2012年2月6日月曜日

自問自答…本当に大切なことは?

この時期、様々なワイナリーでワインメーカーとともにバレルテイスティングをしていますが、こうした機会に我々はえてして、ワインの風味の比喩としての果物や花その他の名前を列挙したテイスティングコメントとともに「収穫日、天然or培養酵母、発酵温度、MLFの有無、バトナージュ、酸、残糖、アルコール、ph、SO2量、新樽率、熟成期間、…etc」といった名詞と数値で表せるモノゴトをあれこれ尋ねて、それでそのワインの全体像を捉えたような気になりがちです。
でも、つくづく思うのは、ワインの美質はそこにはありません

素晴らしいワインにはまず、ワインメーカーの頭の中にブレない理想イメージがあることが必要です。
同時にイメージを具現化する母胎として、それにふさわしい畑が必要です。
或いは上記の2点は、個性溢れる畑があって、そこから何が引き出せるかを明確にイメージできること、と言い換えてもいいでしょう。
そこから、いかにイメージ通りのワインに成り得る「ブドウ=本質/実体の原石」を得るか、ここまでが栽培作業
そしてその原石ブドウが本質/実体に近づくべくどのように手を貸せるか、が醸造作業
その過程の中で、ワインがその自己実現の道を踏み外さないために、確認手段として様々な指標は必要不可欠ですが、テクニカルな事物や数値に執拗にこだわることは、まあ、言ってみれば、身長と体重、体温や血圧や脈拍を聞いて、そのヒトのパーソナリティーを知ろうとしているようなモノなんですよね : )。

だからと言って我々ライター他醸造家以外のワインのプロがテクニカルな指標を知らなくていい、とは決して思いません
何故なら、ワインメーカーの資質や哲学は、様々な問題に対する対処に仕方にこそよく現れ、その問題を突き止めるための指標を我々が理解していなければ、問題意識を共有することができずワインメーカーにとって最もクリティカルな懸念事項に迫ることすらできないからです。
同じ理由で、TCA、フェノレ、揮発酸、ブレット、還元臭…そういうワインの欠点を理解することは、プロとして不可欠ですが、その発見&特定方法にいくら習熟しても、ワインの本質的レベルの高さや深さ、美しさや個性を評価&鑑賞する、という一番肝心な行為に、それはツユの役にも立たない、という側面も肝に銘じる必要があります。
一方で、ワインメーカーにテクニカルな質問をした時、言下に「数値はワインの味わいとは無関係だから」と、質問に答えない生産者がときどき居るのも、またとっても残念。我々はその数値をきっかけに何か問題の在り処を探ろうとしていたり、何かを掘り下げたり、そのトピックを巡る生産者のポリシーや対処方法を観察している場合が多いからです。

おそらく我々が目指さねばならにのは、生産者のイメージにいかに肉迫できるか、イメージの実体化のために生産者が何に気遣い、どう工夫したかを的確に報告すること、だと思うのです。

ワイナリーを営むということは、ある時は農夫、あるときは科学者(生物学、園芸学、医学、薬学、天文学、地質学、化学…)、ある時は芸術家、ある時は商人、ある時は経営者でなければならず、その仕事に迫る我々にも、色々な視点と知識が要求されている…と、時々気が遠くなる一方で、逆から見れば、本質に迫る道は幾多とあり、そのどこから本質に近づいても、間違いではないのだ、と自分を安心させてみる、プリンセスであります。