2012年5月29日火曜日

好きだなぁ、田舎暮らしも

昨日は休日で、プリンセス朝食前にお部屋の大掃除をしていました。
すると窓の下でエラちゃんが「おーはよう!」と吠えています。

窓を開けると目の前の林の木々を目まぐるしく動きまわるものが…。リスです!
それもイギリスでは絶滅種だという赤い方(なんでも英では灰色のリスが赤色種を淘汰してしまったらしい)!
と思って、慌てて写真に撮りましたが、距離が大分あるし、ズームのないレンズだし…。
ちょっと見えないでしょうか?
林の向こうのハイリゲンシュタインは、すっかり緑に隠れてしまいました。
拡大してみましたが…真ん中にいるのがそれ…ん。うさぎ?? 
2匹で追っかけっこをしていましたが。

2012年5月28日月曜日

ビアギット・ブラウンシュタイン vol.2 石灰至上主義はオーストリアでは通用しない?

ここがその、秘密の場所。おそらく石材を切り出した跡でしょう。見事なムシェルカルク(貝殻石灰)!
このちょっとシェルターのような場所で、真夜中に若者が集うパーティーなども行われるそう。
このような貝殻がいたるところに隠れています。
ほら、ここにも。
こちらは雨風に晒されて風化した部分。
ところで「ライタベアクDACと言えば石灰土壌」と思っていませんか? …先日のブログにも書いたように、ライタベアクは下部に石灰が多く、斜面上部は原成岩なのが普通です。
それから土壌の優劣として、なんとなく「石灰が一番」と思っている節ありませんか?
けれど考えてみて下さい。
ドイツやオーストリアのピカイチの銘醸畑に石灰の畑なんか幾つあるでしょう?
プリンセスが思うに、石灰土壌というのは透明感やクールさをワインに与えます。だから最北の地のワインにそれ以上のクールさは必要ない、というのがドイツやオーストリアに石灰の銘醸畑が少ない理由ではないか、と踏んでいるのですが。最北の産地に、スレート、片麻岩、花崗岩、片岩などの銘醸畑が多いのは、反対にこれらの土壌がワインにホットでスパイシーなミネラル感を与えるからではないでしょうか。

別の視点から見てみましょう。ライタベアクDACに認可されている品種は、白はピノ・ブラン、シャルドネ、ノイブルガー、グリューナー・ヴェルトリーナーの単体かブレンド、赤はブラウフレンキッシュのみ(15%以下のブレンド用としてツヴァイゲルト、St ラウレントとピノ・ノワール)です。赤の単体品種として、石灰土壌を好むピノ・ノワール、St.ラウレント、ツヴァイゲルトというピノ一族が認められていない、というのはいささか不自然に思えますが、下部のロームが多いやや重い土壌が白のブルゴーニュ系に重用されるとは言え、赤の最上サイトとしては、石灰よりシストを重要視しているのが、この認可品種からも伺えます。

「シストにはブラウフレンキッシュ、石灰にはピノやSt.ラウレント」と何故植え分けをしないか、という意見もよく耳にします。でも、ブラウフレンキッシュは実は石灰も大好き。また、シストに植えられたピノ・ノワールは、ブルゴーニュとは全く異なるけれど、一流の生産者(例えばヴェンツェル)の手にかかれば、これまた別個性の素晴らしいワインを造ります。何もフランスにおける品種土壌適性を、そのままオーストリアへ盲信的に持ち込む必要もないのです。

ライタベアクはアイゼンベアクと並び、オーストリアで初めて土壌特性によって範囲を決めたDACです。その特性はだから石灰と原成岩という、このミクスチャーにこそあります。さらに、特定土壌に特定品種を結びつけるより、複数品種から土壌個性が透けて見えることも、このDACの重要なポイントなのかも知れません。
それはそうと、彼女はガイヤーホーフのイルゼ・マイヤーとともに、畑の一部を自然に還す、Wild Wuxというプロジェクトを立ち上げており、このムシェルカルク土壌周辺の畑7000㎡をこうした野草地に戻しています(world heritageに寄贈)。まさか、自分の持つ最上の区画を手放したりはしませんよね。…そこら辺りにも、この純粋な貝殻石灰土壌が、畑として必ずしも最高のパフォーマンスを発揮する訳ではないことが想像されます。
以上全てプリンセスの想像なので、次回訪ねたときに、真相がどうなのか、確かめてみたいと思っています、

さて、畑を後にしセラーに向かいます。プルバッハ旧市街の外壁に接して住居兼セラーを持つビアギット。独特のセラーも興味深いのですが、プリンセスを興奮させたのは、そのセラーを見た後、戸外に出てからです…。

2012年5月27日日曜日

書籍郵便で得した積りが、書留料金だった…トホホ

郵便局から、日本茶をとあるワイナリーに送りました。

窓口で"recommend... oder eingeschrieben"とかなんとか問われました。
「推薦か、書かれた何か」…と言われても、何のことやら???
プリンセス、「よくわからないのですが」と尋ねてみたのですが、オッサンは同じ単語を繰り返すばかり。
schreibenは書く…「もしかして、printed matter=書籍郵便か? と聞いているのかも?」と想像たくましくしたプリンセス。「安くなるなら」と嬉しくなって、はっきり「アインゲシュリーベンで」と大嘘を返答し、大振りの封筒を首尾よく送りおおせました。

ところがお城に戻って、オフィスのエヴェリンに尋ねると、「recommendうんたらはわからないけど、Einschreibenは書留だから、おそらくノーマルの郵便か、書留かって聞かれたのよ。はは、余計なお金払っちゃったわね。」と、笑われてしまいました。

夕食時におじいちゃんに今一度recommendの正体を尋ねると、「ああ、それはeingeschriebenと同じ。書留のことだよ。だけどrekommandiertはオーストリアのそれも年寄にしかわからない言葉。ドイツ人や、オーストリア人でも若者には通じないよ。」と教えてくれました。

小さな嘘でちょっと得した気分になっていたプリンセス…しっかり冷や水を浴びせられ、反省致しましたとさ。
それにしても普通の日本茶をわざわざ書留で送られた相手は、さぞかしびっくりしたことでしょう :)…本日のお粗末!

2012年5月25日金曜日

ビアギット・ブランシュタイン vol.1 畑にて:自然農法の説得力

ライタベアクプルバッハビオディナミ農法のブドウでワインを造る女流醸造家ビアギット・ブラウンシュタイン Birgit Braunstein を先日訪ねました。
まず、2枚の写真をご覧いただきましょう。
mit=with 写真を拡大してよく見ていただければ散布跡も見えます。
ohne=without+Biodynamicの葉。見て、触って、生き生きしているのが歴然。
両方ともGoldbergゴルトベアク畑のツヴァイゲルト。両者はほんの数畝、6~7mしか離れていません。写真も1分と間隔を置かずに撮った2枚です

…はい、前者が"with農薬"、後者が"without農薬 plus α"、つまり後者が彼女の所有するビオディナミで育てられたブドウ。
もう何も言う必要はありませんよね。まず、葉の色が違う。「触ってごらん」と言われて触れてみれば、柔らかさと弾力、フレキシビリティーが違う…
ニコライホーフのサースさんの隣の畑との葉っぱの形状比較(withは凸、withoutは凹で太陽の光を包み込むように受け取る)にも感心しましたが、これはそれ以上の説得力!

しかも驚いたことに、農薬散布の跡の残る畑にずっと居ると、空気が淀んだような、圧迫感(かすかですが気分をムカつかせるような臭いも)があるのですが、ほんの数畝移動して彼女のツヴァイゲルトの中に居ると、爽快な空気が漂うのを感じます。眼下遠くのノイジードラーゼーを眺めて「ああ、なんだか幸せだな」という気持ちになります。
ヴァッハウ辺りでは、「狭い土地に沢山の所有者が混在するヴァッハウのような産地では、自分だけ無農薬にしても無意味」みたいなことが、在来農法の生産者の口からは当然のように言われますが、こういう光景を見てしまうと、全く信憑性がない…

さて、これがそのゴルトベアク畑からの眺め。遠くの光っている部分が①ノイジードラーゼー。ここ、ゴルトベアク最上部まで8kmあります。湖岸から4kmは②葦(黒っぽい部分)と増水に備えた③遊水地(緑の濃い平地部分)。そこから畑になりますが、低地にはブドウではなく、④穀物が植えられています。⑤ブドウ畑の最低部は砂がちな白亜質石灰=レンツィーナと呼ばれる土壌。⑥斜面下部が白亜質石灰で、⑦斜面の上部に行くに従って原成岩が主体になります。因みにライタベアクの原成岩はアルプス東端のもので、ドナウ周辺の原成岩はボヘミア山塊のもの。
7つの異なる部分①~⑦が写真で確認できるでしょうか?

斜面下部の石灰は所謂ムシェルカルクMuschelkalkで、どういうものかはまた後日ゆっくりお伝えします。そして頂上部にある彼女畑の隣では、化学肥料&除草剤を撒き、cover cropは植えずに土を開墾する典型的在来農法が行われていました。土を掘り起こしているので、頂上部分の原成岩がゴロゴロ露出して、おいしいサンプル岩がいーっぱい!
「化学肥料や除草剤を撒いて、畑を開墾するスタイルは、私とは全く違うけど…」
「おかげで丁度いい見本が沢山!」
この石、ビアギットは車でワイナリーに持ち帰ってました。
鉄分が酸化した部分が赤味を帯びたシスト
左が典型的グリマーシーファー(ミカシスト)。キラキラ輝いてるでしょ。右手前はクオーツ。
面白かったのは、この日畑はとても乾燥していたのですが、在来農法の他人の畑の畝の土を指でどんどん掘って行っても、10cmやそこら掘ったところで、土は乾燥したままなのですが、ビオディナミに変えて長いでは、5cm以上くらい掘ると、湿り気が出てくるのがはっきり感じられたこと。

そうそう、在来農法から有機、そしてビオディナミと段階を踏んで少しずつ自然農法を進めて来たビアギットに、有機とビオディナミで違いを感じるかどうか聞いてみました。「大きな差よ。ビオディナミは、上手く言えないけど…小さなヘルパーが沢山存在するのよね」と、ニッコリ笑って親指と人差し指をこすり合わせていました(なんだかその意図するところの、わかるような、わからないような…)
「土が変わるまで7年は必要」
これは今年手に入れたばかりの畑。葉は生き生きしていましたが、
土は掘っても掘っても、在来農法の畑同様乾燥していました。
ゴルトベアク畑を見せてもらった後、プリンセスは“秘密の場所”に案内されました。

2012年5月22日火曜日

霜の害から実感。北国のワイン造りの厳しさ。

霜の害は思ったよりずっと深刻です。
お城ワイナリーとしては、おそらくここ20年来で最大の霜害…。ミッヒが修道院からワイナリーを引き継いで最悪の被害だそうです。

降りたその日には、ただ単に葉がぐったりしたようにしか見えませんでしたが、今日色々な畑を見て回ると、畑によってはほぼ葉が全て茶色になっているところもあります。葉が全て落ちて木が裸になっているようなところすらあります
これから実になる部分も緑色が失せているものは、すてに乾燥して触るとパウダー状に。完全に死に絶えています。うちの畑はざっとみたところ、半分以上がダメですね(因みにシュタット・クレムスは30%程度の被害、とか)。
2月にマイナス20度近辺まで耐えたブドウが、時期が遅いと、たったのマイナス1-2度の霜でここまでやられてしまうとは…。

もっと早い時期なら、ブドウはせっせと新しい実を用意します。今年はちょっと時期が遅過ぎた…。これから仮に新しい実がついたとしても、収穫は大幅に遅れるし、最もベーシックなグレードのワインに使えるかどうか、という質しか望みようがない。だから生き残った古い実と、これから出る新しい実は、厳密に分けて収穫しなければなりません。普通房選りは、グレードの高いブドウにしかしないものなのに、です。

収穫量が半減すれば、今年の収入も半減する訳ですが、何故か雹の保険はあるけれど、霜はないそう。
ワイナリーにとって一番辛いのは、けれど収入が半減することより、来年ワインを届けられるお客様が半分になってしまう、ということ。「残りの半分のお客様は、他のワインを飲むことになる訳で、そのままウチのワインに戻って来ない可能性も高いでしょ。」と、婦人エファは目に涙をためて、私にそう話しました。

霜は当然標高の低い平地の畑の方がひどいし、だからリースリングよりもグリューナーの被害の方が大きい。そして、同じ低地の平地に植えられていても、グリューナーより、ツヴァイゲルトの方が霜に弱いよう。また、同じ区画の同じ品種であれば、仕立ての低い木の方が被害が甚大

先日「北の仕立てはフォリアージュを大きくとって光合成を最大限行う必要がある」と書きましたが、それも勿論のことながら、霜対策としても仕立てをあまり低くできないんですね。
そして緯度の高い産地ほど急斜面の畑を重用するのは、日照角度もさることながら、霜の害を受け難い、ということも大きな原因であり、そういう場所にしか植えられないからこそ、北国のブドウは、あんなに繊細でミネラルの詰まった味わいになるのですね。

うちではブドウ畑には化学肥料は撒きません。でも向日葵や小麦の畑には使います。そしてKIP(EU規定に則ったサステイナブル)ですから、ブドウにも必要最小限の防カビ剤は撒く訳です。
ビオディナミや有機農法のワイナリーと比較し、コミットメントが足りないような気が、外から見るとしますよね。
でも、自然相手ということは、こういう酷い被害といつも隣り合わせで事業を営んでいる訳です。家畜や果樹園、穀物…そうした全てを含むと、常に20-30人の働き手を雇う農業事業体としては、せめてこうした猛り狂う自然の猛威からすり抜けたブドウ達には、少しでも危険を減らして健全な実をつけて欲しい、と願うのも、だから病害に対して最小限の薬品を投じ、被害を少なくしたいと考えるのも、また当然でしょう。関係する全ての家族の生活がかかっているのですから。

そういう風に色々思い巡らせてみれば、少なくとも我々、ワインを売ったり買ったり、それについて書いたり教えたりして生計を立てている立場の人間は、ワイナリーの選択を単なるラベリングとして(ビオ、有機、サステイナブル、KIP、サンスーフル…)伝えるのではなく、それが一体何に対するコミットメントなのか、そしてその方針と実践がもたらす、ワインの味わいや質、環境及び経済に対する影響について、広い視野で冷静に様々なことを観察し、ワインにまつわる経済行為の円環の中にいる人間として、バランスの取れた視点から伝える必要があるのではないでしょうか。

…と書いたからと言って、プリンセスがこの霜で一挙に在来農法支持に傾いた、と誤解されては困ります。明日はライタベアクDACのプルバッハより、一見地味、けれど自然農法の本質をまざまざと見せつけてくれたワイナリーをご紹介します。

2012年5月20日日曜日

カフカ気分再び…

ゴベルスブルク城は、お城としては小ぶりですが、腐ってもお城。広いです
当主モースブルッガー家の自宅部分がロの字型お城の南向き部分の2階、つまり全建物の8分の一を占め、オフィスやらキッチンやらの公的部分が8分の1、残り4分の1が客間やら物置やら作業部屋。それらを除いた残り、つまり建物全体の約半分が大小のサロンで、各種の会合やら、パーティーに貸出せるようになっています。
お城正面。見えている部分の2階がモースブルッガー家の住居。地下がセラー。
で、時候のいい5月~8月の休日には結婚式が集中。その多くが午後遅くか夕方から始まり、お開きは朝方です。昨日もそうでした。
私の部屋は披露宴会場のほぼ真下にあります。いくら壁が厚い、天井が高い、と言ってもやはり騒々しい
なので、大サロンからは離れているし、Wifiにもつながる(そうです。自室ではインターネットに繋がりません…)オフィスで、夜中までyoutubeで音楽&映画鑑賞をしていました。

で、「そろそろ寝ようか」と自室に戻ろうとすると… 
※オフィスからプリンセスの寝室へは、テイスティング用のサロン、婦人エファの書斎、第二居間、ペット餌部屋、キッチンを通り、キッチンからピロティーに一旦出て、別の棟に入らねばなりません。
…キッチンの出口を塞ぐように魔犬エラちゃんがぐっすりと眠っています。
一度寝る子を叩き起こして、あわや食い殺されそう(は、オーバーですけど)になったことがあるので、距離を取りながら「エーラちゃん」と声をかけてみました。

眠そうに目を開けるではありませんか!!
Princes:  Komm!(おいで)
Ella:  うーん、眠いのよ、今。
P: お願い、ちょっと移動してよ。
Ella: たるいのよねえ…
ってな遣り取りが数度ありましたが、結局エラは動かず。プリンセス、仕方なく諦め、別の経路から自室にもぐり込もうと試みますが、披露宴会場をプライベート・スペースから完全に隔離するため、普段閉めないトアにしっかり鍵がかかっており脱出不能…
万策尽きたため、少し待って出直すことにしました。

30分ほどして、今一度キッチンに来てみましたが、状況は変わらず…。
かなり眠かったので、オフィスのカウチに転がることにしました

少しうとうとして、時間は夜中の3時前
再びキッチンに行こうとすると、途中で例のイタズラ坊主ミンキーがすり寄って来ます
モースブルッガー家の掟として、エラとミンキーを同じ部屋に入れてはいけないというのがあります。※ミンキーがエラを挑発し、こちらは冗談でなく殺されそうになる騒ぎを起こしているからです。
何度もミンキーを追い払い、オフィスからキッチンまでに少なくとも6枚はあるドアのどれかを閉めて、ミンキーをまき、プリンセスだけがキッチンへ行きたいのですが、チョロ助ミンキーは実にすばしっこい!!!
蹴散らしたり、抱き上げて別の部屋に落としてドアを閉めようとしたり…色々試みましたが果たせず…

結局プリンセス、緯度の高いゴベルスブルクが燦々と太陽に照らされる5時近く、ようやく自室のベッドに辿り着いたのでありました。
あー、疲れた…。

2012年5月19日土曜日

ハンガリー報告 その5 セプシ氏の真意は?

アーモンドのミルフィーユ、ストロベリー・サラダ、アプリコット・ソルベ、というデザートを見て、「このデザートに5プット以上のアスーは出ないな」と読んだあなた。素晴らしい洞察力です!

お食事前、ランチに誰のどのワインが出るか、なんてツユ知らないプリンセスは、能天気にも「辛口フルミント→サモロドニ→3プット→セプシの6プット→アスー・エッセンシア、もしかするとエッセンシア?」…なんて流れを想像していましたから、正直最後のワインがSzepsy Samorodni 08と知って、多少落胆しなかったと言ったら嘘になります。こういう席ではリスト外のワインが登場するのは半ば当たり前ですから、最後の最後までアスーのお出ましをどこかで期待していなかった、と言ったら、これも嘘になります。
ま、でも結論を言えば、アスー抜きのランチでした。

Szepsy Samorodni 08は、マーマレードのノーズ、枯れてこなれた上質の紅茶のような風味。余韻はそれほど長いわけではなく、意外に軽やか。何故か初老の知的女性を思わせる味わい。表面的には枯淡の趣ながら、中にしなやかなチャーミングさが隠れています。ミルフィーユのホロホロ崩れるテクスチャー、アーモンドの仄かな苦み、ストロベリーやアプリコットの軽やかな酸味と、丁度良いマッチング。
サモロドニはアスーと異なり、貴腐を果汁やベースワインでマセラシオン(これこそアスーがソーテルヌやTBAと異なる、アスーの伝統技術)はせず、通常の甘口ワイン同様、貴腐混じりのブドウを一度の発酵でワインにしたもの。

セプシ氏は語ります。
私の理想は、d'Yquemと同じように、一年にひとつのワインしか造らないことだったと。
実際90年代には確か6プトニョスしか造っていませんでした。St Tamasで辛口ワインを造ることにも当初は全く乗り気でなかった、と言います。
このサモロドニは、2002年にフランス人のソムリエがテイスティングした際、「Cuvee(伝統的品種のブレンド・ワイン。通常かなり力強い)と呼ぶにはフレッシュ過ぎるし、どう呼ぼう?」ということで、Cuvee II、Daniel(孫の名)など候補が上がる中、Samorodniとして世に出すことに決めたそう。再発酵が起こっており、それが却ってワインをフレッシュに保つ結果となっています。

そして彼は続けます。「かつては世界一の貴腐ワインが造りたかった。d'Yquemよりいいワイン、ScharzhofbergerのTBAよりいいワイン…。でもそれは終わった。それは過去の話だ。いいワインは世界中にある。どれが一番いい、だなんて言えない。それらは異なるだけだ。
素晴らしいワインは、それを造る際に関わる人々の間で、そしてワインを取り巻く自然との間の、良い関係を築かなければできない。でも、自分のワインに関わる人々や自然との間だけのいい関係で、他にとっては不利になるような関係でいいのか? いや、そんな筈はない。我々は、他を害することなく、自分達を取り巻く人と自然にとって良い方向性を見出さねばならない。
「だから私はラベルに格付けを書けないようにした。格付なんか私にはできないよ。」
「今でも目標は高い。勿論私は神を信じている。けれど、ソーテルヌやモーゼルと戦う時期は終わった。太陽が降り注ぐところ、どこにでも素晴らしいワインがある。
「小さな差、ほんの少しの差のためにベストを尽くして最大の手間をかけて作業をする。ほんの小さな差の蓄積が、人々の目に見えるようになったとき、それをヒトは奇蹟と呼ぶんだ。」
私は誰も必要としない。けれどもし必要とされるなら、一緒に働こう。そうでなければ我々は先に進めないのだ。

プリンセス、気付けば頬に涙が伝っています。
この貴腐の巨人の言葉を、そして6プトニョスの巨匠による「トカイ=非貴腐ワイン産地宣言」へ至る経緯と葛藤を、なんらかのカタチで書き残したい、と強く強く思いました。

本当のところ、セプシ氏は6プトニョスだけを造っていたかったのか、辛口宣言はトカイの未来を考えての妥協或いはマーケティング戦略に過ぎないのか、或いは心から辛口の可能性に目覚め、その先鞭をつけたいのか、わざわざ格付け制定を主導しておいて、それをラベルに表示しない真意はなんなのか、この日の言葉からだけでは測り知れないものがあります。
今後トカイはこのボトルに詰められます。
社会主義50年を跨いだ、トカイにおけるワイン造りの生き証人の重い言葉を、モノ書きの端くれとして記録する義務がある…そう思ったプリンセスは、ランチの後、セプシ氏にロング・インタビューを申込みました。驚いたことに、小友美さんに連れられ私が短時間訪問したことを、セプシ氏はちゃんと覚えてくれていました。そして、「いつでもいい。連絡してくれ。」と言ってくれました。
ハンガリー編 the end

2012年5月17日木曜日

ハンガリー報告 その4 フルミント St.タマシュにうっとり

セプシ氏ご招待ランチは、「こんなところにこんな素敵なレストランが?」と、我が目を疑う、Gusteau Kulináris Élményműhely グストー・クリナーリス・ウンタラカンタラ
実はプリンセス、もう5年以上前に澤辺小友美さんに駆け足でTokajをご案内いただいたことがあり、その時セプシ氏が連れて来て下さったのも、このレストランでした。あの時はトカイのスープと軽快なフォアグラ料理が印象的でした。
セプシ氏宅とレストランの間にある美しい建物。
昔は銀行で、セプシ氏が買い取った模様。
由緒を感じさせるファサードですが、お料理はなかなかクリエイティヴ。
さあ、セプシ氏感動の講義が始まります…って新しいワインが出てくると、簡単な解説をしてくれるだけなのですが、
プリンセスにとっては今までのどんな講義よりも内容の詰まった、忘れがたいレクチャーとなりました。
ポガッチャというのかな、ハンガリーでよく見るスコーンとともに出てきたのは、Szepsy Furmint 09。若木からの軽やかな辛口ワイン。
まず、09=収穫時に大雨、10=雨が多く寒い、11=こんなに乾いた年はかつてない、という3年連続普通でないヴィンテージだったことを解説。またトカイでは暑い年(09や07⇔正反対なのが10)以外マロラクティックをするのが普通であること、などとともに、「現在はトカイ全体の7割が大量生産のミディアム・スイートワインだが、今後はもっと辛口が増える。何故なら異なるテロワールが異なるスタイルの辛口ワインを生む、辛口の方がよりテロワールを反映するワインが造れるからだ」と宣言しました。
ほう、6プトニョスの巨匠もやはり今日日は辛口ですか…と、思いながら聞いていました。
ちょっとソルベのようなブルーチーズのムースの乗ったビーフ・カルパッチョ。
次のワインはSzepsy Szepsy Furmint 09。セプシが2度続いているのは間違いではなく、二つ目のSzepsyは畑名。まだ3年しか経っていないのに、微かなペトロール香があり、カリンのような硬質な黄色い果実のニュアンス。高いけれど幅のある柔らかい酸。これ、ブラインドで出されたら、プリンセスはシュナン・ブランと言っていたかも。辛口にすると6割のブドウを廃棄することになる(つまり、このワインは4割しかない健全果で造られるもの、ということです)ので、この畑の貴腐ブドウと、乾燥して縮み上がったブドウを混ぜ、発酵をアルコール8-9%で止めたワインも将来造るかも、というような話が出ました。
おお、それでも辛口が先なのね…。
ウルバンと合わせたPike Perch 川カマス?
「スロヴァキア・トカイなんか存在しない」
スロヴァキア人生徒達の真ん前でサラリと断言。
 次のUrban Furmint 08あたりからです。セプシ氏の語気がどんどん熱を帯びてきたのは。「銘醸畑がブドウ造りに使われないのは断じて許せない」と。そしてブラックな毒舌も絶好調。トカイ全体の銘醸畑の分布をざっと解説した後、「1865年には北部には全く畑がなかったんだ。だからスロヴァキア・トカイなんか存在しないと、ピシャリ(この辺り、politically correctな人々からは顰蹙を買うでしょう)。セプシ氏はウルバン35ha中2.7haを所有。一部に1920年代に植えられた80年を超す樹齢の部分があるそうですが、「一番いい場所と悪い場所からのワイン、一番収量の低い場所と高い場所からのワイン、価格はどれも同じだからね!」と力説。「土に近い低い仕立てのコルドンで…」と言ったところで、やおら高級レストランの地ベタにかがみ込み、1日中この姿勢でしゃがみ込んで作業をするのを想像してごらん。フルミントっていうのは、何よりも手間と知識、そして忍耐を必要とする品種なんだ
あまりの迫力にテイスティング・コメントを書くのも忘れるプリンセス。でも、思い起こすに円やかで腰の据わった印象を受けました。トカイ唯一のレスを含む土壌というのも頷ける味わい。なんでも08は発酵がなかなか進まず、セラーを温めたり、澱をかきまぜたりし、MLFが始まったのは5月末だそう。元々のpHがあまりに低かったので、マロによるアロマの減少が著しくなることや、揮発酸の発生の危険があり、実際4.0-4.5gと高いそうです。でも、汚い感じはありません。
これはまた、複雑な個性の辛口…。
辛口フルミントの懐の深さを見事に引き出した仔牛煮込み
そしてSzepsy Szent Tamas Furmint 08登場。カマンベールの皮やスモークのノーズ。ボーン・ドライ。フルーツが皆無…軽微なブショネ???…でした
さて、仕切り直すと、先ほどのワインのようなノーズの曇りは全くなく、落ち着いたミネラルの背後に微かなアプリコットや青リンゴ。縦にスッと筋の通った伸びのある透明な酸。テクスチャーはミルキーなのですが、味わい自体は限りなくピュア。非常に長い余韻。岩清水の趣。かねがね辛口フルミントの高いポテンシャルに注目していたプリンセスですが、これは本当にその期待に違わぬ、硬派ドライ・フルミントの見本のようなワイン! 美しい! 土壌は石英の多いトゥーフだそう。キラリ、キリリといかにもそんな味わい
辛口きっての銘醸畑として知られるSt Tamas畑ですが、現在ブドウの4割、ワインとしては6割が辛口。15年前、辛口は一切ありませんでした。恐らく社会主義崩壊後、かつての銘醸畑に一から植樹したのでしょう。セプシ氏は0.3haを所有しますが、固い岩の土壌故、植樹コストが気違いじみて膨大だそう。スパークリングワイン造りも試行しているようですが、何せ収量を上げると酸も下がってしまうため、低収量がモットー。するとスパークリングのベースとしてはガッツのあり過ぎるワインができてしまうということです。

ここでリストにはない、St Tamas Furmint 09まで登場。こちらは5g/lの残糖があり、MLFはなし。08よりはずっと優しい個性です。仔牛の骨髄のトロミと素晴らしい相性。
同じ畑の辛口フルミントでもヴィンテージが異なると、こんなに表情が変わるのですね。

とうとうデザートが運ばれてしまいます。アーモンドのミルフィーユ マジパン添え、ストロベリー・サラダ、アプリコット・ソルベとともに供されたエンディングのワインは??

2012年5月15日火曜日

ハンガリー報告 その3 セプシ氏土壌を語る

山の上部に蘇りつつある伝統的銘醸畑。ただし左上は固い岩ばかりでブドウを育てるのは不可能とか。
さて、この山の前でバスを降り、セプシ氏がマードの土壌や、最近起こっていることについて熱く語ります。聞き洩らした可能性も大ですが、セプシ氏がバスに乗り込んだ場所同様、バスを降りたここが「何処が」がまずプリンセスにはわかりません。けれど、南向きの斜面と「歴史的なサイトが徐々に蘇りつつある」というセプシ氏の説明から、ここがSt TamasタマシュかKiralyキラリー、Urbanウルバンなどの銘醸畑であることはほぼ、間違いありません。※何せ20人以上の集団ですし、セプシ氏ワンマンショーの趣で、わからないことがあっても質問のできる状況ではないことをお許し下さい。
バスを降りてやおら石コロを拾って説明を始めるセプシ氏。
オーストリアとハンガリーのブドウ畑の、一見して何が一番違う、かと言えば、ハンガリーは仕立てが低い! オーストリアは悪しきハイカルチャーの影響もありますが、最近植えられた畑でも、そしてハイカルチャー以前の写真を見ても、ここまで仕立ては低くありません。やはり北国の仕立て(フォリアージュを大きく取って、少しでも光合成を活発に行う必要がある)です。一方ハンガリーは、垣根仕立てになっているとは言え、今も南仏やスペインでも見られる低い株仕立てを彷彿とさせる植え方です。
数日前のブログにも書きましたが、トカイの緯度はバッハウ並に高く、しかも降水量はヴァッハウより多いにもかかわらず、です。こういうところにカルチャーが宿ります。つまり、気候的&科学的必然性から行けば、逆であってもいいはずの仕立てですが、ヴァッハウ(或いはカンプタール、クレムスタール)は北の光の弱い国の仕立て、ハンガリーは南の光と熱が十分な乾燥した国の仕立てを踏襲している訳です。…いとおかし。

低いコルドン仕立て。灌漑なし。
これがこの辺りのサブソイルに共通するというTuf。大きさの割に手にすると非常に軽い、日本的に言う軽石です。
自宅中庭に並ぶ火成岩の数々。実にカラフル!






















この石はこんなに割れやすくって…
これは、ほらチョークみたいなもんだ。
Tufにも成分によって色々な色や重さのものが。
こちらは木切れが火成岩化したもの


さて、これら実にな石コロ土壌と、世にも特殊な中気候が織りなす、唯一無二のテロワール、そしてこの生き証人の知恵と情熱がどういうワインを生むのか…。次回のセプシ氏ご招待のランチ・レポートでご紹介します。
トカイと言えば、まして「セプシと言えばアスーでしょ」と思っていたプリンセスにガツンと一撃を喰らわせるのに十分な、感動的ランチでした!

2012年5月14日月曜日

ハンガリー報告 その2 セプシ・イシュタヴァン

さて、セプシ氏がバスに乗り込み「この辺りはマードでも最も土が重い粘土質なので、最も甘く酸も高いワインになり、東部だともっとアロマティックになる」とのことですが、悲しいかなトカイ・ビギナーのプリンセスには、「ここ」が「どこ」なのかもわかりません。まあ、西にいるんでしょうね(本当は3度目ですが、いつも2,3時間の滞在なので、ほぼ何も知らないに等しい)。
それに、色々な固有名詞が聞き取れませんし、地図と照合しても所謂西洋式発音とは異なるので、にわかに発音と文字が一致しません
ここが、そのMadで最も土の重い一帯。
…そんな訳で生きる伝説のようなご本人自らの解説を受けているのに、豚に真珠も甚だしい状態。にもかかわらず、セプシ氏のいかにもハンガリー的愛嬌のあるブラック・ユーモアとでも言うのか(「悪童日記」や「笑っているのは誰」などが好きなヒトにはわかっていただけるでしょう)、いいワインを造るということへの愛情の深さと、それ故に、それを邪魔してきた社会主義政府、そしてそれが倒れた後の資本主義金儲け狂想曲に対する、痛烈な皮肉がチョロ、ッチョロっと顔を出し、抜群に面白い!
例えば;
「右側のGDC仕立てが見えるかい。あれは、社会主義時代に押し付けられた、厄災disasterの残骸だ。
こちらがディズアスター仕立て: )
社会主義時代のクローンは、実のできるだけ大きいのを選択したんだ。信じられるかい? できるだけ、実の大きいのをだよ。間違いではなく、大きい実。
「今通ってる道の名前が何て名前だったか知ってるかい? Red Army通りさ。私は町議の一人でもあるから(といったか町長でもあるから、と言ったか失念)、変えたよ。そんな名前、どこが楽しいんだ?
「社会主義が倒れて、資本家は畑を買い漁ったでも畑を維持せずに、手をかけずに値が上がってから転売しようとしたんだだが20年後、手入れされた畑とそうでない土地は価格に15倍の差があるのさ。(ざまあみろ、とは言いませんでしたが、顔にそう書いてありました)」

それはそうと、名生産者にテロワールオタクが多いのは当然のこととして、セプシ氏ほど土に対する本物の愛情と執着を発散する造り手には出会ったことがありません。
そんな彼が畑で、自宅中庭で、マードの土を解説してくれました。
この山はおそらく、St TamasかKiraly。
一旦打ち捨てられた伝統的銘醸畑が、続々と復活されつつある渦中。とてもエキサイティングです。
その模様は、また明日にでも。

2012年5月12日土曜日

ハンガリー報告 その1

先週授業の一環でハンガリーの一大スパークリング・メーカーであるトェルレイTörley、そしてエゲルEger、最後にトカイTokajを訪問。
ここでハンガリー・コースの授業は行われました。

Törleyは驚きの大企業。そもそもここの系列のゲストハウスみたいなところで授業が行われたし、今回のハンガリー特別クラスの主要スポンサーだったと思われます。ハンガリーワイン業界のドンですね…。ディプロマやMWの試験を受ける上では、こういうところの製造工程やらビジネスモデルやら、マーケティング戦略というのは非常に重要なのでしょうが、ワイン愛好家的にはどうも魅力に欠ける…うーん、でも、実際にやってることはシャンパーニュのグランメゾンも紙一重なんでしょうし、そしてそう考えれば逆に深堀りするのも面白いのかも知れませんが、プリンセス的には、どうもピンと来ないので、報告省略。
sparkling factoryの趣。ここでラズロとペピ・シューラーMWは
「グラン・メゾンもトランスファーはやってるだろうけど、絶対見せないよね」と内緒話をしていました: )
 あ、でもここをガイドしてくれた、ハンガリー最初のMWにおそらく今年中になるであろう製造責任者ラズロ・ラムシクスは、ハンガリーのベストセラーだという、なんともつまらない(失礼!)味わいの甘口スパークリングの品種を問われて"・Can be anything. This is not for you wine lovers, but it is business. We must sell, and it sells."と言ってのけました。
ハンガリーって、ある意味オーストリアなんかよりずっとダイナミックなワインビジネスができる可能性があるんだなぁ、と、その言葉に妙にクールに感心してしまったプリンセス…。

そしてエゲルEger。気候や土壌、地勢的に大きな可能性のある場所ですが、ここで感じたのは社会主義時代の50年という時の長さと重さです。
標高500mに達する、斜面上部の真南から軽く南南東の部分。石灰土壌でエゲル最高の区画。
斜面の上部と下部を分ける道にこのマリア像はあります。

斜面下部。より茶色の強い、重めの土になります。
押しも押されぬハンガリーが誇る赤産地のはずなのに、ナギ・エゲッドNagy Egedというエゲルの代表的サイト周辺でさえ、高樹齢の畑が半ば打ち捨てられていたり、訳のわからない仕立をされていたり…。そんな状況を反映するかの如く、出てくるワインのレベルも正直あまり高くありません。ヴィラニーやショプロンの赤の方がむしろ印象的なものが多い。ただしあの辺のワインは、レベルは高くとも重く濃く、プリンセス好みのスタイルは少ないので、実は赤産地として一番冷涼なエゲルに期待していたし、特に(エゲルに限らず)、タンニンの軽い地場品種、カダルカにプリンセス好みのワインがあるのではないか、と楽しみにしていたのですが、今回のハンガリーツアー中に出てきた限り、カダルカは「緻密なのにしなやかでエレガント」というよりは、「緩いのに固い」という、むしろプリンセスの理想とは正反対のものが多かった…。
ホスト・ワイナリーのものより、彼女のワイン(下の写真)の方が素直で良かった。
一番右のオラス・リースリングが、オーストリアとは異なる豊かな味わいを出していました。

ただし、たった1度の、しかもスポンサー付でオーガナイズされた訪問でお宝に巡り合える可能性は限りなく低いし、高標高の石灰土壌――最もポテンシャルの高い畑、であればある程、民主化後に起こったワイナリーの創設の、そのまた後に植樹された樹齢の低い木が大半。そんな状況の今の時点でエゲルの産地としての可能性云々を語るのは大間違い、と理解しています。

最終日はトカイTokaj
最初に訪れたのが製薬ビジネスの成功の後、トカイにワイナリーを築いたというベレシュBeres。さすがに製薬会社の家系だけあり、ワイナリーは清潔そのもの。セラーの溝や樽を寝かす石ころを敷き詰めた部分へのスピッティングも禁止。当然味わいも一昔前の酸化しきったようなトカイとは真逆の、綺麗で素直な完璧モダン・スタイル。Bone dryのSt Tamas 08, 09 (barrel sample)も、残糖のあるSamorodni 08 (barrel sample)も、非常に余韻が長く、MLF後も強靭な酸、そして色とりどりのスパイシーなミネラルが鮮烈で、とても好感が持てます。
ルーチェの畑からベレシュのワイナリーを望む。
明るいテイスティングルーム(ここは戸外ですが)
プリンセスも改めて意識したのですが、トカイはハンガリーで最北の産地オーストリアの貴腐のメッカ、ルストやイルミッツよりむしろ緯度が高い(ほとんどヴァッハウなどドナウ周辺産地と同じ)。※だからオーストリアにいると、ハンガリー=パノニア=熱い、と考えがちですが、トカイやエゲルはちょっと違います。

土壌も多様なようですが、火山性土壌が主体なため、とにかく石ころが多彩で華やか ※そのメカニズムはおわかりいただけますよね。山がひとつ吹っ飛んで、周辺の様々な土、石、動植物…などなどが粉々になったものがあちこちに散らばり、或いは溶岩となって溶けて流れたものと一体化し…それらが冷えて固まり、実に様々なカタチの石ころを形成しているのです。ベレシュの畑で特に珍しかったのは、黒いオニキスのような石です。
色とりどりの火成岩の小石@ルーチェ畑
標高も200m~500m前後、ということで冷涼で気温差の著しく激しい大陸気候に、十分な雨量、そこへ熱い火成岩――この火成岩の中でもユニークなのはTuf(日本的に言えば軽石?)で、非常に水はけがいい――と激しい気温差に対し緩衝的にはたらく二つの川、それらがもたらす湿気…。
という、世界でも類を見ない実に独自な局地気候を持つ産地です。
アスーベリーを2-3週間貯蔵しておくためのタンク。
ワインの神様St Urban。因みにウルバンは現ハンガリー首相の苗字でもあるらしい。
伝統のゼンプリン山脈産オーク樽が整然と並ぶセラー。
オーナー・ファミリーのメリンダと醸造長。
ベレシュを後にし、次に向かったのがトカイの臍マードMad。ここで伝説の生産者、イシュタヴァン・セプシ氏がバスに乗り込み、付近の畑をバスで巡りながらガイドしてくれます。
MWも思わず手もみしてしまう? 生ける伝説、セプシ・イシュトヴァン氏。
では、セプシ報告は、また明日以降に。