けれど彼のフラッグシップ畑のAchleitenアハライテンがあるのは、そのまた2つほど東に進んだWeissenkirchenヴァイセンキアヒェン(PragerのToni Bodensteinが市長を務める)。
畑が見たいというソムリエG氏の要望を伝えると、「今年はブドウの状態がとてもいいので、例年と違って収穫期の今もリラックスしていられるよ」と笑顔のルーディは、「畑を見る前に少しこの辺りを理解してもらおう」と、シュピッツに近い要塞へ。そこから、正面遠くに豆粒のように見える、アハライテン西側の斜面を指さしました。
そう、アハライテンは丁度コルトンシャルルマーニュのような畑で、南東から南、南西、真西まで、山をグルっと囲むように畑が存在します。
ルーディのアハライテンはほぼ真西に近い南南西向き。その斜度は、プリンセスの知る数あるオーストリアの銘醸畑の中でも一二を争うキツサです。
ところでルーディの完璧主義(貴腐ブドウの除き方、セラーの清掃の仕方、スキンコンタクトや澱下げの仕方…)については、プリンセスももう何度も雑誌やら拙著やらブログやらで書き連ねていますが、実は畑も完璧な状態でないと、なかなか見せてくれません。中でも看板畑アハライテンを見るのは、プリンセスも既に8年になる付き合いを経て、たったの3回目。2度目のオーストリア訪問で案内してもらえるG氏は非常にラッキー(初夏にオーストリアを訪れ、私と一緒にワイナリー訪問をした皆さんも超ラッキー)。
Achleitenはヒト畝一列しか植えられない超急斜面。photo: Yae Kurachi |
畝を上りながら悪玉蜂をペットボトルで捕える工夫や、CO2フットプリント論のナンセンス(これについてはまた別の機会に)、ルーディーお気に入りの巨石(所謂クフューラー・クナイス=花崗岩の一種)、悪玉貴腐(ほぼゼロ)、善玉貴腐、貴腐のつき始めたブドウ…などなど、完璧に手入れされたグリューナーの畑で色々説明してくれました。
そして、見事に縮み上がった完璧な貴腐ブドウを発見したときのこと。「食べてごらん、これがベストな貴腐だよ」と差し出して来ました。丁度いいと思い「こういう完璧な貴腐でも落とすのよね」と、プリンセスは念を押してみます。するとルーディーに「おいおい一体何年付き合っているんだい?」と笑われてしまいました。
そうです。どんなに美味しい貴腐でも、彼は絶対スタイルとして、自分のワインに貴腐ブドウは入れません。
2010年に手に入れたアハライテンのグリューナーの区画。右の巨石が彼のお気に入り。 リースリングはこの下方に植えられています。 |
例えば、コールドマセレーションンをしっかり行うため除梗をする。最長で3日にわたる長いスキンコンタクト(果皮には土壌の指紋がついている、と信じるルーディーの変わらぬポリシー)、丁寧な澱下げの後、澱に含まれた果汁もフィルターにかけて果汁に混ぜて発酵する(ブドウが完璧なら、澱に含まれた果汁も完璧)。長いスキンコンタクトで上がり気味のpH果汁を危険に晒さないため、ステンレスタンクによる温度管理下で発酵し、必要があれば培養酵母を使うことも。一方で品質のため、SO2添加は完全にアルコール発酵が終わるまで一切しません。そして発酵後のグロス・リーは、ワインに不要な膨らみを与えるので、早めに引いてしまいます。最近は多くの生産者が肯定的に捉える木樽の持つある種のラウンディング効果も、彼にとってはむしろ邪魔‥。
こうした、自分のスタイルに到達するための、実に一貫した、残すものと排除するものの厳格な見極めと徹底こそが、彼のワインのウルトラ硬派な魅力につながっています。
しかも彼の場合、残す・残さないの両方の選択肢がある場合、与える選択と排除する選択が存在すれば、ストイックなまでに落とす方を取る。ミニマリズムにも喩えられるギリギリの厳しい選択こそが、彼のワインのスタイルを決定づけているのは間違いありません。
では、そのテイスティング・ダイジェストはまた次回。
※写真は断りのない限りRudiのウェブサイトhttp://www.rudipichler.at/en/rudi-pichler/the-winemaker/より