2012年10月1日月曜日

クリスティアン・ライテラー…シルヒャー&シルヒャー・ゼクトの立役者 その3

プリンセス、先週の水曜からずっと実質的にお城を空け(寝にだけ帰った日もありましたが)、あちこち飛び回っており、書きたいことは山のようにあるのですが、まずライテラー訪問記の落とし前を付けておきましょう。

泡、シルヒャーの次は白。Weißburgunder, Muskateller, Steirercuvee: SB & WB, Sauvignon Bland Klassische, SB Lamberg, SB Kranachbergと味わって行きました。彼の白はWeststeiermarkとSüdsteiermarkの自己所有畑と、購買ブドウから造られており、どれも適度にミネラル感があり、クリアな味わいの好ましいものですが、「らしさ」をワイン評価の旨とするプリンセス的には、アピール度はそれほど高くはありません。…となると、狙いどころは完熟したフルーツと程よいミネラル感、お値頃価格…と3拍子揃ったSteirercuveeあたりでしょうか。

驚いたのが初ヴィンテージというBlauer Wildbacher ブラウアー・ヴィルトバッハー 08スミレやダークチェリーの香りがとても深く、綺麗に立ちます。へえ、シルヒャーのブドウはこんなに香りが魅力的なんだ…!
味わいは香りから受ける印象よりずっと硬派。けれど芯のあるコンパクトでタイト、濃い色の果実香味はちゃんと奥底に存在します。しかも、タンニンがとても滑らか!
歴史的に赤にせずロゼにしていたのは、「あまりに厚い果皮からはクセがあり過ぎるかドロ臭い果実味と粗く固いタンニンしか抽出できないからに違いない」と信じ込んでいたプリンセスにとって、この硬質でスタイリッシュな果実味と滑らかなテクスチャーの組み合わせは、ちょっと驚き!!!
ライテラー氏の後ろがステンレスタンクを
保冷貯蔵するコンクリートの筒。
そこにライテラー氏が登場。30分の超特急インタヴューが始まった訳ですが、彼は英語ができません。そしてプリンセスの独語力も、短時間に聞きたいことを要領良く早口で聞き、相手の早口の返答を理解するレベルにまではとても達していません。
でも、ここまで来てモノオジしていては、たった6週間の現地取材(もちろん事前、事後の調査は結構膨大でしたが)で、一冊本を書いてしまった無謀者プリンセスの名がすたります。それに、質問者の聞きたいことがはっきりしていれば、そして回答者がブレない返答を持ち合わせていれば、そして何より「良いワイン」に対する基本的考え方を共有できていれば、流暢に言葉を操れなくても驚くほど言わんとすることは理解し合える、ということもよくわかっています。

プリンセスが知りたかったことは、1)シルヒャークラシックとラーゲンものの製法の違い、2)フリッツァンテとゼクトの果実の出所と製法の違い、そして3)今しがたテイスティングした赤の製法とその可能性についてです。

まず収穫について。最初にフリッツァンテとゼクト用のブドウを収穫。これはカンプタール周辺のゼクト同様、ラーゲンヴァイン(=単一畑もの)のブドウのグリーンハーヴェスト果汁を用います。その後クラシックタイプのシルヒャーは大体10月中盤くらいまでに、熟度が15-6KMWの段階で収穫。その2-3週間後にラーゲンヴァインのブドウを収穫します。
後にラーゲンもののワインは、リザーヴワインとして、フリッツァンテ、ゼクト、そしてクラシック・シルヒャーに適宜ブレンドされます。
因みに色と風味を抽出するためのコールドマセレーションは、除梗&極軽く破砕の後、プレス機の中で、8度以上に絶対ならないようにし、果実の状態により通常10-15時間、最長で20時間行います。果実の熟度が高ければ高いほどスキンコンタクト時間は短く、色はオレンジがかり、低いと長時間のスキンコンタクトが必要で、しかも青の色素の多いピンクになるようです。
処理果汁の量に対し圧倒的に簡素で少ない機材達
ところで、前にも書きましたが、ここの醸造施設は戸外(部分的に屋根付)にあります。そして、買いブドウも合わせて現在果汁の処理量が70ha分程度に達するワイナリーの規模からすると非常に簡素です。発酵桶の数も、例えばお城ワイナリー(60ha分)などと比較すれば極端に少ない。当然収穫~プレスしたブドウをすぐに発酵に回せない事態も起こるはずです。そうした状態のジュースを低温で一時保存するためのタンクは、コンクリートの壁の中に配置された二重構造になっていました。
他にもヴァイブレーションで劣果実を落とす装置やら柔らかく果汁を破砕するプラスティック製のスクリューなどなど、品質のために押さえるところはきちんと押さえてあります
因みに、発酵もラーゲンものは天然酵母。クラシークと泡は培養酵母で行います。

さて、ステイリッシュな味わいに驚いたブラウアーヴィルトバッハーの赤ですが、製法を聞いて更にビックリ! なんとこのワイナリーに現状で木樽は一切存在しない…つまりこれステンレス熟成なんです! であれば余計に、タンニン・マネジメントの上手さが光ります。けれど、どう考えてもこのBヴィルトバッハーのガビガビのタンニンは空気に触れされて熟成させた方が、綺麗に丸くなるはずです。
「Bヴルトバッハーの強靭なタンニンを円やかにするために、熟成は木樽の方がよくありませんか?」 と尋ねると何やら早口で答えてくれたのですが、プリンセスが「????」な顔をしているのを見ると、「見せて上げるよ」と腕を引いて地下セラーに。といってもおそらく今まで倉庫或いはボトルワインの貯蔵庫として使われていたもので、醸造機材などは一切ありません。右側のスペースが空けられており、「ここに大樽を入れて、来年からは赤は樽熟成。赤だけでなくラーゲンヴァインも将来は大樽で寝かせる予定さ。」と話してくれました。
将来は赤とラーゲンヴァインが、この地下セラーで寝かされます。
ステンレス発酵熟成の現時点で、しかもあのブドウからこれだけ滑らかなタンニンを引き出すには、ブドウの収量から熟度、発酵温度やパンチダウンやポンプオーヴァーの頻度ややり方、マセレーション期間、プレスの仕方などなどとてもデリケートなテクニックと匙加減を要求されるはずです。
それら全てについて尋ねることは、もちろん限られた時間とプリンセスの独語力では不可能でしたが、4年のステンレスタンク熟成を経て、素晴らしい果実香味を放つこのワイン、来年からの大樽熟成で熟成期間を減らす積りなのか、熟成容器の変更でどのような風味やテクスチャーの変化を見せるのか、今から非常に気になるワインです!

別れ際、「来年の1月、今年のシルヒャーをゆっくり味わいにおいで。その時は、必ずもっと十分に時間を取るから。君がシルヒャーに大きな興味を持ってくれてとても嬉しいよ。」と言ってギュっとプリンセスの肩を抱きしめてくれたクリスティアン・ライテラー氏。
働き者で誠実、気は優しくて力持ち的な、頼りになるヒト特有のオーラが満開でした。