因みにこのホイリゲ、ホイリゲという名が嘘のようにクオリティの高い洗練されたお料理を出してくれます。
左よりヴィリー、27歳の若きシェフ(名前失念)、塩田怪鳥 |
すっかりプライヴェートの飲みモードであったにも関わらず、御大が横にいると、ついまた質問魔の悪い癖が頭をもたげます。
サーヴされた酷暑2003年のRiesling Heiligenstein Lyraの味わいに、確かに酸はリースリングとしてはかなり低いですが、この年特有の暑苦しさがないことと、早期収穫ブドウのワインにありがちな薄っぺらさとは無縁の深みと、落ちついた調和の取れた味わいに感心。思わず「収穫は何日でしたか?」と、またまた質問。
すると、Williがとてもいい話をしてくれました。
Willi: 収穫は10月30日。ブドウの糖度は8月半ばにはとっくにピークに達していたけれど、味は良くなかった。良くなるまで待っていたら、10月末になってしまったんだ。実は03年は、酷暑の夏と対照的に、10月は記録上最も低温だった。収穫は雪の中でしたんだよ。
ここでまた質問…Princess: 待っている間に酸は下がりますよね?
Willi: たしかに下がるから、このワインも酸は低いけれど、待っている間に他の香味成分がしっかり出た。注:ただし酸が急激に下がったのはむしろ糖が急上昇していた8月中のことと思われます。
ここでプリンセスの頭を掠めたのがWachauのRudi Pichlerが、03の翌年、今度は記録的に収穫が遅れた04年のワインを前に語った言葉;
R: 03も04も、天候は正反対だったけど、ちゃんと待ったヒトが勝ち。03は身体だけ早く大きくなったティーンエイジャーみたいな段階で、糖度が上がる、酸が下がる、って慌てて収穫して皆失敗してる。背丈や体重がどうあろうが、ちゃんと大人になるまで待たなければいけなかったんだ。04は今度は逆に実際に物理的糖度が上がるのをじっくり待つ必要があったけれど、一番肝心なのは、香味成分が完熟する間にどれだけ完璧な仕事(=除葉、グリーンハーヴェスト、貴腐落とし、選果)をしたか、ということ。ウチではひとつの木を最大10回収穫したよ。
なにげにセシル ピノ 97はマグナム! |
物理的な成長と成熟が終わってからの寒暖と光の蓄積こそ、ブドウの風味にとっては、即ちワインの性格と質にとっては、決定的に重要だ、ということです。注:ここらあたりが、フェノールが熟したら即収穫をしなければならない、或いはそれをも待つことが許されない、温暖 or 多雨産地とは大きく異なるところです。
勿論酷暑で下がった酸は、その後いくら低温に晒しても値を増すことはありません。だから03年は、新弟子検査では撥ねられるし、一定以上の背丈が要求されるミス・ユニバースにはなれない年ではあります。
けれど、ブドウに含まれる何千とも言われる香味物質は、糖度上昇が止まり、果皮、茎や梗、種のフェノールが成熟した後も変化を続けます。…まるで人格が身体の成長&成熟後も死ぬまで変化を続けるのと同じように。
そして、身体的成長&成熟が終わると人格的成長もオシマイな人間になるか、その後の成長の方が大きな人間になれるか、で、恐らくそのヒトの人生の味わい深さに格段の差がつくことでしょう。
だから成熟も終わったと自認するご同胞の皆さん、歩みを止めてはいけません! 自分の中で自分の持てる味わいが調和するまで、まだまだ待つ価値はあると信じて。