2012年8月31日金曜日

トーマス・ハンプソン リートコンサート@グラーフェネック

今年は収穫が早めで、ブルゲンラントからはどんどん収穫を始めたというニュースが入っていますが、プリンセスの住むドナウ一帯では今、着々と収穫の準備をしつつ、去りゆく夏を楽しみ尽くすイベントが目白押し。

29日にはプリンセス、シェーンベアガーのディナーでのショーとは対照的に、実にお行儀の良いというか、非常に文化の香り高いイベントに行って参りました!
和気藹々と日の高いうちから、コンサート前のディナー

ニーダーエスタライヒ州の文化局長パウル
によるお施設と音楽祭についての説明。
白いテーブルが緑に映えます。
トニによるテーブルセッティングは本当に上品

車でゴベルスブルクからほんの15分ほどのグラーフェネック城は、お城の敷地内にコンサートホールや屋外オーディトリアム、レストラン(メーヴァルト)などを擁する、ニーダーエステライヒの誇る一大カルチャー拠点です。
エファとドルリ・ムア。彼女のワインもこの秋から日本にお目見え。
メーヴァルト夫人の手にするのは
リースリング トラディション2010 マグナム

そこで行われる様々なイベントにお城ワイナリーが協賛している関係で、リンツの歌劇場などの創立者らに交じって、お城ワイナリー関係者がコンサートとディナーに招待されました。4席分のご招待、ということで当主夫妻に混ざって私とムア=ファン・デア・ニーポートのドルリもご一緒させていただいた、という訳。



クルミの入ったソースがとても美味しかった蒸豚
何気にデザートは2種(右上と手前)出るのが
スイーツの国オーストリアの基本!
トニの料理(初夏に日本からお城を訪れてくれた皆さん! お昼にコック服を着て腕を振るってくれていて、プリンセスを驚かせたのはこのヒトですよ~!)は相変わらず洗練されていて、とても美味しい。そこで供出されたのは我々が持ち込んだ2010 Riesling Tradition とPinot Noirの両者マグナム。

さて、昨晩のプロはピアノ伴奏だけのリート・コンサート、というプリンセス好みの地味な趣向。しかも前半は大好きなサミュエル・バーバー。日本ではバカのひとつ覚えのように“弦楽のためのアダージョ”ばかり聞かされるような気がしますが、プリンセスがこちらに来て最初に行ったムジークフェラインのコンサートもバーバーのオルガンをフィーチャーした交響曲だったし、こういう洒脱なリートも書いているし、実はとても多彩な作曲家なんですね。

ハンプソンの歌を生で聴くのは初めてですが、前半はむしろ、歌のちょっとユーモラスだったり皮肉な表情に自在に寄り添うピアノのヴォルフラム・リーガーが光っていました。さすがは故フィッシャー・ディスカウら偉大な歌い手の伴奏をしてきたキャリアを持つ人です。
けれど後半のシューマンとなると、やはりドイツリートは十八番なのでしょうか。ハンプソンがどんどん乗ってくるのがわかります。
アンコールになるとさらに声に艶が乗って、観客も大喜び。既に一部の観客が席を立ち始める中「オーストリア人らしくマーラーを歌います」と言って…、済みません、プリンセス曲名までわかりませんが…本当に伸びやかな声を聴かせてくれました。
はい、もちろんスタンディング・オベーションです
そして、コンサート前にたっぷり飲み食いしているにもかかわらず、コンサート後には、更にトニ・メーヴァルトのレストランで、シュペックとチーズ・アソートを肴に、お城ワイナリーのメルロやシュロスハルプトゥルンのピノ・ノワールを楽しみながら、夏の終わりの夜はふけるのでありました。
いやぁ、それにしてもこっちのヒトって体力ありますよね。

今日もフォントがご病気で済みません。シェーンベアガーの〆も忘れてません。週末に落とし前つけますので、お楽しみに。

2012年8月28日火曜日

シェーンベアガー創立20周年記念イベント その3 ディナー@Andrea Casarda

のっけからイキナリ物凄い写真で恐縮です : )
そうなんです、そういうディナーだったんですよ…って、いえいえ(…と、書きながらも狼狽するプリンセス)…

最初は粛々と始まりました。ギュンターの挨拶、ビュッフェスタイルの前菜とワイン…。
ノイジードラーゼー名物葦で葺いた屋根が牧歌的なレストランで行われました。
南(=左側)にあと数百メートルでハンガリー

右奥のアヒルのフォアグラに左手間のフルーツソースが美味

ギュンターを支えてきた家族達。イベント中も大忙し。
前菜もそろそろ食べ終わろうか、という頃、家族紹介があり、しつらえられた小さなステージで寸劇というか、クラシック軽音楽のようなピアノ伴奏で夫婦を演じる男女が歌います。Kabarettとでも言うんでしょうか?

実はプリンセス、ステージにエレピが置いてあるのを最初から見逃しませんでした。ひょっとして、20年プロのサックス奏者だったギュンターの演奏が聴けるのでは? …という期待が高まります。
…でも、3人の歌う音楽は、ゼーンゼン趣が違うし、第一、クラシック音楽の本場オーストリアとしてはちょっといただけないハモり具合。音楽プロパーのプロとしては悪いけれど失格!

…残念ながらプリンセスには歌詞が一部しか理解できないのですが、ときどき笑いをとっています。そして模様眺めをしていると、どんどん様子が際どくなって行きます。喘ぐ、腰を振る、…もうプリンセスにも言葉は必要ありません : )。


この叔父さんの歌はなかなか味がありました
船の上では「あれだけよく飲んでいるにしては実にお上品」と感心していたゲスト達ですが、考えてみればもうこの時点で6時間余り、途中1時間ほどの休憩をおいて飲みっぱなし。そろそろ理性が麻痺状態に突入しているのか、舞台がお下劣になればなるほどドッと大きく客席も沸く。


ハイネやゲーテの詩が替え歌になっていたり、政治ネタもあったりと、意外に文化度高し。
そして休憩を挟んで、メインはシェーンベアガーのシンボルであるアヒル当然ブラウフレンキッシュがすすみます。因みにプリンセスがこの辺りでどのくらい酔っ払っていたかというと、同席したアイゼンシュタットから来たグループと堂々流暢な : ) ドイツ語で会話を楽しめるくらい (=危険信号)!

ブドウの実の沢山入ったシュトゥルードゥル

メインがサーヴされると、さっきまでビュッフェの料理が並べられていたテーブルに、今度はシェーンベアガーのオールドヴィンテージやら、ディナー開始後にポツポツと集まってきた親交の深い生産者のワインが並びます。こちらは最初はセルフサービスでした。

まずピノ・ノワール97を飲んでいると、エルマーに「そんな小さなグラスで飲んでちゃダメだ。バーカウンターで大きいのをもらっておいで」と言われ、その通りにすると、しっかりワインをたっぷり注ぎ直されます。長男ヤーコブも大分ワインが回ってきているのか、「君はこれも飲まなくちゃ」「次はこれ」と、プリンセスに選ぶ余地も与えず、その大きなグラスに次々にナミナミとワインを注いでくれます。

そんな訳で、もうただの酔っ払いに成り下がっていたプリンセスではありますが、ちゃんとここに来た問題意識だけは持ち続けていました。
ブラウフレンキッシュ レームグルーベ 97は、熟成して確かに円やかにはなっていますが、取材時に「せっかくのいい果実味を殺している」と思った重いタンニンは健在です。「赤はやっぱり最近の方がいい」と再確認。

一方で白は2000年のグリューナーが美味しいのにビックリ! 実はプリンセス、新樽のタップリかかったグリューナーにも殆ど興味がありませんでした。というより、むしろアンチと言ってよかったでしょう。ところがこのGVは、12年を経た今でも、新樽の痕跡はしっかりありますが、それが見事に果実味&ミネラルに溶け込み、磨き込まれた本当に素晴らしいワインになっています。
「こんなに樽がかかっているのに、こんなに美味しいってどういうこと?」…と、プリンセス、酔いの回った頭でぼんやりと考えていました。そしてまた、このグリューナーが「あるワインに似ている」と、「それが何だったか」と、やはりピンク色に染まった脳みそで幸せな思考を巡らせていました。

---とその時、プリンセスは思わぬヒトと出くわします。ヒント:そのヒトは実はこれまでの写真に登場しています。
…to be continued

シェーンベアガー創立20周年記念イベント その2@ノイジードラーゼー テイスティング・クルーズ

シェーンベアガー創立20周年イベントの第一部は、テイスティング・クルーズ
2時間あまりかけて、ノイジードラーゼーをゆっくり一周します。
この船に乗り込んで2時間余りのクルーズ
波止場を後にしたところ
その間、一家の庭や畑で獲れたフルーツやナッツ、骨付き足1本のハムにパン、そして勿論ワイン、ビールが飲み放題! しかもワインはカレント・ヴィンテージ全種(20種近い)を、何杯でもお代わり可


家族4人でサービスに大忙し。
語りはご挨拶のみ。ワインについての細かい説明などは一切なし。

何せ周囲は家族、仲間同士かカップル。単独参加のプリンセスは最初ちょっと寂しい思いをしましたが、天気はいいし、ワインは美味しいし、私をバス停まで迎えに来てくれた、ギュンターの親友エルマーと、彼が何度も仕事で訪れた池袋の話で盛り上がり…本当に気持ちのいい時間を過ごしました。
メアビッシュ名物の肉粒を練りこんだパン。
畑のブドウ、洋ナシ、奥がマンデル
マンデル=アーモンドの生。食べたことありますか?
こうして殻と皮を剥いて食べます。上質の杏仁豆
腐やマジパンが持つ、魅惑的な香りが口中に。
ただ、ひとつだけ困ったことが…
業界向けイベントと異なり、ここには吐器がありません皆どんどん豪快にお気に入りのワインを楽しそうに空けて行く中、予備のグラスをひとつもらってペッペと吐き出す、などという不調法は憚られます。
プリンセス、それでも当然全種試したい訳ですが、いくら「ほんの少し」と言っても、普通のテイスティング量の2倍以上は注がれますから、全種制覇してしまったら、ディナーの前に立てなくなることは必須。そこで、白はスタンダードなキュヴェと、取材時に良かったブルゴーニュ系に狙いを定め、赤のプレミアム・クラスはディナーでのお楽しみとし、クラシッククラスからを試すことにしました。この作戦、実はディナーに現行ヴィンテージはクラシック・クラスしか出されず、裏目に出ることにります。
シュタイヤーマーク産ハムに西洋ワサビを
たっぷり添えて。実に美味。
最初は自動的に注がれたグリューナー。面白いことにこの辺りのGVは全然スパイシーでもペパリーでもない。個性がなくてつまらないとも言えますが、こういう暑い日、戸外で冷やしたのを出されると、思わずゴクっと一息に飲んでしまいます。美味しい!
ピノ・ブランは前回の取材同様、ミネラルがキリっとしていながらカリカリ硬いところは全くなく、「ああライタベアクの味だな」と、プリーラーあたりとの共通点を感じていました。とても魅力的です。シャルドネも、ピノ・ブランより一歩ブライトで、一歩ストラクチャーも大きく、オーストリアならではのシャルドネに仕上がっていました。これもなかなかいい

赤に移って、ハムを食べながらブルゲンラント・ロートのツヴァイゲルトからブラウフレンキッシュ、ブラウフレンキッシュ クラシーク、ブラウフレンキッシュ クレーフテン、と試して行きました。普通一番ベーシックな赤は、ツヴァイゲルトの方が飲めたりする場合が多いのですが、ここのベーシック・クラスのブルゲンラント・ロート ブラウフレンキッシュは、攻撃的なところの一切ない、なかなか包容力のある味わい。けれどクラシックには、ブルゲンラント・ロートにはない、官能的で複雑な風味が混ざり、余韻も長い。格の差を見せつけます。

そして船を下りる直前に単一畑であるBFクレーフテンを所望。やはりVieVinumで感じた通り、果実味を覆い隠すような過剰で重いタンニンはなくキチっとミネラル感もあるので、味わいがダレません。このワイナリーの赤は、fine tunedという感じとは正反対の、よく言えばナチュラル、悪く言えばちょっと風味に垢抜けないところがあります。全赤ワインに共通する、フィニッシュに出る蒸した小豆のようなニュアンスが、そう感じさせるのでしょう。このほかほかしたニュアンスが大好き、というヒトも結構多いはず。所謂ビオ臭と称される不快な還元香では全くありません。


帰りはキャナルを通って。周辺は公園のようになっています。
なんだかんだ言って、クルーズ中にほぼ1本くらいのワインを体に入れてしまいました : )
西に傾いた陽を浴びて、プリンセスがとっても幸せな気持ちになっていたのは言うまでもありません。
これまでも数回ルスト=イルミッツ間のクルーズを経験しているプリンセスですが、細長いノイジードル湖を東西に突っ切るだけより、メアビッシュ発着でグルリ一周の方が、沢山ワインも飲めるし、景色も多彩に変わるし、より楽しいことを発見。
三々五々船を降りる参加客。
飲み放題でも騒いだり、乱れるヒトが皆無なのは立派。
さて、明日は船を降りて町に戻り、小一時間後に始まったディナーの様子です。

2012年8月26日日曜日

シェーンベアガー創立20周年記念イベント その1@遠出の訳

さて、グチもこの辺にして : )

昨日土曜は、Weingut Schönbergerシェーンベアカーの20周年記念祝イベントにお呼ばれし、はるばるノイジードラー西岸をルストよりさらに南、ハンガリーから数百メートル、というところまで行って参りました。
シェーンベルガーは、元プロ ロック・サックス奏者にして音楽教師のギュンターとミカエラ夫妻が、Mörbischメアビッシュで営むビオディナミ(デメター認証)のワイナリーです。
さすが元シアトリカル・ロックバンドの
プロ・サックス奏者。絵になります。
車があれば別ですが、公共交通機関だと接続が順調でも3時間半、下手をするを5時間近くかかる距離。当然宿を取って行く必要があります(ここからだとウィーンでちゃんとした夕食を摂っても必ず泊まりとなります、トホホ)。
なので最後まで行くか行くまいか迷っていたのですが、背中を押した理由は以下の2つ。

1)スタイルの変化
今年5月末のVieVinumで試飲した彼のワインには、3年半前、拙著執筆のための取材の際とは、明らかな変化が認められたこと。
VieVinum時のブログにも記しましたが、タンニンがより軽く円やかでエレガントなスタイルへ、という方向は9年前からプリンセスが待ち望んでいたこと。取材時に「この重苦しいタンニンさえなければ、いい果実味なのになぁ…」と残念に思っていたプリンセスは、この変化を大変好ましく思う一方で、あまりに多くのワイナリーが、振り子が逆に振れたかのように一斉にこの方向に向かっているのを、多少怪訝にも感じていました。それで、実際に何を変えたのか、どうして変えたのか、などなどその背景について、生産者に直接色々聞きたかったのです。

2)汎ライタベアク・キャラクター
オーストリアの赤、と言えばブラウフレンキッシュ、ブラウフレンキッシュと言えばミッテルブルゲンラント、というのがこの国の常識。ではあるのですが、プリンセスは最初にオーストリアの土を踏んだそのときから、本場ミッテルブルゲンラントの赤は、少数の例外(モリッツのネッケンマークトやルッツマンスブルク、ゲゼルマン、イビー、シルヴィア・ハインリッヒなど)を除いて、質はともかく趣味の問題として、特にホリチョン近辺のワインは、重く垢抜けないスタイルが苦手でした。有機やビオディナミ採用と新樽比率の低下により、ヴェーニンガーのワインにしなやかさと鮮度感が出て、イビーにも更にエネルギー感が増し、セメシュなどトラディショナルでナチュラルなスタイルの造り手も見えてきた今でも、プリンセスの赤一番の関心事は、シュピッツァーベアクやアイセンベアク、ライタベアク…(おお、見事にbergばかり!!)、と言った、むしろ周縁の、エレガントなブラウフレンキッシュです。
中でもライタベアクは、その白(特にピノブランとGVの古木)の質の高さやお値頃感、それから、厳密にはライタベアクには含まれないけれども土壌(貝殻石灰 on シスト)や中気候(特に山から吹き降ろす冷たい風)に、その影響を非常に強く受ける“汎ライタベアク”とでも呼ぶべき地帯でできるブラウフレンキッシュ(i.e., ETのマリーエンタール、オーベレアヴァルト、ヴェンツツェルのバントクレーフテン、プリーラーのゴルトベアク辺り)こそ、力と繊細さを兼ね備えた世界トップレベルの赤を造れる最高のポテンシャルを持つのではないか、と常々思っているなど、とても興味深い産地。で、このメアビッシュという土地も、その汎ライタベアクに被るのでは、と思われたからです。※ライタゲビアゲからかなり距離があるにも関わらず、ルストと異なり、メアビッシュは法制上もライタベアグの範囲内です。

さて、例によってÖBBのサイトの乗り換え時間通りには走ってくれない週末のオーストリアの交通事情。4時間ちょっとの時間を費やしてたどり着いたメアビッシュは、ルストに負けず劣らず、いやルストよりも更に魅力的な瀟洒なリゾート・タウンの趣でした。










ドイツ語で案内を受けたプリンセス、実はこの行事を業界向けイベントだとハナから思っていたのですが、参加してみれば、これは根っからの一般顧客向け! 一人で参加しているヒトなど誰もいません…(涙)
けれどその分、ちょっと凹んでいたプリンセスの気分転換にはもって来いの楽しさでした!

と言う訳で、これから3回に分けて、イベントと翌朝のお宅再訪問の様子をお伝えします。
明日はまず、ノイジードラーゼーの遊覧船での2時間に及ぶテイスティング・クルーズの模様から。