2013年2月21日木曜日

ピットナウアー訪問記 その2 ゴルスにワイナリーが集積する訳は?

ピットナウアーのあるノイジードラーゼーという生産地は、墺ワインオタクを自認するプリンセスにとってすら、最もその個性を捕まえ難い産地です。
南にはクラッハーやチダで有名なゼーヴィンケルと呼ばれるノイジードラー湖東岸の湿地帯=貴腐ワインの産地があり、これはある意味簡単明瞭

そして北部に、オーストリア一、ニでワイナリーの沢山集まる町Golsゴルスがある訳です。このゴルス周辺…西はヨイスから東はフラウエンキアヒェンにまたがる辺り…プリンセスも随分色々なワイナリーを訪ねました――ゲルノート u.ハイケ・ハインリッヒ、A u. Hニットナウス、ペクル、ユーリス、シュロス・ハルプトゥルン、ウマトゥム、パウル・アクス、マークス・アルテンブルガー、クラウス・プライジンガー――、いずれもオーストリアのワイン業界では高く評価され、その多くが非常にレベルの高いワインを造っているのですが、何故かプリンセスの心をわしづかみするに至っていない…。

それにプリンセスのモットーに「独自の景色のあるところに独自のワインあり」というのがありますが、どうもこの辺り、ヴァッハウやシュタイヤーマークのように「息を飲む」程印象的景色がありません。“Parndorferplatte=パーンドーフ平地”やら“Heideboden=荒地”というくらいで、殺風景な平地ととても緩い丘陵地が続き、なんとも迫力に欠けるのです。周囲から峻別され、誰の目にも明らかな銘醸畑、例えばハイリゲンシュタインとかシュピッツァーベアクとか…そういう山もありません。

ところが昨年偶然立ち寄ったピットナウアーが!!! 
…よく考えてみれば、あれだけワイナリーがゴルス周辺に集積している、というにはそれなりの訳があるはずなのです。その訳をこの訪問では解き明かしたいと思っていました。

ところで、この辺りの生産者がよく使う、HeidebodenハイデボーデンとかDorflagenドーフラーゲンとか、それは一体何なの、どこなの? …と思っている方も多いことでしょう。
ハイデボーデンは湖を囲む一番低地の畑です。大概グリューナーかツヴァイゲルトが植えられています。そしてドーフラーゲンは緩斜面の中腹の畑。ゲアハルトはピノとStラウレントを主体に植えています。彼は両者を「ブルゴーニュに喩えたらvillage」と説明してくれましたが、プリンセス的にはハイデボーデンがブルゴーニュAOCで、ドーフラーゲンこそ村名に相当すると考えます。
こういう丸石が砂地に混ざってゴロゴロ。
さて、ゴルスのヴィノテークで落ち合うと、ゲアハルトは車を西側の隣町Weidenヴァイデンに走らせます。「ヴァイデンの町にはゴルスと同じか、或いはそれ以上に可能性の高い畑があると僕は思っている」と、ゲアハルト。「でもね、ヴァイデンの人はなにかとのんびりしていて、あんまりそれを誇示しないから、まだ畑にできる空地があるんだよ。一方ゴルスはオーストリアでは珍しいプロテスタントの町。皆勤勉なので、町としてはそちらの方が有名だけどね」と言いながら降り立ったのは、彼のSt ラウレント St Laurentの未来の看板畑Rosenbergローゼンベアク
Rosenbergの隣の畝で剪定をするオジサン。
そうそう、写真をくれ、ってせがまれてたんでしたっけ。
ノイジードラー湖を遠くに見渡せる緩斜面を上り切ったテッペンにある平地の、ゴロゴロと丸石の転がる堆積土壌は、聞けば旧ドナウの底だった名残とか。「へえ、それじゃあ遥々お城ワイナリーのシュタインセッツと同じ土壌かぁ…」と、プリンセスが感慨に浸っていると、「でも、この辺りは海の底だったこともあって、だから石ころの下は石灰の多い砂の地層なんだよ」とのこと。なるほど。そして北西に風力発電機が沢山立っているところを見ると、常に風が強い場所であることが伺えます。
遠くに風力発電機が並ぶ、ほぼ平地というか、緩い緩い斜面と言うか…
Pittnauerの剪定後のSt Laurent
この、水捌けの良さと風が、カビに冒されやすいピノ・ノアールやSt ラウレントにとっては大きなアドヴァンテージとなります。加えて石灰分が風味に若干の色気と膨らみ、余韻の伸びを与えます。※因みに南西のライタベアクは頂上部はアルプスの原成岩ですが、この辺りに原成岩土壌は存在しません。

ヴァイデンからゴルスへ向かう途中、プリンセス尋ねてみました。「あなたにとって良い畑と樹齢のどちらが重要?」と。ゲアハルトは「うーん、むつかしいね。両者揃って初めて素晴らしいワインになるんだけど…。でも、僕の最も高価なSt Laurent Alte Reben アルテ・レーベンは、実は頂上の畑のブドウではなく、ハイデボーデンのものなんだ。ローゼンベアクが最初の頃は、もちろん悪いワインではなかったけれど、今ほどの個性もストラクチャーもなかったことを考えると、やっぱり樹齢かなぁ。それに僕は灌漑しないから、地中深くに根を張った樹齢の高い木の方が、11年や12年のような乾燥した年には特にメリットが大きい、とも言えるね。」とのこと。
Weidenの町、そしてノイジードラー湖越しにライタベアクが望めます
そしてブラウフレンキッシュの畑Ungerbergウンガーベアクに差し掛かります。緩斜面の中腹あたりにあるこの畑、明らかに土が黒いし少し重いことが見てとれます。「重い土壌はこの辺は少ないんだけれどポツポツと局地的に存在していて、そこにはブラウフレンキッシュを植えるのさ。ブラウフレンキッシュにはローミーな土が必要だからね」。こういうところでヴィンツァーの言葉をそのまま鵜呑みにしてはいけません。確かに彼の畑の中では、そしてゴルス周辺においては重い土壌なのでしょうが、ホリチョンに代表されるミッテルブルゲンラントの土のような重さでは全くありません。
車窓から、UngerbergのBlaufränkischの畑。
小石はなく、よりローミー…とはいっても砂がちの土壌
そして前回訪問時に見せていただいたワイナリー裏手、もうひとつのStラウレントの看板畑Altenbergアルテンベアクは、今回はワイナリーから覗き観るのみ。テイスティング・ルームにある土壌プロファイルを見る限り、ここは川の堆積土壌ではなく、海の堆積土壌。腐葉土の下はすぐ白い砂状の石灰です。
セラーの窓から望むアルテンベアク
かなりマッ白な土壌プロファイル
ワイナリーよりさらに東側にあるピノノワールの畑FuchsenfeldフクセンフェルトBaumgartenバウムガーテンについては今回は時間の関係で割愛しましたが、土壌的にも局地気候的にもアルテンベアクに近いもののようです(ただしフクセンフェエルトは東向の畑)。

訪問に当たりプリンセスが奥さんのビアギットに伝えておいたのは、今回は3時間以上時間が取れるので、畑とセラーをしっかり見たいこと、前回時間をかけて味わえなかったピノとStラウレントの上級クラスを味わいたいこと、そしてヴィンテージが入れ替わったベーシック・クラスを味わいたいこと、の3点を伝えただけで、その時間内でどの畑を見せて欲しいか、までは指定しませんでした…、と言うか、初めて見る畑だし、ワインもそんなに何度も味わった訳ではないので、指定できなかったという方が正確かも知れません。

その結果、ゲアハルトは私にワイナリーから西の畑ばかりを見せてくれました。
これは単にプリンセスにノイジードラー湖を望める畑を見せて上げよう、というサービス精神からか、或いは彼の気持ちが西側に向いているのか…。

その推論はテイスティングの結果をご報告した後にしてみたいと思います。