2013年3月4日月曜日

ピットナウアー訪問記 エピローグ ゲアハルトの見出したテロワール

先月27日の晩から発症したインフルエンザもようやく平熱に落ち着き、後は咳と気管支炎が収まってくれるのを待つのみ。…怒涛のイベントラッシュにはギリギリセーフとなりますように。

さて、永らく間を置いてしまいましたが、ピットナウアーの最終回です。
実は今回の訪問の重要な目的のひとつが、ピットナウアーの単一畑ものの個性を見極めることでした。…大抵の場合、畑の力はヒトからより畑自体から伝わる割合が大きい。百聞は一見に如かず、の場合が多いのです。けれどこのヒトに限り、ちょっと違いました。
小樽の向こうには空気圧プレスと小ロットのステンレス発酵タンク
12.2%しかないローゼンベアクのStラウレント 2010を味わいながら、ゲアハルトは言います。「これこそ僕のメッセージだ。Stラウレントは決して過熟にしたり、ジャミーになったりしてはいけないんだと。また、2000年に植えたこの畑が、2006年の有機転換1年目に、とても素晴らしいワインになったので、その翌年から、まだ樹齢が若いにもかかわらず、単一畑ものとして売り出すことにした経緯も話してくれました。
熟成する小樽にも細かく区画と処置が書き込んであります
ずらりと並んだ小樽…ですが現在は中樽比率が急激増加中
今セラーを建て直すなら、大樽とコンクリート
の発酵桶をもっと増やしたい、とゲアハルト
そしてStラウレント アルテ・レーベン 08を味わいながら、こんな話を聞かせてくれました。

彼は18歳のとき父親を亡くし、若くしてワイナリーを継ぎます。当初母親と姉とともに仕事をしていましたが、8年後に独立。その時点で4haに満たない畑、ワイナリー周辺の平地の畑しか持っていなかったそうです。その中にアルテ・レーベンの区画も含まれます。

お父さんがゲアハルトの生まれた年に記念に植えたブドウがこのアルテ・レーベン。今丁度48歳です。彼が独立した当時、この辺りではブドウは20年くらいで抜くのが習わしだったそう。収量は落ちるし、ウィルスにやられるものも多かったし、というのが理由。けれど植え替えるには、苗木はもちろん、垣根を新しくし、ワイヤーを張り替えるのが普通。お金がかかります。
また彼は、収量が劇的に減る半面、ブドウの質は少しずつ向上することもちゃんと観察していました。結局ゲアハルトはその区画を残すことを決心。細心の手間と手入れでワインを造り続けました。そしてそのワインによって「僕はプレミアムワイン生産者の仲間入りをすることができた」と述懐します。
!!! 
2つのStラウレントをエビソード付きで味わい、プリンセスようやくわかりました!
やっぱりゲアハルトはプリンセスに意図的にゴルスより西側の、川の運んだ小石と海の底由来の石灰土壌の、風の強い頂上台地の畑を見せてくれたのです!
大切に大切に育ててきた平地の古木が醸し出す、ある種フラワリーで少し青い植物的な香り――ビオディナミ農法に見事に反応し、若くしてその持ち味を表現したローゼンベアク畑に、ゲアハルトは“テロワール”を発見したのです。

誰にでもわかる銘醸サイト、或いは土壌からテロワールを表現したワインを造ることは、簡単とは言いませんが、そういう畑を所有する生産者のある種義務だとプリンセスは思います。
けれど、こうした一見地味な立地の、しかも平地の畑だけからスタートし、4半世紀の時間と労力をかけて見つけた、かけがえのない"テロワール"というものは、もしかしたら予め与えられた銘醸畑より、貴重なものかも知れません。。こうした畑やワインは、それが派手に目立つ訳ではないからこそ、我々ワインのプロを自称する人間や、心のこもったワイン愛好家がしっかり見出し、応援して行きたい、とプリンセスは思うのです。
木製開放発酵&熟成桶がない訳を問うと「高いから」と明快
そんな訳で、ピットナウアーはベーシックはロゼとキュベ。ミドルクラスはピノ。クラスを上げるなら、彼の神髄とテロワールを味わうのなら、Stラウレント、に決まり!!!

※尚ピットナウアーのワインは、3月11日の日本グランドチャンパーニュでの業界向け試飲会@名古屋、そして4月7日に予定しているサンパ@荻窪の愛好家向けワインディナーにお目見えの予定です。