2013年2月2日土曜日

こんなとき、あなたなら?――ウヴェ・シーファー訪問記 第3章

サパリの土霊?に力づけられたのか、ウヴェは、ヘル(綴りはHöllですが)という町を通り抜けながら、「ヘルの町長の名前はデヴィルだったんだよ。」などという軽口まで叩きながら、「2012年は2011年同様暖かい年だけれど、よりアルコールと酸とのバランスの取れたグレートヴィンテージだ」と嬉しそうに語ります。

そしてハーミッシュといういかにも"middle of nowhere"な感じの閑散とした村のレストラン、"Gasthaus Csencsitsガストハウス・チェンチッチ"で車を降りました。
中に入ると「へえ? こんなところに?」と驚く、ちゃんとしたレストラン。しかも料理が美味しい!
最初に出てきた野菜のスープは滋味溢れる優しい、けれどそれだけではない、根菜類のテクスチャーの変化の楽しい一品
そしてメインのパンパンに詰め物をした鶉は、供されたサイズを見ていけません、そんなに食べられるはずないでしょうと思いましたが、軽やかかつ旨味たっぷりな詰め物のお味が素晴らしく見事に完食:)
道理で、聞けば、オーナーシェフのユルゲン・チェンチッチは、あのラントハウス・バッハーのトーマス・ドーファーシュタイラ・ヴィルトのリヒャルト・ラウホとともに、JEUNES RESTAURATEURS D'EUROPEのメンバー。将来を嘱望されるヨーロッパを代表する若手トップシェフの一人、という訳です。

そういえば、拙著取材の4年前。プリンセスはほとんど食事を取る間もなかったのですが、ほんの一口いただいたウヴェの奥様手作りの肉料理が抜群に美味しく、しかも皿、銀器、コーヒーカップ、テーブルセッティングの全てが完璧なセンスの良さだったことが思い起こされます。
当然のことかも知れませんが、いいワインを造る人は、美味しいものが大好きだし、美味しいものを食べる時間や空間を大切にします。

さて、ワイン。これからワイナリーに行ってセラーを見学し、最後にワインをテイスティングする訳ですから、ここでワインをじっくり楽しんでいる暇は残念ながらありません。

そんな中、ウヴェがレストランのリストから選んでくれたのは、05 Eisenberg(2010が最後のヴィンテージで、11からはBurgenlandに改称)のボルドー型ハーフボトルと、07 Szapari
ええ? ボルドー・ボトルのアイゼンベアク??? …と口には出しませんでしたが、怪訝な顔をするプリンセスに、「いや、ハーフを最初に造ったので、肩の落ちたボトルが用意できなかったんだ」と、ウヴェの説明。
05 Eisenberg half bottle
ボトルの形状にも、味わいにも驚き:)
その味わいには、のっけから 深みと力のある赤い果実の香り。美しいテンション溢れる酸。おそらく今より抽出の強い、たっぷりとしたタンニンは、とても柔らかく余韻も長い。これが小売価格せいぜい€7-8かそこら(フルボトル)で売られていたワインでしょうか? 
当時からこのクラスも全て12-32hℓの開放桶&大樽で発酵&熟成。ただし当時は8ヵ月、現在は約1年、将来的にはあと半年熟成期間を延ばす積り、とのこと。

プリンセスが「あなたのワインのこの酸が大好きだと言うと、ニヤっと皮肉っぽい笑みを浮かべ、「2001年が特に素晴らしい酸だった。大抵の人は、酸が高過ぎる、って嫌な顔をしたものさ。でも今飲むとこんなに素晴らしい酸はない、と思うよ」と、ウヴェは酸フェチ仲間であることを認めてくれたよう:)

そしてサパリの07年。最初小樽で熟成していたこのワインを、初めて全て大樽熟成した年。

アイゼンベアク05ほど開きません。
…???
プリンセス自身、Szapari 07を味わうのはたったの2回目…けれど、これ、何かがおかしい…ミネラル感はあるけれど、果実味が足りない…ウヴェのワインのピュアさが感じられない…おそらく極々微小なブショネである可能性が高い。けれど、なにせ本人のウヴェは酷い風邪で全く匂いも味もわからない状態…。

もちろんここで私が「ブショネでは?」と言えば、すぐに次のワインを開けてくれるのはわかっています。
こういう時、大袈裟ではなく、プリンセスは職業として希少なワインを振る舞われている自分が、どういう行動を取るべきか、倫理的にとーっても迷ってしまいます…。

もしこのワインをプリンセスが今評価せねばならぬ立場なら、このワインについて記事を書かねばならぬ立場なら、或いはこれからゆっくりワインとお食事を味わう時間があるなら、もう1本開けてもらったでしょう。
けれど、今この貴重なワインをもう1本開けてもらっても、ここで味わえるのはたったのひとクチ…。

時間も押し迫っているのをいいことに、プリンセス。「05ほど開きませんね。」とだけコメントし、お茶を濁してしまいました:)。健全なボトルはちゃんとお金を払ってこのワインを頼むお客様のために残しておいた方がいい、という判断です。
そしてそそくさとレストランを後にし、セラーで2012の赤のマスターブレンドと、2011の未リリースワインを樽から試飲し、最後にテイスティング・ルームで現行ヴィンテージを味わいます。

はい、そのセラー&テイスティングの様子はまた次回。