2012年11月19日月曜日

冷涼ワインと極北ワイン―自信を持って後ろを向こう!

「有料アップグレードせねばブログに写真がアップできない!」と激怒していたプリンセス。
facebookつながりのH氏が教えてくれたリンクから、一定サイズ以下の写真はピカサへのアップロードとしてカウントされないことを知りました。であれば、H氏のアドバイスに従い、オーバー分だけ既アップ写真のサイズを削って再アップし直し、今後はカウントされないサイズで写真をアップし続ければいい訳です。

やりましたよ、プリンセス! 土曜のセミナーの準備をしながら。そして日曜の夜中に音楽を聴きながら。とーっても面倒ではありましたが…。

そんな訳で晴れて皆さんに、セミナー@provinageのご報告ができます。
テーマはオーストリアン・アップデート。
ほっかほかの2012年ヴィンテージ情報と、現地暮らしをして初めて見えてきたオーストリアワインの側面について、お伝えできれば、と思っていました。
一番右は残念ながら微ブショネだった、原成岩のGV代表RudiのKollmütz。
右から5本目がその代わりのプロイドゥル GVエーレンフェルス。
けれど、オーストリアの魅力を十全に伝えたい、という漠然とした思いでラインナップしたワインをどのように皆さんにご紹介しようか、と思い巡らせるうち、プリンセスは何か"最新情報"とは別の側面のメッセージが、自分の中に芽生えつつあることに気付きました。

それは、セミナーを主催して下さったプロヴィナージュの田中浩ソムリエの提唱する”冷涼ワイン”の、もうひとつの側面、あるいは”広く冷涼ワインと呼ばれるものの中でも特殊な位置を占める北のワイン”とでも呼ぶべき伝統をお伝えしたい、という思いでした。

田中さんは冷涼ワインを「味わいの基軸を成すものが高いアルコールや果実味でなく、良質な酸とミネラルに由る凛とした味わいで余韻の長いワイン」と定義しています。

まんま、プリンセス好みのワインです。
ただ、プリンセスはそうした冷涼ワインの中でも、本当に北のワインが好きなんです。特に、白ワインに関しては「涼しい程度じゃ生ぬるい!」…ワイン産地の極北をこそ愛しているのです!
セミナーに参加して下さった皆さん、Neumeisterの産地がSüdsteiermarkになっていたかも知れません。
訂正してください! そして好評だったMニーポートのカルヌゥントゥムは最新情報によると、なんとこの価格!!!
では、冷涼ワインの中でも極北ワインだけが持つ特徴って何でしょう?
ズバリ、同じ畑の同じ品種の、同じ木のブドウから、いくつもの異なる個性のワインを生むことだとプリンセスは思っています。

これは北の産地の長い収穫時期の為せる業。言ってみれば天然の氷室で、天候とのやり取りが作る独自のスタイルの確立やら、酸や糖の値がほとんど変わらなくなった後に、少しずつ風味の成熟を待てる気候的利点です。

土曜のセミナーでご紹介したワインからもわかるように、オーストリアでは、ハシリを楽しむユンカーやユングヴァインから始まり、1年以内に飲み切るのが基本のホイリガーやシュタインフェーダーリリース後数年間ユニヴァーサルな食事のお供となるDACやフェーダーシュピール10年以上の熟成も十分可能な辛口の遅摘みであるDACリザーヴ&スマラクト、そしてアウスレーゼ、BA、アイスヴァイン、シルフヴァイン、TBA…と、異なる収穫時期成熟時の天候如何により、様々な個性のワインを生みます。

別の言い方をするなら、だから、ブルゴーニュの白は冷涼ワインではあっても極北ワインではありません。そしてプリンセスにとって、ブルゴーニュの白ワインの魅力は、同産地の赤ワインの魅力の足許にも及ばない…。

仏産地から挙げるなら、気候的にはシャブリが冷涼ワインと極北ワインの境目で、シャンパーニュはオーストリアやドイツとはまた別の、極北ワインのひとつの完成形だと思うのです。

ゲルマン言語圏のワインが多様なスタイルを保持し続け、ラテン文化圏がその最適な単一のスタイル(辛口/甘口/泡)1本に絞られているのは、それしかできない気候的要因(糖度の上がりようがない、貴腐が少ない、貴腐果の腐敗化率が高いetc…)がそうさせるのか、文化的な要因(自然は人間の英知で征服&洗練すべきもの、と考えるラテン的、或いは仏的文化)がそうさせるのか、その両方が絡んでいるのか、とても興味深いところです。

因みに仏のもうひとつの冷涼=極北ボーダーワイン産地であるアルザスが、仏銘醸地の中で、いまいち一貫した個性(品種的にも、スタイル的にも絞るのか多様さをアピールするのか)を打ち出し切れていないように見えるのは、この地が歴史的に仏文化と独文化の狭間を揺れ続けて来たことと大いに関係しているように思われ、この辺も実にプリンセスのマイナー探究オタク心をそそってくれます。

今、地球経済は大いなるグローバリゼーションの波に晒されています。ワインも例外ではありません。
そんな中、日本市場にオーストリアワインをご紹介する立場のプリンセスには、ちょっと気になることがあります。

それは、上に書き連ねて来たような多様なスタイルを保持し続ける生産者のワインより、辛口一本に絞り、アロマを最大限保持するようなインターナショナルスタイルのワインにフォーカスする生産者の方が、一般的に市場で評価されやすい、という傾向です。
併せて、早飲みや軽いスタイルのワインばかりが話題に上り、熟成可能な辛口の遅摘みや、アウスレーゼ、貴腐やアイスヴァインがあまり紹介されていない実情です。

墺の作曲家マーラーの”伝統とは灰を拝むことではなく、松明を灯しつづけることである”という言辞を引くまでもなく、現代人の社会的関心(例えばビオ)や味覚的嗜好(軽快な辛口)に対応することはもちろん大切です。テクノロジーを活用し、品質や生産性を上げることも、それが適切に用いられる限り肯定的に評価したいと思います。

けれど、我々消費者が無知であるばかりに、伝統文化の豊かさを自分の既知のスタイルやグローバル・スタンダード・スタイルに狭めてしまうようなことにだけはしたくない、というのがプリンセスの思いです。
消費者である我々が、早飲みホイリガーや軽い辛口ばかりを評価するなら、生産者はよりリスクの高い遅摘みやプレディカーツヴァイン(アウスレーゼ以上の甘口、貴腐、アイスヴァインなど)の生産をどんどん縮小して行くでしょう。
そして、それは極北ワイン産地の豊かな伝統文化の衰退&絶滅を意味します。

今こそ冷涼ワインファンの皆さんには、”灯しつづけるべき松明は何か”を真剣に見据え、ブームやトレンドに踊らされることなく、自信と誇りを持って後ろ向きになり、北でしかできない多様なワインの伝統と文化を支えて欲しい、と切に切にお願いしたいプリンセスなのであります。