ハイリゲンシュタインと言えば、カンプタールを代表する、いや、オーストリア有数のリースリングの銘醸畑。もちろんErste Lageエアステ・ラーゲ(1er & Grand cru相当)。
トラディツィオンスヴァインギューターの生産者だけでも12の所有者を擁する、さながらオーストリアのクロ・ヴジョかシャンベルタンか、といった畑です。
もっと言えば、Heiligには「畏れ多い」という意味もあるので、オーストリア版の恐山です:)。また、東に並ぶ山Gaisbergガイスベアクのガイスにはケルト語で精霊の集会場所、という意味もあるそうですから、この連なる二つの山を大昔の人々が神聖視していたことが伺われます。
麓中央、白い家の後からテラス状畑になるまでの間がGVの銘醸畑ラム。その上、230~345mにハイリゲンシュタインの畑が広がります。 |
一方でここからほんの3-4km北進すれば、そこはもうブドウ栽培の北限。山の西端を舐めるように流れるカンプ川の作る谷に沿って、ヴァルトフィアテルの冷たい風が常に吹き込みます。
だからここは、(パノニア平原に直接開かれているため)ドナウ周辺産地の中でも最も暑くて乾き、(3大産地の中で最も北に位置し、森に食い込んだカタチのため)最も寒い、というカンプタール特有の気候の、さらに究極とも言えるような畑です。
畑のほぼ最上部。 |
オーストリアの銘醸畑の岩の大半は、広く『原成岩』と呼ばれており、片麻岩、パラクナイス、花崗岩、スレート、シストあたりの変成岩が風化した土壌。ヴァッハウ、クレムスタール、カンプタールと続くドナウ沿岸の銘醸産地の岩石も、全ておしなべてボヘミア山塊に属する3億~20億年くらい前、古生代の原成岩です。
ところが、このハイリゲンシュタインとその北側にだけ、南北の帯状に全く年代も土の構成も異なる、2億5千~2億8千年くらい前、ペルム紀の砂岩、長石、角閃石などを主体としたコングロマリットとそれが風化した土壌が忽然と現出します。
貝殻などもたまに見つかりますし、白っぽい石灰を含む部分も多いことから、どうやらこの辺りが湖、池、川~河口付近であった名残のようです。
中央向かって右、黄緑色の一番南端がハイリゲンシュタイン。山の北側は森で、ブドウ畑はありません。 |
これがペルム紀のコングロマリット。小石と砂混じりのコンクリートのように見えますが、脆い。 |
ですから、遠目に見るとハイリゲンシュタインとお隣のガイスベアクは中央の括れたひとつの山のように見えるのですが、実際にはその土壌は、互いになんと少なくとも5千万年から1億年以上という気の遠くなるような大きな時間的隔たりのある、全く異なる岩石なのです。注:ガイスベアクの主石は、ヴァッハウなどこの辺りによく見られる片麻岩の一種:正確にはパラクナイス=クラウス畑と同じ石です。
という訳で、このハイリゲンシュタインという岩山は、地質学的にも、気候的にも、文化的にも、3重の意味で非常に独自でであると同時に、カンプタールという場所を究極的に象徴する畑。
オーストリアワインファンには、是非一度は味わっていただきたい…のですが、限定輸入のカタチでしか、なかなか見つからないのが現状。なので、お店で、レストランで、出会ったら文句なく「買い」。躊躇するなかれ。
では次回は、そのブドウ畑としての素性の良さと味わいの秘密に迫ります。