2011年11月4日金曜日

ミニ・テイスティング@ヒルシュ

最近思うのですが、確かにワイン・ジャーナリストというのは素晴らしい仕事で、トップワイナリーの当主手ずからワイン――それも必ずそのフラッグシップのワインまで――をいちいちお願いしなくて、しかも丁寧な解説付きで注いで貰え、何か質問があれば遠慮なく心行くまで尋ねることができます。
それも、トップ級であればあるほど、プロモーションで世界中を渡り歩いていますから、英語で問題なくコミュニケーションが取れます

しかーし!

私にとってはそれこそが問題。これじゃいつまで経ってもドイツ語ができるようになりません
それに、ジャーナリストと知ると、ワインを「買わせてくれ」と言っているのに、くれたりするヒトも多いので、気に入ったワインをおちおち注文することもできません。

そこでプリンセスは最近、身分を隠し、ヘンテコなドイツ語でセラードアに電話をかけて、ワイナリーに出向き、オフィスのヒトからワインを売って貰うようにしています。

そう、こちらではアップホーフAbhofと言って、大概のワイナリーは、日曜祭日を除いて、ワイナリーで無料テイスティングができ、気に入ったワインを普通より少し安い価格で買うことが普通なんです。ほとんど車で訪れますから、お気に入りをケース単位で買って行く場合が多いです。とってもいいシステムだと思いませんか?

昨日もご近所のヒルシュHirschまで自転車で行って、日本に戻ってからワイン会で使用するRiesling Heiligensteinと同Gaisbergの2010年を買いに行って来ました。
落ち着いたピンクの枠取りが可憐なヒルシュ家の門。左端はプリンセスの相棒チャリ。

ウチのお城ほどではないにしろ、かなり古い、格調溢れる建物です。
オフィスで働く女性から、「さっき電話くれたヒトね(そりゃあね、ヘンテコなドイツ語に似つかわしい外国人でしょ?)テイスティングはしていかないの?」と尋ねられます。

私は2本しか買う予定もないし、しかも買うワインは決まっているのですが、せっかくのお声掛けなので、ヒルシュの“カンプタールの特等席”とも呼ぶべきテイスティング・ルームにお邪魔し、今日は買う予定のないグリューナー2010を軽いものから順番に試させてもらうことにしました。
ヒルシュのお庭は正にハイリゲンシュタインとガイスベアク。テイスティングルームからの眺めもこの写真と同じ。
尚この写真は8月末に行われたファルスタッフ”ワインメーカー・オヴ・ザ・イヤー”授賞式の様子。

このヒトのGV ラムは、クノルのリースリング(おそらく)シュットと並んで、私を最初にオーストリアに引き込むきっかけになった思い出のワイン。その素晴らしさは、もう色々なところで語っているので、今日はお買い得に絞って書きますね。
テイスティングしたワイン。皆さんも予約の上訪ねれば、全てテイスティング可能。
まず、一番軽い”GV トリンクフェアクニューゲンTrinkvergnuegen”
アルコール分は11.5%しかありません。けれどレモニーな果実味が実に爽快で好ましい。キチっとミネラルもあるし、余韻だって適度に伸びがあります。しかも、鹿さん(因みにヒルシュとはドイツ語で鹿のこと)のラベルが楽しい!合わせる料理を全く選ばない、気軽で素晴らしいワインです。

次にGV ハイリゲンシュタインHeiligenstein
実際のところ、ハイリゲンシュタインにはリースリングしか植わっていません。なので、このハイリゲンシュタインは、ハイリゲンシュタインの丘周辺(おそらくラムの一部やグループあたり)に植わっている、という意味。うちのミッヒーはこの紛らわしい名称を改めるよう、ヨハネスにいつもプレッシャーをかけています: )
まあ私も、畑名は厳密に表示して欲しい、という意味ではこのワインに批判的ですが、ことクオリティーに関しては「超お買い得」、と断言できます。特にミネラルフェチ系のヒトにお勧め。
と言うのは、ラムになると発酵&熟成の半分に大樽を使うため、ミネラルの角がやや円やかになるので、より直截的な弾けるようなミネラルを感じたいヒトには、こちらの方がアピール度が高いと思うからです。しかも価格はラムの半分以下!!

グリューナーをひと通り試すと、「リースリングも、エアステラーゲだけでも?」と勧めてくれるので、お言葉に甘えてハイリゲンシュタインとガイスベアクをいただき、09のエアステラーゲもまだリストにあったので、大傑作09 リースリング ガイスベアクも味わわせていただきました。

私は大筋として、アメリカ人評論家好みのスケールの大きな09年より、高い酸と透明なミネラルが特徴の、やや線の細い10が好みです。
でもこのヒトのガイスベアクに限り、多少残糖が高めで、とっても優しい09が大好きなのです。
オフィスで働くドリス。買いに来るなら当然、という感じでテイスティングを申し出てくれました。
いつの間にかテイスティングをさせてくれたドリスとも打ち解け、結局身元が割れてしまったところで、その大好きな09ガイスベアクをお土産にいただき、再びかぼちゃの馬車ならぬ自転車に乗って、プリンセスは田舎道をお城まで戻りましたとさ。
1時間に1本ない電車に偶然出くわしたので、あまりの珍しさに写真に収めました。
中央の犬小屋みたいな箱がゴベルスブルクの無人駅。左背後の塔がお城の隣の教会。
これだからワイン・ジャーナリストはスポイルされている、と言われても仕方がありません。
でも、プリンセスの矜持として、いただいたワインは、感謝の気持ちを込めて、可能な限りワインのプロかワイン愛好家とともに、そのワイナリーのポリシーを伝えつつ味わうことにしています。