2012年2月15日水曜日

日々成長。ユルチッチ訪問記

ユルチッチは買いブドウも合わせると通常100ha分前後を年産するカンプタール最大手。元々ランゲンロイスの修道院所有で、歴史的にもこの町を代表するワイナリーです。よくイベントなどで70年代や80年代のワインが出される場合に「おお」と驚く素晴らしいワインに出会うことがありますが、そんな時ワインはこのユルチッチだった、ということが何度かありました。
ところが、プリンセスがオーストリアワインを飲み始めた2000年代前半あたりから、ワインはやたら新樽が強かったり、ブショネ確率が高かったり(これはワイナリーの責任ではないとはいえ、長年に亘って、しかもあまりに確率が高い場合、どうしてもワイナリー側の品質管理姿勢も疑ってしまう)、なんだかワインが迷走していたように思います。
けれど、09年春に本の執筆のためにワイナリーを訪れると、そこではガイゼンハイムから呼び戻されたアルヴィンが、有機農法を始め様々な新たな試みを意欲的に進めていました。「今後が面白そうだ」と強く印象付けられた記憶があります。

そして1月末、お城ワイナリーで行われたブリュンドゥルマイヤー、ユルチッチとの3ワイナリー合同2011ベーシックワイン・インサイダー・テイスティングで、このワイナリーの良くも悪くもユニークさを確認し、その場でアルヴィンとパートナーのシュテファニー(ともにガイゼンハイムで醸造を専攻)に訪問を申込みました。するとなんと、シュテファニーは私と一緒に(彼女は当然ドイツ語コースですし、収穫&醸造作業のため今は私より半期遅れていますが)、WSETDiplomaコースに通っている、と言うではありませんか! 
こちらに来てスゴイと思うのは、このように有名醸造学校の卒業生、ワイナリーのオーナーやら栽培醸造責任者の実に多くがWSETで改めて学び直す現象。彼らはWSETで学ぶ意義を「世界のワインを比較しながら理解できること」「世界のワイン市場を把握できること」と指摘しています。逆に言えば、我々栽培&醸造のシロウトは、いつでも専門家に、生徒間でテクニカルな質問をすることができます講師の実に多くが授業中に醸造家である生徒に説明を求める場面にも何度も出会いました。

さて、話が横道に逸れました。
「良くも悪くも」と書きましたが、肝心のワインはどうなのか? …この訪問の目的は、1)3ワイナリー・テイスティングの際に気になったノーズはどこから来るのか。単にラッキングが遅く、一番イースティーなだけなのか? 2)アルヴィン&シュテファニーの試みの理想はどこにあるのか 3)それはどこまで達成されているのか を解明することでした。
 まず、正直プリンセス的に3ワイナリー・テイスティングで、他の2つはスタイルの違いだけれど、ここだけはやはりレベルの違い(否定的意味で)がある、と思ったのです。それはノーズにややモタついた、不快とまでは言いませんがピュアではないモノがあり、それが有機農法やより自然に近い醸造法にあるのか、単にワインが遅咲きタイプでイースティーなだけなのか、よくわからなかったのです。
瓶の大きさによる熟成度合の実験
エアステラーゲはすべて木樽による自発的発酵&熟成

結論として、1)技術的詳細は省略しますが、アルヴィン自身がノーズを「フムス(腐葉土)とまで言っていいかわからないけれど、森や土、ハーブの、いかにもビオ的な香りが好き」と肯定的に説明していましたから、これは彼らのスタイルです。プリンセス的には、これがワインを垢抜けなくしているような気がし、もう少しピュアな方が好きですが、ここを好みの問題として片づけるか、醸造学上の微細な欠点として捉えるか、逆に過度に管理的醸造に慣らされた舌をこそ反省すべきなのか、は、おそらく議論の分かれるところ
2)彼らは今真剣に、本当の意味でテロワールの味わいをワインに封じ込めるためには何が重要なのか、ひとつひとつ試行錯誤を重ねている過程にあります。例えば、ラムの初ヴィンテージの2006で“テロワールを最大限に表現しようと、ギリギリに遅摘みし自発的発酵にこだわった結果、20g/lの残糖で発酵は止まってしまい、アルコールは高いし、酸は低いし、甘いし、自分達が理想とするテロワールワインとは正反対のワインができてしまったと苦笑。それ以来“収穫のタイミングこそがテロワールを捉えるために最もクリティカルな瞬間”であり“全ての畑作業はセラーワークよりずっと厳密に『ジャストな瞬間』に行われなければならないことを学んだ”と二人は語ります。
3)そんな発展途上のユルチッチのワインは、エアステ・ラーゲものについては、例えばラムについて自ら “ベイビー・ラム”と呼ぶように、その真価を十全に発揮しているとは言えないかもしれませんが、グリマー・シーファー土壌のロイザーベアク リースリング2010は例外。磨き抜かれた貫くような酸が素晴らしい! 聞けば酸は2ケタだそうだから、あまり一般向けではないかも知れないけれど、「冷涼な産地の冷涼な年のワインはこうでなくっちゃ!」とプリンセスは思いました。勿論減酸は一切しません。
そして、現時点で何より評価すべきは“グリューナー・ヴェルトリーナー カンプタール 2011”と“グリューナー・ヴェルトリーナー シュタイン 2011”のふたつのベーシックなDACカンプタール。セラードアでそれぞれ€5.40、€6.20の実にリーズナブルなワイン達です。前者はローム土壌の、後者はその名の通り原成岩土壌のブドウからできています。この価格でしっかりと“テロワール”の個性を造り分けているところに、彼らの“意志”をはっきり汲み取ることができますアルヴィンも“両者をブレンドしてベーシックなカンプタールDACを造るのは簡単”と言っていました。こうしたリーズナブルな価格でテロワールワインを見つけられるところにこそ、オーストリアワインの面白さ&強みがあると、常々プリンセスは考えているので、願ってもない好例に出会えて嬉しい!
そしてシュテファニーからは“我々は質的により向上し、量的には縮小することを選んだ”と、そのため2010年から1ℓ瓶ワインの生産を中止したと説明されました。“質的にも量的にも”を目指すワイナリーが多い中、彼らの“本気”と“真摯”な姿勢を見せていただきました。
上部に見えるのが1936年のGV 100%のゼクト
彼らのインスピレーションを痛く刺激
右手前がロイザーベアクの石。剥離状のグリマー・シスト。
「黒カビはまだしも白カビは悪い影響があるかも知れない」と現在安全性を分析中
6月には来日を予定しているというアルヴィン。おそらくプリンセスの次回帰国と被ると話すと「じゃあ、何か一緒にやろう!」と話は盛り上がり(プリンセス、咳込みながらですが : ます。
アルヴィンは「僕たちは日々自分達のワインがどうあるべきか討論している。理想はひとつだけれど、スタイルはどんどん変わる可能性がある」と語りました。

彼らは天才肌ではない。けれど日々改良を惜しまない信頼できるネクスト・ジェネレーション! プリンセスもその成長を応援したいと思います。

では、アルヴィンに2010と2011ヴィンテージについて語ってもらっていますので、ビデオをどうぞ。