2012年2月22日水曜日

ヒルシュ訪問記…2010年はクリーミー?

グロースでのテイスティグをご報告する前に、2月13日に訪れたHirsch ヒルシュでのテイスティングを先に振り返ります。両者共通して焦点を当てたいテーマがあり、ヒルシュを先に書いた方が、すんなり説明できそうだからです。

ヒルシュは一番のご近所ワイナリー。いつもは10分ほどの道のりをチャリで行くのですが、この朝は忘れもしない「零下20度」前後まで気温が下がり、お城ワイナリーを始め周辺のワイナリーがブドウの木への悪影響を心配していた日。路面の凍結が怖かったので、寒空をテクテク歩いてヒルシュさんちに向かいました。
ここまでがゴベルスブルクの町。ここからがカンメアンの町。
南側から向かって右側の山がGaisberg
Heiligensteinの東端からとGaisubergをの谷間の辺りがGrub
左側の大きい山がHeiligensteinq

今日は裏庭側(北:ハイリゲンシュタイン側)からお邪魔します。
今日の目的は2011年のキャラをハネスに語ってもらうこと。
最も軽快なTrinkvergnügenトリンクフェアクニューゲンを試飲しながら、2011年の全体的特徴を尋ねます(以下Jはヨハネス。Pはプリンセス)。

J: 質的にも、そして07年以来量的にも、大満足。とにかく畑でもセラーでもストレスの少ない年だった。ブドウは健全で貴腐はほとんどつかず、完熟し、かつpHの非常に低い完璧な出来。クリティカルだったのは収穫時期。収穫があと2週間遅かったら貴腐がついてしまった。※プリンセス注:この辺りが最初の軽い霜により風味の凝縮を待つことをよしとし、良質の貴腐が一部混じることを嫌わない、ヒードラーやウチとの方針の違い。
ワインはいつも通りのバランスの良さと軽快なエネルギー感。最もベーシックな、このトリンクフェアクニューゲンでも95%が有機栽培、残り5%が転換中、といいます。近い将来買いブドウも全て有機栽培農家から、とする「やるときは、やる」ハネスらしい潔さ。同じ時期同じコンサルタント下でビオディナミの手法に着手した、やはりご近所のロイマーが、有機認証に当たり自分の畑の有機栽培ブドウと慣用農法による買いブドウの生産ラインをはっきり分ける、という賢い対処方法を採ったことと併せて、両者の個性やポリシーをよく反映していて実に面白い

次にGV Heiligenstein 11 (tank sample) と10を比較。3月末のボトリングを予定する11年は、まだ酸の焦点が定まらない印象ながら、とても柔らかなテクスチャー。一方10は、対照的にフォーカスの合った引き締まった味わいながら、"高いのにhoneyedな酸"と私が表現するとハネスが"creamyじゃないのかい?"と突っ込んで来ます。実は後者は1g/l前者より酸が高い。けれもギスギスしたところが全くない、高いのに円やかな酸なのです。
J: 消費者には誤解を招くから絶対に言わないけれど、プロにはちゃんと説明するね。毎年10-15%前後のマロが自然に起こるのが望ましいと思っているんだけど、酸の高かった11年は、自然がしっかり酸に働きかけてくれた。だから10年は通年よりクリーミーな年なんだよ。
P: なーるほどね!(でも、そう言われて味わい返しても、はっきりMLFを感じさせるようなヨーグルト的クリーミーさは微塵もなく、ただ高い酸の割には鋭くない、酸フェチにはたまらなく魅力的な味わいなだけです。クリーミーという表現はあまり当たらないような…)
 ちょっと解説しておきますが、10年のドナウ周辺のワインは、例外なく酸が高い。なのでワイナリー側では減酸を余儀なくされたり、一般的に独、アメリカ&マス市場のご機嫌を伺う系のワイン・メディア&ジャーナリストが酷評した年でもあるようです。
しかーし!
冷涼産地のワインを骨の髄から愛するプリンセスは、こういう年の高い酸のワインを、一切減酸せずに、酸の美味しさで飲ませてしまう根性の座った生産者(一流どころは皆そうしてます)を、心から高く評価したいと思っています。
そして、ブドウが健全であれば、ハネスの言うように「自然はちゃんと味わいのバランスを取ってくれる」ものなのです。

9月以降のリリースを予定しているGV Lamm 11年は、オレンジなど豊かな果実味が魅力的とは言え、まだまだポヨポヨのひよこちゃん、という感じ。評価不能。

リースリングに移り、Zöbing 2011 tank sample。あまりに豊かな白い花のアロマに驚き、思わずハネスと目を合わせます。彼自身もこのワインを試すのは3週間ほどぶり、とかで、アロマティックさと、負けずに魅力的な生き生きとした酸に圧倒されている、と語りました。
P: 11年はベーシックなリースリングが本当においしい。ウチのも同じようにアロマティックで味わいも生き生きしていて。何がそんなに良かったんだろう?
J: 灌漑だよ(と意外な答え)2011年のように極度に乾いた年には、若木が多いこうした非単一畑ものでは、灌漑のアドヴァンテージが本当に大きい。単一畑の古木は別だけどね。
おや、飾ってあるのはお城ワイナリー!
70年代に畑名を大きく記すのは
ハイリゲンシュタインくらいだったそう。
そしてその単一畑のGaisberg 2011 barrel sample。GV Lammよりはずっとらしさ(黒いミネラルと汁気の多さ)が出ていますが、それでもまだイースティーでボヨンとしたテクスチャー。
最後にHeiligenstein 2011 barrel sampleを試飲。Gaisbergに比べ、ワインはよりフリンティーで明るく、キラキラしたミネラル&スパイスを感じさせます。…とは言うものの、両者香りは全く閉じており、やはり単一畑モノは、改めて別の機会に試飲する必要がありそうです。

では最後に、ハネスから日本の皆さんへメッセージを貰って来ました。最初がハイリゲンシュタイン&ガイスベアクの畑の説明で、次が2011年ヴィンテージ解説。2つ続けてどうぞ!