2013年1月3日木曜日

ロージー・シュスター訪問記 その2 ブラウフレンキッシュ古木プロジェクトの障害とアドヴァンテージ

ブログ読者の皆さん、明けましておめでとうございます!

皆さんはまだ三が日ということでお屠蘇気分だと思いますが、お城ワイナリーは昨日2日から営業開始。新年の挨拶も、「良いお年を」という意味では何度も使いましたが、日本のように年が明けたことに対する「お目出度い」という感覚や感慨は、挨拶を観察していても薄いように感じます。

ということで、お待たせしました!
昨年27日に訪問したRosi Schuster ロージー・シュスター。ハネスにミュレンドーフ駅でピックアップしてもらい、彼の主要所有畑とリース畑をグロースヘーフライン→ツァーガースドーフ→Stマルガレーテン→オスリップ→ドネアスキアヒェン、と、なんと3時間以上にわたって見せてもらった様子の続編です。
普通取材では「畑を見せて下さい」と言っても、大体時間が限られており、ワイナリーの近くになるか、一番有名な、あるいは目当ての畑をこちらから名指しして連れて行ってもらうことになります。なので、複数の畑を一度に見られるだけでも珍しのに、こうして数十キロ以上離れた地点を生産者とともに何か所も回る、というのは最高の贅沢であると同時に(特に案内される場所にあまり土地勘がない場合)、極度に難易度の高い取材となります。

つまりですね。セラーは多かれ少なかれどこも似たようなモノな訳です。しかも醸造工程など基本は皆同じです。機材を見ながらポイントを訊ねて行けばいいので、一番簡単。
畑に出て、土壌やら栽培方法について尋ねるのも、まあ実物があれば楽に進みます。

ところがこうしてよく知らない土地(と言っても何度も通った道路も当然多いのですが)の、しかも数十キロ単位で離れ離れに散逸する畑にいくつも連れて行ってもらう場合、それぞれの畑の個性を理解し、それが彼のポートフォリオの中でどういう意味を持つのか、位置づけにあるのかを瞬時に把握するのは実に至難の業。こうしてブログにまとめるのも至難の業…。
大体、前にモリッツ訪問の際のブログにも書きましたが、ライタベアクやミッテル&シュドブルゲンラントの畑名というのは、地元でブドウを栽培しているヒトの間では知られていても、それがワイン名になってリリースされているのは極一部。だからプリンセスもあまり名前に馴染みもなければ、位置関係もとんと理解できていない、というのが実情です。

しかし、ハネスは貴重な時間を潰して案内をしてくれているのですから、プリンセスも真剣。身体全体を耳にして、彼の一言一言と目にしているものの繋がりを探そうと試みます。
これが樹齢60年のブラウフレンキッシュの古木
最初に彼が連れて行ってくれたのは、ツァーガースドーフZagersdorfにある、樹齢60年のブラウフレンキッシュの畑。Jaginiに使われるブドウが植えられています。ローミーな所謂アジロカルケール土壌。見れば樹齢の割に「いかにも古木」という感じの逞しさ(=太さ)がありません。石灰分が多いと成長が遅いんだそうです。
道のこちら側は粘土が多く、力強いワインになりますが、逆側は砂がちでより香り高いワインになる、ということで、これはモリッツでもヤギーニでも、R シュスターでも同じことですが、シングル・ヴィンヤードではなく、複数畑をブレンドすることで最高の味わいを追及するのがポリシー。ワインには畑のある村の名を冠するのが慣例です。
ここら辺、バローロやバルバレスコを思わせるアプローチ。確かに真北に最上の区画はないでしょうが、東西南北あらゆる向きの斜面でブドウを熟させることができ、様々な個性をブレンドして村の典型的味わいを頂点とする伝統も、かの地との共通点を感じさせます。
もっとも、散逸する畑から始まったプロジェクトだけに、そうせざるを得なかった側面も大きく「単一畑にまとまった区画が所有またはリースできた場合、そしてその個性が際立っている場合、将来的に単一畑ものも造ってみるかも」とのこと。けれど「歴史的に見てもこの辺りはワインを品種×村名で呼び習わしてきており、自分にとってもその伝統の方が重要」と話していました。

もうひとつ、ローラント(モリッツ)とハネス(ロージー・シュスター)、ヤギーニ(2人の共同プロジェクト)の共通点は、一部の例外(ブドウ 栽培文化を栽培農家とともに残したい場合)を除き、基本的にブドウを買うのではなく、畑をリースし、自分達でブドウ栽培から行う、という方針。畑が散逸しているため、トラクターや薬剤散布機材なども全て畑と一緒にリースするそうです。
どうしてかと言えば、この辺りの平均収量は10年前だと8000kg/ha。自分たちがやると2400kg/ha。所有者任せではとてもそんなドラスティックな変化は期待できない、ということがその大きな理由のよう。

そしてツァーガースドーフからSt マルガレーテンへ向かう途中、ハネスは「問題はツァーガースドーフ・メンタリティーなんだよ」と語気を強めます。しかもそれは「父の代、つまり80年代の半ばから全然変わっていない」というのです。
何のことやら?? 
彼の説明はこうです。
――80年代半ば、この村では1ℓワインを€2で売っていた。父が畑をリースしようとすると、「お前んとこは750ml一本€5で売るんだから、もっと高いリース料を払え」って言うんだ。
だけど僕らは、収量も3分の1以下だし、手間のかけかただって全然違う――
なるほど、価格は1.5:5に対し、収量は8000:2400。それに手間の分を考えれば、むしろ平均よりもっと安い価格でリースしたいくらいだったでしょう。

ただしこの問題は今やちょっと姿を変えています。R シュスターのブルゲンラントはともかく、モリッツの村名ものアルテ・レーベンの価格は現地価格でも€60近く。ヤギーニにしたって€30を超してきています。もはやお父さんの代の算数は成り立たない…。まして国際的にはアメリカや日本では現地価格の2倍を軽々と超す値段で売られていたりするのですから、そういうことが耳目に入れば、それは畑を貸す方も考えて当然というものでしょう。
…とプリンセスが言うと、ハネスったら黙ってしまいました:)

まあでも、価格交渉の難しさはさておき、この辺りのブドウ栽培農家は、とにかく自分で畑仕事をしたくないし、労働環境の厳しい収量の少ない畑(=その多くがポテンシャルの高い畑)ほど手放したがっているので、いい畑は選び放題なのだそうです。
手前の藪が株仕立てのブドウ畑に変わります。
さて、最初に見た畑は標高220-30mのほとんど平地に近い緩斜面でしたが、次に車を降りたのは、Zagersdorfの縁、そしてショプロン山脈の縁の辺りの大きな盆地を望むような南向き急斜面。雪をまとったその名もベタなシュネーベアク(雪山:)が前方に望める雄大な景色です。ただし、ブドウは植えられておらず、何やら藪状態…。
いかにもいいブドウ畑になりそうな場所なのに、と思いきや、それもそのはず。かつては素晴らしいブラウフレンキッシュを生んでいたそうです。が、残念なことに1990年代にブドウは抜かれてしまいました。それを知るハネスは昨年この土地を購入。ここに株仕立てでブドウを植える積りだそうです。土壌は重いロームとは正反対のピュアな砂と石灰。
ああ、さぞかしコンパクトで香り高い溌剌とした味わいのワインができそう!
…と、期待を膨らませつつ、車はSt Margarethenマルガレーテンへ。ここはツァーガースドーフよりも標高が低い。けれど何故かツァーガスドーフが元来9割方ブラウウレンキッシュを植えていたのに対し、St マルガレーテンは8割が白だった土地。ハネスはこの辺りの古木のGV、或いは白のゲミシュター・サッツを有望視しており、さらに風の強いその入口付近はSt Laurentに向いているそう。
※ハネスはゲミシュター・サッツにいちいち赤の、白の、と断りを入れます。そのこと自体、この辺りでは赤のゲミシュターサッツも最近まで造られていたことを示しています。そして彼の見解では、果皮の生理学的熟成がジャストであることがクリティカルな赤では良質なゲミシュター・サッツは望めないけれど、白はやりようによっては面白いものができる可能性もある、ということです。

そして視界が突然開けると、遠方にノイジードラーゼーが現れます!!!
ええ? Stマルガレーテンって、こんなに湖に近かったの??? …しかもプリンセス、この辺りは歩いた記憶があります。
そう。マリーエンタールクレーフテンの上方にいるんです!

長くなりました。では次回は畑巡り後編。ルスターベアク、オスリップ、そしてドネアスキアヒェンと続きます。