2013年1月8日火曜日

ロージー・シュスター訪問記 その4 驚きのカレント・ヴィンテージ、08 ブラウフレンキッシュ

ハネス・シュスター最終章。いよいよワイナリーに戻ってテイスティングの巻。
伸び盛りのワイナリーならではの驚きと発見に充ちた時間を、できるだけかいつまんでお話しします。
驚きその1:ゲミシュター・サッツ
バレル・サンプルの2012に続き現行の2011をテイスティング。樹齢60年に達する20種(ハネスとお爺ちゃんが判定できたのが13種。残り7種は不明。全部言える人にはワイン1本プレゼント…嘘:)のブドウより。

この2つ、12の方は瓶詰まであと半年近くあるので、今後の味わいの変化も大きいのでしょうが…、両者暖かい年の同一畑のワインと思えないくらいスタイルが違う!! 
11がマロを起こしてしまったので、12は早めに澱を引いてマロを回避した、という割には味わいは逆…。つまり12は何か重たいのです。11にあるレモニーでフレッシュな酸とフリンティーなミネラルがどうも12には感じられません。…結論。12は収穫ポイントが遅過ぎたに違いない…

こういう試飲をすると、多品種を一度に収穫するゲミシュターサッツの収穫タイミングは、ある意味単一品種より難しく、さすがにウィーンのトップのゲミシュターサッツの生産者達は、その辺の技を伝統的に体得しているが故に、あの独自の軽やかでミネラル溢れるスタイルを毎年表現し続けることができるのだ、ということがよくわかります。

驚きその2:ブルゲンラント・ライン
10月に抜群のコスパでプリンセスを驚かせた現地価格8ユーロ程度のSt Laurentの11の品定め。今日ここに来た一番の目的です。

が、その前に同じブルゲンラントのツヴァイゲルト 11が出されます。これも同価格。いや、こちらも素晴らしい! というか、落ち着いたダークチェリーにシナモン、バラとスミレの香りも既によく開き、一般受けはこっちの方がするでしょう。
そしてお目当てのSt Laurent 11。確かに10のピノと間違うような繊細さと柔かさとは異質。けれど圧倒的な透明感とミネラル、チェリー、そして上質のローズウォーターのような凛とした風味と、一切贅肉のない締まったテクスチャーは、どっちにしてもプリンセス好み

驚きその3:村名のSt Laurentのバレルサンプル
St MargaretenとZagersdorfを試しましたが、現時点ではクレームドカシスのような甘やかな風味を放つ前者の方が、筋肉質のツァーガースドーフより魅力的ながら、5年、10年と時間を経た後には、必ず後者が一層の輝きを放つであろうことは、しっかりとしたバックボーンと緻密な構成から予測できます。
ただ、ひとつこの人の課題として、あまりにブルゲンラント・ラインのレベルが高過ぎて、特に新しいうちは村名のインパクトが多少弱い、ということがあります。この辺は樹齢の高いSt Laurentが少ない、という事情も関係しているのでしょう。
トップアップ用のワイン達
驚きその4:現行ヴィンテージが08のブラウフレンキッシュ
オーストリアの赤プレミアムクラスの現行ヴィンテージは今10年。秋口から11年に変わる、というのが普通です。が、この人のブラウフレンキッシュはベーシックなブルゲンラントも、ルスターベアクも何故か08年。この辺は樽の不具合やら実際のブドウの量やら、アソートメントの統廃合やら、様々な原因があるようです。

08 ブルゲンラント恐るべし!!!
一部新樽での熟成が混ざるため、確かにクローヴのような樽のニュアンスもないではありませんが、チェリー・コンフィのような深みのある果実味に腐葉土的な熟成感が入り、実に魅力的なワインになっています。

一方のRusterbergルスターベアクは、果皮由来のタンニンと、樽由来のタンニンも多いようで(1600ℓの大樽が新樽だった)、長い余韻をそのはっきり感じられるタンニンがかき消してしまうようなところがあります。ですが、果実香味は非常に深く強さもあるので、これも時間の問題で素晴らしいワインへと化けるのでしょう。
つい最近Giacomo Conternoが自身のワインを携えて遊びに来たとか。
驚きその5:最後にSt ラウレント ツァーガースドーフ 07(当然既に完売)を試飲。新樽比率が高い(06に注文した新樽がライト・トーストだったはずなのに、ワインに焦げ風味がつくので、分解してみると内側は何故か真っ黒。全部07年にライトトーストの新樽に変えた)ため、プリンセス的には6年目でもまだ樽風味が邪魔です。が、逆にそのためまるでニューウェイヴ・ローヌのような趣もあり、好きな人にはたまらないかも知れません。

驚きその6:亜硫酸は必須
フリーでmax 30、total 40-55。彼のSO2に対するポリシーを書いておきます。――プリンセスのnon SO2は現地消費ならいざ知らず、輸出ワインには危険過ぎる、という言葉を遮って――「サルファーしなきゃならない時、っていうのがあるんだ。それなしにはテロワールを表現したワインはできないよ。オレンジワインを飲むのは楽しいし、ワインとしてレベルが高いものもある。けれど、オレンジワインはどこのオレンジワインもオレンジワインの味しかしないだろう。ノンSO2のワインはサンスーフルの味しかしないだろう。オリジンを表現したワインにならないんだよ。

各方面から異論も聞こえて来そうなコメントですが、そうだ! その通りだ! と納得するプリンセス。
自家製ターフェルシュピッツ。スープを取るための肉です。
最後にハネスの互いに関連する2つの名言をご紹介しましょう。
驚き総まとめ:畑の重要性
セラーでは年によって、果実の状態によって実に色々なことを変えている。例えばスキンコンタクトの時間、マセレーションの長さ、樽の大きさ、新樽の割合、ラッキングのタイミング、樽熟成期間…。様々なことに「ちょっとしたサジ加減(彼自身は指先の感覚、と言っていました)」が、色々あるのさ。

逆に、畑仕事はつまるところ、太陽のエネルギー(暖かい、乾いた年はこちらに偏る)と土からの養分(冷涼&多雨の年はこちらに偏る)のバランス、そして雨の影響を受けた果実と健全果のバランスをどう取るか、くらいしか工夫はできないんだ。

だからこそ、畑が元来持っているモノによる違いが、圧倒的に大きい。

誰でも「テロワールワイン」っていうけれど、本当にそれを造れる生産者はとても少ない。オリジンを表現できるような造り方を、畑でもセラーでも実はしていない場合がほとんどなんだよ。

※ゲミシュター・サッツで同定できた13品種:GV, Welsch Riesling, Bouvier, Muskat Ottnel, Furmint, Gelber Muskateller, Goldburger, Müller Thurgau, Brauner Veltliner, Weissburgunder/CHA, Zierfandler, Rotgipfler