2013年2月22日金曜日

ピットナウアー訪問記 その3 スルスルっと入って、もう一杯!

ワイナリーは10~15年前に建設ラッシュだった、所謂超モダンな造り。ピットナウアーの場合、ガラスを多用したサンルームのように明るく見晴のいいテイスティング・ルームは、白と蛍光黄緑の壁にポップなエティケットがとてもしっくり溶け込んで、ウキウキするような心地よい気で満たされています。

さあ、テイスティング。はプリンセスのトキメキ度です。

最初に出て来たのはプリンセスも知らなかったロゼの2012 ♥♥♥
綺麗な淡いサーモンピンク。軽やかなオレンジやローズ・ウォーターの香り。フレッシュな酸にやさしい辛口。スキっと軽快な余韻。いや、これ、こういう晴れた日の戸外やブランチには堪えられない爽快さ! ラベルは可愛いし、セラードアで€7という価格も可愛いし、いきなりの「買い!」
実はこのロゼ、どうしても収量過多になりがちな買ブドウのセニエ果汁で造ったという、今シーズンのニューフェース。造りの上手さが光ります。
次はPitti ピッティ 2011 
格下や樹齢の若い畑のツヴァイゲルトとブラウフレンキッシュのブレンドです。10年より熟度が高く、甘やかな果実味。酸はおだやかで余韻は中-。タンニンもやわらかで障るところがなく、全体として実にいいバランス。世界的不況を受けての市場の変化に対応するため2年前に投入した"bread & butter wine"とゲアハルトは説明していましたが、十分ワイン好きも納得させられる育ちの良さのようなものを感じます。

そしてZweigeltツヴァイゲルト 2011 
ややナマナマしい、青さを感じるノーズの後にこの品種特有のダークチェリーの香り。酸はピッティよりしっかり。多少ペパリーな風味で、中位のストラクチャーと余韻。過熟を避けて少し収穫ポイントを前に持って来た印象。聞けば、暑い年の畑の扱いや高いアルコールと高いphの果汁の扱いに、ここ数年で遥かに習熟した、とのこと。

ゲアハルト曰く「ツヴァイゲルトは若いうち楽しむワインを造るのに向いているし、収量を押さえれば“パノービレ”のブレンド・パートナーとして柔かさやジューシーさに寄与するけれど、単体では多少ストラクチャーが緩く、熟成能力もStラウレントやピノ、ブラウフレンキッシュには及ばないと僕は思う。」とのこと。プリンセスも全面賛成。特にリリース直後は下手なブラウフレンキッシュより、よほどチャーミングで好ましく思えるワインが多いのですが、10年以上熟成したツヴァイゲルトに感動したことはこれまで皆無と言っていいかも知れません。

Pinot Noir Dorflagen ドーフラーゲン2011 
よく熟した、多少ジャミーな印象。プリンセス的には酸はやや物足りないけれど、モタモタしたところや暑苦しさは全くなく、それでいて余韻は結構長い。市場ウケはいいかも。

Pinot Noir Dorflagen ドーフラーゲン2009 
ノーズに少し色気のあるチェリー・コンフィ。より締まったストラクチャー。余韻は中+程度だけれど、とってもいい熟成香が出始めていて魅力的。ゲアアルトは「ブルゴーニュともニューワールドとも異なる、ドイツ、スイス、オーストリア、アルト=アディジェあたりも含んだのドイツ語圏ならではのピノの個性を感じてもらえれば」と表現。確かに、ブルゴーニュほど官能的でもなく、ニューワールドほどグラマラスでもなく…。ドイツ語圏云々はさておき、ワインがスルっと喉に入り込むサラサラしたテクスチャーは、いかにもいい意味で砂地のピノだと感じました。
St Laurent Dorflagen 2011 (2月末にボトリング予定) 
ピノと正反対のフレッシュで涼しげなスミレや桜餅の葉を思わせるノーズ。ピノよりフレッシュな酸、締まったストラクチャー、中+の余韻。ゲアハルト曰く、Stラウレントのこの涼しげで植物的なニュアンスは、ビオディナミを採用してから感じられるようになった、とのこと。

St Laurent Dorflagen 2012 ♥♥ (当然また樽の中のベイビーちゃん)
少しゲイミーで還元的ノーズ。11より更にフレッシュな酸。果実味はより生き生きし、ブライト。余韻も長め。11から12の味わいの変化は、意図して狙ったところで、クラッシュに用いる樹脂パットの間隔を少し広げ、3割程度をホールベリーで残し、そのため結果的に一部カーボニック・マセレーション状態になっていることが原因なのだそう。

Pinot Noir Baumgarten 2010
埃っぽい、多少官能的ノーズ。うーん、10年は涼しい年のはずなのに、酸が物足りない…。結果軽やかさに乏しく、ストラクチャーも多少緩い。やはりこの辺りはピノの最適地とは言えないのかなぁ…。味わいに凹凸とかストーリーがあまり感じられません。

St Laurent Rosenberg 2010 ♥♥
深い、やや沈んだヴァイオレット、ダークチェリーのノーズ。しっかりとした酸。風味が固めだけれど、贅肉を削ぎ落としたプリンセス好みのSt Laurentの味わい。余韻も長い。
涼しく日照の少なかったこの年のアルコール分はなんと12.2%。複雑さや余韻の長さ(=ワインの美質)に高いアルコールは必要ないことのよい見本。

St Laurent Alte Reben 2010 ♥♥♥
Resenbergより更に深みがありながら生命力溢れる上質でフレッシュなローズウォーターのノーズ。更に植物的。酸は高めながらよりしなやか。非常に柔かい、ほとんど存在を感じさせないタンニン。静かな凝縮感。とても長い余韻。素晴らしい!

St Laurent Alte Reben 2009 ♥♥
ノーズはより野趣に富む。10よりマッシヴでストラクチャーに富む。暖かく長い余韻。プリンセス的には10の方が好みではあるけれど、これも素晴らしいワイン。

St Laurent Alte Reben 2008 
より慎み深いスミレの香り。09よりアーシー。空気に触れてじわじわ味が出る感じ。長い余韻。09より強い新樽の焦げ香。

Blaufränkisch Rosenberg 2007 
ブラウフレンキッシュらしい高い酸、豊かなタンニン、アルコールも過不足なく、余韻も長い。けれど、いかにもこのヒトらしいサラサラとエレガントなブラウフレンキッシュ。

そしていつものごとく、電車の時間が近づいたので、試せなかったBlaufränkisch UngaerbergとSt Laurent Altenbergを持ち帰り、これは帰国後にラッキーな皆さんと分かち合いたいと思っています。
初回訪問時もそうでしたが、何よりピットナウアーのワインでプリンセスが好ましいと思うのは、タンニンの柔かさ&質の良さ。ベーシックなピッティからアルテレーベンまで、勿論量や複雑さは異なるのですが、絶対障るようなことのない、絶妙にコントロールされたタンニンです。さらに熟度も凝縮感もあるのに出過ぎない楚々とした果実味サラっと喉に流れ込むテクスチャー。…こうした全てが相まって、これだけ赤ばかり飲み続けても全く飲み疲れない、クラスを問わず「もうひと口、もう一杯」と杯の進むワインとなっています。

ところで、傑出したワインは傑出したテロワールと確固としたイマジネーション、そしてそのイマジネーションを実現するための技量によって造られます。3つの要素は、どれひとつとして欠けてはいけませんが、実はそれぞれの占めるバランスはワイナリーそれぞれです。

そしてピットナウアーの場合、畑の傑出度よりは、畑仕事とセラーワークを日々誠実に積み重ねた結果としての、揺るぎないイメージング能力と全ての作業工程における過不足のない絶妙なサジ加減――そちらの占める割合がずっと大きい。ゲアハルトのヴィンツァーとしての誠実さと力量の高さこそ、このワイナリーの強みと魅力だと、プリンセスは改めて確認したのでありました。