2012年5月12日土曜日

ハンガリー報告 その1

先週授業の一環でハンガリーの一大スパークリング・メーカーであるトェルレイTörley、そしてエゲルEger、最後にトカイTokajを訪問。
ここでハンガリー・コースの授業は行われました。

Törleyは驚きの大企業。そもそもここの系列のゲストハウスみたいなところで授業が行われたし、今回のハンガリー特別クラスの主要スポンサーだったと思われます。ハンガリーワイン業界のドンですね…。ディプロマやMWの試験を受ける上では、こういうところの製造工程やらビジネスモデルやら、マーケティング戦略というのは非常に重要なのでしょうが、ワイン愛好家的にはどうも魅力に欠ける…うーん、でも、実際にやってることはシャンパーニュのグランメゾンも紙一重なんでしょうし、そしてそう考えれば逆に深堀りするのも面白いのかも知れませんが、プリンセス的には、どうもピンと来ないので、報告省略。
sparkling factoryの趣。ここでラズロとペピ・シューラーMWは
「グラン・メゾンもトランスファーはやってるだろうけど、絶対見せないよね」と内緒話をしていました: )
 あ、でもここをガイドしてくれた、ハンガリー最初のMWにおそらく今年中になるであろう製造責任者ラズロ・ラムシクスは、ハンガリーのベストセラーだという、なんともつまらない(失礼!)味わいの甘口スパークリングの品種を問われて"・Can be anything. This is not for you wine lovers, but it is business. We must sell, and it sells."と言ってのけました。
ハンガリーって、ある意味オーストリアなんかよりずっとダイナミックなワインビジネスができる可能性があるんだなぁ、と、その言葉に妙にクールに感心してしまったプリンセス…。

そしてエゲルEger。気候や土壌、地勢的に大きな可能性のある場所ですが、ここで感じたのは社会主義時代の50年という時の長さと重さです。
標高500mに達する、斜面上部の真南から軽く南南東の部分。石灰土壌でエゲル最高の区画。
斜面の上部と下部を分ける道にこのマリア像はあります。

斜面下部。より茶色の強い、重めの土になります。
押しも押されぬハンガリーが誇る赤産地のはずなのに、ナギ・エゲッドNagy Egedというエゲルの代表的サイト周辺でさえ、高樹齢の畑が半ば打ち捨てられていたり、訳のわからない仕立をされていたり…。そんな状況を反映するかの如く、出てくるワインのレベルも正直あまり高くありません。ヴィラニーやショプロンの赤の方がむしろ印象的なものが多い。ただしあの辺のワインは、レベルは高くとも重く濃く、プリンセス好みのスタイルは少ないので、実は赤産地として一番冷涼なエゲルに期待していたし、特に(エゲルに限らず)、タンニンの軽い地場品種、カダルカにプリンセス好みのワインがあるのではないか、と楽しみにしていたのですが、今回のハンガリーツアー中に出てきた限り、カダルカは「緻密なのにしなやかでエレガント」というよりは、「緩いのに固い」という、むしろプリンセスの理想とは正反対のものが多かった…。
ホスト・ワイナリーのものより、彼女のワイン(下の写真)の方が素直で良かった。
一番右のオラス・リースリングが、オーストリアとは異なる豊かな味わいを出していました。

ただし、たった1度の、しかもスポンサー付でオーガナイズされた訪問でお宝に巡り合える可能性は限りなく低いし、高標高の石灰土壌――最もポテンシャルの高い畑、であればある程、民主化後に起こったワイナリーの創設の、そのまた後に植樹された樹齢の低い木が大半。そんな状況の今の時点でエゲルの産地としての可能性云々を語るのは大間違い、と理解しています。

最終日はトカイTokaj
最初に訪れたのが製薬ビジネスの成功の後、トカイにワイナリーを築いたというベレシュBeres。さすがに製薬会社の家系だけあり、ワイナリーは清潔そのもの。セラーの溝や樽を寝かす石ころを敷き詰めた部分へのスピッティングも禁止。当然味わいも一昔前の酸化しきったようなトカイとは真逆の、綺麗で素直な完璧モダン・スタイル。Bone dryのSt Tamas 08, 09 (barrel sample)も、残糖のあるSamorodni 08 (barrel sample)も、非常に余韻が長く、MLF後も強靭な酸、そして色とりどりのスパイシーなミネラルが鮮烈で、とても好感が持てます。
ルーチェの畑からベレシュのワイナリーを望む。
明るいテイスティングルーム(ここは戸外ですが)
プリンセスも改めて意識したのですが、トカイはハンガリーで最北の産地オーストリアの貴腐のメッカ、ルストやイルミッツよりむしろ緯度が高い(ほとんどヴァッハウなどドナウ周辺産地と同じ)。※だからオーストリアにいると、ハンガリー=パノニア=熱い、と考えがちですが、トカイやエゲルはちょっと違います。

土壌も多様なようですが、火山性土壌が主体なため、とにかく石ころが多彩で華やか ※そのメカニズムはおわかりいただけますよね。山がひとつ吹っ飛んで、周辺の様々な土、石、動植物…などなどが粉々になったものがあちこちに散らばり、或いは溶岩となって溶けて流れたものと一体化し…それらが冷えて固まり、実に様々なカタチの石ころを形成しているのです。ベレシュの畑で特に珍しかったのは、黒いオニキスのような石です。
色とりどりの火成岩の小石@ルーチェ畑
標高も200m~500m前後、ということで冷涼で気温差の著しく激しい大陸気候に、十分な雨量、そこへ熱い火成岩――この火成岩の中でもユニークなのはTuf(日本的に言えば軽石?)で、非常に水はけがいい――と激しい気温差に対し緩衝的にはたらく二つの川、それらがもたらす湿気…。
という、世界でも類を見ない実に独自な局地気候を持つ産地です。
アスーベリーを2-3週間貯蔵しておくためのタンク。
ワインの神様St Urban。因みにウルバンは現ハンガリー首相の苗字でもあるらしい。
伝統のゼンプリン山脈産オーク樽が整然と並ぶセラー。
オーナー・ファミリーのメリンダと醸造長。
ベレシュを後にし、次に向かったのがトカイの臍マードMad。ここで伝説の生産者、イシュタヴァン・セプシ氏がバスに乗り込み、付近の畑をバスで巡りながらガイドしてくれます。
MWも思わず手もみしてしまう? 生ける伝説、セプシ・イシュトヴァン氏。
では、セプシ報告は、また明日以降に。