2012年4月3日火曜日

「和食とワイン」本当の醍醐味

「和食とワイン」というコンセプトは聞き飽きた…という方、多いでしょうね。
かく言うプリンセスも、既に遡ること15年ほど前、Mシャンのワンコインワインの商品開発プロジェクトで「和食ワイン」だの「魚ワイン」だの、そういうコンセプトが出る度に、「日本人ほど雑食で、世界中のメニューの多彩なゴッタ煮を日常的に食べている民族はいません。これから普及させようとするワインに合わせる食を、敢えて狭めるようなマネは止めましょうよ」と、強く強く主張した経験を持っています。

その私が今、「和食とオーストリアワイン」を喧伝するには、それなりの理由があります
まず第一にオーストリアワイン、特に辛口の白には、ワインの中でとりわけ和食、或いは日本人の食嗜好に合うスタイルが多い…他のどんな国のワインより多い、と思えるからです。
繊細な和食にパワフルで果実味の支配的なニューワールド・スタイルが難しいのは当然として、では高級料亭でよく見かけるモンラッシェ系やムルソーの1erやGrand Cruが、果たして和食に合うでしょうか? 
多くの場合、これらのストラクチャーが堅固或いは豊かで、しかも新樽熟成&MLF&バトナジュ3点セットのワイン達は、繊細な出汁使いや微妙な素材感を圧倒してしまいます。
シャンパーニュ? はい、ヴィンテージもののオートリシス風味は確かに出汁風味にはとってもよく合いますね。ただし刺身や出汁風味が前面に出ないものにはどうでしょう? しかも一流生産者のヴィンテージ・シャンパーニュが料亭ではいくらになるのか、考えると頭が痛い。
シャブリ…。はい、新樽なしの村名もの。これこそオーストリアワインが取って代わるべきターゲットでしょう。周知の通り上質のACシャブリは和食、特に魚介に合います。けれど、その名に胡坐をかいているだけの大半のシャブリ以上の味覚的満足を、オーストリアならそれより遥かにリーズナブルなお値段で与えることができます

「いや、今は和食には日本産ワインでしょう」という声が聞こえてきそうです。
それほど色々国産ワインを試していないので断言はできませんが、日本産ワインの中に、レベル的に本当の和食の頂点と互角に組み合えるものがどれだけあるでしょう? 高級料亭がオンリストしたいと思うレベルのワイン、素材の持ち味を生かし切る和食の真髄に光を当て、更に持ち味を高めるような日本産ワインが、果たしてどれくらいあるでしょう?

「根本から間違ってるよ。和食には日本酒があるじゃないか?」とも言われそうです。
プリンセスも実は、和食と合わせる主役はあくまで日本酒で、ワインは脇役、と最近まで信じ込んでいました
でも、意外にそうでもないんです

寿司、蕎麦、天麩羅、会席、お好み焼き、焼き鳥、鰻、うどん…と様々な和食屋さんにワインを持ち込んで食事をしたり、ワイン会をやったりして真剣に食事と飲み物の相性を探るようになると、日本酒とワインは和食との合い方が全く違う、ということに気付きました。

日本酒は普通、料理が何であろうとそれによってタイプやスタイルを変える、ということはあまりしませんよね。「野菜には本醸造で肉には山廃」といった言い方は、あまり聞きません(プリンセスが無知なだけ?)。実際にワインと日本酒を同じテーブルで比較しながら合わせてみると、日本酒はあらゆる肴に万遍なく合うのですが、ワインほど何かの素材や調理法にピタっとピンポイントで合う、ということがあまりありません。逆にワインは、ビシっと合った時は感激するほど両者の味わいを高め合うけれど、「ウヘッ」と吐き出したくなるようなマッチングになってしまう場合も多々あり
両者の料理との合い方の違いを喩えるなら、風呂敷 vs アタッシュケース着物 vs ドレスのようなモノで、日本酒は全てを包み込むように合いますが、ピタっと寸法の合った時のプロポーションの美しさは、ワインならでは

なので、素材感命で尚かつ皿数の多い高級和食の場合、食事全体を1種で通すなら日本酒でしょうが、皿ごとに合わせるならむしろ風味のヴァラエティーが豊かなワインの方が楽しい、ということに気付いたのです。
また、そうした微妙な楽しみ方の提案は、プロならではの味覚センスを披露する絶好の機会だ、とも思いました。
明日は仁行での鯖寿司にHirsch Riesling Heiligenstein ヒルシュ リースリング ハイリゲンシュタイン08とShcloss Gobelsburg Grüner Veltliner Renner シュロス・ゴベルスブルク GV レナー09を合わせた時の小さな、けれどおそらくとても大切な発見について書こうと思います。