2012年1月15日日曜日

ヴァインフィアテルでお宝探し

昨日は8時半にお城を出発し、ヴィネア・ヴァッハウのミッヒとともに、ヴァインフィアテルのワイナリーを3つ訪ねました。
ヴァインフィアテルWeinviertelは、その名も英訳するとWine Quarter。オーストリア全土(45,900ha Doku 2011より)中、ダントツで最大の栽培面積(13,356h)を誇る産地です。
位置づけ的に仏の中のラングドック、豪の中のリヴェリーナ、リヴァーランド、マランビッジー灌漑地域など、或いはいち早く新Apellation制度(DAC)を導入した、という意味ではスペインのNavarraに比較し得る産地。要は最もベーシックなクラスのワインが沢山造られているところなんです。
ただ、そこはオーストリア。ワイナリーの基本はイタリア同様小規模家族経営で、豪のように巨大メーカーが何百キロも離れた産地間のワインをブレンドして、山のように工業製品のようなワインを生んでいる訳では決してありませんし、南仏と異なりWine Lakeどころか、この産地でも真っ当なワイナリーのベーシックラインの2010年は、とっくに売り切れてしまっていて、2011年のリリースを急がされている状況。しかも、前述した諸外国産地が全て暑すぎるくらい温暖で日照が多い場所であるのとは正反対に、ヴァインフィアテルはオーストリアで最も寒冷な産地なんですよ。特に冷涼な気候から造られるフレッシュでペパリーなグリューナー・ヴェルトリーナーで有名。

以上オーストリアワイン講座でした : )。
Retzレッツの町。ここも歴史と落ち着きを感じさせます。
で、プリンセスはヴァインフィアテルまで近いところで数キロ、遠いところでも車で1時間程度で行ける地の利をいかして、昨日から3週末にわたって、この、オーストリア全土の中で最も著しく玉石混交であろう無名産地を探訪することにしました。もちろん地球温暖化がこの産地に今後有利に働くであろうことも見越した上で、無名産地ならではの『宝探し』をしよう、というのが今回の狙いです。

今日の3ワイナリーは、ワインメーカーが全て若手。ミッヒがピックアップし、アポも取ってくれ、車も出してくれました(ミッヒ、有難う!)。
ところで、プリンセスは生きるモットーとして、振り返る意味のないコトやモノは振り返らないことにしています。最初のワイナリーは残念ながらそのテ。ただひとつ教訓は、経営的な成功は、かなり酷いワインを造っていても成し遂げられる、という実例に出会えたことです。悲しいけど。

二つ目はゼーハーSeher。いきなりお宝その1。(試飲は全て11バレル・サンプル。)

最もベーシックなグリューナーやWeinviertel DACの安くて美味しいこと! 特に後者は、有名産地なら倍の価格を覚悟しなげればならない“キリリとしたミネラル感”が素晴らしい。

ただ問題点が2つ。
ひとつ目はその色。最もベーシックなクラスからフラッグシップの単一畑ものまで、アロマティック系ブドウ(Sauvignon BlancやGelber Muskateller)を除いて、全て発酵前に意図的にブドウやマストを酸素に触れさせる独特の製法を採っており、そのためワインの色が明らかに濃い。オーストリアの白と言えば涼しげな淡いグリーンイエロー系の多い中、御買い得を訴求するクラスのワインにこの濃色は、市場で混乱を起こさないだろうか?
二つ目は価格を上げていったとき、はっきりフレーヴァーの力強さ(特にミネラル)と凝縮感、余韻の長さは倍加されるのだが、逆に無骨さも露になり、そしてそれは造り手Wolfgang Seherのキャラをそのまま映している点は評価したいが、エレガンスを殺ぐような印象も拭えない。
…そうは言っても、絶対的な価格を考慮すれば、このワイナリーの、特にマンハーツベアクの原成岩土壌の単一畑ものは、ウルトラ・ヴァリューと呼んでいいだろう。100%貴腐で造りながら、その申請をしなかったため、単にズースsüss甘口と称するリースリングも、糖度がベーレンに近いアウスレーゼ並であることや味わいのバランス(貴腐独特の曇りは、なくはないが少ない)からすれば、バカ安。

3つ目は前のSeherとあらゆる意味で対照的だったウイベルUibel

醸造学校を卒業しながら、家業を継がず一旦別の職業についた後に、出戻ってワインを造る決心をしたレオ。どうやらこのヒトもワインも、スロースターター。
ベーシックな2つのグリューナーは、最初なんだか固く閉じムッツリ押し黙った印象(こちらは両方とも10ヴィンテージ)。ところが空気に触れるにしたがって、満月に収穫したVollmondleseも、瓶詰めまでポンプは2~3回に留める、付近では最も遅摘みのブドウで造るDAC Golemも、(実際には吐き出してはいるが)スルスル喉を通りそうなナチュラルさがある。Hundsberg GVにしても、樽のかかったグリューナーは受けつけないプリンセスでも許容できる自然体。
プリンセスが期待を寄せたのは、Napa ValleyのChateau Montelenaで修行したというLeoの赤。特にZullから譲り受けたDijon Cloneで造るPinot Noir。ニューワールドか、と思うような果実味過多で緩いピノの多いオーストリアにあって、ここのは完全な冷涼オールドワールドスタイル。07, 08, 09と比較したが、08のような日照の足りない年にははっきり青い。07でも多少青さが気になるが、09はアーシーさと果実味、酸のバランスが素晴らしい。仏・伊・スペインなどラテン諸国のファインワインを意識して樽&瓶熟成期間を長く取るその効果が、白ではなんだかワインを還元的にしてしまったようなのだが、ピノでははっきり良い方向に感じられる。
一番印象的だったのは、親のやっていたホイリゲを閉めてワイン造りに専念する動きが、特にクオリティ・コンシャスな生産者では増えていたのに、その動きに反するように、彼は自分の新居に、わざわざ親の代にはなかったホイリゲを建設中であること。家族や仲間とワインを楽しむ場と時間をとても大切にする人柄が、ワインにも会話にも滲み出ています。
また、常々私は今40代のワイナリー当主と、30代とでは、自然農法との取り組みや、ワイナリー経営に対する心構えが、明らかに違うと考えているのですが、Leo Uibelはそんな“これから台頭する世代”のマインドを代表しているような気がしました。

最後にひとつ、ヴァインフィアテルという産地全体の傾向として、最も気になった点。それはこの産地では機械収穫が常識であること。
もちろん馬鹿と挟は使いよう、なので、機械収穫の方が手摘より質的にいい状況やクラスが有り得るのは十分承知経営効率上、そちらの方が優れているのも納得できる。
けれど、機械収穫のために、手作業で予め取り除かねばならぬ貴腐をつきにくくするために、農薬をより沢山撒き…という悪循環に入り込む危険を敢えて冒すのか?
そして、東欧周辺からの労働力を上手に束ねて使う歴史的伝統を放棄する方向に進むのか?
何より、どのみち南米や南ア、豪などと価格競争力がない以上、国際市場で生き残るには付加価値を訴求するしか、オーストリアに残された道はないはずなのに、敢えて“手摘み”という付加価値を自ら手放すのか?
ウイベルさんちの子猫。おまけ。
プリンセスには、少なくとも国際市場を視野に入れたワイナリーにとっては、それは間違った方向に思えてなりません。