2012年8月20日月曜日

伝統を守るということ

土曜のゲイ・ウェディングの翌日曜、夜明かしのケーター達とともに、お城ワイナリーの主、モースブルッガー一家もお片付けに大忙し!

プリンセスははじめ、お城ワイナリー一家は結婚式の場を貸しているだけで、デコレーションなどは全てケーターが持ち込んでいるものと思っていましたが、違うんです。椅子、テーブルはもちろんのこと、蝋燭の燭台やらランプやら、そうした小道具の多くが実はお城の備品。
ですからイベントが終わって持ち込み機材が撤収されると、今度は使用人を中心にお城所蔵品の片付けが始まります。

そして、そうした撤収作業一切を現場監督しているのが、夫人エファとエファ方の両親。

この朝、カードの不正使用が先日報告を受けた分だけでないことを、起き抜けのメールチェックで発見したプリンセス。なんだか気分が一層沈みがちだったので「こういうときは、まず肉体労働!」と、朝食後にお婆ちゃんとお手伝いさんが手をつけた、蠟のこびりついた燭台のお掃除を手伝うことにしました。

これが中々根気のいる作業…。蝋燭受けの皿状の部分の蝋をバターナイフで取り去った後は、同じナイフで蝋燭を挿す筒に溜まった蝋を掻き出します。粗方蝋を出し切ったところで、底の角やくぼみ部分に嵌り込んだ蝋を、今度は竹串でほじくり出し、化学雑巾で綺麗に拭き去ります。底の隅から隅まで綺麗にカスを取り除くまで、お婆ちゃんの入念なチェックが :) ! そして完璧に蝋を取り去った後に、底面を安定させるためのシート状の蝋チップのようなものを敷いて、作業完了。8本手の出た燭台を一つ掃除するのに、1時間半以上かかりました。

どうしてここまで? …とプリンセス、正直思わないでもありませんでした。
だって蝋燭を受ける筒部分は少なくとも深さが4-5cmはありますから、別に底にうっすらと蝋が溜まっていようが、外からは見えないばかりか、次の使用にも何ら差し支えることはありません
しかーし!
燭台は少なくとも何百年の単位で使用されて来たものです。その蝋の残骸が微量ずつでも、長い年月を経て溜まりに溜まって、きちんと蝋燭が挿せないところまで来てしまったら、それを掃除するには、とてつもない力と時間が必要で、ひょっとしたら歴史ある修道院からの大切な預かり物を傷つけたり、損壊することになってしまうかも知れません
お城はこうした文化財のような家具や調度品の宝庫。当然お掃除も優しく、丁寧に。
そう言えば、お城にVIPをお迎えしたり、クリスマスなど特別なイベントの際だけに使用されるお城所蔵の銀製のカトラリーは、シミや傷をつけずに常に銀器が柔らかな輝きを保つよう、食洗機には入れず、我々家族でひとつひとつ手洗い&手拭きしています。

伝統を守る、とは意外にこういう地味な作業に宿っているのかも知れません。

プリンセスはお城ワイナリーで、ブドウをどう育てているか、そしてそれをどうやってワインにしているか、観察したいと思っていました。そして大好きなこの近辺のワインの、それぞれのワイナリーの微妙な個性やスタイルの違いの原因が、どこにあるのか突き止めたいと思ってやってきました。

もちろん畑やセラーで様々なことを学んだり気づいたりすることは多い。でも、こういう瞬間にこそ、プリンセスは我がお城ワイナリー、シュロス・ゴベルスブルクのスタイルのエッセンス見る思いがします。

ワイナリーを統括するミッヒは、お婆ちゃんやエファがお城の備品の扱いを使用人に徹底させるのと同じように、修道院からの預かり物である、12世紀以来続くワイナリーの畑やブドウの状態に気を遣い、樽や収穫カゴ、タンクやボトルの完璧かつやさしい清浄や扱い、狂いのない配置などをカーナーさん以下作業スタッフに、妥協なく隅々まで徹底させているのです。

そうした日々の実に細かい作業の積み重ねが、典雅で優しく、けれども端正なシュロス・ゴベルスブルクならではの味わいに帰結していることを、プリンセスは少しだけ自分の手足と心で、捉えられたような気がしています。