2012年10月13日土曜日

シュロス・ゴーベルスブルク 生産ライン大公開


前回のブログにも書いたように、お城ワイナリーでは白のベーシックラインと赤の収穫が終わり、白の単一畑、エアステラーゲの収穫へと入って行く前の、ちょっとした小休止状態。
これからクライマックスシーンを色々ご紹介する前に、我がお城ワイナリーことSchloss Gobelsburgシュロス・ゴーベルスブルクの生産ラインをご紹介しておくことにします。

オーストリアのワイナリーの素晴らしいところに、最新のテクノロジーと伝統の知恵の良いところを見事に融合させている点がありますが、その意味でシュロス・ゴーベルスブルクは最好適例かと。
シトー派のツヴェッテル修道院は、この地で1171年からワインを造り続けており、現在のセラーも最も古い部分は中世、建物も、ルネッサンス様式部分は15-6世まで遡ります(まさかそんな建物に自分が実際に住むことになろうとは、夢にも思っていませんでした)。
普通お客様にお見せするのは、そんな歴史を留めた部分。

お城は東西南北を四辺としたロの字型に建っており、これは左上肩、つまり西北の角。
西側(左)の緑のドアがセラー入口。
緑のドアを開けると、この鉄ドアが。更に赤白の木製ドア。
赤白ドアを開けて階段を下りると、飾り棚にはケルトやローマ時代のワイン発酵容器が。
左右のレーダーのようなものは、ワインのプレス、発酵、熟成、味わうという過程を描いたダマシ絵アート。
木製ドアを開けると、その先はズラっとマンハーツベアクのオーク大樽が並びます。
大樽の足元に注目! 果汁をポンプせずに、樽を移動させる、
というシュロス・ゴーベルスブルク独自の発想です。
赤ワインの熟成樽。今はこれから果汁を入れる樽がここから出た状態なので、ガラガラです。

けれど、特にブドウを扱う部分で、シュロス・ゴーベルスブルクは、家族経営(といっても、修道院からのリースですが)としては、最新設備に非常に大きな投資をしているワイナリーのひとつ、と言っていいでしょう。
そんな生産ラインを、今月ワイナリーでどんなことをしていたのか、ザザっとご紹介しながらお見せしましょう。
お城北側。右上がブドウ搬入スペース。正面は空気圧プレス。更に大型が奥に控えます。
プリンセスも収穫したStラウレントが右後ろの小さなカゴで搬入されたところ。
カーナーさんのこの顔はブドウの状態の良さを物語っています。
畑でももちろん選果済みですが、こうして除梗前に再度選果します。
いつも誰より真剣に選果するのは、カーナーさんか当主ミッヒ : )

除梗中。ウチは白はすべてホールクラスター=除梗なし
こちらはリースリングの購入ブドウ
こうして糖度を計ります。

プリンセスが見ている間だけでも88-99エクスレまでのブドウが存在。
こちらは去年の写真ですが、最新式の垂直ブレス。
ゼクトとトラディツィオン&貴腐ワインにしか使っていません。
糖度をチェックし、右の振動で小さなゴミを落とす装置を経て、
左のソーティング・コンベアへ。
使用した収穫ボックスは、その日のうちに洗います。
こちらが大型プレス。さっきのソーティング・コンベアから直接ブドウが流れ込みます。
作業がひとつ終わるごとに、こうして清浄。
こちらでも清掃。以上ブドウが発酵に回されるまで、でした。
さて、今こうしてブログを書いているプリンセスの横では、栽培醸造長カーナーさんの事務アシスタントのエレーナが契約購入ブドウについての記録(買い取り量、糖度、支払い予定金額など)をPCに入力しています。今年は霜の影響で所有畑の収穫量がおそらく4割程は減少しているので、購入ブドウがその分増えており、なんと90人以上の栽培者からブドウを買ったということです(売る方だって霜の害に遭っているのですから、各農家から少しずつしか買えない、という事情があります)。当然今年初めてブドウを購入した 農家も含まれます。

…もし来年再び収穫量が平年通りになったとしたら、この、初めてお城ワイナリーにブドウを売った農家は、来年のブドウはどこに売るのでしょう? 
購入ブドウの比率が少なくなれば、当然今年いいブドウを作ったところから購入先を選んで行くのでしょう。
こちらはエアステラーゲの発酵に使われるタンク。まだ空です。
ピノ・ノワール。今週火曜の時点で、コールドマセラシオン中。
奥がStラウレント ハイデグルンドとツヴァイゲルト・ハイデ。
手前はStラウレントのフリーランが発酵中の小樽。
一番左のStラウレントは今まさに発酵が盛ん。
果帽がどんどん上がってきてしまいます。
カーナーさん自らパンチダウン。かなり力が要るようです。
5分くらいやっていたでしょうか。
現在の温度26.1度。この木製開放桶は、
温度コントロール装置が内装されています。
続いてパンプオーヴァーを30分ほど。
不法就労かと思うほどの若者が作業を担当。
こうして果汁をかけて、果帽を沈めます。
味わいをチェックするカーナーさん。
ボトリングラインではゼクトのボトリング中。
そしてドメーネやゴベルスブルガーのラインを発酵熟成させる
大型タンクの部屋ではハンガリーからの研修生が発酵の勢いの悪いタンクの味わいをチェック。
おかしい場合、カーナーさんが更に試飲の上、必要な処置を指示。
これは発酵塩と呼ばれる粉末をワインで溶いてタンクに入れているところ。
余談ですが、購入ブドウの価格は糖度が基準です。となると、当然貴腐を沢山混ぜた方が糖度は得やすい。けれどお城ワイナリーは、一定量以上の貴腐は混ぜたくないスタイル。しかも単純に糖度だけを問題にすると、悪い貴腐が混ざっていようがとにかく沢山貴腐が入っている方が有利。

…という訳で、今年単年でみれば、選果をちゃんとせず貴腐を沢山混ぜた栽培農家の方が、リーフワーク&選果を懸命にし、健全な果実主体に納めた農家より高い価格でブドウを売った、ということも有り得ます。注:「売った」と書きましたが、支払額が決定されるのは醸造が終わってから。これも初めて知りました。買い手市場とはこのことです。
けれどそういう栽培農家こそ、再び収穫量が平年並みになった時、真っ先に切られる訳で、ワイナリーと契約栽培農家の関係も、こうして見ていると、色々駆け引きがあるのがわかります。
霜の害の多い「今年だけ」声が掛かった、と見れば多少汚れた貴腐ブドウも平気で混ぜ込んで、高い価格で「売り抜けよう」というところだって当然あるでしょう。
2-3割以上貴腐の混じる房ばかりを選り分けて、何やら黒い粉をふりかけてプレスへ。
黒い粉の正体は石炭。貴腐からの果汁を消毒&清澄する効果があります。
そのせいかどうか、今年の購入ブドウは昨年より、そしてお城ワイナリー所有畑のブドウより明らかに貴腐(いいものも悪いものも混ざっています)率が高く、それらは房ごとソーティング・テーブルで外され、石炭の粉末をかけて別にプレス&発酵され、その質と味わいを十分に検討した後、適宜1ℓワインやドメーネ・ラインにブレンドされるか、廃棄されることになります。

以上、折り返し地点で先週の作業をまとめてみました。
来週は赤の巨匠ローラント・フェリッヒ(モリッツ)の醸造の様子、そしていよいよお城ワイナリーの単一畑の収穫をレポートできる予定です。お楽しみに!