2012年1月29日日曜日

マークス・フーバー ひと味違う、石灰土壌の魅力

先日お城で行われたMW教育セミナーで、あらためて彼のRiesling Bergの素晴らしさに驚かされ、その場でワイナリー訪問の約束を取り付けたプリンセス。
午前中の訪問先ヒードラーでテイスティングを済ませ、マリア・ヒードラーが用事のついでに私をランゲンロイスの町で落としてくれ、カンプタール一帯のワイン情報センターとも呼ぶべきワイン・カフェ併設のUrsinhausウルジンハウスで、マークスの弟、ミヒャエルが私をピックアップしてくれる、という段取り。
プリンセスが免許取得不能(網膜の病気あり)なので、ワイナリー訪問は、このようにワイナリー関係者に迷惑をかけっ放し。本当にいつも申し訳なく思っています

マークスを訪ねるのはおそらくこれで4回目くらいになるのですが、看板畑Bergベアクを見せてもらうのは今回が初めて。
どことなくブルゴーニュを思わせる斜面。ただし畑は段状。
彼の畑は、ワイナリーの正面に南北に走る、トライゼンタールの西側にある東向き斜面に散在しています。ワイナリーから向かって南側にEngelreichエンゲルライヒとBergベアクの畑があり、「土壌のフォーメーションがよくわかる場所がある」ということで、まずエンゲルライヒの裏手にある洞窟へ。ほんの1-2m四方に、様々な要素があります
小石、化石、砂などなど様々なものが固まったコングロマリット
小石の多い部分。
白っぽい石灰
砂の部分
こうした赤い鉄分の部分が多いのがBerg畑。
続いてベアクの畑からトライゼンタールを見渡し、谷の底、フラットな部分は霜の害がひどいためブドウは植えていないこと、「風&水はけの良い土壌」のため貴腐が非常につきにくいこと、など、他のドナウ周辺産地との違いを確認。
これがベアク畑。石組の段ではありません。
30年以上の樹齢の部分。当時のmixed culture用トラクター向けで、畝間3mほど。
「planting densityよりyield/hadの方が重要」とMarkus。仕立てが高いのは鹿に食べられないようにするため。
ベアクの若木。右手がタールの部分。
テイスティングしたのは以下のワイン;
HUGO 2011: 周辺のベーシック・クラスの中でも最もドライな部類で、キレ抜群。
Oberesteigen GV 2011:レスon石灰の土壌。変わらぬ超ハイ・コスパ。
Engelreich Riesling 2011:「今の時点でアロマティック&開いた風味は、11年の特徴」とマークス。
Engelreich Riesling 2010:既に軽いペトロール&フィニッシュに軽いはちみつのタッチ=熟成の兆候。
Terrassen Riesling 2006:白い花のアロマが豊か&カリっとしたミネラル。「06は11に似た年」とか。
Berg GV 2010:カマンベールの皮的風味。ミネラルとスパイス。そんなに余韻は長くない。
Alte Setzen GV 2005:レス on 石灰。GVは透明感があってBergよりこちらが好み。

全体的に非常にプリサイスで透明感溢れる、典型的モダン派の味わい。その理由はしっかりとした澱下げ、ラッキング時期の適切な見極めなど細かな作業を適切&確実に行うことの積み重ねにあるよう。彼ににとってはどうやら「確実に」という点が大切らしい。
「ミニマル・インターヴェンションと言って、ワインに対して何も手を加えない、何の管理もしないのはナンセンス」だというのが彼の意見。全く同感。
ただし、ニューワールドの生産者の大半が主張する「培養酵母も天然酵母も変わりわない」という意見には「同意できない、確かに違いはある」と語る。
結果的に、HUGOは完全な辛口に仕上げたいので必ず培養酵母を使用する。プレミアム・クラスにしても、最も良い区画の果汁を自然発酵でスタートさせ、問題がなければ、その発酵中マストを他のバッチ(同じ区画の果汁の入った大きなタンク・大樽や異なる区画の果汁の入ったタンク・大樽)に加えて発酵をスタートさせる、という用心深い方法(プラーガーなどと同様)を採る。
また、健全果の適切な熟度での収穫が前提なのは言うまでもありませんが、醸造過程におけるグロス・リー(=マザー・リー:発酵させたままの澱)とファイン・リー(ラッキング後の細かな澱)それぞれの適切な接触期間やその間の酸素の必要量や酸素と触れさせる頻度などの「ジャスト」なサジ加減の積み重ねが、こうした透明感溢れるワイン造りには欠かせないことを確認。
真っ白いセラーの庭には真っ赤なリンゴのなる木。
さらにセラーでは彼の才能と研究熱心さを再確認
例えばプリンセスを感動させたリースリング・ベアクの場合――普通最適な熟度とされる、アロマが丁度成熟に達した時点での果実と、貴腐がつく前のギリギリのタイミングの遅摘みを別々に発酵させ、後者を適量ブレンドする秘技が存在。また、全てのタンク&樽に対し、マストに施した作業を時系列で綿密に記録し、後から過去の結果を総合的・多面的に検討することで、毎年新たな果汁をどうワインに仕上げるかをイメージし、対処作業を組み立てる、という、彼のやり方を知ることができました。
アカシアの樽の下に置かれた清澄用のベントナイト
タンクヘの作業は綿密に記入
そして、アルテセッツェンではアカシアの大樽とステンレスタンクを半量ずつ熟成させ、ベアクは全量アカシアの大樽で熟成する理由も、その大樽に眠るワインを味わってみれば明白! ベアクのゴツゴツしたミネラルは、滑らかなアルテセッツェンのそれより、空気に触れさせて円やかにする必要があるのです。
アルテセッツェンの眠るアカシアの大樽
家業を継いですぐに頭角を現した天才肌のマークスではありますが、その後の更なる飛躍は、こうした綿密でロジカルな思考と実践に支えられていることが、再訪問して実によく理解できました。

そして最後に、マークスに彼の2011ヴィンテージについて語ってもらいました!

マークス、そしてワイナリーへの送り迎えをしてくれたミヒャエル、本当に有難う!