2012年5月17日木曜日

ハンガリー報告 その4 フルミント St.タマシュにうっとり

セプシ氏ご招待ランチは、「こんなところにこんな素敵なレストランが?」と、我が目を疑う、Gusteau Kulináris Élményműhely グストー・クリナーリス・ウンタラカンタラ
実はプリンセス、もう5年以上前に澤辺小友美さんに駆け足でTokajをご案内いただいたことがあり、その時セプシ氏が連れて来て下さったのも、このレストランでした。あの時はトカイのスープと軽快なフォアグラ料理が印象的でした。
セプシ氏宅とレストランの間にある美しい建物。
昔は銀行で、セプシ氏が買い取った模様。
由緒を感じさせるファサードですが、お料理はなかなかクリエイティヴ。
さあ、セプシ氏感動の講義が始まります…って新しいワインが出てくると、簡単な解説をしてくれるだけなのですが、
プリンセスにとっては今までのどんな講義よりも内容の詰まった、忘れがたいレクチャーとなりました。
ポガッチャというのかな、ハンガリーでよく見るスコーンとともに出てきたのは、Szepsy Furmint 09。若木からの軽やかな辛口ワイン。
まず、09=収穫時に大雨、10=雨が多く寒い、11=こんなに乾いた年はかつてない、という3年連続普通でないヴィンテージだったことを解説。またトカイでは暑い年(09や07⇔正反対なのが10)以外マロラクティックをするのが普通であること、などとともに、「現在はトカイ全体の7割が大量生産のミディアム・スイートワインだが、今後はもっと辛口が増える。何故なら異なるテロワールが異なるスタイルの辛口ワインを生む、辛口の方がよりテロワールを反映するワインが造れるからだ」と宣言しました。
ほう、6プトニョスの巨匠もやはり今日日は辛口ですか…と、思いながら聞いていました。
ちょっとソルベのようなブルーチーズのムースの乗ったビーフ・カルパッチョ。
次のワインはSzepsy Szepsy Furmint 09。セプシが2度続いているのは間違いではなく、二つ目のSzepsyは畑名。まだ3年しか経っていないのに、微かなペトロール香があり、カリンのような硬質な黄色い果実のニュアンス。高いけれど幅のある柔らかい酸。これ、ブラインドで出されたら、プリンセスはシュナン・ブランと言っていたかも。辛口にすると6割のブドウを廃棄することになる(つまり、このワインは4割しかない健全果で造られるもの、ということです)ので、この畑の貴腐ブドウと、乾燥して縮み上がったブドウを混ぜ、発酵をアルコール8-9%で止めたワインも将来造るかも、というような話が出ました。
おお、それでも辛口が先なのね…。
ウルバンと合わせたPike Perch 川カマス?
「スロヴァキア・トカイなんか存在しない」
スロヴァキア人生徒達の真ん前でサラリと断言。
 次のUrban Furmint 08あたりからです。セプシ氏の語気がどんどん熱を帯びてきたのは。「銘醸畑がブドウ造りに使われないのは断じて許せない」と。そしてブラックな毒舌も絶好調。トカイ全体の銘醸畑の分布をざっと解説した後、「1865年には北部には全く畑がなかったんだ。だからスロヴァキア・トカイなんか存在しないと、ピシャリ(この辺り、politically correctな人々からは顰蹙を買うでしょう)。セプシ氏はウルバン35ha中2.7haを所有。一部に1920年代に植えられた80年を超す樹齢の部分があるそうですが、「一番いい場所と悪い場所からのワイン、一番収量の低い場所と高い場所からのワイン、価格はどれも同じだからね!」と力説。「土に近い低い仕立てのコルドンで…」と言ったところで、やおら高級レストランの地ベタにかがみ込み、1日中この姿勢でしゃがみ込んで作業をするのを想像してごらん。フルミントっていうのは、何よりも手間と知識、そして忍耐を必要とする品種なんだ
あまりの迫力にテイスティング・コメントを書くのも忘れるプリンセス。でも、思い起こすに円やかで腰の据わった印象を受けました。トカイ唯一のレスを含む土壌というのも頷ける味わい。なんでも08は発酵がなかなか進まず、セラーを温めたり、澱をかきまぜたりし、MLFが始まったのは5月末だそう。元々のpHがあまりに低かったので、マロによるアロマの減少が著しくなることや、揮発酸の発生の危険があり、実際4.0-4.5gと高いそうです。でも、汚い感じはありません。
これはまた、複雑な個性の辛口…。
辛口フルミントの懐の深さを見事に引き出した仔牛煮込み
そしてSzepsy Szent Tamas Furmint 08登場。カマンベールの皮やスモークのノーズ。ボーン・ドライ。フルーツが皆無…軽微なブショネ???…でした
さて、仕切り直すと、先ほどのワインのようなノーズの曇りは全くなく、落ち着いたミネラルの背後に微かなアプリコットや青リンゴ。縦にスッと筋の通った伸びのある透明な酸。テクスチャーはミルキーなのですが、味わい自体は限りなくピュア。非常に長い余韻。岩清水の趣。かねがね辛口フルミントの高いポテンシャルに注目していたプリンセスですが、これは本当にその期待に違わぬ、硬派ドライ・フルミントの見本のようなワイン! 美しい! 土壌は石英の多いトゥーフだそう。キラリ、キリリといかにもそんな味わい
辛口きっての銘醸畑として知られるSt Tamas畑ですが、現在ブドウの4割、ワインとしては6割が辛口。15年前、辛口は一切ありませんでした。恐らく社会主義崩壊後、かつての銘醸畑に一から植樹したのでしょう。セプシ氏は0.3haを所有しますが、固い岩の土壌故、植樹コストが気違いじみて膨大だそう。スパークリングワイン造りも試行しているようですが、何せ収量を上げると酸も下がってしまうため、低収量がモットー。するとスパークリングのベースとしてはガッツのあり過ぎるワインができてしまうということです。

ここでリストにはない、St Tamas Furmint 09まで登場。こちらは5g/lの残糖があり、MLFはなし。08よりはずっと優しい個性です。仔牛の骨髄のトロミと素晴らしい相性。
同じ畑の辛口フルミントでもヴィンテージが異なると、こんなに表情が変わるのですね。

とうとうデザートが運ばれてしまいます。アーモンドのミルフィーユ マジパン添え、ストロベリー・サラダ、アプリコット・ソルベとともに供されたエンディングのワインは??