2012年2月24日金曜日

エーヴァルト・チェッペ 序: 真の自然派体験とは?


プリンセスは何事もラベリングでモノを判断することを非常に危険だと思っています。
前にも書きましたが、新樽/旧樽/ステンレス/バリック/大樽、ビオ/有機/KIP/コンヴェンショナル、自発的発酵/培養酵母添加、ホールクラスター/除梗、灌漑/ドライファーム…そういう名詞をいくら詳細に聞き出しラベリングしてみても、身体検査で個々の人格に迫ろうとするが如き愚行に過ぎません。

だから「自然派だから、ビオだから」というだけで、ワインやワイナリーを持ち上げるのも、とても浅はかだと思っています。
揮発酸やブレットたんまりの汚い or 完全に酸化してしまったサン・スーフル、オードブルが下げられても還元臭の飛ばない自然派…そういうワインは飲みたくありません。個人的な好みを言えば、完全な自発的発酵にこだわるワインの多くが持つモサモサしたクリアでない香りも、決して好きではありません。早い話、美味しくないワインに興味はありません

一方で、現代を生きるイチ消費者として、できるだけ環境にも自分の身体にも負荷の少ないものを選びたい、少しでも安全かつ健康にプラスに貢献してくれるものを口に入れたい、と思うのも当然で、そういうワインを造ろうと努力する生産者をできるだけ応援したい、という気持ちも大きい。
なので自然派信奉やビオ贔屓も心情的にはよくわかります
ビオへの転換を「マーケティング」「セールストーク」と断じる生産者には「それを試すだけの覚悟がないだけではありませんか?」と反論したい気持ちにもなります。

そして我々は、3月11日を経験しました。

福島の原発がああいうことになりました。
以来、普通の幸せのための『適度』な『リスク』や賢い『妥協』だと思っていたこと(或いはそこまで深く考えていなかったこと)の、その適度の『リミット』や、妥協の『一線』が、『実際にはどこにあるのか』、改めて向き合い直している、プリンセスのような遅巻きの人間も多いのではないでしょうか。

そういえば最近、マクドナルドのピンクスライム使用が明るみに出ました。消費者の反感を予測し、使用廃止を決定。
でも、「多くの人により低廉な価格でおいしいマックを食べてもらい、幸せを感じてもらう」という社会的使命に、ピンクスライムは間違いなく貢献していたんです。
多くの化学調味料合成フレーバー保存料もそうでしょう。

化学肥料や農薬は違いますか? 
農薬にも防カビ剤、殺虫剤、除草剤…と色々あります。毒性や作用、地中残存の仕方も異なります。…なんだか放射能にも色々あるのと似ているような気がしてきました。
ビオや有機農法で使用される銅の土中汚染は? 
銅と硫黄は「自然に存在するものだから危険が少ない」という意見もビオ生産者からよく聞きますが…。
だったら発酵に使われる培養酵母も「自然に存在しているものだから」自然ではありませんか!
培養酵母にも、ワインへの働きかけ方に色々なタイプがあります。
ブルゴーニュで当たり前の補糖、ドイツやオーストリアで当たり前の減酸、カリフォルニアやオーストラリアで当たり前の補酸…
どこまでが自然で、どこからが自然に対する冒涜なんでしょう?
果汁の発酵を促進する様々な栄養分や酵素はどうでしょう?
美味しいシャンパーニュを造るために当たり前のように使われる酵素は? 
どこまでが「人々の幸せに寄与し」どこからが「悪魔の所業」なのでしょう?
…endless questions are lingering on in your mind and you'll never get to sleep…

…そういう、いわば本当に健全で幸せな生活の本質を、様々な観点から再吟味すること。
従来の幸せの背後の科学的な“正しさ”を疑ってみること。楽に手に入る幸せや満足感を放棄してみること。
そうした実践を私は『真の自然派体験』と呼びたいと思います。

つまり、原子力は欲しくないけれど、では今すぐ全部の原子力発電所を止めた暮らしは、どんなものか? 実体験する勇気はありますか? …ということです。
アーミッシュのように電気そのものの使用まで否定しますか? それとも代替エネルギーへの切り替えを進め、電気使用に対するある程度の高負担に耐えますか?

ローマ時代以来の効率優先の栽培テクニックを捨て、化学肥料も農薬も培養酵母もSO2も全く使用しないワインは、どんな味なのか。
そういう自然な造り方をしたワインの『美味しさ/味わい』と、『適度な』『必要最低限の』農薬や近代的醸造テクニック&物質を駆使したワインの『美味しさ/味わい』は、身体や心に対する影響は、どれくらい違うものなのか。
『前者=醸造まで含めた徹底的な自然派』と、『後者=常識的美味しさを追求し、経済的に最適と思われる手法で妥協した産物』は連続的なものなのか。それとも決して相容れない正反対或いは全く異質のものなのか。

…前者的ワインを実際に味わってみるには、実は小さな勇気が必要です。
大方が従来の「美味しさ」とは少し違った味わいだからです。
しかもわざわざお金を払って???

そういう小さな勇気を飲むヒトに要求してくるのが、ズュドシュタイヤーマークの親戚関係にあるふたつの生産者、M & S・ムスターであり、エーヴァルト・チェッペのワイン達なのです。
Are you really ready to experience those wines?

注:ムスターもチェッペもSO2は少量ですが使用しています。