2011年9月11日日曜日

2010年スマラクト・レポート                 酸&ミネラル・フェチの私は感動!

99日(金)の午後、ヴァッハウWachauのヴァイセンキアヒェンWeisenkirchenで開かれた“スマラクト2010 Smaragd 2010”というイベントに行ってきました。
ヴァイセンキアヒェンはヴァッハウ中部の典型的な愛らしい田舎町で、
メルヘン風情が漂います。


距離的にはゴベルスブルクからおそらく25km前後しか離れていないと思うのですが、
バスも電車も
1時間に1本か、悪くすると一日3本、みたいな土地柄なので、
電車とバスを乗り継いで、
1時間から2時間かかってしまいます。

しかも私はこの教会の足元にある会場を見過ごして…
このリボンがついていれば、翌日もまた戻って来てテイスティングできます。

北のワインが大好きな皆さん、2010年はあなたの年です!

小さな会場には、産地毎、畑別に並べられたスマラトばかりがずらり98
満員の会場。今日はリースリングにフォーカスすることにしました。
グリューナーとリースリング中心ですが、ヴァイスブルグンダー、ノイブルガー、珍しいところではソーヴィニヨン・ブランなども混ざっています。
あまり大きくない会場に人がぎっしりですから、飲みたいワインを思うようにサクサクとテイスティングできる訳でもありませんし、見知りの生産者や来場者とは挨拶の言葉のひとつも交わさねばなりませんので、正直こういう形式のテイスティングでは、ワインの細かいニュアンスまで味わうことはできません。あくまでヴィンテージや産地・畑の全体的な印象を掴んだり、これまで知らなかった生産者を見出したりできればラッキー、というところ。
とにかく公共交通事情が最悪なので、夕食までに家に戻ろうと思うと、テイスティング時間は1.5時間ほどしか取れません。…ならば仕方がない、今日はリースリングだけに集中しよう、ということで、本来の順番は「1)ドナウ右岸(南岸)→2)デュルンシュタイン、ロイベン→3)ヴァイセンキアヒェン、ヨッヒング、ヴェーゼンドーフ、ザンクト・ミヒャエル→4)シュピッツ、シュピッツァー・グラーベン、シュヴァレンバッハ」となっていますが、時間の関係で、まず右岸をカット。左岸(北岸)も順序とは逆に、シュピッツから東に向かってテイスティングして行くことにしました。パワフルで濃厚なものから繊細なスタイルへ移行するより、逆がいいと思ったのです。

全体的傾向として、2010年は、果実味が豊かな万人向けの09年から一転高い酸とキリリと締まったミネラルが魅力高めの酸と硬質なミネラルを肯定的に評価する“北のワイン好き”にはたまらなく魅力的な年でしょうが、高い酸は苦手、原成岩由来のミネラルは苦くて嫌、という人にはちょっと厳しい、好き嫌いの分かれるヴィンテージでしょう。

ただし、通常絶対的な酸が高くなればなるほど、リンゴ酸対酒石酸のバランスが、前者に傾くものなのですが、この年のユニークな点は、ふたつの酸のバランスが、総酸量が通常の年と変わらない、というところにあります。なので、信頼のおける生産者に限り、ではありますが、酸は確かに高いのですが、尖った青さや金属的な鋭さとは無縁の、円やかな酸になっており、この普通なかなか得られない特徴の両立こそが、このヴィンテージ一番の魅力と言えるでしょう。
また、雨の多い畑仕事の難しい年ではあったのですが、開花期の花振るいなどの影響で、自然の収量減となっている前提の上での雨は、むしろ土壌の深い部分のミネラルを吸い上げることに肯定的に働いたようで、特に古木のブドウを使ったワインなどは、非常に複雑で緻密なミネラルを感じることができます。

また、最近のスマラクトはオイリーでヘヴィー過ぎる、と思っている向きにも、全体的にやや細身で軽めの2010年は、歓迎されるはず。

ヨーゼフ・ヘーグルJosef Höglのワインは一旦消えかけた余韻がふわっと膨らみ戻って来るところがいい。
シュピッツのコーナーにはフランツ・ヒルツベアガーSrもいたのですが、写真を撮る前に逃げられました…。

ヴァッハウでは珍しい石灰岩のSteinriegl.
シュメルツSchmelzもそれらしい伸びのいい柔らかなミネラルのワインを造っています。

2010年は”ミネラル男”、ルーディ・ピヒラーRudi Pichlerの年。彼ほど凝縮間溢れるミネラルを表現できる生産者はいない。

お気に入りのThal畑ではなかったものの、リニアでスタイリッシュなアルツンガーAlzinger(左)のワイン。
テーゲルンゼアホーフTegernseerhofのマーティンのワインは、いつも通りエネルギッシュ。
そういえば、今日はルーカス・ピヒラーとトニ・ボーデンシュタインの姿がありません。

「あ、ちょっとちょっと写真はダメだよ」といきなり叫ぶかと思えば、近くに寄って「グラスが空の時はね」。
エメ、クノルEmme Knoll Jr.って本当に変な人(私、変人好きです:)
実は彼のワインは、超有名どころの中では、最も地味というか、特に若いうちは焦点の定まらない印象があります。
その辺り、ニコライホーフと共通点を感じます。クレムスタールなので今日は出ていませんが、
彼のファッフェンベアクとニコライホーフのフントは、畑が近いこともあり、ダークなミネラルが瓜二つです。
ルーディやプラーガーのRiesling Achleitenや、F.X.ピヒラーのKellerberg、アルツィンガーのThalが出ていなかったり、ニコライホーフやペーター・ファイダー=マールベアクPeter Veyder Malbergが参加していなかったり(消費者にとっては誰がVinea Wachau加入かどうか、なんてわかりませんからね)色々不満もあるのですが、クノル、FXピヒラー、プラーガー、アルツィンガー、プラーガー、ルーディ・ピヒラー、ヒルツベルガーといった所謂ビッグ・ネームの中に、上述した『高くて円やかな酸&複雑で緻密なミネラル』の魅力を備えていないワインは皆無。シュメルツ、テーゲアンゼアホーフ、ヘーグル、ラーグラー、ドナウバウム、ホルツアプフェルといったそれに続く生産者達も、非常に魅力的なワインを造っていることを確認。

私にとっての発見は、ラーライースRalais、ハルツェンライテンHarzenleitenといった、中部ヴァッハウの西端にある畑のポテンシャルの高さ。ミネラルの凝縮感がアハライテンやホッホライン、コルミュッツなど、トニ(プラーガー)やルーディのワインを思わせる(ラーライスはホッホラインのサブ・アペレーションなので当然か)出来。また、上記以外で新たに注目したい生産者としては、カートイザーホーフ=カール・シュティアーシュナイダーKartäuserhof-Karl Stierschneider、バイヤーBayer、フランツ・ピヒラーFranz Pichler、ゲベーツベアガーGebetsberger、といったところを挙げておきます。

番号違いで間違ってテイスティングしてしまったグリューナー数種から推測するに、グリューナーもリースリング同様2010年はスリムで締まったミネラルと豊かな酸の年。ものによってはブラインドで出されると「リースリング?」と勘違いしそうなものすら多そうです。最も冷涼な西部のワインは、品種を問わず、多少味わいがモノトーンに傾きがちかも知れません。

まとめると、2010年は大穴&お買い得に走らず、定評のある生産者のワインに狙いを定めた方がいい、とお伝えしておきましょう。収量の多い中途半端な生産者の2010年は酸が高い分、痩せて尖った味わいになりがちです。もっとも日本に定番として輸入されているヴァッハウの生産者はほとんどトップクラスなので、まず安心です。