2012年4月24日火曜日

プロイドゥル、本物、太鼓判          その2 センフテンベアク=寒冷限界栽培地

今日は超急斜面のお話しをする予定でしたが、その前段階として、プロイドゥルのあるSenftenbergセンフテンベアクという町について、書いておきたいと思います。

更にその前に、オーストリアワインファンの皆さんが、Wachauヴァッハウ、Kremstalクレムスタール、Kamptalカンプタール、と、ドナウの流れに沿って西から東に並ぶ3大銘醸地のキャラをどう捉えているのか、が、ちょっと気になります。
プリンセスは最初の頃、「ヴァッハウ=原成岩によりスパイシーなミネラル感」、「クレムスタール=レスによる豊かな果実味と円やかさ」、「カンプタール=土壌は色々だけど寒暖の差が激しいので酸が綺麗で果実味がブライト」と把握しており、高い酸とスパイシーなミネラルに憑りつかれたプリンセスとしては、3つの中でクレムスタールという産地は一番魅力の無い産地でした

一方で私は2001年のニグルのリースリング Privatプリヴァートに惚れ込んでおり、それがクレムスタール産であることが不思議でたまりませんでした。本当にオーストリアワインを飲み始めた頃のお話です。

そしてほどなく、ヴァッハウと地続きの、例えばニコライホーフのフント、シュタットクレムスのグリレンパルツやクノルのプァッフェンベアク、といったクレムスタールにあるドナウ川北岸の原成岩土壌の畑の存在を知ります。ここは要はヴァッハウ最東部と同じ生育環境。従ってワインのキャラもロイベンとほぼ同じ。だから、FXピヒラー、クノル、アルツィンガー、ニコライホーフ(フントとクラウスベアクだけで、他はドナウ南岸だけど)、サロモン、シュタット・クレムスあたりのリースリングの銘醸畑は、全てヴァッハウで最も温暖な地区の味わいとして、類型的に捉えられるのです。

さて、そこまで理解しても、プリンセスの大好きなニグルの味わいは「ロイベン周辺よりも更に透明感が高い。ミネラルもよりタイトでコンパクトな風味」と思っていました。

果たして、訪ねてみれば、ニグルはクレムスタールとは言っても、クレムスの町からドナウの支流クレムス川を5km以上北上した(プロイドゥルと同じ)センフィテンベアクにあります5kmを馬鹿にしてはいけません。クレムス市街とセンフテンベアクでは、夏に同じ時間の気温が4度程度まで差が出るのは普通だと言います。北だから寒いのではありません。夏の熱気はパノニア平原に対して直接開かれた地点から、川が形作る谷(これがタールTal=valley)に沿って伝わります。谷間の狭いクレムス川の6,7kmは、熱気の伝搬効率的に、幅の広いドナウ川の優に10km以上に相当。つまり、ニグルとプロイドゥルのあるセンフテンベアクは、ドナウ最上流、ヴァッハウでも最も冷涼(=オーストリアで最も冷涼=ブドウ栽培の限界地)なシュピッツとほぼ同じ気温ということになります。

そして土壌&地勢。花崗岩の上にGföler Gneis(「クフェーラー=地名の片麻岩」の意ですが、実際には花崗岩の一種)が乗った原成岩の急斜面。それも半端でない超急斜面の断崖絶壁が連なります。現在54を数えるエアステ・ラーゲの中で、断トツの平均斜度41度を誇る畑Ehrenfelsエーレンフェルスがその代表。
つい最近訪れたニグルから見上げたエーレンフェルス畑。平均斜度41度は全エアステ・ラーゲ中最も急。
この時はこれがプロイドゥルの看板畑とはツユ知りませんでした、彼の所有部分の最大斜度は60度。
で、毎回ニグルを訪ねる度に、ワイナリーから見上げていた、廃墟下に広がる超急斜面の畑こそ、そのEhrenfelsエーレンフェルス畑だったのです。
それがニグルの看板Piriピリ畑なのか、と最初プリンセスは思いましたが、マーティン・ニグルに尋ねると、「いや、あれは他人の畑」と素っ気ない。以来なんとなくその畑の存在は気になってはいました。南から南東向きのウルトラ急斜面。どこから見ても超ド級の威容があったからです。

では、次回こそ、その超急斜面の畑の数々と、そこでワインを造るフランツ・プロイドゥル、そしてテイスティングの様子をご紹介します。