昨日は朝9時過ぎの電車に乗って、都ウィーンへ。
元々、3つミーティングが昼、午後、夕方と重なったので、それならMAK(Österreichisches Museum für
angewandte Kunst in Wien:応用美術館、と訳すのでしょうか?)で開催されている”RUDOLF STEINER – Die Alchemie des Alltages”(ルドルフ・シュタイナー 日常の錬金術)をじっくり観て来よう、という算段。
ミーティングの資料やら、テイスティングのためのグラス12個やら、とにかく多種類の大荷物。さらにシュタイナー展のカタログも買って来ようと思っていたので、カメラ持参は断念(って、別に大きなカメラではないのですが、色々持って行くと絶対に何か落としてくるのが、プリンセスの弱点)。
ルドルフ・シュタイナーはワインの世界では、ニコライホーフやニコラ・ジョリー、フィリップ・パカレなどで名高い“ビオディナミ”biodynamics農法で有名ですが、実は音楽、踊り、文学、経済、建築、教育、農業、医薬学…、と多岐に渡る業績を残した知の巨人。当時のオーストリア=ハンガリー帝国(現クロアチア)に生まれ、高等教育をウィーンで受け、スイスやドイツを拠点にその理論を発表、実践しますが、当初から彼を巡っては賛否両論の嵐。ヨーゼフ・ボイス、カンディンスキー、モンドリアン、ミヒャエル・エンデなど多くの芸術家に影響を与える一方で、オカルトだ、非科学的だ、新興宗教だ、と揶揄されることも多かったようです。
今回の展示は、そうした賛否両論のどちらにも偏らず、客観的に、そして多面的に、彼の仕事を紹介しており、肉筆の原稿や絵、構想スケッチから建築模型、使用していた家具から、バレエ作品のビデオ上映まで、色々直接この目で見られたのは有難い。
私の主たる関心はもちろんビオディナミにあるのですが、実はもうひとつ、深堀りしてみたいことがあります。それは実は“エンデの遺言”というNHKの番組をもとに書かれた一冊の本から始まってるのですが、世紀末から第二次世界大戦前にかけて、オーストリア=ハンガリー帝国では、様々なalternativeな資本主義とでもよぶべき経済システムの模索が行われていたようなのです。で、どうやらシュタイナーもその一翼を担っており、銀行を作ったりしているんですね。
現在の資本主義がヒトを幸せにしないことは、誰もが感じていることです。そして、資本主義が浸透し、急速にテクノロジー偏重へ傾きつつあった、19世紀末から20世紀初頭に、現在我々が抱える問題の多くが、実は先取りされています。
シュタイナーを含め、その時代のLebensreform運動の中に、もしかしたら、オルタナティヴ経済システム、地球環境保護、個々の人間性を尊重する共同体のあり方…、そうした全てを包括する、“もうひとつの、もっと人間的な社会システム”の可能性が眠ってはいなかったか。そんな夢想に耽るにも、当時世界の知の中心であったウィーンは相応しい場所だと思うのです。