さて、会場のイル・チルコロは代官山駅30秒の立地にある、15人も入れば満杯のコジンマリとしたイタリアン。三浦さんの暖かく明るいサービスと後藤シェフの心と技のこもったお料理、若い二人の息のあった親密な空間が魅力です。
今回の柱はふたつ。ひとつはグリューナーだけでない、オーストリアの多面的魅力を知ってもらうこと。そしてもうひとつはBartolo Mascarello バルトロ・マスカレッロの蔵出し手持ち帰りバローロマグナム1990(おまけにマリア=テレーズのサイン入首掛けラベル付き)と同じく現地購入手持ち帰りDosio ドージオのバローロ1990をイタリア料理で堪能すること。さらに付け加えるなら、ピエモンテとニーダーエスタライヒの持ち味のコントラストが描けたら最高だな、と思っていました。
午後6時半、昨日お店に持込み、お昼過ぎには抜栓をお願いしておいた2つのバローロが非常に素晴らしい状態であることを確認した段階で、このワイン会は成功!…とプリンセスは確信しました。
ゲストもワインに負けずに多彩な面々で、予想通りとっても楽しい会になりました。
最初のVilla Franciacorta Brut 2006は、熟成感もあり、前菜"ブラウンジャンボマッシュルームのフリット"のくぐもりのある旨味によく合いました。
次の"Schloss Gobelsburg シュロス・ゴベルスブルク Grüner Veltliner Steinsetz グリューナー・ヴェルトリーナー シュタインセッツ 09"は、お城ワイナリーの上級(=エステイト)ラインの中では最もベーシックなベストセラー。暖かい09の小石土壌ということで、果実味の凝縮感はあるのですが、ストラクチャーが10年などより多少緩いので、もう少し冷やしてもらうべきだった…。でも"手打ちパスタ・タリオーリ お肉と根菜のラグー"の、根菜とはとてもいい相性。
同じくShcloss GobelsburgのZweigelt ツヴァイゲルト 09は、「親しみやすいがややフィネスに欠ける」ことの多いZweigeltを、オーストリアいちエレガントに造った、いわば隠れたレアもの。元々このツヴァイゲルトはSt LaurentとBlaufraenkischの交配品種。そしてSt LaurentはPinot Noirと不明品種の自然交配なので、血統的にピノのクオーター。ピノ・ファミリーの末っ子的存在。お城ワイナリーでは、大半の果実をDomaeneやGobelsburgerといったベーシックなワインに回し、このSchlossラインは最高のブドウだけで造っています。ピノの血筋にフォーカスした、なかなかの傑作! ラグーと合わせることを想定して選びましたが、実際には最後の"牛肉のほほ肉の赤ワイン煮込み"にも、バローロとはまた違った趣でよく合いました。
続くHiedler ヒードラー Riesling リースリング Heiligenstein ハイリゲンシュタイン 08は、「Steinhaus 2010欠品のため、ほんの少し在庫のあった2段階くらい格上のフラッグシップワイン Heiligensteinの08ヴィンテージを、格安価格で出した」という、プリンセスのみの知り得るインサイダー情報を嗅ぎ付け「じゃ、それ飲まなきゃ損!」ということで、これは国内調達。08らしく派手なところはありませんが、エクストラクトとミネラルのしっかりと中身の詰まった味わい。その内に秘めたエネルギーが、お魚(旬魚のソテー スルメイカとトマトのソース)によって引き出された感じです。このブログにも何度も書いていますが、トマトとリースリングは毎度のことながらいい相性。
そして、ふたつのバローロが注がれます。ドージオはどちらかと言えばバラの花びらなど植物的な風味の優勢な、いかにもLa Morraな品の良い個性。バローロとして、いわゆる中堅生産者のもので、90年は正直ピークを越していても不思議はない、と思っていたのですが、いえいえ、とても美しいワインでした。
一方のマスカレッロは、さすが90年。強くて豊か! バローロを"タール”と表現するのが何故だかよくわかる、お手本のように濃密なキメの細かいネットリ&クログロとしたタンニン。本当に複雑なワインで、土、ミネラル、ブルーン、チェリー、バラ、黒トリュフ、木の皮…と、時間の経過に従い、様々な表情を見せてくれます。でも、22年経過しているとは信じ難い、若々しいベリー風味に溢れます。いやあ、すごい!少なくともあと20年は美味しく味わえそうな果実味の鮮度&エネルギーです。周囲の誰もがロト・ファーメンテーション&新樽を採用し、シングル・ヴィンヤードのバローロを造る動きの中、父娘にわたって、頑固に黙々とウルトラ・トラディショナルを貫くことの潔さと、信念の強さが、ワインからビシビシと伝わってくる…。プリンセス、涙が出そうでした!
また、バローロの後にツヴァイゲルトを飲むと、正しく歳を重ねるということがいかに素晴らしいことか、また逆に若さの魅力とはどういうものなのか、をしっかりと感じ取ることができました。
さて、ドルチェに合わせる予定だったワイン(リースリングのアウスレーゼクラス)が、まだ手許に届かなかったため、プリンセスの大好きなルストの生産者、Wenzel ヴェンツェルの、Ruster Ausbruch ルスター・アウスブルッフ 06と、尊敬するサース夫人のNikolaihof TbA 01、という凄いワインのハーフを2種投入。参加者に好きな方を選んでいただきました。ただ、デザートを元々のアウスレーゼに合わせ「甘味をやや控えてフルーツの酸を生かして」とリクエストしていたため、ワインに負けてしまわないか心配でしたが、いかにもルストの貴腐らしい輝くような酸のあるWenzelは、見事にデザート"イチゴのババロア ベリーソース"をブライトに引き立てました。ニコライホーフはかなり貴腐香の強いタイプで、熟成香も出ており、ちょっとこのデザートには重く濃厚すぎましたね。
ピエモンテとニーダーエスタライヒのコントラスト、という意味では、以前内藤師匠のお店でブルネッロの会をHeidi Schoereck ハイディ・シュレックの貴腐で〆た時の方が、イタリアの豊満&妖艶と、オーストリアの透明&端正な個性の対比は鮮やかだったような気がします。ピエモンテとオーストリアはむしろ性格的に近い…今度熟成したブラウフレンキッシュとバローロの対比も是非やってみたい、と思うプリンセスでありました。
イル・チルコロの三浦さんと後藤さん、そして参加して下さった皆さん、本当にありがとうございました! 皆さんと素晴らしいワイン達をシェアできて、プリンセス幸せです!!