2012年2月16日木曜日

グリューナー…不思議なブドウに何を求めますか?

グリューナー・ヴェルトリーナー。栽培面積の3割近くを占める、言わずと知れたオーストリアを代表する白ブドウ
このブドウ、アロマティックとニュートラルに大別するなら、ニュートラル。シャルドネのように、土壌を、製法を鏡のように映し、様々な個性を発揮します。
ですが、祖先にトラミーナーを持っており、そういう意味ではアロマティック系のDNAを宿しています。
アロマティック系の痕跡が果汁自体には現れず、プレカーサーというカタチで多量に秘められている、という点ではソーヴィニヨン・ブランに近い、と言ってもいいでしょう。
…ということは、酵母他発酵環境如何で、香りの量、強さ、スペクトラムが大きく変わるのも、この品種の特徴と言えます。

その酵母ですが、アロマティック酵母とニュートラル酵母の存在は知っていても、言ってみればその中間のようにアロマ・コンパウンド或いは、プレカーサーに働きかける酵母はいくらでもある、ということを知るヒトは少ないのでは?
そして、超一流ワイナリーにこうしたアロマティック酵母や、ややアロマ酵母を使うところは、まずありません「グリューナーがソーヴィニヨンのような香り」であることは、こちらの一流の生産者にとって、悪いジョークでしかありません。

しかしながら、こうした酵母を使ったグリューナーはわかりやすい! ひと嗅ぎして独特の青っぽいグーズベリー、或いはグレープフルーツのようなスカっと爽快な香りを放ちます。だから、結構一般受けはいいのです。当然、セラードアで試飲をさせてワインを売る比率の高いワイナリーでは、こうした酵母を使っての製造は、決して珍しいことではありません

私が驚いたのは、そうした製法を取るワイナリーのグリューナーが、日本のワイン専門家(批評家、ソムリエ、酒販店)や愛好家の一部に好評である、と知った時。
こうしたデフォルメした香りが「典型的グリューナー・ヴェルトリーナーの香り」と、専門家の間ですら捉えられているとするなら、プリンセスはとても悲しく思います。ブドウ自体が持つ特性をフィーチャーしただけ、という捉え方もあるとは思いますが、こうした製法は、明らかにテロワールワイン追及の正反対を行く実践です。

綺麗なお化粧は遠目にも華やかです。テロワールワインを愛するということは、素肌美を愛することです。そして素肌美を誇るためには、日々入念なスキンケアだけでなく、フィジカルケア、さらに精神面のケアまで必要です。その割に向こう受けするわかりやすい美しさは、そう簡単には放つことができません
遠目に目立つ華やかさに惑わされず、肌のキメ細かさや艶をこそ、もっと言えば刻み込まれた皺の美しさまで、本当のオーストリアワインファンには味わい尽くして欲しい…と、プリンセスは切望します。