2012年10月7日日曜日

再びアハライテン―2011のディーヴァはようやく微睡からお目覚め?

年末までには日本市場にお目見えしそうなRudi Pichlerルーディー•ピヒラーの2011年ヴィンテージを味わうのは、プリンセスこれで3度目になります。そのうち2回がアテンド通訳としてで、6月に一度だけ一人でワイナリーを訪れ、きちんとテイスティング・ノートを取りながら全種を試飲しています。

実はプリンセス、ルーディーのグリューナー スマラクトの中では控えめな気品あふれるKollmützコルミュッツ(ルーディーの喩えるところイングリッド・バーグマン)がお気に入り。一方のリースリングはSteinrieglシュタインリーグル、Kirschwegキアヒヴェーク、 Hochrainホッホライン、 Achleitenアハライテンの4つが4つとも、それぞれの個性を見事に発揮するサマに、順繰りに感心して行くのが試飲の常。
最初にシュタインリーグルの押し出しの良さと明るさ(ヴァッハウでは珍しい石灰土壌。ルーディの言葉を借りれば、「僕のワイン中で唯一のブロンド」)に湧き、キアヒヴェークの墨絵のように抑制の効いた美しさにため息をつき、ホッホラインの野太いミネラルに感服し、アハライテンの圧倒的な存在感に言葉もない…大体そんなストーリーを描くのです。

ところが夏の試飲では、最後のリースリング アハライテンにちょっと物足りなさを感じました。GVアハライテンが、まるでリースリングかと見紛うミネラルの塊だっただけに、「うーん、ルーディったら、2010年に入手したGVの区画に力が入るあまり、リースリングが多少おろそかになったのかしら?」とすら思ってしまったほど。正直2004年ヴィンテージ以来欠かさず味わってきた彼のリースリング アハライテンの中では、最も個性に乏しいとしか思えませんでした。
思ったことがすぐに顔に出てしまうプリンセス。どのようにコメントしたものか、とシドロモドロになっていると、表情を読んだのか、ルーディーが「アハライテンはディーヴァだからね。今日はちょっとご機嫌斜めかな?」と全く意に介していない模様。けれどプリンセスは、このアハライテンがルーディーの言うようにご機嫌を直していつものポテンシャルを開示してくれるのか、或いは難しいヴィンテージとなるのか、とても気になっていました。
アハライテンのリースリング区画。写真はルーディのサイトより。
風化したクフューラー・クナイス(花崗岩の一種)が圧巻。
そして、この日のテイスティングを迎えました。
最初に口に含んだ印象は、やはりかなりムッツリ。ただ、空気に触れている間に、少しずつですがいつもの圧倒的ミネラルの兆候が顔を見せ始めました。ソムリエのG氏はそれを「本当に石のミネラルだけで他は削ぎ落とされたような」と表現。ルーディーも「そう。雨が降った後の石を舐めているような味わい」と同意し、さらに「アハライテンは石のミネラルだけではなくて、木の皮のような香味もあるんだよ」と付け加えました。なるほど。若いうち「苦い」と否定的に捉えられがちな味わいは、確かにそんな風にも表現できますね。そうこうしているうちに、ワインはどんどん味わいに表情を増して行きます。
プリンセス驚きました。そして正直に告白しました。「前回味わった時、このアハライテンだけは、ミネラルすらあまり感じられないやや平板なワインに思われたけれど、今日は別物だ」と。

するとルーディがこんな話をしてくれました。
父の仕事を継いだ最初の年造ったアハライテンがリリース時には全く平板で、8つもの仕事を兼業しながら造る父のワインより、専業の自分が造ったワインの出来が悪い、と散々落ち込んだんだ。ところが2,3年後、素晴らしいワインになっていて驚いた。アハライテンはディーヴァだからね。とても気まぐれで、なかなか笑顔は見せてくれないんだ。一番大切なのは、しっかり時間を与えるってこと。それぞれのワインにはそれぞれに必要な時間があって、そのワインが個性を発揮するまで、ちゃんと待ってあげなければいけない。

そういう話はよく聞くのですが、この時ほどそれを実感したことはありません。ようやく2011年のディーヴァは微睡から覚めかけ、起き抜けにウィンクをしてくれたかな、という感じです。そんな状態でヴィンテージ個性を云々するのは時期尚早かも知れませんが、10年とは対照的であることは間違いなさそうです。

因みに多少斜めなご機嫌を直していただきたいとか、微睡から早めにお目覚めいだきたい場合、ルーディーが勧めるのは、空気接触面のあまり大きくないカラフェを使ってのデカンタージュ。ワインのボトルが最適で、穏やかに空気に触れさせるのが肝心。赤ワイン用の横広デカンタは、あまりに急激な空気との接触によりワインがショック状態に陥るのか、効果薄だということです。ご参考まで。