2011年11月8日火曜日

”貴腐の魔術師”ヒルツベルガー収穫レポート   その2 魔術の極意

ジンガーリーデルSingerriedelの畑にはリースリングとグリューナー(こちらはフォニフォーゲルというこのワイナリーが独自につけた畑名で世に出ます)が植えられています。

収穫を始めて長い間、プリンセスは自分がリースリングを収穫しているのか、グリューナーを収穫しているのか、ずっと迷っていました。
いえ、葉のカタチや実の色からリースリングのはずだとは思っていましたが、まずそのお姿があまりに端正で品行方正。ワイヤーに絡みついた実や葉など、全くと言っていいほどありません。

それに食べると、とっても優しい味わいで、酸がリースリングとしては柔らかい
ウチのリースリングとのルックスの違いは、気候や土壌の違いから来るのか、クローン違いか、仕立てや手入れの違いなのか…非常に気になるところです。




ところで、ヒルツベルガーと言えば貴腐の混入率が高いことで有名
沢山貴腐を残す、となると、決定的なのが「善玉」と「悪玉」をいかに見分けるか、ということ。

作業の最初に、フランツSr.から「これはいい貴腐、これは悪い貴腐」と説明を受けます。その説明を彼はなんと「ガンツ・ラーングザーム(=ゆーっくりでいいよ)」と締めるではありませんか!


しかも「これはどう?」「あれはどう?」と尋ねると「食べてごらんよ」と勧めるばかりか、紛らわしい状態の実を見せると「うーん、これはどうだろうね?」と自らお毒見。見れば、周囲の収穫隊の面々も、実を食べたり吐き出したりしながら作業を進めています。
なーんだ、プリンセス方式じゃん、と勝ち誇ったような気分になる、能天気なプリンセス : )
左がお城ワイナリーで主に用いている鋏。右がヒルツベルガーで使われている鋏。
左の方が太い梗などをガシガシ切るには楽ですが、チマチマ粒よりで選果するには圧倒的に右の方が使い易い。
当然作業速度は非常に遅く、同じ量のブドウをバケツに入れるのに、感覚的にウチのワイナリーの倍はかかっているでしょう。いや、もっとかも知れません。…それでも置いて行かれるプリンセス…。

何より私を驚かせたのは、選果を粒よりでしていると、ポロポロ実が落ちてしまうことも多いのですが、たその実をひと粒ひと粒拾って歩く、その姿!



作業が困難な急斜面の狭い畑が殆どのヴァッハウでは、そこまでブドウひと粒ひと粒が貴重だ、ということです。
だから貴腐も、いい貴腐であればひと粒残らず使います
かがんで、落ちた実を一粒一粒拾います。
あっちでも、こっちでも、こうして腰をかがめて。
意外なところで変に潔癖症なプリンセスは「疑わしきは排除」の精神で、ちょっと茶色がかった怪しい実は結構サクサク落としていたのですが、正面で収穫をしていたお爺さんやフランツSrが「これは皆いい貴腐だよ」…と言って、一粒一粒拾って行きます。
一方で、「絶対混入してはいけない」という緑カビ(貴腐を造る灰色カビとは別種)を見落として混入したり…。お城ワイナリーで、かれこれ10回近い収穫をし、随分善玉と悪玉の見分け方にも習熟したような気でいましたが、まだまだですね。反省。
ね。随分沢山貴腐が入っているでしょう?
それにしても、この収穫のやり方から、剪定や摘芽、誘引、除葉、摘果、などなどの作業の丁寧さ、綿密さもまざまざと目に浮かぶ、というものです。

食べて不味い実は入れるな。美味しい実は一粒たりとも無駄にするな。

ヒルツベルガーマジックの極意は、そんなシンプルなところにありました。