2012年10月19日金曜日

ローラント・フェリヒ“モリッツ”――クオリティーの秘密に迫る その2  侮れないブルゲンラントの白

ミュレンドーフ駅でローラントの車にピックアップしてもらった時点で、外はドシャ降り。「とにかく自宅でまずテイスティングを」ということで、グロースヘーフラインの教会の隣にあるお宅にまずお邪魔したプリンセス。

プリンセスがこのモリッツとローラントに特別な思いを抱くのには訳があります。

実はプリンセス、Moricのワインをプロジェクト最初の2002年からどこかの試飲会で味わっていて、その時から彼のアルテ・レーベンに注目していたのですが、造っている本人がノイジードラーゼー東岸アペトロンのフェリッヒ(バリックのシャルドネで有名)であることを突き止めるまでに、2年近くの月日を要してしまいました。だってワインはミッテルブルゲンラントのネッケンマークトとルッツマンスブルク産だし、ワイナリーの所在はよくわからないし…、フェリッヒとワインのスタイルは正反対だし…、どのガイド本にも載っていないし…。結びつきませんよねぇ

で、最初に彼を訪問しようとした、おそらく2004年春頃、まだワインはフェリッヒで造られていたはずです。モリッツ・プロジェクトを実家フェリッヒとは別個に扱いたい(バリックのシャルドネで有名だっただけに、嫌だったのでしょう)ローラントは、フェリッヒのワイナリーで会うという選択肢を私に与えず、昨日のブログで説明した経緯で散逸する彼の畑を行き来する途上で待ち合わせることを指定しました。
ところが、その前の訪問先マインクラングがハンガリーの牛牧場を見せるなどして時間を取り、訪問が1時間近く遅れそうだ、と電話をすると「それじゃあ、もう僕はそこにはいない」と。「どうしてキチンと時間が守れないんだ」と凄い剣幕でした。結局その時は会えず仕舞い…

今になって、彼の畑の分布や行動パターンを理解した後なら、その怒りの理由もわかるのですが、その時のプリンセスはキツネにつままれた様な気分。…人間感情の動物ですので、そんなことがあると段々そのワインからも遠ざかるものなのですが、始末の悪いことにその後のテイスティングでも、常にプリンセス一番のお気に入りの赤は、ローラントのアルテ・レーベン(或いはETのマリーエンタール、その後ヴェンツゼルやウヴェ・シーファーなどが出て来ますが)でした。

なので懲りずにその後もオーストリアを訪問する度にアプローチを続け、畑もワイナリーも見ることのないまま、ワインをインポーターのY氏に推薦し、ようやく初訪問となったおそらく2006年頃、この家はまだ引っ越し直後。リノヴェーションの最中でした。
だからこそ、こうして決まった場所でキチンと迎えていただけるだけでも、なんだか熱いモノの込み上げるプリンセス…。変ですかねぇ?

さて、全てを買いブドウの、ほんの数ヘクタール分から始まったプロジェクトも、今では20ha規模、年産18000~18500本の規模に達しています。また、Moricとは別に、Hannes Schusterとの共同プロジェクト Janigiヤギーニ 4ha分が存在します。

テイスティングはまず最初に、日本には入っていない白から。

Haus Markt ハウス・マルクト 2011 グリューナー&シャルドネ 
現地小売価格で€11、つまり赤のBlaufänkisch Burgenlandと対になるべきワイン。まるでブラン・ド・ブランを思わせるレモングラス様の果実味と粉っぽいミネラル。いや、これ素晴らしい! Yさん、早くこれも引いて下さい!!
実は駅から自宅へ向かう途中、ローラントが最近手に入れ、今ブドウを植え替えている途中であるミュレンドーフ近辺の畑をささっと見せてくれました。シストに石灰の被るライタベアクの典型的土壌より、さらに純粋な深い白亜質石灰で、コート・デ・ブランなどを思わせる土壌。そうした石灰土壌の個性が、このワインには生きているような気がします。
Müllendorf 付近の石灰

Müllendorf ミュレンドーフ 2011 ノイブルガー barrel sample
ノイブルガーというとラスティックという言葉が反射的に出て来てしまいますが、これは独特のエグゾティックなアロマが豊かで、さすがローランドの造るノイブルガーは一味違う…、とは言うものの、酸の低めでズングリした体躯はプリンセスの好みとは決して言えず、それがまた顔に出てしまうプリンセス…。ローラント曰く、畑を買ったらそこにあったから、造ってみただけ、とのこと。ハウス・マルクトにブレンドするかどうかを検討中のようですが、できれば止めた方がいいのではないか、と。まあ、ブレンドの妙技はプリンセスには伺い知ることのできない世界ではあるのですが…。

St Georgen ゲオルゲン GV 2011 barrel sample
06から始めた白のプロジェクトのフラッグシップワイン。樹齢30-40年の木より。実はあまり知られていませんが、GVはブルゲンラントでも最も沢山植えられている白品種。そのブルゲンラントならではのスタイルを追求しているそう。最近の調査で最も古いGVがここSt ゲオルゲンで発見されたことで、オリジナルGVとしても注目を浴びるようになっています。所謂貝殻石灰土壌で、ハウスマルクトやミュレンドーフに感じたパウダリーでレモニーなものとは異なり、塩辛くストラクチャーに溢れるミネラル余韻はややスパイシーで非常に長い。石灰的味わいとシスト的味わいの拮抗する、いかにもライタベアク的個性。体躯と品格が前の二つとは役者違い。

そしてテイスティングは、あのアルテ・レーベンを含む赤に進みます。
to be continued