2012年10月10日水曜日

オーストリア 2012年ヴィンテージ中間報告 見え方が変わって来た2年目

昨年は、とにかく1ℓワイン以外の全てのお城ワイナリー白ワイン畑で、収穫作業に参加することに命をかけたプリンセス。今年はお城ワイナリーの収穫は赤とエアステラーゲの一部に留め、セラー作業をできるだけ観察することと、カンプタールの他ワイナリーや、他産地の違った品種やスタイルのワインになるブドウの収穫に重点を置くことにしました。
丁度一週間前の、Cuvee BertrandにブレンドされるSt Laurentの収穫風景。この日は私も一緒に収穫しました。
さて、その中間報告です。
まず、大筋2011年に続き暖かい年です。収穫時期は暖かい年の通例で平均より2週間ほど早め。時期的には昨年と大体同じです。

ただし、11年の方が乾燥が酷く、また7月の低温と8月後半に熱波というアティピカルな気温変動をがありました。一方で昨年は霜や雹の害は少なく、どの産地でも非常に健全な果実が量的にも十分に収穫できた年でした。

それに対し今年2012年は、冬と春の遅霜があり、おまけに雹も降り、産地にもよりますが、おおむねガクっと収穫量は落ち込んでいます。
6月までは乾きに乾いていた天候ずっと高めに推移していた気温(=早過ぎるくらいの成長。そこへ持ってきて霜が降りたので、成長が進んでいた分、被害も甚大でした)も、7月の冷雨でややリセット。恵みの雨と生産者は喜んでいました。その後も高めに気温は推移したものの、バランス良く雨も降り、おそらく2011年より積算温度は多少高いのでしょうが、去年のようにいきなりの熱波(夜になっても気温が下がらない)などはなく収穫期に間歇的に降る雨も、自然収量減により必要以上に早い糖度上昇スピートをクールダウンする、という意味で、少なくともプリンセスの住むカンプタールでは歓迎されています。※とは言うものの、雨はカビの脅威であり、購入ブドウの貴腐果実混入率は今年の方がずっと高く、特にベーシックなワインの場合、選果の厳密さが品質を分けると思われます。
この時点で真昼の気温は20度台後半まで上がっていたはずです。
この辺り、外から年1、2回訪れてインタビューしているだけの時と、本当に全く見え方が変わっていることが自分でもよくわかります。ちょっと詳しく説明しますね。

例えば、以前は収穫期に降る雨はすべて悪に見えていましたが、少なくとも原成岩土壌に植えられた白ブドウに関しては、収穫期に雨が降っても、その後に気温が上がらなければカビなど病害の発生もないので、一定のお日様がどこかで照ってくれるのであれば、雨は決して怖くありません

霜や雹による収量減にしても、勿論生産量が減ることは常に生産者にとっては辛いことですが、純粋に果実の質の良し悪しだけに限っても、ブドウの成熟が難しく、風味の凝縮感に問題が出がちな、寒くて日照の少なかった2010年には、自然の収量減がある意味救いの神になりました。一転、今年のように収量が減っているところに好天が続くと、風味の成熟が、収量減によって早まっている糖度の上昇に追いつかない、という現象を起こす訳です。ですから、自然収量減が、いつでも品質に肯定的に働くとは限らないのです。

同じように昼の温度が収穫期に30度を超えたとしても、朝晩の気温がちゃんと下がっているか、徐々に熱くなったか、突然熱くなったか、前に雨が降ったかなどでブドウに与える影響は千差万別で、気温だけ問題にしても何も見えて来ません。

ところで、カンプタールでは歓迎された収穫直前の雨でしたが、一昨日電話でモリッツのローランド・フェリッヒと話をした限りでは、収穫期のこの結構気まぐれな天候は、赤の生産者にとっては、やはりかなりナーヴァスになる状況らしいのです。
ブルゲンラント各地でフルボディの赤を中心に造っているローランドが懸念しているのが、カビなのか、果汁が薄まることなのか、最後の最後まで糖度の上昇が重要なのか、近くにいないプリンセスにはその辺りのニュアンスがよくわかりませんが、近日中に彼のところで畑と醸造を見せてもらう予定ですので、詳細に確かめて来ようと思っています。
味わい的に過熟を恐れて早めに収穫している印象を受けました。
そんな訳で、今オーストリア各地のヴィンツァー(=ワインメーカー)達は、自分のワインの味わいに影響を与える様々な天候要素を看取しながら、全ての情報を総合し、各畑、各品種、各区画の収穫日を決め、それに合わせて収穫&醸造クルーと用具や機器の配備を整え、収穫されたブドウを続々と発酵させている最中です。

収穫期の決定は、買いブドウなどは、もちろん糖度が目安になりますが、自分の畑のブドウに関しては、従来のその畑のブドウの味わいと、その後の瓶内熟成過程、実際のアナリティカルなデータなどを頭の中で組み立てて、自分の求めるスタイルのワインを造るのに、最適なブドウとなったところで収穫します。
その後、除梗やらスキンコンタクト、果汁調整、プレスや澱下げ、発酵開始などについてのオプションについてもひとつひとつの決断を下し、醸造工程を進めます。
毎年ブドウの状態に合わせて手法を変える人、状態にかかわらず自分のレシピを敢行する人、また同じ手法を用いていても背後の理由は異なるなど、呆れるほど多様で、本当に興味深い。

そして、日々セラーに運び込まれるブドウの状態をチェックし、発酵を始めている果汁が順調にワインへの道を歩んでいるかどうかにも目配せし、問題が起こればその都度必要な作業をスタッフに指示します。

そんな様子をセラーで観察していると、これは豪の話ですが、お医者さんに名ワインメーカーが多い、というのも頷けます生き物の面倒を見、具合の悪いところを見つけたら、快方に向かう処方箋を与える…今セラーでヴィンツァーのしてることはそれそのものだからです。
ちょっとピンボケですが、赤い粒が何かわかります?
ヒント:黄緑色はソート・マシンではじかれたリースリング
ただし、ブドウのお守りが上手なだけでは真のトップ・ヴィンツァーにはなれません。
「良いワインは良いブドウから」とはよく言われることですが、良いブドウからでもいくらでもつまらないワインは造れます。
一流のヴィンツァーは、良い子守や良い医者であると同時に、偉大な指導者でなければならないのです。

だからプリンセスはいつも思っています。「良いワインは頭の中から」って。つまり、頭の中に造りたいワインのイメージがはっきりしていなければ、毎年二度と同じようにはならない天候と、それ故に得られる異なるキャラクターのブドウから、常にレベルの高い、尚且つ自分のスタイルを持ったワインを造り続けることはできません。
マシンの脚についたテントウ虫たち。購入ブドウについていたものです。
こういう小さなゴミは手選りする前に機械で自動的に落とされるようになっています。
実は、ですからプリンセスが本当に覗いてみたいのは、大好きなワインを造り続ける、偉大な生産者達の頭の中なのです。

そのために今年はもちろん、これからもお城ワイナリーで、カンプタールで、オーストリアの様々な産地で、収穫をし、醸造作業を体験し、試飲とインタヴューを重ねる積りでいます。

次回は、本格的な白のラーゲンヴァイン収穫を前にした、お城ワイナリーのセラーの内部を公開する予定です。お楽しみに!
ソーティング・テーブル。左のベルトが直接プレス機につながっています。
テントウ虫がついていたのは、右下脚のこちらからは見えない後方部分です。
ご参考までに、10月10日現在、収穫期の折り返し地点で、真昼の気温が12度。朝方は既に3度まで気温が下がるようになっています。