2012年5月25日金曜日

ビアギット・ブランシュタイン vol.1 畑にて:自然農法の説得力

ライタベアクプルバッハビオディナミ農法のブドウでワインを造る女流醸造家ビアギット・ブラウンシュタイン Birgit Braunstein を先日訪ねました。
まず、2枚の写真をご覧いただきましょう。
mit=with 写真を拡大してよく見ていただければ散布跡も見えます。
ohne=without+Biodynamicの葉。見て、触って、生き生きしているのが歴然。
両方ともGoldbergゴルトベアク畑のツヴァイゲルト。両者はほんの数畝、6~7mしか離れていません。写真も1分と間隔を置かずに撮った2枚です

…はい、前者が"with農薬"、後者が"without農薬 plus α"、つまり後者が彼女の所有するビオディナミで育てられたブドウ。
もう何も言う必要はありませんよね。まず、葉の色が違う。「触ってごらん」と言われて触れてみれば、柔らかさと弾力、フレキシビリティーが違う…
ニコライホーフのサースさんの隣の畑との葉っぱの形状比較(withは凸、withoutは凹で太陽の光を包み込むように受け取る)にも感心しましたが、これはそれ以上の説得力!

しかも驚いたことに、農薬散布の跡の残る畑にずっと居ると、空気が淀んだような、圧迫感(かすかですが気分をムカつかせるような臭いも)があるのですが、ほんの数畝移動して彼女のツヴァイゲルトの中に居ると、爽快な空気が漂うのを感じます。眼下遠くのノイジードラーゼーを眺めて「ああ、なんだか幸せだな」という気持ちになります。
ヴァッハウ辺りでは、「狭い土地に沢山の所有者が混在するヴァッハウのような産地では、自分だけ無農薬にしても無意味」みたいなことが、在来農法の生産者の口からは当然のように言われますが、こういう光景を見てしまうと、全く信憑性がない…

さて、これがそのゴルトベアク畑からの眺め。遠くの光っている部分が①ノイジードラーゼー。ここ、ゴルトベアク最上部まで8kmあります。湖岸から4kmは②葦(黒っぽい部分)と増水に備えた③遊水地(緑の濃い平地部分)。そこから畑になりますが、低地にはブドウではなく、④穀物が植えられています。⑤ブドウ畑の最低部は砂がちな白亜質石灰=レンツィーナと呼ばれる土壌。⑥斜面下部が白亜質石灰で、⑦斜面の上部に行くに従って原成岩が主体になります。因みにライタベアクの原成岩はアルプス東端のもので、ドナウ周辺の原成岩はボヘミア山塊のもの。
7つの異なる部分①~⑦が写真で確認できるでしょうか?

斜面下部の石灰は所謂ムシェルカルクMuschelkalkで、どういうものかはまた後日ゆっくりお伝えします。そして頂上部にある彼女畑の隣では、化学肥料&除草剤を撒き、cover cropは植えずに土を開墾する典型的在来農法が行われていました。土を掘り起こしているので、頂上部分の原成岩がゴロゴロ露出して、おいしいサンプル岩がいーっぱい!
「化学肥料や除草剤を撒いて、畑を開墾するスタイルは、私とは全く違うけど…」
「おかげで丁度いい見本が沢山!」
この石、ビアギットは車でワイナリーに持ち帰ってました。
鉄分が酸化した部分が赤味を帯びたシスト
左が典型的グリマーシーファー(ミカシスト)。キラキラ輝いてるでしょ。右手前はクオーツ。
面白かったのは、この日畑はとても乾燥していたのですが、在来農法の他人の畑の畝の土を指でどんどん掘って行っても、10cmやそこら掘ったところで、土は乾燥したままなのですが、ビオディナミに変えて長いでは、5cm以上くらい掘ると、湿り気が出てくるのがはっきり感じられたこと。

そうそう、在来農法から有機、そしてビオディナミと段階を踏んで少しずつ自然農法を進めて来たビアギットに、有機とビオディナミで違いを感じるかどうか聞いてみました。「大きな差よ。ビオディナミは、上手く言えないけど…小さなヘルパーが沢山存在するのよね」と、ニッコリ笑って親指と人差し指をこすり合わせていました(なんだかその意図するところの、わかるような、わからないような…)
「土が変わるまで7年は必要」
これは今年手に入れたばかりの畑。葉は生き生きしていましたが、
土は掘っても掘っても、在来農法の畑同様乾燥していました。
ゴルトベアク畑を見せてもらった後、プリンセスは“秘密の場所”に案内されました。