2012年5月22日火曜日

霜の害から実感。北国のワイン造りの厳しさ。

霜の害は思ったよりずっと深刻です。
お城ワイナリーとしては、おそらくここ20年来で最大の霜害…。ミッヒが修道院からワイナリーを引き継いで最悪の被害だそうです。

降りたその日には、ただ単に葉がぐったりしたようにしか見えませんでしたが、今日色々な畑を見て回ると、畑によってはほぼ葉が全て茶色になっているところもあります。葉が全て落ちて木が裸になっているようなところすらあります
これから実になる部分も緑色が失せているものは、すてに乾燥して触るとパウダー状に。完全に死に絶えています。うちの畑はざっとみたところ、半分以上がダメですね(因みにシュタット・クレムスは30%程度の被害、とか)。
2月にマイナス20度近辺まで耐えたブドウが、時期が遅いと、たったのマイナス1-2度の霜でここまでやられてしまうとは…。

もっと早い時期なら、ブドウはせっせと新しい実を用意します。今年はちょっと時期が遅過ぎた…。これから仮に新しい実がついたとしても、収穫は大幅に遅れるし、最もベーシックなグレードのワインに使えるかどうか、という質しか望みようがない。だから生き残った古い実と、これから出る新しい実は、厳密に分けて収穫しなければなりません。普通房選りは、グレードの高いブドウにしかしないものなのに、です。

収穫量が半減すれば、今年の収入も半減する訳ですが、何故か雹の保険はあるけれど、霜はないそう。
ワイナリーにとって一番辛いのは、けれど収入が半減することより、来年ワインを届けられるお客様が半分になってしまう、ということ。「残りの半分のお客様は、他のワインを飲むことになる訳で、そのままウチのワインに戻って来ない可能性も高いでしょ。」と、婦人エファは目に涙をためて、私にそう話しました。

霜は当然標高の低い平地の畑の方がひどいし、だからリースリングよりもグリューナーの被害の方が大きい。そして、同じ低地の平地に植えられていても、グリューナーより、ツヴァイゲルトの方が霜に弱いよう。また、同じ区画の同じ品種であれば、仕立ての低い木の方が被害が甚大

先日「北の仕立てはフォリアージュを大きくとって光合成を最大限行う必要がある」と書きましたが、それも勿論のことながら、霜対策としても仕立てをあまり低くできないんですね。
そして緯度の高い産地ほど急斜面の畑を重用するのは、日照角度もさることながら、霜の害を受け難い、ということも大きな原因であり、そういう場所にしか植えられないからこそ、北国のブドウは、あんなに繊細でミネラルの詰まった味わいになるのですね。

うちではブドウ畑には化学肥料は撒きません。でも向日葵や小麦の畑には使います。そしてKIP(EU規定に則ったサステイナブル)ですから、ブドウにも必要最小限の防カビ剤は撒く訳です。
ビオディナミや有機農法のワイナリーと比較し、コミットメントが足りないような気が、外から見るとしますよね。
でも、自然相手ということは、こういう酷い被害といつも隣り合わせで事業を営んでいる訳です。家畜や果樹園、穀物…そうした全てを含むと、常に20-30人の働き手を雇う農業事業体としては、せめてこうした猛り狂う自然の猛威からすり抜けたブドウ達には、少しでも危険を減らして健全な実をつけて欲しい、と願うのも、だから病害に対して最小限の薬品を投じ、被害を少なくしたいと考えるのも、また当然でしょう。関係する全ての家族の生活がかかっているのですから。

そういう風に色々思い巡らせてみれば、少なくとも我々、ワインを売ったり買ったり、それについて書いたり教えたりして生計を立てている立場の人間は、ワイナリーの選択を単なるラベリングとして(ビオ、有機、サステイナブル、KIP、サンスーフル…)伝えるのではなく、それが一体何に対するコミットメントなのか、そしてその方針と実践がもたらす、ワインの味わいや質、環境及び経済に対する影響について、広い視野で冷静に様々なことを観察し、ワインにまつわる経済行為の円環の中にいる人間として、バランスの取れた視点から伝える必要があるのではないでしょうか。

…と書いたからと言って、プリンセスがこの霜で一挙に在来農法支持に傾いた、と誤解されては困ります。明日はライタベアクDACのプルバッハより、一見地味、けれど自然農法の本質をまざまざと見せつけてくれたワイナリーをご紹介します。