2012年10月21日日曜日

ロージー・シュスター ”正調"ザンクト・ラウレント

テイスティングを始めた頃、ローラントに電話が入りました。「今、日本のワインジャーナリストとテイスティングをしているけど、一緒にどうだい? OK? だったら、君のStラウレントも持ってこいよ」と言っています。
そして、丁度ブラウフレンキッシュ レゼアヴェを味わっているとき、ハネス・シュスターが到着。一緒にアルテ・レーベンを味わいました。
カメラを向けると目をそむけてしまうシャイな二人
そしてプロジェクトの主二人とともに
Blaufränkisch Jagini ヤギーニ Zagersdorf ツァーガースドーフ 2011 barrel sampleを味わいます。
南西向きの畑。砂がちな石灰土壌の古木より。1500~1700lの大樽で発酵熟成。未ブレンドの状態。
ノーズに、今までの赤にはない、鉛筆の芯のような香りと、ベーコンの脂のようなニュアンス。
口中でスミレやバラのフローラル、そしてリコリス風味。軽やかで弾けるスパイスと、ブライトでパワフルな果実。軽やかなタンニンと長い余韻はいかにもモリッツだけれど、ワインの性格としては、今日味わった他の赤よりは白St Georgenを思わせる…、石灰とシストの個性が拮抗するライタベアクの個性を強く感じます。
素晴らしいワインなのですが、二つのアルテ・レーベンの後に持ってくると多少印象が弱まってしまうかな?

さて、ひと通りモリッツのワインの試飲を終えると、ローラントは「じゃ、お昼の支度を手伝って来るから」といなくなってしまいます。

プリンセスは拙著の取材の際、ですから2009年の春、このハネス・シュスターにやはりここ、ローラントの自宅で会っていますが、彼のワインをキチっと意識して味わうのは初めて。
持ってきてくれたのは2本のザンクト・ラウレントです。
彼によれば、ザンクト・ラウレントというのは「テロワールをワインに移しこむことのできる、貴重な地場品種で、しかも冷涼気候の赤を造れる数少ない品種のひとつ」だそう。

最初に味わうのは、St. Laurent Burgenland 2010
父親が引き抜こうとしているのを思いとどまらせた40年以上の古木より。土壌は様々。通常10%の新樽。
外観は明るめのルビーガーネット。ノーズにまた鉛筆の芯(…これってツァーガースドーフの持ち味?)と墨のようなモノクロームな印象。軽やかな、品のいい赤い果実味が端正。長い余韻。とってもピノ的
…とプリンセスが言うと、ハネスは「ピノ的なのは2010年だけで、むしろ普通は北ローヌに近い持ち味」と解説。
ところで2010年という年は、花振るいは起こるは、収穫期に雨が多かったは…で、畑での非常に厳しい選果が必要で、一日の収穫量が通年の4~5分の1という恐ろしく労力のかかった年だそう。

素晴らしくピュアでコンパクトな、プリンセス好みのザンクト・ラウレントです。
そしてこのワインの現地価格を聞いて、プリンセスのけぞりました…なんとたった€8.5!!!
間違いなく「買い」。

そして2つ目のワインは、St. Laurent St. Margareten 2010
より樹齢の高い木。ローム、砂に石灰とクオーツ、シストなどが混ざる土壌。20日のマセレーションの後、500ml樽で20-22か月熟成し、7月にボトリング。
ノーズに再びベーコン。味わいはより緻密でデリケート。その分現時点ではやや神経質。しかし空気に触れて、ハーブ、スミレ、オレンジ、タバコなどの複雑なアロマが出、味わいはワイルドベリーの深みとフレッシュでテンションのあるミネラルがとてもいいバランス。

プリンセスがそのピュア&タイトでテンションの高い味わいに感激し、けれど「もしかしてこれは寒くて日照の少なかった2010年だけの個性?」と訝っていると、ハネスは「Stラウレントは決して12~13%以上にはアルコールの上がらないブドウだから」と言うのです。
プリンス納得行きません。この国には新樽まみれで分厚いタンニンと14%以上の高アルコールの、モンスターのようなStラウレントが溢れているではありませんか?
するとハネスは、「いや、健康でフレッシュな実だけを収穫すれば、の話だよ」と言うのです。uh-huh! ※健康=ドイツ語でGesundと言った場合、貴腐のついていない、という意味です。

そしてハネスはこんな話もしてくれました。
ライタベアク周辺の老ブドウ栽培農夫を「Stラウレントの古木を探している」、と尋ね歩いたそうなのですが、「お若いの、20-30年遅かったなぁ。Stラウレントは手間ばかりかかるから、その頃全部ツヴァイゲルトに植え替えてしまったんだよ」と、ほぼ全員に言われたのだそうです。
なんと勿体ない…
もう少し付け加えておくなら、そうした農夫は大概の場合、斜面下部の肥沃な土地の方をブドウ畑として残し(収量が多いので)、土地の痩せた上部を打ち捨ててしまいました
お蔭でいい畑が見つけられる…とは、この後昼食を食べてから、畑を案内してくれた時のローラントの言葉です。

そうそう、ハネスは様々な老栽培家と話をし、とうとうドネアスキアヒェンの、とても涼しい畑のシスト土壌に植えられた古木のStラウレントを入手。来年からそこのブドウもワインにする予定だそうです。

プリンセス、またまた日本にご紹介したい生産者が増えてしまいました : )
※モノクロ写真はハネスのサイトより。
次回は再びモリッツに戻って、昼食の様子、そして畑、セラーと続きます。お楽しみに!