2011年11月20日日曜日

エアステラーゲはスキャンダルですか?

おとといのブログでお約束した真面目な話題。

ニューヨークで行なわれた"オーストリア アンプラグド"イベントでシュタイヤーマークの生産者(おそらくサットラーホーフかテメントかポルツの誰か)が"エアステラーゲはオーストリアのグラン・クリュ”と観客に解説。
ところが次に壇上に立ったテルメンレギオンのシュタードゥルマン(横道に逸れますが、このヒトのツィアファンドラー"マンデルヘー"は、オーストリアワイン好きなら、必ず飲んでおくべき逸品)が“彼は嘘つきだ。エアステラーゲなんて公的に認可もされていないし、何の根拠もない”と公然と批判。

以上は15日の会議の席上、オーストリアワインマーケティング協会会長が紹介したエピソードです。
おそらく彼の意図は、メディア関係者に対し、現在ニーダーエスタライヒのトラディツィオンスヴァインギューターTraditionsweingüterと、シュタイヤーマークのシュタイリッシェ・テロワール ウント クラシークヴァインギューターSteirische Terroir- und Klassikweingüter(略称STK)が導入しようとしているエアステラーゲ(STKの場合はグローセ・ラーゲとエアステ・ラーゲの2本立)のシステムについて、情報の扱い方に細心の注意をして欲しい、という警鐘を鳴らしたかったのでしょう。
つまり、エアステ・ラーゲの制度は、今のところ何の法的根拠もないので、安易にそれをメディア上で『オーストリアのグラン・クリュ』のような紹介の仕方をすると、『嘘つき』呼ばわりされる危険が大きく、また下手をすると、オーストリアワインの新たなスキャンダルとなりかねない、という現状をメディア関係者に周知徹底したかったのだと思います。


ところでこの『エアステ・ラーゲ』システム。お城ワイナリーの当主ミッヒが、システムを主導しているトラディツィオンスヴァインギューターの現会長であることもあり、プリンセスにとっては非常に馴染み深い制度。それに、客観的にも、オーストリアの銘醸畑をブルゴーニュのGrand cru & 1 er cruになぞらえ得る、とても明快でわかり易い等級付けです
勿論、等級付けの科学的根拠他、格付過程の妥当性にいくつもの問題点はありますが、オーストリアワインの国際市場における地位向上を望むサポーターなら、このシステムが一日も早く法的認可につながることを望んでいると思います。


え? 同国イチの有名産地、ヴァッハウはエアステ・ラーゲのシステムに消極的?


うーん、エアステ・ラーゲだけではなく、ヴァッハウはDACシステムに加入する予定も今のところないようで、プリンセスは個人的には、ヴァハウのそうした方針を、オーストリアワイン業界全体の国際市場における競争力強化の観点から見て、非常に残念だと思っています。
こうした有名産地の振る舞いは、ドイツにおけるラインガウの振る舞いと、ドイツワイン全体の階級&スタイル名称とコミュニケーションの混乱を思い浮かべていただければ想像がつくように、その国一番の有名産地が新システムに加わらない、或いは足並みを揃えないことで、新システムの一貫性や信用度は著しく損ねられるからです
平たく言えば、ヴァッハウが加入しないDACシステムはなんとなくチャチく見えるし、ヴァッハウが参加しないエアステ・ラーゲ制度は、どうしてもインチキ臭く見えてしまう――まで行かなくとも、少なくとも信頼性を下げてしまうものなのです。
そしてそれは、「その他のより知名度の劣る産地の地位向上」機会の芽を摘むばかりか、その国のワイン全体のコミュニケーションの一貫性&有効性を損ね、最終的には、"最有名産地である自分達が、新等級システムの最上位に位置することで、国際市場に対する更なる説得力を得るチャンス"を、自ら潰している、という側面にも目を向けて欲しいと思っています。


ただし、それぞれの産地にはそれぞれの歴史とそれぞれの市場背景&事情というものがあることは言うまでもありません
なので、この問題については、現地滞在中にじっくり時間をかけて、様々な産地の個々の生産者と真摯に対話を重ね、オーストリアの生産者にとって何が一番大切か、一方で日本市場&消費者にとって何が一番望ましいか、両方の視点から様々な意見をご紹介して行きたいと思っています。


尚、エアステ・ラーゲについての参考リンクは以下の通り。
http://www.traditionsweingueter.com/news_201004.html
http://www.stk-wein.at/lagen.html