。実際のアルコール分(13%)よりずっと強く感じる酒質。長い余韻。
この個性に慣れてしまえば、ある意味とても分かりやすい味わい。…ん? でもそれって、オレンジワインの個性であって、テロワールワインとは言い難いような…

もうひとつのオレンジワイン=土中の甕で寝かせたエアデ Erdeは、1本だけ07を購入して来ました。Ex Vero III 06とともに13日銀座ヌガでのパーティに持参予定ですので、お楽しみに!
今オーストリアで流行の「オレンジ・ワイン」
☆Ex Vero Suess
抜栓後1ヶ月以上経ったワイン。でも茶色はそのせいではなく、最初からこういう色、とのこと。
驚くほど強いカビ的貴腐香。ウースターソースのように濁った香りてっきり悪玉貴腐の仕業だと思ったが、口に含むと味わいは綺麗。意外なことに、ミネラルと高い酸でスルスル飲ませるタイプ。それもそのはず、残糖は265g/l、酸は12.5g/l!! 香りと味わいの落差は一体何?

プリンセス、エーヴァルトのワインを飲んでいて、セップ・ムスターのワインを最初にテイスティングした時の困惑を思い出しました。テイスティングをしている間中、ワインの味わいが変わるのです。それをポジティヴに捉えるか、ネガティヴに捉えるか。人間だって色々な表情を見せるのだから、ワインもそうあって当然、とみるか。ワインにはいつも一番いい微笑みを絶やさないで欲しいと思うか。従来的「美味しさ」を求めれば、後者でなくては困りますよね。

まあ、そんな訳で、いちいち自分のワインとの向き合い方、味わい方を試されるような、他ワイナリーでのテイスティング とは全く異なるゆさぶられ体験をすることになります。

それにしても、彼やムスターの、ふた癖も三癖もある味わい(オレンジ・ワインでないEx Veroラインでも)が、栽培&醸造のどの段階のどういう技法によって造られるのか。他の、香りや味わい的にもっとキレイで、プリンセスにも馴染み易い自然派の生産者達(ニコライホーフ、ロイマー、ヒルシュ、ガイヤーホフ、シュトローマイヤー他)と、一体何がどう違って、こういう個性が形作られるのか…
今回の慌ただしい訪問だけでは、まだまだ不明な点ばかりなので、春にまたシュタイヤーマークを訪れる際、再び深堀りしてみたい、と思っています。

この後、彼の醸造学校時代の友人と3人で、超僻地の不思議なレストランに向かいました。
明日はそのレストランと車中でのエピソードをお送りする予定。

2012年2月25日土曜日

では皆さん、日本でお目にかかりましょう!

あと5時間後には機上のプリンセス。
28日@イル・チルコロ(満席)、8日@Foodex、10日@Provinage(&夜中の業界向けは無料)、12日@壮石、13日@ヌガ(夜中の業界向け:有料)、15日@大阪パセミア、そして最後に内緒の「残り物には福がある」パーティー@日本に帰ってから考えます…と、沢山ワイン会やらセミナーやらを企画しました。
どこかで皆さんとお目にかかれるのを楽しみにしています。
そうそう、プリンセス自身と、今回は遂にパレットで送ることになってしまった沢山のワイン達が無事届くよう、それだけを一緒に祈っていて下さい
Bis bald!

2012年2月24日金曜日

エーヴァルト・チェッペ 序: 真の自然派体験とは?


プリンセスは何事もラベリングでモノを判断することを非常に危険だと思っています。
前にも書きましたが、新樽/旧樽/ステンレス/バリック/大樽、ビオ/有機/KIP/コンヴェンショナル、自発的発酵/培養酵母添加、ホールクラスター/除梗、灌漑/ドライファーム…そういう名詞をいくら詳細に聞き出しラベリングしてみても、身体検査で個々の人格に迫ろうとするが如き愚行に過ぎません。

だから「自然派だから、ビオだから」というだけで、ワインやワイナリーを持ち上げるのも、とても浅はかだと思っています。
揮発酸やブレットたんまりの汚い or 完全に酸化してしまったサン・スーフル、オードブルが下げられても還元臭の飛ばない自然派…そういうワインは飲みたくありません。個人的な好みを言えば、完全な自発的発酵にこだわるワインの多くが持つモサモサしたクリアでない香りも、決して好きではありません。早い話、美味しくないワインに興味はありません

一方で、現代を生きるイチ消費者として、できるだけ環境にも自分の身体にも負荷の少ないものを選びたい、少しでも安全かつ健康にプラスに貢献してくれるものを口に入れたい、と思うのも当然で、そういうワインを造ろうと努力する生産者をできるだけ応援したい、という気持ちも大きい。
なので自然派信奉やビオ贔屓も心情的にはよくわかります
ビオへの転換を「マーケティング」「セールストーク」と断じる生産者には「それを試すだけの覚悟がないだけではありませんか?」と反論したい気持ちにもなります。

そして我々は、3月11日を経験しました。

福島の原発がああいうことになりました。
以来、普通の幸せのための『適度』な『リスク』や賢い『妥協』だと思っていたこと(或いはそこまで深く考えていなかったこと)の、その適度の『リミット』や、妥協の『一線』が、『実際にはどこにあるのか』、改めて向き合い直している、プリンセスのような遅巻きの人間も多いのではないでしょうか。

そういえば最近、マクドナルドのピンクスライム使用が明るみに出ました。消費者の反感を予測し、使用廃止を決定。
でも、「多くの人により低廉な価格でおいしいマックを食べてもらい、幸せを感じてもらう」という社会的使命に、ピンクスライムは間違いなく貢献していたんです。
多くの化学調味料合成フレーバー保存料もそうでしょう。

化学肥料や農薬は違いますか? 
農薬にも防カビ剤、殺虫剤、除草剤…と色々あります。毒性や作用、地中残存の仕方も異なります。…なんだか放射能にも色々あるのと似ているような気がしてきました。
ビオや有機農法で使用される銅の土中汚染は? 
銅と硫黄は「自然に存在するものだから危険が少ない」という意見もビオ生産者からよく聞きますが…。
だったら発酵に使われる培養酵母も「自然に存在しているものだから」自然ではありませんか!
培養酵母にも、ワインへの働きかけ方に色々なタイプがあります。
ブルゴーニュで当たり前の補糖、ドイツやオーストリアで当たり前の減酸、カリフォルニアやオーストラリアで当たり前の補酸…
どこまでが自然で、どこからが自然に対する冒涜なんでしょう?
果汁の発酵を促進する様々な栄養分や酵素はどうでしょう?
美味しいシャンパーニュを造るために当たり前のように使われる酵素は? 
どこまでが「人々の幸せに寄与し」どこからが「悪魔の所業」なのでしょう?
…endless questions are lingering on in your mind and you'll never get to sleep…

…そういう、いわば本当に健全で幸せな生活の本質を、様々な観点から再吟味すること。
従来の幸せの背後の科学的な“正しさ”を疑ってみること。楽に手に入る幸せや満足感を放棄してみること。
そうした実践を私は『真の自然派体験』と呼びたいと思います。

つまり、原子力は欲しくないけれど、では今すぐ全部の原子力発電所を止めた暮らしは、どんなものか? 実体験する勇気はありますか? …ということです。
アーミッシュのように電気そのものの使用まで否定しますか? それとも代替エネルギーへの切り替えを進め、電気使用に対するある程度の高負担に耐えますか?

ローマ時代以来の効率優先の栽培テクニックを捨て、化学肥料も農薬も培養酵母もSO2も全く使用しないワインは、どんな味なのか。
そういう自然な造り方をしたワインの『美味しさ/味わい』と、『適度な』『必要最低限の』農薬や近代的醸造テクニック&物質を駆使したワインの『美味しさ/味わい』は、身体や心に対する影響は、どれくらい違うものなのか。
『前者=醸造まで含めた徹底的な自然派』と、『後者=常識的美味しさを追求し、経済的に最適と思われる手法で妥協した産物』は連続的なものなのか。それとも決して相容れない正反対或いは全く異質のものなのか。

…前者的ワインを実際に味わってみるには、実は小さな勇気が必要です。
大方が従来の「美味しさ」とは少し違った味わいだからです。
しかもわざわざお金を払って???

そういう小さな勇気を飲むヒトに要求してくるのが、ズュドシュタイヤーマークの親戚関係にあるふたつの生産者、M & S・ムスターであり、エーヴァルト・チェッペのワイン達なのです。
Are you really ready to experience those wines?

注:ムスターもチェッペもSO2は少量ですが使用しています。

2012年2月23日木曜日

グロース Gross…梅雨どきに飲みたいワイン

まだ根雪も残る中、梅雨の話をされても…ですよねぇ。
でもGrossのワイン、特に彼らのベーシックなクラシックタイプのワインは、是非「鬱陶しい梅雨時にゴクゴクと」飲んで欲しいと、プリンセスは思います。

では、ワイナリーを訪れてのテイスティングでのお勧めと気になった点をご報告します!
テイスティングルームに溢れる凛とした空気を感じていただけるでしょうか?
☆Welschriesling ヴェルシュリースリング STK 2011
注:STK &Steirische Klassikについての詳細は以下サイト参照のこと。http://www.stk-wein.at/weine.html 要は新樽のかかっていない軽快なワイン。
青リンゴの風味にスキッ、キリッとした酸。「梅雨ワイン」最右翼。単体でゴクゴク飲んでも美味しいが、野菜多めのターフェルシュピッツのアップル&クレンソースとの相性の良さからして、水炊きやポトフ、野菜や香草を上手く使った軽めの肉料理や魚料理をすっきり引き立てること請け合い。

Jakobiヤコービ 2011
この辺りで300-400年にわたって使われて来た農作業暦 Mandel Kalenderがラベルの楽しいワイン。Sauvignon Blanc主体で、年によりWeissburgunderがブレンドされる。熟したアプリコットと柑橘系のノーズ。程度な酸とミネラル。エルダーフラワーの風味。軽いスパイス。中程度の余韻。TPOや料理を選ばない、気軽でしかも非常に良質なワイン。

☆Weissburgunder Steirische Klassik 2011
落ち着いたオレンジやナッツの香り。酸はやや緩いものの、カマンベールチーズの皮のような旨味とキレイでサラリとした果実風味が魅力的。中程度の余韻。ヴァッハウからシュタイヤーマークまで、この国のヴァイスブルグンダー(=ピノ・ブラン)は見過ごされがちな宝物だ!

Muskateller Perz 2011 Fassprobe
川の堆積物である砂地の畑。その前に試したGelber Muskateller Steirisch Klassikとの畑&樹齢差による格の違いを見せつけた、ミネラル感とキメの細かいテクスチャー。節度あるアロマ。

☆Sauvignon Blanc Steirosche Klassik 2011
エルダーベリーの穏やかで柔らかなアロマ。この控えめさこそGrossの魅力! 適度な酸とミネラル感と余韻。あまりに秀逸過ぎて思わず見過ごしてしまう程のバランスの良さ。シュタイヤーマークの良心、とでも呼びたい味わい

Sauvignon Blanc Sulz 2011
海の堆積物と川の堆積物の混ざった南向きの畑。Grossの単一畑中最も暖かい。ヴァイスブルグンダーにも感じた白カビチーズ&オレンジの香り。ミネラル感とSBにしては落ち着いた酸。比較的わかりやすい果実味。

☆Sauvignon Blanc Sulz 2010
涼しげな香り。湧き出すような勢いのある酸。後半に軽い蜜のタッチ。長い生き生きとした余韻。柑橘系のフィニッシュ。

Ratcher Nussberg 2010
グロースラーゲ。石灰の強い海洋堆積土(石灰、マール、オポック)。香りはハーバルでストーニー。でも味わいがいつものNussbergではないような…。酸に切れがないし、多少ペターっとのっぺらぼう。余韻は長い。

ここでプリンセス、ちょっと勇気が要りましたが「このワインは減酸をしましたか、MLFを意図的に止めませんでしたか?」と聞いてみました。
どうやら両方ともYesだったよう。
前日のブログのヒルシュ(カンプタールDACのグリューナー)と、シュタイヤーマークのグロースラーゲの長熟を意識したSBを単純に比較していいものかよくわかりませんが、「減酸も、MLFを意図的に止める行為も、その微妙なサジ加減やタイミングがとても難しい割には、得るところが少ないのではないか」「かなり高い酸があっても、果汁が健全であれば、多少時間を要するけれど、自然に任せた方が、最終的に絶妙に味わいのバランスを取るのではないか」というのが、現時点でのプリンセスの予測です。でも自分でワインを造った経験がある訳ではありませんので、全くお門違いな予測かも知れません。これについては、もっと色々な生産者の意見を聞いてみたいと思っています。

Sauvignon Blanc Privat 2010
ここからテイスティングのお相手はお兄ちゃんのヨハネスに。ヌスベアク最後のセレクションで、干乾び縮み始めた状態のブドウだけで作った、彼によれば「一番価格は高いけれど、テロワールを反映しないし、ウチのフラッグシップではない」ワイン。確かにクリーミーでリッチ&フルボディだけれど、フィネスやティピシティ、アイデンティティは感じない。ものすごく贅沢な、オレンジマーマレード、クローヴ、ヌガーなどのリッチな旨味が、これでもか、これでもかと出て来るワイン。

実はプリンセス、この20代前半の頃から(今おそらく25歳くらい)「いかにも農夫」な風情を漂わせるお兄ちゃんの大ファン : )
毎日畑でしっかり仕事をし、仔細に土とブドウを観察している人間にしかわからない「真理」を決して上手とは言えない英語で、でも懸命に語ってくれるからです。深い真実の前に、小手先の語学力など問題ではありません。
今回も、「2月1日にアイスヴァインの収穫をした」と話すと、「そりゃ遅過ぎる。何度もそれまでに凍ってるからね。本当は一番いいのは11月にアイスヴァインが収穫できた時」と、これまで誰も教えてくれなかったことを話してくれました。
慌ててお暇するる前に、パチリ。
向かって左が弟ミヒャエル。右が兄のヨハネス
ウィーン大学で醸造学を修めた理知的な弟ミヒャエルと、いかにも勉強嫌いだけれど餓鬼大将転じて頼りになる兄貴ヨハネス、そしてマーケティング&セールスを担当するやはり若きシュテファン。後ろにしっかり控える賢父アロイス。
なんとか日本市場に根付いて欲しいワイナリーです。

2012年2月22日水曜日

ヒルシュ訪問記…2010年はクリーミー?

グロースでのテイスティグをご報告する前に、2月13日に訪れたHirsch ヒルシュでのテイスティングを先に振り返ります。両者共通して焦点を当てたいテーマがあり、ヒルシュを先に書いた方が、すんなり説明できそうだからです。

ヒルシュは一番のご近所ワイナリー。いつもは10分ほどの道のりをチャリで行くのですが、この朝は忘れもしない「零下20度」前後まで気温が下がり、お城ワイナリーを始め周辺のワイナリーがブドウの木への悪影響を心配していた日。路面の凍結が怖かったので、寒空をテクテク歩いてヒルシュさんちに向かいました。
ここまでがゴベルスブルクの町。ここからがカンメアンの町。
南側から向かって右側の山がGaisberg
Heiligensteinの東端からとGaisubergをの谷間の辺りがGrub
左側の大きい山がHeiligensteinq

今日は裏庭側(北:ハイリゲンシュタイン側)からお邪魔します。
今日の目的は2011年のキャラをハネスに語ってもらうこと。
最も軽快なTrinkvergnügenトリンクフェアクニューゲンを試飲しながら、2011年の全体的特徴を尋ねます(以下Jはヨハネス。Pはプリンセス)。

J: 質的にも、そして07年以来量的にも、大満足。とにかく畑でもセラーでもストレスの少ない年だった。ブドウは健全で貴腐はほとんどつかず、完熟し、かつpHの非常に低い完璧な出来。クリティカルだったのは収穫時期。収穫があと2週間遅かったら貴腐がついてしまった。※プリンセス注:この辺りが最初の軽い霜により風味の凝縮を待つことをよしとし、良質の貴腐が一部混じることを嫌わない、ヒードラーやウチとの方針の違い。
ワインはいつも通りのバランスの良さと軽快なエネルギー感。最もベーシックな、このトリンクフェアクニューゲンでも95%が有機栽培、残り5%が転換中、といいます。近い将来買いブドウも全て有機栽培農家から、とする「やるときは、やる」ハネスらしい潔さ。同じ時期同じコンサルタント下でビオディナミの手法に着手した、やはりご近所のロイマーが、有機認証に当たり自分の畑の有機栽培ブドウと慣用農法による買いブドウの生産ラインをはっきり分ける、という賢い対処方法を採ったことと併せて、両者の個性やポリシーをよく反映していて実に面白い

次にGV Heiligenstein 11 (tank sample) と10を比較。3月末のボトリングを予定する11年は、まだ酸の焦点が定まらない印象ながら、とても柔らかなテクスチャー。一方10は、対照的にフォーカスの合った引き締まった味わいながら、"高いのにhoneyedな酸"と私が表現するとハネスが"creamyじゃないのかい?"と突っ込んで来ます。実は後者は1g/l前者より酸が高い。けれもギスギスしたところが全くない、高いのに円やかな酸なのです。
J: 消費者には誤解を招くから絶対に言わないけれど、プロにはちゃんと説明するね。毎年10-15%前後のマロが自然に起こるのが望ましいと思っているんだけど、酸の高かった11年は、自然がしっかり酸に働きかけてくれた。だから10年は通年よりクリーミーな年なんだよ。
P: なーるほどね!(でも、そう言われて味わい返しても、はっきりMLFを感じさせるようなヨーグルト的クリーミーさは微塵もなく、ただ高い酸の割には鋭くない、酸フェチにはたまらなく魅力的な味わいなだけです。クリーミーという表現はあまり当たらないような…)
 ちょっと解説しておきますが、10年のドナウ周辺のワインは、例外なく酸が高い。なのでワイナリー側では減酸を余儀なくされたり、一般的に独、アメリカ&マス市場のご機嫌を伺う系のワイン・メディア&ジャーナリストが酷評した年でもあるようです。
しかーし!
冷涼産地のワインを骨の髄から愛するプリンセスは、こういう年の高い酸のワインを、一切減酸せずに、酸の美味しさで飲ませてしまう根性の座った生産者(一流どころは皆そうしてます)を、心から高く評価したいと思っています。
そして、ブドウが健全であれば、ハネスの言うように「自然はちゃんと味わいのバランスを取ってくれる」ものなのです。

9月以降のリリースを予定しているGV Lamm 11年は、オレンジなど豊かな果実味が魅力的とは言え、まだまだポヨポヨのひよこちゃん、という感じ。評価不能。

リースリングに移り、Zöbing 2011 tank sample。あまりに豊かな白い花のアロマに驚き、思わずハネスと目を合わせます。彼自身もこのワインを試すのは3週間ほどぶり、とかで、アロマティックさと、負けずに魅力的な生き生きとした酸に圧倒されている、と語りました。
P: 11年はベーシックなリースリングが本当においしい。ウチのも同じようにアロマティックで味わいも生き生きしていて。何がそんなに良かったんだろう?
J: 灌漑だよ(と意外な答え)2011年のように極度に乾いた年には、若木が多いこうした非単一畑ものでは、灌漑のアドヴァンテージが本当に大きい。単一畑の古木は別だけどね。
おや、飾ってあるのはお城ワイナリー!
70年代に畑名を大きく記すのは
ハイリゲンシュタインくらいだったそう。
そしてその単一畑のGaisberg 2011 barrel sample。GV Lammよりはずっとらしさ(黒いミネラルと汁気の多さ)が出ていますが、それでもまだイースティーでボヨンとしたテクスチャー。
最後にHeiligenstein 2011 barrel sampleを試飲。Gaisbergに比べ、ワインはよりフリンティーで明るく、キラキラしたミネラル&スパイスを感じさせます。…とは言うものの、両者香りは全く閉じており、やはり単一畑モノは、改めて別の機会に試飲する必要がありそうです。

では最後に、ハネスから日本の皆さんへメッセージを貰って来ました。最初がハイリゲンシュタイン&ガイスベアクの畑の説明で、次が2011年ヴィンテージ解説。2つ続けてどうぞ!

2012年2月21日火曜日

アロイス・グロースに聞く             シュタイヤーマーク地質学講座

シュタイヤーマークと言うと、何か広大な産地のような気がしますが、実は栽培面積は小さく(シュタイヤーマーク全体で4,240ha:ヴァインフィアテルの1/3にも満たない)、ズュドシュタイヤーマーク(2,340haはクレムスタールよりちょと大きい程度)の有名どころ――テメント、グロース、サットラーホーフ、ポルツ、スコッフ、サバティ、チェルモネッグ、ムスター、チェッペ等――は直径10kmくらいの同心円内の距離に集中しています。

その中でGrossグロースと言えば、最初にシュタイヤーマークを訪れた時からプリンセスを虜にしたワイナリー。木とガラスと金属を巧みに配したワイナリーは、自然に溶け込む冷た過ぎないモダンさが絶妙で、樽やワイン箱の並ぶ様まで整然と美しく、ため息を誘いました。
ワイン自体も、周囲のテメントなどが「濃い果実味、高いアルコール、強い新樽」というプリンセスの逆鱗に触れるような姿勢を取っていた頃 : ) も、このワイナリーは大樽で寝かせた品の良いワインが中心でした
この辺りでは珍しい段状畑。上部には局地的火山性土壌の部分があり、
そこにはゲヴュルツが植えられています。TBAはワイナリーの隠れた逸品
当初からテロワールに関して並々ならぬ研究熱心さを感じ取ってはいましたが、記事目的の限られた時間内での取材では、どうしてもテイスティング主体になり、土壌や地質学の話まで突っ込んで話してもらう機会がありませんでした。

そこで今回は「ワインを味わう前に、この一帯の土壌と地質学的背景について、ちょっと話してもらえないかなぁ」とミヒャエルに切り出してみました。すると「その話なら僕より父が詳しいから」と、既に若くしてブドウ造りやワイン醸造は息子達に任せてしまったアロイスが登場。

以下、アロイスの話をまとめてみました。※カッコ内のワイナリー&畑名はプリンセスによる追加
上の写真と併せ、この辺りの典型的石灰岩。
1)この一帯は過去3度海の底に沈んでおり、それぞれの時代の海底生物(=石灰)や堆積物が最も基本的な土壌を成す。また、標高の高さによって露出している年代が異なる(低いほど古い)。海はかつてボヘミアン・マッシフの南側一帯に広がっており、後のアルプス山脈の隆起後も、現在のドナウ周辺産地、ライタベアク、シュタイヤーマークは、パノーニッシュ・ウルメア(海)でつながっていたと見られる。この時期の、アルプスから供給されたと見られる石灰岩をライタ石灰岩と呼ぶ。
2)一帯の斜面のほとんどが(GrossのNussbergやTementのZiereggなども)海の堆積物が層になった後の大陥没によってできている。…なので、霧が谷を埋めるようにかかると、大陥没前=千2百万年前の景色を想像することができる。…ここら辺のすり鉢状の斜面の成り立ちを不思議に思っていましたが、そういうことだったんですね!
3)一部標高の最も高い場所(WohlmuthのあるSausal, Kitzeck)は、一度も海の底に沈んでいない。⇒原成岩を残す(最も古い土壌)。
4)標高により石灰の質が異なり、貝殻やサンゴが沢山出るのは、海の浅かった部分=現在では比較的標高の高い限られた部分のみ(TementのZiereggやGrassnitzberg)。
5)海と陸地の境界(=ビーチ)周辺は砂(Sernauber, Kranachbergなどサットラーホーフの畑、GrossのPerz、など)。沖に行くにつれて砂粒は細かくなる。
6)標高の比較的低い場所は海底堆積物のシルトが固まったオポック土壌(MusterやEwald Tscheppe、GrossのNussbergの下部)
7)アルプスの隆起後、そこから流れ込む川(ミシシッピ川並みの大河が確認されている)の堆積物(小石や砂礫)土壌が存在:TschermoeggのLubekogelなど
8)さらにズュドオストシュタイヤーマークに存在した活火山の火山灰が風で運ばれて堆積し、海や川の作用でも流されずに残った局地的火山性土壌も存在(Gross Nussbergの一部)。
ヌースベアクの下部はマール(オポック)。上に行くほど石灰が強くなりますが、
貝殻やサンゴの化石はテメントの畑ほど多くはありません。
以上とても複雑ですが、何千万年単位での地球の変容を映し出す様は、考えてみるだけでスリリング!
では、明日はグロースのワインを振り返ります。

2012年2月20日月曜日

シュタイヤーマーク その2 古都グラーツ     淡き艶やかさ

昨日のブログで地質学講座を予告しましたが、その前にグラーツ一泊報告から。
古典的中欧の美そのもの!
プリンセス、数えたことはありませんが、シュタイヤーマークへもおそらく既に8回やそこらは来ているはず。けれどこれまでほぼ例外なくウィーンから車でハイウェーを通ったので、グラーツは掠めもしませんでした。
人口はウィーンに次ぐオーストリア第2の、と言うものの、30万に満たない小都市。その規模ながら一応インターナショナル・エアポートもあるし、6つも大学はあるし、プリンセスが大ファンである古楽の巨匠ニコラウス・アーノンクールが主催する音楽祭“Styriarteスティリアルテ”の本拠地でもあるし…一度訪れたいと思っていました。そうそう、世界遺産にも指定されているし、欧州文化首都でもあるそうです。

Gross訪問を尻切れトンボで切り上げ(「今出ないと電車に間に合わない!」ということで)、ギリギリ・セーフで列車に滑り込み、グラーツ駅に降り立つと、駅舎はモダンで綺麗ですが、魅力的な街には見えません。土地勘がないので駅からなるべく近い場所に取ったホテルまでの道のりも、なんだか単調…。
Grossのシュテファンが予約してくれたレストラン Landhaus Kellerの場所をチェックし、徒歩で出掛けてみても…
しばらくひたすら退屈な裏町風情
ところが、ムーア川に架かるハウプトブリュッケ(中央大橋)を見つけ、向こう岸遠方の暗闇にぽっかりと浮かぶ要塞が視界に入るやいなや…、
そこは別世界!!
ムーア川の流れは速い!
向こう岸にぽっかり浮かぶ要塞(Grazはもともと要塞の意)
何かの都市伝説でしょうか。橋の欄干に錠前が山のように下げられています。
刃物屋の惚れ惚れとする整然としたディスプレー
ラヴリーな旧市街。お伽の国に紛れ込んだかのよう。

スワロフスキの入るビルの美しいこと!
流れの速い川が古都を縦断するさまは、即座にプリンセスに金沢を思い起こさせました。いや正確には京都と金沢の情景がぱっと頭に浮かびました。
そして旧市街に入ると、予感通りある意味ウィーン以上に古い建物や銅像が美しい!

さて、レストランを探しつつ小道に入ると、素敵な刃物商や民族衣装店が目につきます。プリンセスは全く民芸趣味はありませんし、クレムスでもウィーンでも民族衣装屋で素敵な服に出会ったことはないのですが(因みに、ブルゲンラントに至っては悪趣味の窮み)、なんだかこの町の民族衣装屋のショーウィンドウは洗練されています

レストランも、どこかウィーンと違う…もっとずっと給仕もマダムもヒトあたりが柔らかく暖かい。内装も、意匠・様式の違いとは別のところで、どこかにウィーンより明るさと艶やかさがある。でありながら、ラテン諸国や南ヨーロッパのそれとも異なり…如何にも古き善き中欧=ミッテルオイローパ。ウィーンより更にその色を濃く感じます。
シルヒャー・ゼクトの奥は木表紙のワインリスト
抑えた中間色の色使いがとても繊細
取り敢えずシルヒャー・ゼクトを飲みながら、メニューとワインリストを吟味。何をオーダーしようかあれこれ思案しつつ、周囲の客を観察していると、さっきウィンドウで見たような、とってもオシャレな民族衣装を、さりげなく着こなすヒトが多いことに気づきます。若い女性も民族民族田舎娘風情ではなく、モード系の上着にクールなミニマル・タッチのディアンドゥルを組み合わせていたり、若者もモードジーンズに民族衣装のジャケットを羽織っていたり、Gジャンの下に革の半ズボンを穿いていたりして「うーんこれってアッチ系の男性にはたまらないだろうなぁ」などと妄想を抱くプリンセス。
そこにおそらくまだ二十代前半に見える給仕がオーダーを取りに現れます。この若造(失礼!)、鼻をヒクヒクさせんばかりの勢いで客の動向をくまなく観察。バイトとおぼしき女の子のサーブの仕方に文句をつけ、彼女をムっとさせたりしています。その懸命さと誇り高さが、とっても愛らしい : )(と、この歳になって初めて思える、多少頑張りが前面に出過ぎるタイプ)。

「グラーツは初めてだからクラーツ名物を」と頼むと、なんと「Fisch魚」だと。「うーん、私は日本人なので、魚にはうるさいんだけど、まさか海の魚じゃあないでしょうね」と予防線。給仕君「ウチのはムール川で獲れたフレッシュな地物ばかり」と誇らし気なので、乗ることにしました。お勧めはSaibling岩魚。「メインはシュタイヤーマークらしく牛肉、でも重いものは食べられそうにないので…」と言うと、給仕君、ターフェルシュピッツを勧めて来ます。あまりに芸がないけれど、仰せの通りに。

アミューズまではシルヒャーゼクトで済ませ、さあ、岩魚に合わせるワイン。一人で1本は無理なので、グラスのお勧めを尋ねると、「ソーヴィニヨン・ブラン」と。ま、もう俎板の鯉。「それでお願い」。
ワイン自体極々普通の、シュタイリッシェクラシーク的なものいかにもSBな香りはドギツくなく、ほっと一息
そして、岩魚が来て納得。ワインがキュウリのソースにとても良く合うではありませんか! …ポイント
キュウリ・クリーム・ソースと岩魚&SBがとてもいい組み合わせ
ターフェルシュピッツはこうして盛り付けてくれます
次のターフェルシュピッツに何を勧めて来るか…。ヴェルシュリースリグ! 「えぇ、それはないんじゃあないの? しかもSBの後に」と思いましたが、これも料理が来てみると、この品種の持つ青リンゴのような風味が、リンゴ&ホースラディッシュのソースにドンピシャ! …更に1ポイント
左上の骨髄部分が特に美味でした。お野菜たっぷりで軽快なお味
デザートにはシュタイヤーマーク名物カボチャの種オイルのクレーム・ブリュレと、なかなか楽しそうなもので攻めて来ます。
しかも頼んでもいないのに「このデザートにはこれなんだ」と、茶色になった“1990年  ゲヴュルツのアウスレーゼ” という、目一杯「凄い」んだか、「外しまくり」なのか、判断のしようもないような : ) ワインを一緒に持って来るではありませんか!
手前はカリっと香ばしいカボチャの種
クレームブリュレは、キュルビス・オイルの風味も加わりかなり濃厚。怪しい茶色のワインもちゃんと綺麗に熟しており、心配したコテコテのゲヴュルツ香や汚い貴腐果は、あっけないくらい微塵もなく、なかなかの相性(ブリュレの重さにつり合い、しかもブリュレの濃厚モッサリ感がワインの酸である程度締り、多少の軽快さが出ます)。添えられたビスコッティに含ませると、心はトスカーナ=ヴィンサント…的な世界。…ポイントさらに追加!

いちいち外しそうなお勧めでドキドキものでしたが、なんのなんの。とっても楽しませていただきました!


なかなかイケテルぞ、グラーツ
次回はもっと明るい時間にゆっくり時間を取って、街を散策したいと思います。