この状態の2011年の赤と、まだマロを終えて間もない2012年の赤を樽から味わいます。ちょっとややこしいのですが、この後テイスティングルームで、既に2011年ヴィンテージがリリースされているワインについてはボトルから、未リリースのワインについてはセラーでバレルサンプルを味わう、という手続き。
まず、Blaufränkisch Südburgenlandブラウフレンキッシュ ズュドブルゲンラント 2012になる樽から。
香りに、まるで原成岩の白ワインのようなやや神経質な白胡椒のようなニュアンスがあります。まだ若過ぎて品質を判断する段階ではありませんが、タンニンの質の良さはこのクラスのワインとしては出色です。
次はBlaufränkisch Palaパラ 2012。
かなり閉じていますが、香りを嗅いただけで、透明な光の差すイメージ。酸が爽やかで、いかにも東向き畑のワインに成長してくれました。口に含むと柔らかで軽やかなアプリコットやオレンジの果実味が実に上品。
大樽はPauschaとStockingerの2種。前者はストラクチャー、 後者はフィネスと余韻に寄与する、とのこと。 |
28日間と33日間の醸しのバッチのブレンド。ああ、ブラウフレンキッシュならではのダークな果実味とミネラル! そしてネットリと細かいタンニンは、拙著にプリンセスが「マジカル・タンニン」と書いた、それそのもの! あの当時はこのタンニン、ライーブルクだけが表現していた個性だったように思います。成程、ウヴェが「サパリは益々ライーブルクに似て来た」と話す訳だ。酸の印象はパラの方が際立つのですが、実測値はこちらの方が0.4g/l高い…。それだけ様々な味の要素がより凝縮されて、高い酸をストレートに感じさせないのでしょう。
最後に看板畑Blaufränkisch Reihburgライーブルク 2011。
これは500ℓの開放樽で5週間マセラシオンしたバッチと、開放桶で3週間マセラシオンしたバッチのブレンド。
ああ、これはやはり…役者が違う! …というのか、パラの品の良い透明な果実味と、サパリの深みとマジカル・タンニンが、より高次元に“アウフヘーベン”、なーんて言葉を思い出すような感じに、合体&展開しています。リリース前のこんなに早い時期から、既に威厳とか品格、というものを感じさせるからさすがです。
さてと何を試してもらおうか…。プリンセスほとんど実験台:) |
プリンセス驚愕! とても同じライーブルクとは思えません!!! タンニンの量も格段に多いし、ワインがなんだか青っぽく感じられるのです。
「なんなの、これ?」という顔をするプリンセスに対するウヴェの説明は、「除梗せずに、クラッシュもなして、フットストンピングで5日間醸したものを、新樽へ。」
P: 何故そんなことを?
Uwe: 単なるロジスティック・リーズンさ。おかしなタイミングで搬入されたブドウがあって、その量の果実に合う樽がそれしかなかったので、ちょっと色々試してみたんだ。
P: …フットストンピングだし、醸し期間も短いし。…ということは、この膨大に加わっているタンニンは、茎と新樽由来かぁ…。青っぽく感じるのは、それが茎からのものだから? それとも新樽のタンニンには果実味をそういうニュアンスに感じさせる作用があるの?
Uwe; うーん、まあ、その全てが合体した、ってところだろうね。
樽メーカーは、タランソー、セガン・モローなど様々ですが |
あんまり驚いてプリンセス、この新樽の中のママ子ライーブルクを、2012年ライーブルクにブレンドする積りかどうか、という重大な質問をするのを忘れてしまいました…。
プリンセスなら、ブレンドしないか、或いはするにしても、試験管でゼロ→5%→10%と混入量を増やして、タンニンがマジカルでなくなる辺りを見極めて、他はズュドブルゲンラントに格下げブレンドします。あくまでも印象ですが、1割以上混ぜると、かなりライーブルクの個性(と少なくともプリンセスが思っているもの)を損ねるような気がします。
※でも、ブレンドって1+1が2でないところがあるので、ブレンドでライーブルクの意外な側面が引き出される、ってことだってないとは限りません:)
また、プリンセスが苦手な木の香りプンプンの所謂新樽香や、焦がしを感じさせるコーヒーやココアなどの香りは皆無でしたが、その理由がライーブルクの果実味の凝縮感が樽風味に勝っているためか、或いは新樽と言っても一切焦がしのない樽のためか、これもはっきり事実を確かめておくべきでした。
Uweが自分でお金を出して買う樽はこのDarnajouと |
けれど今は、特にそのトップ・キュヴェは随分違うディレクションにあるように思います。
モリッツのワインは、ネッケンマークトの土壌の主体がグリマー・シーファー主体とは言え、どこかに石灰的膨らみがあり、コントロールが効いているとは言え、新樽風味も一定量は肯定的に働くし、製造過程で果汁を空気に触れさせることを恐れない、そんな方向性です。そしてその方向性はこの10年、そんなに大きく変わっていません。
それから、このberthomieuの2種のみ。あとは他ワイナリーのセコハン |
まず当初は格の高いワインほど、新小樽を多用。段々新樽比率も小樽比率も少なくなって、「そのうち小樽は全部廃棄し、全てのワインを12~35hℓの大樽で熟成させる積り」というところまで来ました。
また当初はワインをボルドーワインのように扱い、ラッキングももっと頻繁にしていましたが、現在ではラッキングは1回のみ。従ってかなり極端に還元的なスタイルとなります。
還元的、というと何か自然派特有の汚い香りを伴う印象があるのですが、ウヴェの場合それは全くありません。ただ、リリース直後、特に抜栓直後は酸とミネラルが固く閉じ、神経質なニュアンスが出るのです。膨らみとは無縁の、無愛想で恐ろしくストイックなワイン、とでも表現しましょうか…。
そして、そのようにスタイルを変えた結果、彼のこだわるアイゼンベアク一帯の土壌―グリーン・スレート―の個性は、更に磨きをかけられ、精錬・昇華したカタチでワインに封じ込められることになりました。
ただし別の言い方をするなら、良くも悪くも、よりヒトを選ぶワインとなりました…。
それでは最終章、現行ヴィンテージのテイスティングの様子は、また次回に。