2011年11月1日火曜日

ご馳走さまでした!

日曜の夜は、この辺りでは一番の都会、クレムスの町のど真ん中に住む、ミヒャエル・ヴァークナーさん(ヴィネア・ヴァッハウのマネージャー。元日本のインポーター勤務)&レイカさん(日本では趣味だったお料理を、こちらではプロとして修行中)の若いカップル宅にお呼ばれ。「日本語ナイトしませんか」というお誘いに乗って、ちゃっかり泊めていただきました。
ウチのお城もそうですが、古い建物はなんともいい風情を放ちます。窓からの紅葉の眺めも美しい。

町の中心にありながら落ち着いた佇まい。


















クレムスは、中世には人口でウィーンを凌いだという由緒と、学園都市としての活気の入り混じる魅力的な街。

二人が住むのは、16世紀に造られた古い建物の内部をリニューアルした、とっても雰囲気のあるアパート。

そこで、料理のプロであるレイカさんのお料理と、立場上、当然ヴァッハウに精通したヴァークナーさん厳選ワインを味わえる、という幸せを満喫しました。
左からバッサーマン・ヨルダンのリースリング1、シュメルツのGV3、ドナウバウムのノイブルガー3、
ガッティンガーのGV2、ガボールのCF4、そしてF.X.ピヒラーのリースリング4。(数字は飲んだ順番)
最初のワインはパッサーマン・ヨルダンの2010 リースリング アウフ・デア・マウアー トロッケン
ファルツとは言え、やはりドイツ。酸の繊細さと微妙な残糖のバランスが素敵! プリンセスは実はドイツ・リースリングの大ファンでもあります。
どちらかと言えば、これ単体で楽しみたいワインのような気もしますが、極上のパタ・ネグラの塩気&旨みに、微妙な甘さはよく合います。ただし、ハモンの旨みをひたすら引き立てる、辛口のシェリーとの組み合わせとは、全く違った趣。リースリングがハモンの野趣を優しく包み込んで、リードする感じです。
極上のハモン・イベリコをクレムスで食べられるとは思ってもみませんでした: )
見よ、二人の手捌きの華麗さ。レイカさんは近辺で評判のブラッスリー”ラテ”のパティシエ
次のワイン、前菜に合わせたのは、ヴァークナーさんの隠し玉、ガッティンガーのGV スマラクト ヴァイテンベアク 2010。
「ヴァッハウ産で良質なワインは高い」というのが通り相場ですが「探せば値ごろで素晴らしいワインもいくらでもある」というのが彼の主張。これがその筆頭格だそうです。
(レス土壌が少し被っているのか、大樽熟成か、長いリーコンタクトが原因か)クリーミーなインパクトの後に、原成岩のグリューナー特有のスパイスが口中で弾ける、キビキビと気持ちのいいワイン。
超有名畑の近隣畑の、スーパースターに続くクラスの生産者のワインには、思わぬお買い得が隠れている、というのは、スマラクト・レポートにも書いた通り。
グリューナーは通常ニュートラルな風味のワインに分類されますが、
アロマティック系のトラミーナーの子孫だからか、スパイス、香草など香りモノとの相性が非常にいい。
前菜に使われたバジルやマンゴーの風味を立体的に引き立てます。
ヴァークナーさんによれば「2010年ヴァッハウはグリューナーの年」とか。私は試飲会でリースリングしか試さなかったので、両者をまだ比較できませんが、確かにかなり酸が高い年なので、少なくとも新しいうちはグリューナーの方が一般ウケはいいでしょう。でも、ミネラルの力強さ、張り詰めた酸、熟成ポテンシャルという意味で、一線級のリースリングは好き物をゾクゾクさせるでもあります。

続いて2006のヴァッハウを3つ。シュメルツ GV ヘーエレック スマラクト、ドナウバウム ノイブルガー ビールン レゼアヴェ、そしてF. X.ピヒラー リースリング スマラクト オーベアハウザー
リリース直後の新しいワインとは別の魅力を味わって欲しい、とのこと。

スープ、メインの様々な素材との多彩な相性を楽しみました。
ヴァークナーさんの意図通り、ヘーエレック スマラクトなどは、リリース直後はかなりパワフルでオイリーですが、こうしてこなれると、料理を絶妙のコクで引き立てます
ノイブルガーのナッティな香ばしさ、腰太なボリューム感、レゼアヴェの残糖にピッタリだった栗のスープ
左端がリースリングと牛肉の架け橋となってくれたピュレ。エシャロット苦味とは熟成の始まったグリューナーがズバリ
ところで、メインの牛肉には普通赤を合わせたいところですが、脂の強くない、サブスタンスのギッシリ詰まった牛肉は、むしろ少し落ち着いたリースリングの稠密なミネラル&旨みと好相性。特に牛のジュ&トマトを合わせたピュレ が、リースリングとお肉の、見事な橋渡しをしてくれました。

さて、私の持ち込んだワインは、ハンガリーはヴィラニー産、注目の造り手ガボールの手になるカベルネ・フラン 07。ブダペシュトのレストランでゲレのCFを飲んで唸り、翌朝ショップに買いに走ったのですが、目的のワインは入手できず、代わりに薦められたのがこれ。「新樽風味と抽出の強いワインは避けてね」と念を押したのですが、アルコールは15%あるし、力の入った重たいボトルに嫌な予感も少々。
実際の味わいは恐れていたほど暑苦しいものではありませんでしたし、黒系のよく熟した果実味が凝縮し、確かに上質なワインではありました。おそらくもっと寝かせて樽風味が果実味に溶け込めば、ネットリと糖蜜のような味わいが楽しめるワインになるのでしょう。
牛肉との相性は、個人的にはリースリングの方が上だったと思いますが、オリーヴと牛肉を一緒に食べると、赤もさすがにいけました。それでもやはり、もう少し新樽率と焦がしを控えめにするか、もっと長期樽熟成をするかして欲しいし、抽出もそこまで頑張らないでくれたなら、より牛肉に寄り添ったハーモニーが楽しめたはずだし、CFらしい透明感も、少しは出たはずです。
ああ、でも今思えば、あのワインはタレに漬け込んだ焼肉のロースあたりにはピッタリかも知れません: )

さて、このパワフル過ぎる赤ワイン。デカンタするかしないかで意見が分かれました。
ヴァークナーさんは、ボトルのまま自然にこなれるのを楽しみたい、と。私は少しでも強いタンニンを円やかにし、果実味に開いて欲しいので、デカンタを所望しました。
で、半分をボトルに残し、半分をデカンタしてみたところ、なんとデカンタした方は、果実味ではなくて、新樽&焦げ風味ばかり開いてしまい、勝負はヴァークナーさんの読み勝ち: ) という結果となりました。

夜中も、そして翌朝も、日本市場にオーストリアワインを根付かせるには、というテーマで熱く話し込んだ私たち。
オーストリアではまだ何もできず、子供同然の私に比べ、クレムスに根を張る、この30代前半のカップルのなんとも頼もしいこと!

これからもときどきプリンセスと遊んでやって下さい。