2012年6月14日木曜日

耳を澄ませると畑が見える!

学校のためルストに居ました。
プリンセスの住むカンプタール辺りでは、各ワイナリーの所有地は、たとえ同じ畑を複数ワイナリーで所有している場合も、各自の所有畑は比較的ひとかたまりになっているのが普通。ところが、オーストリアは狭いのに、つい最近まで南北で土地の相続法が異なっていたため、ルストのあるブルゲンラントでは、自分の持ち畑がこっちにひと畝、ひと畝置いてまた二畝、みたいな感じに畑を所有していることの方が常態です。なのでそれぞれのワイナリーが自分の畝を間違えないよう、ワイヤーを張る支柱に派手な色の紐を括り付けたり、花を植えたり、道標を置いたり、様々な工夫がなされています。
そしてそんな有様ですから、畑の手入れ方法の違いを短時間にあれこれ比較できるのもこの辺りの畑歩きの面白いところ

それでプリンセス、2日で6時間以上テクテクテクテクひたすら畑を眺めながら歩き回りました。一日目は地図なしで、畑で働く人に畑名を尋ねながら。2日目はルストより隣町オッガウに近い銘醸畑マリーエンタールを目指して。
何が目的かと言えば、この時期各畑では畑の手入れ方法や病害対策、ブドウの木の健康状態などが一番良く見えるような気がしたからです。おそらく自分でワインを造っているヒト達は、この時期の畑を見ただけで「ああ、ここのワインは美味しいだろうな」と看取できるはす。私にもそれが少しはできるかなぁ、と思ったのです。


手始めに防カビ剤、殺虫剤、など色々ある農薬の中でも最も土の生態系に悪影響を及ぼすという除草剤を使っているかいないか、どのくらいはっきり判別できるものか、確認しながら歩きました。

枯草が沢山あるだけで早急に除草剤と決めつけてはなりません
オーストリアのワイナリーの8割方が採用しているサステイナブル農法プログラムであるKIP(Controlled Integrated Productsのドイツ語の頭文字)では、比較的環境への影響が穏やかとされる除草剤の規定量&回数以内の使用は認めてはいますが、少なくともプリンセスのご近所では、日本に輸入されているような一線どころで使っているところはゼロ。ホイリゲで出すワインしか造っていないような農家のみ使用してるという現状です。
我がお城ワイナリーも当然除草剤は使いません。では、どうやってブドウの木の根元や、ひと畝ごとの雑草を刈るか、と言えば、トラクターに除草機材をつけて刈っていきます。この方法、環境には優しいかも知れませんが、ブドウの木の根を傷つける可能性も高い。なのでブドウにも環境にも最も優しい方法は、手で草を抜くことです。ところが手でいちいち草を抜いていたんでは、趣味農園ならいいでしょうが、所有面積が二桁haになってくると、人手が足りなくなるか労働過多になるのが普通勿論、規模が大きくなっても銘醸畑は手で雑草抜きをするというワイナリーも存在しますし、逆に超急斜面が大半で、トラクターを使用できず、完全手作業か除草剤かの選択しかないヴァッハウでは、超一線級でも除草剤を使うのが常識。
上下の写真が隣り合わせた畝だって信じられます?

ということで、この目で除草剤使用、不使用で機械除草、不使用でマニュアル除草、の差をこの目で見分けられるか、が課題です。

パッと見、枯草の有る畑とない畑がありますが、枯草がないからと言って、除草剤を撒いてない、とも言えません。撒いた後しっかり土起こしをしていると、ブドウの根元をよく見ないと畝の枯草の有無だけでは見分けがつきません。
枯草があっても、除草剤で枯れた草と機械で刈った草が枯れている状態が混在しています。このふたつ、極端にわかりやすい違いの見える区画もあれば、最初はちょっと見分けのつきにくい区画もありました。が、妙に長い草がそのまま枯れていれば前者だし、青草と枯草が混ざったような状態なのは必ず後者です。
よく土の固い柔らかいを問題にしますが、化学肥料と除草剤をダブルで撒いているような最悪の畑であっても、今さっき土起こしをしていれば、もちろん土は固くない…。

でも、そんなことを確認しながら1時間以上歩いた頃、プリンセスは面白いことに気付きました枯草の有無や土の固い柔らかいより、畑の(少なくとも土の)状態の善し悪しのわかるサインがあることに。
それは音――虫の音です。
畑の土に住む様々な虫の鳴き声の大小が、隣り合わせた畑間でも全然違うんです。一面枯草で、根元にコケがあったり、葉もそっくり返っているような、間違いなく農薬撒き放題の畝では、シーンと無音。足許で派手に虫たちがジーコジーコ言っているところでは、そこここにモグラの穴もあり、ブドウの葉も生き生きとした緑色をしています

ところで、ブルゴーニュとオーストリアを比較して思うのですが、オーストリアは先にも書いたように、大半がKIPであるため、必要に応じて農薬を使うのですが、こと除草剤に関してはちゃんとしたワイナリーで使っているところを見つける方がまず困難。つまり殆どのワイナリーがニアリー・イコール・オーガニック的在来農法を実践しているのに対し、ブルゴーニュって、ビオディナミかオーガニック以外の生産者のかなりの部分が除草剤を使っているような印象。自然農法と在来農法の乖離が著しく激しい気がするんですが、誤解でしょうか?
今ブームの国産ワインはどうなのでしょう? 雨の多い日本で除草は大変な作業のはずでが。