2012年10月30日火曜日

収穫期に雨・雪が降ると…?

プリンセス、こちらに来る前の10年近く、ワインスクールで教えていました。そしてしつこいくらい、「収穫期に雨が降ると一年の苦労が台無し」みたいなことを話していました。

ですから昨年、はじめてワイナリーを経営する家族やケラーマイスターと毎日一緒に食事をするような生活を体験した際には、収穫が始まってから2日以上雨が続くと、なんとなく周囲の心情を慮ってしまい、「この雨の影響は?」などという心無い(と勝手に自分で思い込んでいた)質問を敢えて家の中でする勇気は出ませんでした。

ところが、2年目の今年は、当主ミッヒとケラーマイスターのカーナーさんの会話や、最初は冗談でなくスロヴァキア語かと思ったキツイ方言での従業員同士の会話も、なんとなくニュアンスが理解できるようになってきました。
そうすると、雨が3日続こうが、雪が降ろうが、誰も全く慌てていないことがわかります。ゼーンゼンピリピリもしていません。5月に遅霜が降った朝の、ミッヒの本当に深刻な表情とは対照的に(いつもクールでポーカーフェイスのミッヒにしてのあの表情…、プリンセスは一生忘れることができないでしょう)

どうやら、水捌けの良すぎる原成岩土壌の多いこの辺りでは、雨によって実が膨らんで破裂する、などの害はないし、温度が低すぎて、雨が病害の促進要因になることも、プリンセスの毎日の観察からは、ほとんどないようなのです。

そんな訳で、今年はミッヒとケラーマイスターのカーナーさんの同席する昼食のテーブルで、堂々と聞いてみました。
プリンセス: 収穫期の雨は、もうここまで温度が下がっていれば、問題ないみたいね?
ミッヒ: ああ、問題ないよ。ブドウに雨が大敵なのは、温度が高いうちだ。
P: 昨日は結構な雪だったけれど、氷点下になっても品質に影響はないの?
カーナー: 全然大丈夫。そりゃマイナス20度以下になったら木が危ないし、果汁の凍るような温度(プリンセス注:零下7,8度以下)になったりすれば別だよ。

なるほど。
この辺り、ブドウの糖度が完熟に達するや否や摘んでしまわないと、酸が急降下する温暖産地や、秋が深まると雨が増え、しかも収穫期にまだまだ雑菌類の繁殖できる温度である仏のボルドーやブルゴーニュなど、ワインを扱う人間の多くが“基準”にして考えている産地とも、大きく状況が異なるところです。
そして、この雨が降っても雪が降っても『待てる』という状況こそが、ひとつの畑から、ユングヴァイン(ホイリガー、ユンカーなどの若飲ワイン)、軽快なDAC(≒フェーダーシュピール程度の糖度)、重厚なDACリザーヴ(≒スマラクトレベル)、アウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼ、TBA、アイスヴァイン…と、多様な、北国ならではのワインを造ることを可能にしています。もっと言うなら、この『待つ』行為こそが、北のワイン特有の軽やかなのに深い風味を決定付けている、と言っていいでしょう。
エラちゃんは当然雪なんかモノともしません:)
では、雨や雪が続くと一番困るのは誰でしょう? …収穫する人間です。零下で雪の降る中収穫を決行したなら、労働者は皆大風邪をひいてしまいます。
一方ワイナリーにしても、あまり遅くまで発酵を始められないと、新酒信仰のあるこの国で、それぞれの格におけるリリースの時期に出遅れることは、市場での結構な痛手を意味します。
また、収穫期が長引けば、食事や住居(当然ガス代や電気代、水道費などもかかる)を出稼ぎ労働者に提供しているワイナリーの負担もジワジワと増えて行きます。
さらに、出稼ぎ労働者の労働期間は定められており、11月半ば以降は続々とお国に帰ってしまいますから、摘み手が足りない、という事態を招きます。

けれど、やはり一番被害を受けるのは、末端出稼ぎ労働者。宇宙語としか思えなかった、彼らとお城ワイナリー労務担当者とのやり取りを聞きかじる限り、どうやら収穫のない日には、他に庭仕事などの代替労働がない限り、日当は払われていない模様だからです。
今日は霜の害の酷かったシュタインセッツのGVが収穫できました。
今日は雪も止み、シュタインセッツ畑のグリューナーを収穫。明日は泣く子も黙るハイリゲンシュタインのリースリングを予定しています。
勿論、プリンセスも収穫に参加の予定です!

2012年10月28日日曜日

ローラント・フェリヒ“モリッツ”――クオリティーの秘密に迫る その6 セラー大公開

ブルゲンラントというのは、よく言われることですが、オーストリア中で最も貧しい地域だと。ネッケンマークトもそんな、いかにもミッテルブルゲンラントの寒村、という感じの何の変哲もない小さな村です。畑のある高台から村落に降り、小川の近くで車を降りました。

普通、ワイナリーに入るときには、その門構えやらロゴの入ったサインやら、建物の意匠やら…、何かこう「よしよし、私はこのワイナリーに来たぞ! 入るぞ!」という感慨というか、趣味の確認のようなものをしてから、テイスティング・ルームに通されるなり、歴史のあるワイナリーであれば地下セラーに降りたりするものなのですが、ここではその手の儀式が一切なし! …いきなり下の写真の物置場に入っていた、という感じです。
ローラントは「ここには普通、ヒトは連れて来ないんだ」と、一言。
プリンセスジーンとしました。「とっても光栄に思います。ありがとう。」
すると彼は「いや、光栄でもなんでもないよ。ここには別に特別なものは何もないから。
確かに…。

お城ワイナリーのオフィス一室の半分くらいの掘立小屋が二つ。その中に所狭しとプラスティック桶と木製開放桶が並んでいるだけです。
ハイテク機材もなければ、2基しかないステンレスタンクも全然ピカピカでないは、冷却用ジャケットはついてないは、発酵用木桶の温度計は壊れているし、桶の見栄えをよくするための手入れなどは一切されていない模様です。

2012年はドナウ周辺やヴァインフィアテルでは霜、他の産地でも雹で随分被害を受けているのですが、モリッツの畑については昨年一昨年の方が自然被害は多く、今年は量的に十分満足行く出来、と本人が笑顔で言っていたのが、ここに来るとよくわかります。発酵容器のキャパが一杯一杯で、小樽の蓋を取り払って発酵容器に転用しているものまであるのですから。
さて、ステンレスタンクが二基ぽつねんと立っている部屋を通り抜けて、木製発酵桶のズラリと並ぶ部屋へ。
こうした木製発酵桶は、そのまま熟成用にも使えて、
スペースの限られたローラントのセラーではその意味でも重宝だそう
気になる桶をまずチェック
一番右の桶の様子が気になるようで、セラーに入るとすぐに様子を見、アシスタントにエクスレ度を確認。試飲をします。プリンセスもご相伴に預かりましたが、まだ少し甘さが残っています。モリッツのシュトゥルムを飲んだのは、世界広しと言えども、ワインメーカー以外あまりいないでしょう : ) 
…勿論美味しいですが、正直、この状態の赤ちゃんワインの、どこをどう味わったらいいのか、プリンセスにはよくわかりませんなので、ローラントに何をチェックしているのか尋ねてみました。
果実風味とタンニンのストラクチャー、だそうです。…なんだ、完成したワインと変わりないじゃん…。(いえいえ、発酵の段階に応じての変化などを日々トラッキングし、ピジュアージュやプレスの加減について考えているのは、聞くまでもありません)
既に発酵の終わったルッツマンスブルクの複数畑からの果汁も味わいます。そして先程下から眺めたホッホベアク辺りの、これも既に発酵の終わった果汁…。
いやぁ、驚き! 収穫からほんの2-3週間で、ちゃんとネッケンマークトはネッケンマークトのハーバルで凛としたルッツマンスブルクはさすがに官能的とまでは行きませんが、でも濃いベリーとビロードのようなテクスチャーの片鱗がしっかり出ています!!!!!
よくある、マロ前には飲めたものではない赤ワイン…あれは一体何なのでしょう? : ) まあ、果皮のマセレーションがまだ進んでいない段階だからこそ、却って飲みやすい、ということも考えられますが…。
木桶の果汁の方がプラスティクヴァットの果汁より格上と思いがちですが、
おそらく事実は逆である可能性が高い…。
常識的に考えれば、収穫の早いこれらはブルゲンラントか、せいぜいリザーヴにブレンドされるクラスでしょう…。それじゃ、アルテレーベンは? …と考えながら林立する桶を眺めれば、各桶に畑の名前が書いてあります。単一のもの、複数のもの…。
その時、プリンセスはハタと、この素っ気ない作業場こそローラントのカンバスなのだということに気づいたのです。
と同時に、自分がネッケンマークト、ルッツマンスブルク、そしてツァーガースドーフの全ての畑名とその特徴について、ほとんど知識らしい知識を持ち合わせていないことを、ここで心から悔いました。


「ここには何もない」だなんてとんでもない!

どの区画とどの区画をどうブレンドして、どの大きさの桶で発酵させ、各桶をどのくらいの頻度と長さでパンチダウンをし、どれをそのまま木桶で熟成し、どのバッチを小樽にいつ移し変えるのか…。収穫から全てのバッチのプレスを終えてワインが熟成過程に入るのを見届けるまで、ローラントは毎日ここにやってきて、こうして自らパンチダウンをし、果皮の感触を確かめ、試飲をし、ブレンドと熟成の設計図を頭に描いている訳です。
こちらが発酵の盛んな状態。どんどん果帽が上がってきます。
こちらがほぼ発酵の収量した状態。果皮は萎んでいます。
かつてプリンセスは「偉大なワインは頭の中から」と書きました。そして今、その頭の中を見せてもらっているのです…。プリンセスはモリッツ アルテ・レーベンの母胎の中に今自分が居合わせている幸せと重さに圧倒されていました。ワイナリーを出てから気付いたのですが、入り込む余り、メモを取ることすら忘れていました(泣)…。
こうして手作業をすれば、フットストンピングとほぼ同じで、加減を手に感じることができます。
そして自分が、いい歳をして遥々オーストリアにまでやって来て、一体何がしたかったのか、改めて意識し直しました。
プリンセスは、なかなか見せては貰えない「偉大なワインメーカーの頭の中」を身近で覗くチャンスが欲しかったのです。そして、何か小さなきっかけからでも、ワインメーカーの頭の中と自分の頭の中をシンクロさせて、その様子を書き手として皆さんにお伝えしたかったのです。別の言い方をすれば、オーストリアの偉大なワインメーカーのプロファイリングがしてみたかった : )のです。
発酵が盛んな時期にはかなりの重労働。若い男性でも、そう続けてできるものではありません。
そのための共通言語として、自分のモノにしておかねばならないこと(歴史、文化、言語、各地方のワイン造り、栽培農家の現状、各畑の特徴…)の多さと深さを垣間見て、ちょっとイッパイイッパイのプリンセス…。
けれど、こういう本質的な問題に思い至らせてくれるセラーや生産者は、そんなに多くはありません。
巡り会えた幸運に心から感謝します。今一度、ありがとう、ローラント!!

それにしても、偉大なワインは、偉大な畑と偉大なイメージによって造られるものであり、大仰な設備から生まれるものではないことが、はっきり証明されていて、痛快ですね!

2012年10月27日土曜日

ローラント・フェリヒ“モリッツ”――クオリティーの秘密に迫る その5 ネッケンマークトの土壌と古木畑

ローラント・フェリヒの自宅でのテイスティング中、外は変わらず大雨。しかも、前回の訪問時は、なんと大雪で畑が見られなかったのでした(泣)…

遥々遠出をして、あんまりな悪天候に2度も祟られたプリンセスを可愛そうに思ったのか、昼食前にローラントは「午後に自分もセラーに行かなくちゃならないから、一緒に連れて行くよ」と約束してくれました。ありがとう、ローラント! セラーを見せる、と言ってくれたのは初めて

食事の後、ローラントとハネスがテラスで話込んでいる間、ダグマーと私はシューベルト談義。彼女がブレンデルのコンサートを聴いて感激した、という即興曲の4番の楽譜を前に二人でピアノで遊んでいると…ローラントがピアノに寄って来て、私に「何か一曲弾いてくれないかい?」と所望。
はて、楽譜無しで通しで弾ける曲も限られているし…と天を仰ぐと…気が付けばドシャ降りだった雨脚が、随分弱まっているではありませんか!

プリンセスの下手糞なピアノどころではありません。今すぐ畑に連れてって!! と、プリンセス反射的に叫んでしまいました : )

本当だ。じゃあすぐに支度をして、セラーに行く前に畑をざっと巡るとしよう。 と、ローラント。
…ということで、プリンセスって本当にラッキー。セラーのみならず、これなら畑も見られそうです。

グロースヘーフラインからネッケンマークトまでは、ハンガリーのショプロンという町を突っ切って、直線距離で30km弱、といったところでしょうか。ドライブしながらローラントは、この辺りはドイツ語を話す集落が多かったため、社会主義政権下に彼らのほとんどがドイツなど国外に逃れ、ブドウ栽培だけではなく生活風俗全般が、ほぼ根こそぎに途絶えてしまった経緯を語ってくれました。確かに、町中では時間が止まったような、そして町を出るとかなり荒廃した印象を受けました。

ネッケンマークトに入ると、まず雨脚の弱いうちに、1950年代半ばに植えられたという、プリンセスより年上の、正真正銘アルテ・レーベンの畑のてっぺんで車を降ろしてもらいます。
これがアラフィフ+樹齢のブラウフレンキッシュ :)
畑の石を拾ってみれば、所謂雲母がキラキラ光るミカシストで、沢山の鉄のシミのようなものがついています。そうした石が風化した土は、雨の中でも決して重くならず、サラサラしています。
石英の混ざったシスト
ミカシスト。キラキラ光っているのがわかりますね。右下に鉄の斑点も見えます。
左手にドイチュクロイツ、右手にネッケンマークトの町がそれほど大きな距離差なしに望める、ということは、ネッケンマークトのかなり東側に居ることがわかります。
ただ、この辺りの畑名は、正直プリンセスもあまりよく知りませんし、全くと言っていいほど頭に位置関係も入っていません。けれど、感覚としては、ブルゴーニュ的緩斜面が、よりピエモンテ的に東西南北あらゆるアングルに広がっている、とでも表現しましょうか。
かつては畝と畝の間にもう一列植えられていましたが、
トラクター作業のため、引き抜かれています。よくある光景…。
そんな緩斜面の下を走る道を通りながら、ローラントが説明してくれます。

「わかるかい? 道路に近い斜面の一番下の平坦な部分は葉がまだ緑色だろう? 土が肥沃なんだ。その部分は全てBurgenlandの果実になる。他に、植え替えた樹齢の若いブドウもね。で、斜面になった部分の古木がReserve上の方の、葉が黄色に色づいている辺りの古木がAlte Rebenになるんだ。」
な、なんと…。プリンセスの見るところ、斜面下部から一番上まで、せいぜい直線距離で150mくらい。高度差にして15メートルないでしょう。
これだけの距離の斜面を3クラスに分けていたとは…
つまり、言ってみれば、ローラントは始めからグランクリュの区画しか入手していないのです。で、その古木の植えられたひとつのグランクリュの畑を、更に、Burgenland, Reserve, Alte Rebenへと3分している訳です。それもClos de Vougeotのようなバカデカい畑を指しているのではありません。写真でわかるでしょう? 例えば、そうですね、Le Chambertinを三分しているような感覚です。

ああ、これだから、昼食に出されたあの03 Burgenlandのポテンシャルの高さも当たり前だな、とプリンセスは思いました。まして、あの頃はReserveラインがありませんから、斜面のかなりの部分まで、Burgenlandのブドウになっていた筈なのです。

そして、ローラント曰くネッケンマークトの土壌がよくわかる露頭を通り抜けます。
ミッテルブルゲンラントと言えば、ホリチョンの重めの粘土質ロームを思い浮かべるのですが、ローラントがネッケンマークトの土壌として最初に挙げるのは原成岩。とは言うものの、ドナウ近辺の原成岩はボヘミア山塊のものですが、こちらはアルプス山脈の東端。
原成岩の風化した様子がよくわかります。
その露頭を観察する限り、ドナウ周辺の土より、ずっと風化されて細かい砂状になったモノが堆積している部分が多く、その砂状部分は見るからに石灰を多く含み、それも白い貝殻石灰ではなく、かなり鉄分の多い赤茶色っぽい石灰です。
こちらはもう少し岩そのものがよく見えますね。
ローラントが見せてくれた別の露頭は、車を降りた畑よりかなり石灰の多い土…これは更に鉄分の多そうな…でもこれも重い土には見えません。
ここは鉄分の多い石灰を含む砂、に見えます。
帰りがけ、ワイナリーから最寄駅に向かう途中、重い土壌の多いホリチョンとネッケンマークトとの近さに改めて驚きましたが、どうやらドイチュクロイツとホリチョンを結ぶ道の南北と、ネッケンマークトとホリチョンを貫く道路の東西で、土の重さや土壌構成に、かなりの違いがあるようなのです。それが連続的な変化なのか、どこかに重い土と軽い土を分ける一線が存在するのか、その辺りをクリアにするためには、もう少し下調べをした上で、再び現地を訪ねる必要がありそうです。

けれど、こうして畑をざざっとでも本人の説明を受けながら駆け抜けてみるだけでもローラントの畑選びの基準と、ネッケンマークト アルテ・レーベンの、あの威厳の意味が、明瞭にプリンセスの頭に描かれ、クッキリと舌に刻み込まれま
また、アルテ・レーベンの前に出されたライディングの味わいが、ネッケンマークト アルテ・レーベンとかなり異なっていた理由も、しっかりと腑に落ちることとなったのです。

そして車は緩やかな坂道を下り、ネッケンマークトの町中を流れる小川、ゴルトバッハ沿いの、クール&スタイリッシュな現代建築とも、お城や修道院の気品や格調とも、古い農家の鄙びた素朴な暖かさとも無縁な、あまりに素っ気ない町工場の作業場のようなモルタル掘立小屋風情の建物の前に止まります。
to be continued.

2012年10月23日火曜日

ローラント・フェリヒ“モリッツ”――クオリティーの秘密に迫る その4 メチャ旨 ホームメイドパスタと驚きの03

ローラントの奥さんダグマーは、コケティッシュな魅力に溢れる楽しい女性。今ではプリンセスとはちょっとしたピアノ弾き友達です。
フェリッヒさんちの昼食風景
そんな彼女が忙しい合間に作ってくれた昼食は、ホームメイド・パスタのホームメイド トマトソース和え。トマトも自家製なら、ソースに風味を出すためにコマ切れにして入れてあるソーセージも実家フェリッヒさんちの自家製。
プリンセス、こういうシンプルだけれど旨味の詰まった料理が、涙が出るほど大好きです! しかも素材までオール自家製…これこそ最高の贅沢というものです!
この日はシューベルトのimpromptuで盛り上がりました。
そして、美味しいパスタと一緒に供されたワインは…。
「せっかくだからブラインドにしてみようか?」とローラント。

パスタですから、イタリアン? とも思いましたが、このダークベリー風味とタンニンのテクスチャーからして、ブラウフレンキッシュであることに間違いはないでしょう。
柔らかなタンニンはモリッツのもの。
かなり熟成しています。けれど、まだまだフレッシュで、とっても豊かな暖かい果実味。旨味一杯でめちゃくちゃ美味しい。
トマトにはもう少し酸が欲しいような気もするけれど、野趣溢れるソーセージからの旨味には、このワインのちょっと甘やかな風味がとても合います。
パスタもソースも、ソースに入ったソーセジも全て自家製! 美味しい!
Princess: あなたのワインですね?
Roland: Yes
P: 暖かい年ですね?
Roland: Yes

ここでプリンセス、06かそれ以前かで迷いました。06以前の暖かい年と言えば03。いや、まだ果実味が生き生きしているので、10年近くは行き過ぎでしょう――と思いました。また、クラスとしてはReserveと言いたかったのですが、その頃はまだReserveラインはなかったはずです…。いやでもAlte Rebenとしてはちょっと緩い感じがします。ただ、正直のところBurgenlandにこのレベルの熟成感は出せないだろう、とも思いました。難しいなぁ…。

P: 2006…うーん、Lutzmannsburg?
R: 答えは2003のBurgenland Blaufränkisch
P: ええ? こんなに若々しいんですか? 恐るべき熟成能力ですね!
R: うん、丁度パスタに合うかな、と思ってね。
まだ瑞々しい果実味溢れる BF 03。恐れ入りました。
いえいえ、これジビエとかにも十分行けます。
プリンセス、常々ブルゲンラントBFは、リリース直後は果実味が生々し過ぎるので、もう少し樽熟期間を長くした方がいいのでは?、と思っているのですが、この03はそれを証明してくれたかも
ベーシック・ワインとしては驚くべきポテンシャルです。若くして果実味を味わうのも悪くないけれど、プリンセスはこうしてしっかり熟成させて楽しむことを、断然お勧めしたい。

ローラントのピアノの腕前は…
この絵からなんとなく想像がつきますね : )
何故ベーシックなブルゲンラント ブラウフレンキッシュがここまで素晴らしい熟成ポテンシャルを持っているのか…。その理由は畑を見れば一目瞭然でした。
to be continued.

2012年10月21日日曜日

ロージー・シュスター ”正調"ザンクト・ラウレント

テイスティングを始めた頃、ローラントに電話が入りました。「今、日本のワインジャーナリストとテイスティングをしているけど、一緒にどうだい? OK? だったら、君のStラウレントも持ってこいよ」と言っています。
そして、丁度ブラウフレンキッシュ レゼアヴェを味わっているとき、ハネス・シュスターが到着。一緒にアルテ・レーベンを味わいました。
カメラを向けると目をそむけてしまうシャイな二人
そしてプロジェクトの主二人とともに
Blaufränkisch Jagini ヤギーニ Zagersdorf ツァーガースドーフ 2011 barrel sampleを味わいます。
南西向きの畑。砂がちな石灰土壌の古木より。1500~1700lの大樽で発酵熟成。未ブレンドの状態。
ノーズに、今までの赤にはない、鉛筆の芯のような香りと、ベーコンの脂のようなニュアンス。
口中でスミレやバラのフローラル、そしてリコリス風味。軽やかで弾けるスパイスと、ブライトでパワフルな果実。軽やかなタンニンと長い余韻はいかにもモリッツだけれど、ワインの性格としては、今日味わった他の赤よりは白St Georgenを思わせる…、石灰とシストの個性が拮抗するライタベアクの個性を強く感じます。
素晴らしいワインなのですが、二つのアルテ・レーベンの後に持ってくると多少印象が弱まってしまうかな?

さて、ひと通りモリッツのワインの試飲を終えると、ローラントは「じゃ、お昼の支度を手伝って来るから」といなくなってしまいます。

プリンセスは拙著の取材の際、ですから2009年の春、このハネス・シュスターにやはりここ、ローラントの自宅で会っていますが、彼のワインをキチっと意識して味わうのは初めて。
持ってきてくれたのは2本のザンクト・ラウレントです。
彼によれば、ザンクト・ラウレントというのは「テロワールをワインに移しこむことのできる、貴重な地場品種で、しかも冷涼気候の赤を造れる数少ない品種のひとつ」だそう。

最初に味わうのは、St. Laurent Burgenland 2010
父親が引き抜こうとしているのを思いとどまらせた40年以上の古木より。土壌は様々。通常10%の新樽。
外観は明るめのルビーガーネット。ノーズにまた鉛筆の芯(…これってツァーガースドーフの持ち味?)と墨のようなモノクロームな印象。軽やかな、品のいい赤い果実味が端正。長い余韻。とってもピノ的
…とプリンセスが言うと、ハネスは「ピノ的なのは2010年だけで、むしろ普通は北ローヌに近い持ち味」と解説。
ところで2010年という年は、花振るいは起こるは、収穫期に雨が多かったは…で、畑での非常に厳しい選果が必要で、一日の収穫量が通年の4~5分の1という恐ろしく労力のかかった年だそう。

素晴らしくピュアでコンパクトな、プリンセス好みのザンクト・ラウレントです。
そしてこのワインの現地価格を聞いて、プリンセスのけぞりました…なんとたった€8.5!!!
間違いなく「買い」。

そして2つ目のワインは、St. Laurent St. Margareten 2010
より樹齢の高い木。ローム、砂に石灰とクオーツ、シストなどが混ざる土壌。20日のマセレーションの後、500ml樽で20-22か月熟成し、7月にボトリング。
ノーズに再びベーコン。味わいはより緻密でデリケート。その分現時点ではやや神経質。しかし空気に触れて、ハーブ、スミレ、オレンジ、タバコなどの複雑なアロマが出、味わいはワイルドベリーの深みとフレッシュでテンションのあるミネラルがとてもいいバランス。

プリンセスがそのピュア&タイトでテンションの高い味わいに感激し、けれど「もしかしてこれは寒くて日照の少なかった2010年だけの個性?」と訝っていると、ハネスは「Stラウレントは決して12~13%以上にはアルコールの上がらないブドウだから」と言うのです。
プリンス納得行きません。この国には新樽まみれで分厚いタンニンと14%以上の高アルコールの、モンスターのようなStラウレントが溢れているではありませんか?
するとハネスは、「いや、健康でフレッシュな実だけを収穫すれば、の話だよ」と言うのです。uh-huh! ※健康=ドイツ語でGesundと言った場合、貴腐のついていない、という意味です。

そしてハネスはこんな話もしてくれました。
ライタベアク周辺の老ブドウ栽培農夫を「Stラウレントの古木を探している」、と尋ね歩いたそうなのですが、「お若いの、20-30年遅かったなぁ。Stラウレントは手間ばかりかかるから、その頃全部ツヴァイゲルトに植え替えてしまったんだよ」と、ほぼ全員に言われたのだそうです。
なんと勿体ない…
もう少し付け加えておくなら、そうした農夫は大概の場合、斜面下部の肥沃な土地の方をブドウ畑として残し(収量が多いので)、土地の痩せた上部を打ち捨ててしまいました
お蔭でいい畑が見つけられる…とは、この後昼食を食べてから、畑を案内してくれた時のローラントの言葉です。

そうそう、ハネスは様々な老栽培家と話をし、とうとうドネアスキアヒェンの、とても涼しい畑のシスト土壌に植えられた古木のStラウレントを入手。来年からそこのブドウもワインにする予定だそうです。

プリンセス、またまた日本にご紹介したい生産者が増えてしまいました : )
※モノクロ写真はハネスのサイトより。
次回は再びモリッツに戻って、昼食の様子、そして畑、セラーと続きます。お楽しみに!

ローラント・フェリヒ“モリッツ”――クオリティーの秘密に迫る その3 ルッツマ ンスブルクの官能的魅力にぞっこん…

さて、いよいよテイスティングは、モリッツの名を世界にとどろかせたブラウフレンキッシュへ。

Blaufänkisch Burgenland 2011
黒々としたベリー、インク、スパイスのノーズ。滑らかで綺麗な、いかにもモリッツ的タンニン。通常12.5%のことが多が、この年は13.0%。…ということで、暑い年らしく、味わいは完熟した濃いベリー風味でやや甘さに傾き、多少ベタつくが、空気に触れてより深みを増す。後味に極軽い樽の痕跡。
ネッケンマークトの若木と、Lutzmannsburg, Zagersdorfの樹勢の強い古木(斜面下部の肥沃な部分)からのブドウを使用。ややマセラシオン期間とエクストラクションを抑えめにし、樽熟期間が約1年と短いことを除けば、上級ワインとほぼ同じ醸造方法で造られる。
正直€11という価格からは勿体ないくらいのポテンシャル。樽熟期間が短い分、やや生々し過ぎる果実味があるので、セラーのあるヒトは家で5年以上寝かせて飲んでみると、このワインの本当の実力がわかるはず。

Bkaufänkisch Reserve 2011 barrel sample
10-12か月澱とともに寝かせ、ラッキング後3か月。まだSO2も一切添加していない段階。因みにこのヒトのワインは超低SO2。例えば2009年のNeckenmarkt Alte Rebenはtotal 36, free 19という値。ローラント曰く長い澱との接触によりワインの抵抗力が増すため、この低さでワインをキレイに保つことが可能だということ。ただそのため、多少還元的になるのは止むを得ず、コルク打栓によって空気に触れさせることが不可欠で、スクリューキャップでは、味わい上困ったことになるので、醸造のやり方から変える必要が出る、とのこと。
コルクとスクリューキャップのメリット&デメリット、そして両者の比較テイスティングなどは散々行われていますが、なるほど、打栓というアクションそのもののもたらす空気、という視点も重要でした。

おっと、テイスティング・コメントを忘れていました。ふふ。やはりReserveとなると格が違います。香りも全然深みが増すし、フローラルでありながら、暗くネットリとした、所謂“ブラウフレンキッシュのマジカル・タンニン”を、ノーズから既に予想することができます。そして味わいはピュア、ストラクチャーに溢れ、タンニンは柔軟でキメ細かく、きれい。そしてスパイシー。長い余韻。既に気高さを感じます。

そしてRaidingライディング 2011 barrel sample
初めて味わうワイン。外観からして色が濃く、レッグが只者でなく厚く…。
香りは閉じ、空気に十分触れさせた後、ようやくスパイシーなアロマが少し出ます。味わいは甘く黒いペイスティーなタンニンがみっしりと詰まり、スパイスは固く、アルコールも高めで、これまでの彼のワインとは少々趣が違う
北部はホリチョンに跨る南西向きの畑の70年を超す古木ブドウより。
彼のアルテ・レーベンを構成する数あるバッチのうち、何故これを敢えてテイスティングに供したのか、と尋ねると、「誰もライディングのことなんか話さないから、ちょっとシンパシーがあって。古木になると其々の表の個性を超えて、こういう風に自分自身に帰るのさ」…と、なんだかわかったようなわからないような
因みに天才肌のヒトにありがちですが、このヒト、尋ねたことに直球で答えを返してくることはまずなく、まあでも、プリンセスの質問へのダイレクトな答えなんかより遥かに詩的&哲学的に興味深い話をしてくれるので、そのまま聞き入ってしまうのですが、後からノートを見返しても話の論旨が追えないこともよくあります(泣)…。

いよいよLutzmannsburg ルッツマンスブルク 2011 barrel sample
うわ! プリンセス既にノーズだけで悩殺されてしまいました。優美で深いスミレ、野バラ、黒糖、ジューシーで柔和…うーん、これは官能的だ…
口に含むとスルッと喉に液体の流れ込むシルキーでスムースなテクスチャー。リコリスの濃く深い風味がありながら、飲み心地はいたって軽やか。重さとは一切無縁。非常に長い余韻。
これ、このまま嗅いでいたい…。飲んでいたい…。

Neckenmarkt Alte Reben 2011 barrel sample
香りは閉じ気味。より固く、直線的。品行方正&ややシャイな感じ。バレルサンプルやリリース直後のNeckenmarktをLutzmannsburgと比較すると、いつもそうなのですが、ルッツマンスブルクの華麗さの前にちょっと影が薄い印象を、始めは与えます。
けれどよりフレッシュな酸、テンションとトーンの高いブルーベリー的果実味、そしてルッツマンスブルクの黒に対し、白いスパイス。リーフィーでハーバル、複雑な風味。よりキメの細かい密なテクスチャーとより堅固なストラクチャー…と、全ての要素がこのワインの長期熟成の可能性、化ける潜在性を示唆しています。そしてある一点を超えると、必ずLutzmannsburgを凌ぐ魅力を発揮するに違いない、と思わせる内に秘めた力と複雑さ、そして威厳を今でも十分に感じることができます。

いやあ、いつもながらアルテ・レーベンは凄い!

この後、たまたまテイスティング中に電話の入った、ヤギーニのワインを造るハネス・シュースターと、彼のワイナリーロージー・シュースターのザンクト・ラウレントを試飲することに。
ここでプリンセス、またまた衝撃的出会いをします。
to be continued

2012年10月19日金曜日

ローラント・フェリヒ“モリッツ”――クオリティーの秘密に迫る その2  侮れないブルゲンラントの白

ミュレンドーフ駅でローラントの車にピックアップしてもらった時点で、外はドシャ降り。「とにかく自宅でまずテイスティングを」ということで、グロースヘーフラインの教会の隣にあるお宅にまずお邪魔したプリンセス。

プリンセスがこのモリッツとローラントに特別な思いを抱くのには訳があります。

実はプリンセス、Moricのワインをプロジェクト最初の2002年からどこかの試飲会で味わっていて、その時から彼のアルテ・レーベンに注目していたのですが、造っている本人がノイジードラーゼー東岸アペトロンのフェリッヒ(バリックのシャルドネで有名)であることを突き止めるまでに、2年近くの月日を要してしまいました。だってワインはミッテルブルゲンラントのネッケンマークトとルッツマンスブルク産だし、ワイナリーの所在はよくわからないし…、フェリッヒとワインのスタイルは正反対だし…、どのガイド本にも載っていないし…。結びつきませんよねぇ

で、最初に彼を訪問しようとした、おそらく2004年春頃、まだワインはフェリッヒで造られていたはずです。モリッツ・プロジェクトを実家フェリッヒとは別個に扱いたい(バリックのシャルドネで有名だっただけに、嫌だったのでしょう)ローラントは、フェリッヒのワイナリーで会うという選択肢を私に与えず、昨日のブログで説明した経緯で散逸する彼の畑を行き来する途上で待ち合わせることを指定しました。
ところが、その前の訪問先マインクラングがハンガリーの牛牧場を見せるなどして時間を取り、訪問が1時間近く遅れそうだ、と電話をすると「それじゃあ、もう僕はそこにはいない」と。「どうしてキチンと時間が守れないんだ」と凄い剣幕でした。結局その時は会えず仕舞い…

今になって、彼の畑の分布や行動パターンを理解した後なら、その怒りの理由もわかるのですが、その時のプリンセスはキツネにつままれた様な気分。…人間感情の動物ですので、そんなことがあると段々そのワインからも遠ざかるものなのですが、始末の悪いことにその後のテイスティングでも、常にプリンセス一番のお気に入りの赤は、ローラントのアルテ・レーベン(或いはETのマリーエンタール、その後ヴェンツゼルやウヴェ・シーファーなどが出て来ますが)でした。

なので懲りずにその後もオーストリアを訪問する度にアプローチを続け、畑もワイナリーも見ることのないまま、ワインをインポーターのY氏に推薦し、ようやく初訪問となったおそらく2006年頃、この家はまだ引っ越し直後。リノヴェーションの最中でした。
だからこそ、こうして決まった場所でキチンと迎えていただけるだけでも、なんだか熱いモノの込み上げるプリンセス…。変ですかねぇ?

さて、全てを買いブドウの、ほんの数ヘクタール分から始まったプロジェクトも、今では20ha規模、年産18000~18500本の規模に達しています。また、Moricとは別に、Hannes Schusterとの共同プロジェクト Janigiヤギーニ 4ha分が存在します。

テイスティングはまず最初に、日本には入っていない白から。

Haus Markt ハウス・マルクト 2011 グリューナー&シャルドネ 
現地小売価格で€11、つまり赤のBlaufänkisch Burgenlandと対になるべきワイン。まるでブラン・ド・ブランを思わせるレモングラス様の果実味と粉っぽいミネラル。いや、これ素晴らしい! Yさん、早くこれも引いて下さい!!
実は駅から自宅へ向かう途中、ローラントが最近手に入れ、今ブドウを植え替えている途中であるミュレンドーフ近辺の畑をささっと見せてくれました。シストに石灰の被るライタベアクの典型的土壌より、さらに純粋な深い白亜質石灰で、コート・デ・ブランなどを思わせる土壌。そうした石灰土壌の個性が、このワインには生きているような気がします。
Müllendorf 付近の石灰

Müllendorf ミュレンドーフ 2011 ノイブルガー barrel sample
ノイブルガーというとラスティックという言葉が反射的に出て来てしまいますが、これは独特のエグゾティックなアロマが豊かで、さすがローランドの造るノイブルガーは一味違う…、とは言うものの、酸の低めでズングリした体躯はプリンセスの好みとは決して言えず、それがまた顔に出てしまうプリンセス…。ローラント曰く、畑を買ったらそこにあったから、造ってみただけ、とのこと。ハウス・マルクトにブレンドするかどうかを検討中のようですが、できれば止めた方がいいのではないか、と。まあ、ブレンドの妙技はプリンセスには伺い知ることのできない世界ではあるのですが…。

St Georgen ゲオルゲン GV 2011 barrel sample
06から始めた白のプロジェクトのフラッグシップワイン。樹齢30-40年の木より。実はあまり知られていませんが、GVはブルゲンラントでも最も沢山植えられている白品種。そのブルゲンラントならではのスタイルを追求しているそう。最近の調査で最も古いGVがここSt ゲオルゲンで発見されたことで、オリジナルGVとしても注目を浴びるようになっています。所謂貝殻石灰土壌で、ハウスマルクトやミュレンドーフに感じたパウダリーでレモニーなものとは異なり、塩辛くストラクチャーに溢れるミネラル余韻はややスパイシーで非常に長い。石灰的味わいとシスト的味わいの拮抗する、いかにもライタベアク的個性。体躯と品格が前の二つとは役者違い。

そしてテイスティングは、あのアルテ・レーベンを含む赤に進みます。
to be continued

2012年10月18日木曜日

ローラント・フェリヒ“モリッツ”――クオリティーの秘密に迫る その1

10月16日(火)。月曜は電車不通によりクラッハーさんちからのお呼ばれを断念。この日はオーストリア最高峰の赤を造るローラント・フェリッヒを訪問予定になっていましたが、朝から全国的な大雨…
プリンセスなんだかバッドラックに付きまとわれているかしら? 

さて、このヒトを訪ねようとした方なら、その訪問の難しさがわかると思うのですが、難しい理由も実はひと筋縄では説明しづらいものです。またそれ故に、このワイナリーの実態を輸入元すらきちんと捉え難いという状況。
ローラント・フェリッヒ@ネッケンマークトの古木の畑
とにかく、まずそのややこしさの背景から説明させて下さい。

1)畑がライタベアク(St Georgen, Zagersdorf, St Margareten他)ネッケンマークトルッツマンスブルク付近という互いに数十キロ以上離れた3か所に分散している。

2)しかも彼自慢の古木の畑には、いまだに契約農家の所有する区画も多い
注:最初は全て契約農家からの買いブドウで始まったプロジェクト。次第に自己所有畑を増やしてはいますが、ブドウ農家の伝統的生活を保護する意味でも、きちんとした栽培者が存在する限り、彼は畑を買収せず、ブドウを買い取り続ける方針

3)ワイナリーは公的には自宅のあるグロースヘーフライン(ノイジードラーゼー=ヒューゲルラント北部)となっており、テイスティングやインタヴューは普通ここで行われますが、本当の生産拠点はネッケンマークト(ミッテルブルゲンラント)にあります。

4)以上の理由により、彼はブドウの必要に応じてあちこちを移動しており、自然が相手故、いつ、どこに居るかを事前に約束することはできません。

)ネッケンマークトの生産拠点をメディアや一般顧客に明かすことをローラントは好みません。
その理由としては、あくまでプリンセスの観察する限りの予測、ですが、
a)正真正銘の掘立小屋セラー(ドルリ・ムアのより更に極端)であり、設備でヒトを圧倒するようなモノは一切存在しないばかりか、逆にワイン造りへの造詣が深くないヒトには、ネガティヴな誤解を与える可能性大。 
b)Wine Advocateが彼のNeckenmarkt Alte Rebenにオーストリアの赤としては最高点をつける前、オーストリアワイン業界、メディアや評論家が彼のワインやプロジェクトを冷遇したことを、ローラントが快く思っていないのは、当然と言うもの。

そんな裏事情山積み難関中の難関自ら、「いつでも歓迎するよ」と、最近直々に2度も声をかけてもらい、しかもこの朝、「雨が酷いから畑はあまり見れないかも知れないけれど、自宅に近いミュレンドーフ駅までなら喜んで迎えに行くから」という嬉しいメール。

狙っていた収穫中の訪問は、約束していた先週の土曜、今後続きそうな悪天予報により、収穫のラストスパートを急がれたため一日遅れで果たせず。当日土曜も、ローラントの携帯に奥さんのダグマーを出させるてんてこ舞振りにプリンセスの方から訪問を辞退。
そして迎えた当日ですから、どんなにドシャ降りだろうと、行かない訳にはいきません!!! 

Today is the day!!!

という訳でプリンセス、天候とは真逆にウキウキ気分一杯で、ミュレンドーフ駅に向かいました。

2012年10月15日月曜日

うぇーん、またやられたぁ!!!

10月15日(月)。
今日はプリンセス、遥々ブルゲンラントはノイジードラーゼーの東岸イルミッツにあるKracherクラッハーの、2010年プレゼンテーションにお呼ばれしていました。とにかくお城=イルミッツは遠いし、明日もライタベアクのグロースヘーフラインまで出掛けるし、ということで、今晩はウィーンに再び安宿を予約して万全の態勢。
iPhoneでÖBBサイトのチェックもヌカリなく、サイトのtrip plannerの指定通り、朝8時53分にお城を出ました。

ゴーベルスブルクは無人駅ですから、乗り換え駅であるハーダースドーフまでの電車の中で切符を買わねばならなりません。ところが私の前に切符を買っているオバハンが妙に手間取り、彼女が切符を買い終わる前に電車は既にハーダースドーフ駅に到着。
仕方なく階段を使って(それしかないから)、隣のホームにある切符自販機へ。なんとVorteils Cardの割引ボタンを押すと「使用できません」の表示が…。2度試しましたが、同じ表示しか出ないし、「電車が入ります」のアナウンスが聞こえてしまったので、諦めて再び階段を駆け下り&上がって隣のホームへ。なんとか電車に滑り込みました。
本来、車内の車掌改札の時点で切符を持っていないと、この国では3倍の罰金を払わねばならないことになっていますが、自販機が壊れていたのはÖBBの責任。そう主張して車内で切符を買い直します。
ミミデカのこの生き物はなんでしょう? 黒兎?  
答えは最後に。注:今日のブログの内容とは全く無関係です。
事なきを得たのはいいのですが、この車掌、最短ルートを割り出して切符をハンドヘルド端末から印刷し終えるまで、10分近く要しました。トロ過ぎ! しかも、プリンセスの調べて来たルートと、車掌が示すルートが違う…。本当にそれがイルミッツまで一番早い行き方なのか、と念を押してから切符を購入。

このやり取りが、実は嵐の前兆だったとは、この時点でプリンセスは知る由もありません。

そうこうしているうちに、電車がKirchweg am Wagramに到着、したのはいいのですが、ずーっと駅に止まったままです。横の席の女性は電車を降りてしまいました。
こんな調子でイベントの始まる13時までにイルミッツに到着できるのか? プリンセス次第に不安が募ります。

現在地点の位置情報を基に最短ルートを割り出すÖBBサイトの到着時間は、予定していたものより既に1時間遅れてしまっています…。
隣の女性が戻って来たので、「何かあったのですか?」と尋ねると、「こことウィーンの間で電車が通れなくなっており、遅れている」とのこと。「原因もわからないし、いつ走り出すかもわからないのだそう。
Oh my god! ホテルまで予約して遥々お出かけなのにまたこれですかぁ? しかもイベントは2時間だけの予定なんですけど?

20分は止まっていたでしょう。ようやくアナウンスが入ります。「Absdorf-HippersdorfとTullen間が不通なので、ウィーンへは振替のバスにお乗換え下さい」ですって…。
既に1時間遅刻している訳ですから、バスでウィーンまで行った日には、確実に2時間遅れ、つまりイベントが終わった後に間抜けにも顔を出す羽目になります。

なのでプリンセスは即座にbooking.comをチェック。「おお、18時まではキャンセレーション無料だ!」ということで、お城へ帰ることを決心。駅舎で車掌に返金を求めました。

…ったく。
今日のはプリンセスのご乱心が原因ではありません。不通の理由は、なんとガス事故の影響だそう。バスが通れるってことは、線路でも吹き飛んだのか????
答:サースさんちのルンピーちゃん、生後4か月
それにしても、大体所要時間3時間以上、乗り換え4回以上の遠出をした場合、ÖBBのサイト通りに電車、バス、Uバーン、シュトラーセンバーン等の乗り継ぎができ、無事予定通りに目的地に到達する確率は半分程度? とまで行かないにしても、少なくともその通りに行かない率2~3割には達するでしょう。

…だからオーストリアはドイツ語を話すラテンだ、っつうの…ブツブツブツ…。

ウィーン飲み食い事情 その3 グリューナウアー

え? まだ行ったことないの? と、何度かワイン関係者に驚かれた店。
因みにグリューナウアーというのはグリューナー・ヴェルトリーナーとは何の関係もなく、シェフであるBrigittaブリギッタの苗字です。
場所はウィーンの裏原宿的ノイバウの裏手。訪ねたのは9月の最終週。
8時の予約5分くらい前に店に着くと、既に店内には、まだ席に通されぬヒトが並んでいます。おお、やはり人気店なのですね。
シルヒャーの目の覚めるような酸が、まだ軽めの
アルコールのブドウ果汁をブライトに際立てます。
ウィーンでシルヒャーのシュトゥルムを飲めるとは期待もしていませんでしたが、これが甘酸っぱくて最高に美味しい! プリンセスのこれまでのシュトゥルム感動記録を塗り替えてくれました。

さて、料理はスタンダードなヴィルツハウス料理、ということで、上からシュヴァイネブラーテン(豚の焼煮)、グーラーシュ、そしてターフェルシュピッツ。写真は全てKleine Portion、つまりお願いして少量にしてもらったもの。そういう要求に応えてくれる店もあるので、完食の自信のないヒトは、尋ねてみる価値はあります。
この豚料理といい、おそらく店主はシュタイヤーマーク出身
確か仔牛のグーラーシュ。上のニョッキみたいなものはシュペッツレといいます。
左上がお約束のアプフェルクレン(アップル&西洋わさび)ソース
なにげに温かく、活気はあるけどガサガサしない、お料理もハーティーでとってもスタンダードな、いわゆる大衆ヴィルツハウス。とは言うもののゴーミヨーひとつ帽子の実力派。美味しいですよ! 気の合った仲間と行きたい店です。

Grünauer   Hermangasse 32, 1070 Wien
http://www.restauranttester.at/grunauer.html
http://gaultmillau.at/guides/restaurants/491-gruenauer

2012年10月13日土曜日

シュロス・ゴーベルスブルク 生産ライン大公開


前回のブログにも書いたように、お城ワイナリーでは白のベーシックラインと赤の収穫が終わり、白の単一畑、エアステラーゲの収穫へと入って行く前の、ちょっとした小休止状態。
これからクライマックスシーンを色々ご紹介する前に、我がお城ワイナリーことSchloss Gobelsburgシュロス・ゴーベルスブルクの生産ラインをご紹介しておくことにします。

オーストリアのワイナリーの素晴らしいところに、最新のテクノロジーと伝統の知恵の良いところを見事に融合させている点がありますが、その意味でシュロス・ゴーベルスブルクは最好適例かと。
シトー派のツヴェッテル修道院は、この地で1171年からワインを造り続けており、現在のセラーも最も古い部分は中世、建物も、ルネッサンス様式部分は15-6世まで遡ります(まさかそんな建物に自分が実際に住むことになろうとは、夢にも思っていませんでした)。
普通お客様にお見せするのは、そんな歴史を留めた部分。

お城は東西南北を四辺としたロの字型に建っており、これは左上肩、つまり西北の角。
西側(左)の緑のドアがセラー入口。
緑のドアを開けると、この鉄ドアが。更に赤白の木製ドア。
赤白ドアを開けて階段を下りると、飾り棚にはケルトやローマ時代のワイン発酵容器が。
左右のレーダーのようなものは、ワインのプレス、発酵、熟成、味わうという過程を描いたダマシ絵アート。
木製ドアを開けると、その先はズラっとマンハーツベアクのオーク大樽が並びます。
大樽の足元に注目! 果汁をポンプせずに、樽を移動させる、
というシュロス・ゴーベルスブルク独自の発想です。
赤ワインの熟成樽。今はこれから果汁を入れる樽がここから出た状態なので、ガラガラです。

けれど、特にブドウを扱う部分で、シュロス・ゴーベルスブルクは、家族経営(といっても、修道院からのリースですが)としては、最新設備に非常に大きな投資をしているワイナリーのひとつ、と言っていいでしょう。
そんな生産ラインを、今月ワイナリーでどんなことをしていたのか、ザザっとご紹介しながらお見せしましょう。
お城北側。右上がブドウ搬入スペース。正面は空気圧プレス。更に大型が奥に控えます。
プリンセスも収穫したStラウレントが右後ろの小さなカゴで搬入されたところ。
カーナーさんのこの顔はブドウの状態の良さを物語っています。
畑でももちろん選果済みですが、こうして除梗前に再度選果します。
いつも誰より真剣に選果するのは、カーナーさんか当主ミッヒ : )

除梗中。ウチは白はすべてホールクラスター=除梗なし
こちらはリースリングの購入ブドウ
こうして糖度を計ります。

プリンセスが見ている間だけでも88-99エクスレまでのブドウが存在。
こちらは去年の写真ですが、最新式の垂直ブレス。
ゼクトとトラディツィオン&貴腐ワインにしか使っていません。
糖度をチェックし、右の振動で小さなゴミを落とす装置を経て、
左のソーティング・コンベアへ。
使用した収穫ボックスは、その日のうちに洗います。
こちらが大型プレス。さっきのソーティング・コンベアから直接ブドウが流れ込みます。
作業がひとつ終わるごとに、こうして清浄。
こちらでも清掃。以上ブドウが発酵に回されるまで、でした。
さて、今こうしてブログを書いているプリンセスの横では、栽培醸造長カーナーさんの事務アシスタントのエレーナが契約購入ブドウについての記録(買い取り量、糖度、支払い予定金額など)をPCに入力しています。今年は霜の影響で所有畑の収穫量がおそらく4割程は減少しているので、購入ブドウがその分増えており、なんと90人以上の栽培者からブドウを買ったということです(売る方だって霜の害に遭っているのですから、各農家から少しずつしか買えない、という事情があります)。当然今年初めてブドウを購入した 農家も含まれます。

…もし来年再び収穫量が平年通りになったとしたら、この、初めてお城ワイナリーにブドウを売った農家は、来年のブドウはどこに売るのでしょう? 
購入ブドウの比率が少なくなれば、当然今年いいブドウを作ったところから購入先を選んで行くのでしょう。
こちらはエアステラーゲの発酵に使われるタンク。まだ空です。
ピノ・ノワール。今週火曜の時点で、コールドマセラシオン中。
奥がStラウレント ハイデグルンドとツヴァイゲルト・ハイデ。
手前はStラウレントのフリーランが発酵中の小樽。
一番左のStラウレントは今まさに発酵が盛ん。
果帽がどんどん上がってきてしまいます。
カーナーさん自らパンチダウン。かなり力が要るようです。
5分くらいやっていたでしょうか。
現在の温度26.1度。この木製開放桶は、
温度コントロール装置が内装されています。
続いてパンプオーヴァーを30分ほど。
不法就労かと思うほどの若者が作業を担当。
こうして果汁をかけて、果帽を沈めます。
味わいをチェックするカーナーさん。
ボトリングラインではゼクトのボトリング中。
そしてドメーネやゴベルスブルガーのラインを発酵熟成させる
大型タンクの部屋ではハンガリーからの研修生が発酵の勢いの悪いタンクの味わいをチェック。
おかしい場合、カーナーさんが更に試飲の上、必要な処置を指示。
これは発酵塩と呼ばれる粉末をワインで溶いてタンクに入れているところ。
余談ですが、購入ブドウの価格は糖度が基準です。となると、当然貴腐を沢山混ぜた方が糖度は得やすい。けれどお城ワイナリーは、一定量以上の貴腐は混ぜたくないスタイル。しかも単純に糖度だけを問題にすると、悪い貴腐が混ざっていようがとにかく沢山貴腐が入っている方が有利。

…という訳で、今年単年でみれば、選果をちゃんとせず貴腐を沢山混ぜた栽培農家の方が、リーフワーク&選果を懸命にし、健全な果実主体に納めた農家より高い価格でブドウを売った、ということも有り得ます。注:「売った」と書きましたが、支払額が決定されるのは醸造が終わってから。これも初めて知りました。買い手市場とはこのことです。
けれどそういう栽培農家こそ、再び収穫量が平年並みになった時、真っ先に切られる訳で、ワイナリーと契約栽培農家の関係も、こうして見ていると、色々駆け引きがあるのがわかります。
霜の害の多い「今年だけ」声が掛かった、と見れば多少汚れた貴腐ブドウも平気で混ぜ込んで、高い価格で「売り抜けよう」というところだって当然あるでしょう。
2-3割以上貴腐の混じる房ばかりを選り分けて、何やら黒い粉をふりかけてプレスへ。
黒い粉の正体は石炭。貴腐からの果汁を消毒&清澄する効果があります。
そのせいかどうか、今年の購入ブドウは昨年より、そしてお城ワイナリー所有畑のブドウより明らかに貴腐(いいものも悪いものも混ざっています)率が高く、それらは房ごとソーティング・テーブルで外され、石炭の粉末をかけて別にプレス&発酵され、その質と味わいを十分に検討した後、適宜1ℓワインやドメーネ・ラインにブレンドされるか、廃棄されることになります。

以上、折り返し地点で先週の作業をまとめてみました。
来週は赤の巨匠ローラント・フェリッヒ(モリッツ)の醸造の様子、そしていよいよお城ワイナリーの単一畑の収穫をレポートできる予定です。お楽しみに!