なので、ワインオタク以外の読者の皆さんのために、簡単に解説しておきます。
オーストリア、Weststeiermarkヴェストシュタイヤーマーク(西シュタイヤーマーク)の、Blauer Wildbacherブラウアー・ヴィルトバッハーというブドウから造られたロゼワインのことをそう呼びます。プリンセス的には「世界一酸っぱいロゼ」。或いは、「酸っぱい」が美味しいそうでなければ、「世界一酸とミネラルの凛々しいロゼ」、とでも申しましょうか。
ブラウアー・ヴィルトバッハー。野生に近い起源の古いブドウ |
おそらくオーストリアでも、シルヒャーがブラウアー・ヴィルトバッハーというブドウから造られていることを知っているのはプロやワイン愛好家だけで、通常シルヒャーと言えば、ヴェストシュタイヤーマークのブッシェンシャンク(宿付酒場)で、シノゴノ言わずに喉を潤す自家製ワインを指します。宿泊客はそこで出されたワインをほぼ自動的に飲むわけですから、あまり質が顧みられなかったのも事実。ですから、お隣スュドシュタイヤーマークあたりのグルメの中には、あからさまに「シルヒャーなんてプロの相手にするもんじゃない」という態度を見せる人も多い。
ちょうどウィーンや近郊のホイリゲで出されるGemischter Satzゲミュシュター・サッツが、長く安酒の代名詞に成り下がっていたのと、パラレルな現象です。
さて、21世紀に入ってゲミシュター・サッツがちょっとしたルネッサンスを興しているのと同様、このシルヒャーもReitererライテラーやStrohmeierシュトローマイヤー等、ブッシェンシャンクを持たないワイン専業の生産者がポツポツと現れ、シルヒャーが本来持つポテンシャルを十全に発揮した魅力溢れるワインが出揃うようになってきました。すると、地元でよりむしろウィーンや国外のワイン愛好家が偏見のない目でそうしたワインを高く評価し、少しずつ再評価の動きが全国的に広がっているところです。
ところで、製法の話もちょとだけするなら、シルヒャーのピンク色は決して淡くないので、アルコール発酵が始まってからの短期の果皮マセラシオンであの色を出していると想像しがちですが、
ふ ふ ふ
ブラウアー(blueの)・ヴィルト(wild)バッハーのブルーの色素は、その名の通りワイルドな位に強烈! あの結構濃いピンク色は、アルコール発酵前のスキン・コンタクトで得られるものなのです。
見よ、この黒々としたいかにも厚そうな皮! |
酸フェチのあなた、ミネラルオタクのあなた、正調冷涼ワインフリークを自認するあなた、そうです。あなたのためのワインです : )! ん? オタク以外の読者のための解説だったはずが…
もとい。気を取り直して : )
ワイン単体では「この酸はちょっと辛い」と思う人がいても不思議ではありませんが、そういう方には、是非塩気と脂の多い料理を食べた後にシルヒャーを飲んでみていただきたい。
やや過剰な酸と固いミネラルが、いい具合に塩気と脂分と溶け合った時、病みつきになる旨味が生まれるのです。酸フェチ、ミネラルおたくの旗頭であるプリンセスをしてなお、やはりシルヒャーは、少なくともクラシック・タイプは(ドサージュのある泡やラーゲンヴァイン、マロをしたシルヒャーはまた別ですが)、お料理と一緒に楽しんでナンボのワインだと思います。それも手のかかってない素材命のやつね(上下の写真参照:ブッシャンシャンクのコールドミート中心メニュー。こちらでJauseヤウゼと呼びます。日本の塩のちょっとキツメの田舎料理や居酒屋メニュー、中華なんかにもピッタリの品が多いはず)。
ところでプリンセス、明日からウィーンとドナウ周辺産地をあちこち取材やらアテンドやらで飛び回る予定。まだその準備もできていませんので、シルヒャー・テイスティングと超特急インタヴューの様子は、また電車の中ででも書くこととします。ちょっと待っていて下さいね!
※尚今日のブログの映像は全て公開画像を利用しています。悪しからず。