そしてプリンセス、50ml程度しか注いでいない4本のワインと購入したReihburg 08が1本入った6入段ボール箱を片手に抱え、お城へ乗り継ぎ、乗り継ぎ帰途につきました。荷物がひとつ増えると必ず何か置いてきてしまう困った習性を持つプリンセス。帰り道はとにかく財布といただいたワインを持ち帰ることだけに集中:)しました。
お城に着くと時間は既に夜8時を回っています。昼をたっぷりいただいたので、わざわざ鍵を開けて母屋のキッチンへ入り夕食を食べるまでもありません。
かなり疲れてはいましたが、ウヴェの指示通り、いただいたワインを自室で今一度テイスティングすべくグラスを用意。こんな感じとなりました。
左からWeisser Schiefer, 同 S, BF Südburgenland, BF Pala. All 2011. |
セラーでの超特急テイスティングの際感激したヴァイサー・シーファー以外の3つが、それぞれとっても魅力的に香っているではありませんか!!!
改めて心ゆくまでテイスティングです(今度は飲みながら:)
最初がWeisser Schiefer ヴァイサー・シーファー11
11年とは思えないフレッシュで勢いのある酸。けれども酸に尖ったところが一切なく、ひたすら清らか。本当に綺麗なミネラル。量は膨大ながら、カリカリキシキシしたところが全くありません。このワイン、本当に素晴らしい♥ 一生飲んでいたい:)
次は遅摘&小樽熟成のWeisser Schiefer S ヴァイサー・シーファー S 11
なるほど。空気とこうして十分触れた後は、樽(古樽)のもたらすヌガーのような複雑味が、よりオレンジやアプリコットと一体になって、ずっと魅力が増します。とは言うものの、やはりブルゴーニュと言うよりは…ヴヴレに近いイメージかなぁ…。いや、それも違うなぁ。粘土石灰土壌のもたらす膨らみと中心から放射されるような伸びのある余韻とは逆の、インパクトの華やかさと、収束に向かう透明感はスレートならではの持ち味。敢えて喩えるならアルザスの上質なヴァンダンジュ・タルティヴのオーセロワとピノ・グリを足して2で割ったような感じ?? うーん、でもアルザスみたいな重量感、腰回りの太さは一切なく、特に余韻に残るのは辛口のヴァイサー・シーファーと全く同じ軽やかに昇華するが如きミネラルなのです。
そしてブラウフレンキッシュ ズュドブルゲンラント Blaufränkisch Südburgenland 11
テイスティングルームでは閉じまくっていたこのワイン、5時間ほどの時間を経て、すっかり別のワインになっています。黒々としたチェリー、細かくネットリとしたマジカル・タンニンも、ライーブルクやサパリほど端正ではないにしろ、はっきり感じられます。ウヴェのワインとしては一番横幅を感じるのは、より標高が低く、底土にスレートを共有するものの、ロームの割合が遥かに高く肥沃なドイチェシュッツェン(ウヴェはこの辺りですらアイゼンベアクDACに含めてしまうのが許せない模様)や、石灰土壌のクーニッヒスベアクのブドウも含んでいるからでしょう。次のパラと味わいを対比してみると、それが実によくわかります。透明感では遥かに後者に劣るものの、こちらの方が人懐っこく幅があり、懐の深い感じ。
最後にブラウフレンキッシュ パラ Blaufränkisch Pala 11
頑なに籠っていたこの子もしっかり化けてくれました! ああ、ようやくセラーで味わった12年のバレルサンプルに感じた東向きの畑らしい清冽さ、アプリコットやオレンジの透明感溢れる果実味、背後のウヴェ・ミネラルがはっきりと感じられます。正真正銘クオーツ&グリーン・スレートのワインです。そしてウヴェがサパリとライーブルクをひとつの類型として捉え、このパラは仲間に入れない理由もよくわかりました。あの、マジカル・タンニンと、ダーク・チェリーの風味はあまりありません。
全てのワインに共通するのは磨き込まれた、量は多いのにワインを固く感じさせない、軽やかなミネラル感。プリンセスがオーストリア全土のプレミアムワインに求めて止まないものです。そしてワインを思わず呑み込んでしまう自然なドライヴ感。…気が付けばプリンセス、あれこれ比較したり考えたりしながら、全てのボトルを半分近くづつ飲んでしまっていたくらいです:)
ウヴェのワインはもの凄い勢いで進化しています。
けれど、前にも書いたように、より人を選ぶ方向に、より分かる人にしか分からない方向へ、です。
モリッツのワインが、パーカーのブルゴーニュ始め冷涼ワイン部門:)の採点者であるDavid Schildknechtに見いだされ、急速にインターナショナル・スターダムを駆け上ったのとは対照的に、ウヴェはより求道者の道を深めた、と言ったらいいでしょうか。
最初は一緒にカマロンしていたのが、気が付いたらモリッツはパコ・デ・ルシアに、ウヴェはアグヘータになっていた…。って、我ながらフラメンコ・ファン以外には訳のわからない喩えですね:)。別の喩えをするなら、村の民謡神童が長じて片や美空ひばりに、片や正調民謡歌いになっていた、と言ったらいいのか。或いは、最初はともにセセッションの急先鋒で、後に袂を分かったクリムトとシーレに喩えたら、もう少しわかり易いでしょうか。
シーレの絵が持つ、ヒリヒリするような情熱を私はウヴェのトップ・ワインに感じます。一方で、シーレにはそうした一連のヒリヒリするような表現意欲の塊のような有名作品とは別の、母方の故郷チェスキー・クルムロフ(現チェコ)の牧歌的風景を描いた沢山のあまり知られていない絵があるのですが、私はウヴェの白ワインには、シーレの一連の風景画に喩え得る、彼の地の一面、もっとずっとリラックスした一面を見る思いがします。
狭義のアイゼンベアクの藪(プシュタ=かつてのブドウ畑)を、現在残る優良セレクションのブラウフレンキッシュで再び蘇らせるのが彼の夢。そのために「資金がないのが僕の問題」と彼は公言します。通常ワイナリーの運転資金を稼ぐためには、ベーシックなワイン、所謂“ブレッド&バターワイン”を増やすのが手っ取り早い方法です。けれどウヴェは、リースを含めこれ以上生産量を段階的に増やす積りはありません。買いブドウで大衆の向こう受けを狙った、飲みやすいワインを造る積りもありません。
そんなウヴェのワインは、その最もベーシックなズュドブルゲンラントとヴァイサー・シーファーですら、通人を唸らせるに十分な質を持っています。一方で彼のワインは、そのレベルであっても、特に赤は、抜栓後超還元的でなかなか開かないは、一見わかり易い媚びるような果実味はないは…。サービスをする人間と、飲む人間を著しく選ぶワイン、と言ってもいいと思います。
だからこそプリンセスは、一体どれくらいの日本のプロと愛好家が、ウヴェのワインの素晴らしさをきちんと評価し、その美質を最大限引き出して楽しんで下さるか、とってもとっても期待しながら、これを書いています。
3月の帰国時にほんの少しワインを手配しました。ラッキーな皆さんは味わうチャンスがあるかも知れません。
そうしたら、是非、プリンセスに感想をお聞かせ下さい!