プリンセスは2年前拙著の中で、このワイナリー独特の収穫隊が昔からずっと収穫を手伝ってくれているご近所の人々であることと、収穫中は毎日昼&夕食をともにし、かつて収穫したブドウがどういうワインになっているかを楽しみながら、自分達の仕事の成果や今後のワインの理想の姿やモチヴェーションを共有する、実にユニークな試みを紹介しました。
あの時はただ聞いた話を「ふうん」と感心しながら、伝え書きしていたのですが、こうして自分が、実際に自分の書いた情景に出くわす、ってなんだかとっても不思議な気分…。
書いたことは全て真実でした…って当たり前ですけど。
ただし、ご近所の『年金生活者』が中心だと言う部分が落ちてました!
それも非常に知的で生活に余裕のある年金生活者達とお見受けします。トミー・ヒルフィガーのジャンパーを着て作業をしているヒトも居るし。
作業がゆったり、まったりなのは年齢上当然ですが、作業自体を楽しんでいるのが一緒に収穫する私にも伝わります。シュピッツ村のお達者クラブ、秋の遠足のお楽しみ、ってな風情です。
また、収穫隊のお昼ご飯は、繁忙期になると、ウチのワイナリーの場合、45分、30分と短縮されるのが普通ですが、ヒルツベルガーさんちは、しっかり1時間とって、食後のコーヒーも当然ゆっくり楽しみます。
しかしお達者クラブが本領を発揮するのは、ヤウゼと呼ばれるコールドミート主体の夕餉です。お手製のブラーテンフェット(豚脂の塊)を持ち込むヒトあり、親父ギャグを飛ばすヒトあり、パーカーの評価やブルゴーニュに対するヴァッハウの価格の低さを嘆くヒトあり…。でも皆本当に楽しそう! 常に笑いが耐えません。
そしてヤウゼと一緒に出てくるワインが凄い。
まずRiesling Terassen Federspiel 2010
とってもシア。透明感溢れる素直なワイン。
続いて今年2011年のGV Federspiel。10月中旬に収穫されたもの。シュトゥルムは随分飲みましたが、発酵がしっかり終わり、透明になった今年のワインを飲むのはこれが初めて。
うわ! パイナップルみたいな甘さと香り。ちょっと酵母っぽくもあり、確かにまだまだベイビーちゃんな感じ。
一方今年のRiesling Federspielは、既に白い花の香りのリースリングらしさがちゃんと出ています。リースリングっておませさんなのね。
そして出ました。Riesling Singerriedel Smaragd 2010。
香りは閉じた感じですが、余韻の長さに格の違いを見せつけます。それに、去年のリースリングなので、アナリシス上は非常に酸が高いはずなのですが、残糖がそれにバランスしているのか、多めの貴腐ブドウの出す蜂蜜のようなトーンの成せる技か、全体としてワインはいつもの優雅なヒルツベルガー・スタイルを保っています。
まだまだ凄いのが出て来ます。06のRiesling Singerriedel Smaragd。
軽い鉱物香(ペトロールと言うには上品すぎる香り)と、その奥になんとも表現し難い甘やかで品の良い熟成香が出始めています。フランツSr曰く、今年のワインは香りが非常に魅力的だけれど、酸がやや低めで、この06とキャラが似ている、とのこと。
そしてGuener Veltliner Honivogel 2009
リースリングの凄いのが二つ続きましたから、正直最初ちょっとつまらない感じがしました。けれど、こういう最高レベルのGVは、リリース後1年くらいフレッシュさを楽しんだ後は、5-6年寝かせて熟女の魅力を発揮するまでは、ちょっとつまらない時期がある、というのが私とヴィネアヴァッハウのミヒャエルの見解が一致しているところ。これからですね。きっと。
その次はブラインドで出て来ました。ビンにラベルはありません。
その姿から当然ヒルツベルガーのもの、と推測するのが自然ですが、やや峠を過ぎかけたイメージで、今まで飲んできたこのワイナリーを代表する畑のワインとしては、個性が感じられません。
なので私は「ヒルツベルガーではない近隣のヴァッハウの少なくとも10年以上熟成したリースリングで、どちらかと言えば寒い年」と読みました。
果たしてそれは、94 Federspiel Riesling。ヒルツベルガーのものでした!
なるほどこれがスマラクトなら、まだ生き生きとしていたはずですし、もっとヒルツベルガーらしい個性もあったはず。
実際、Federspielなのに11月の2,3日の収穫ということで、寒い年と予測したプリンセスの読みは結構遠からず。
面白いのは、フランツSrも、イルムガルト夫人も、これが自分達のワインだ、とは言い切れなかったこと。…そんなものなのですよ。
そして2006年のGV Smaragd Honivogel。そうなんです。ここまで待つとGV独特の、ブルゴーニュ3点セット(新樽+MLF+頻繁なバトナージュ)とは異なる、落ち着いたクリーミーさが出るんですね。
そして最後が2004 Riesling Smaragd Setzberg。11月18日の収穫。この年の12月にプリンセスは最初の本の取材をしましたから、よく覚えているのですが、非常に収穫の遅れた年です。インターナショナルな評価はこの10年の中でも最低の部類かも知れません。
でも、こちらのワイン関係者は、そしてプリンセスも、この04がとっても好きです。線は細めながら、だからこそ感じる儚げな美しさがあります。それに、今飲むと淑女の落ち着きがあるにもかかわらず、若々しい! ピアニッシモながら、決して弱弱しくはなく、確たるメッセージを伝えている――そんなイメージです。
この恐るべき大盤振る舞いの後半に、実は我々3人(ヒルツベルガーでの収穫の機会を与えてくれたヴィネアヴァッハウのミヒャエルとレイカ夫人とプリンセス)に、ヒルツベルガー一家から素晴らしいプレゼントがあったのですが、これからヒードラーさんちでインタヴューがありますので、今日のところは、ここまで。
夕方に写真も加えますが、しばらくお待ち下さい!