2012年10月30日火曜日

収穫期に雨・雪が降ると…?

プリンセス、こちらに来る前の10年近く、ワインスクールで教えていました。そしてしつこいくらい、「収穫期に雨が降ると一年の苦労が台無し」みたいなことを話していました。

ですから昨年、はじめてワイナリーを経営する家族やケラーマイスターと毎日一緒に食事をするような生活を体験した際には、収穫が始まってから2日以上雨が続くと、なんとなく周囲の心情を慮ってしまい、「この雨の影響は?」などという心無い(と勝手に自分で思い込んでいた)質問を敢えて家の中でする勇気は出ませんでした。

ところが、2年目の今年は、当主ミッヒとケラーマイスターのカーナーさんの会話や、最初は冗談でなくスロヴァキア語かと思ったキツイ方言での従業員同士の会話も、なんとなくニュアンスが理解できるようになってきました。
そうすると、雨が3日続こうが、雪が降ろうが、誰も全く慌てていないことがわかります。ゼーンゼンピリピリもしていません。5月に遅霜が降った朝の、ミッヒの本当に深刻な表情とは対照的に(いつもクールでポーカーフェイスのミッヒにしてのあの表情…、プリンセスは一生忘れることができないでしょう)

どうやら、水捌けの良すぎる原成岩土壌の多いこの辺りでは、雨によって実が膨らんで破裂する、などの害はないし、温度が低すぎて、雨が病害の促進要因になることも、プリンセスの毎日の観察からは、ほとんどないようなのです。

そんな訳で、今年はミッヒとケラーマイスターのカーナーさんの同席する昼食のテーブルで、堂々と聞いてみました。
プリンセス: 収穫期の雨は、もうここまで温度が下がっていれば、問題ないみたいね?
ミッヒ: ああ、問題ないよ。ブドウに雨が大敵なのは、温度が高いうちだ。
P: 昨日は結構な雪だったけれど、氷点下になっても品質に影響はないの?
カーナー: 全然大丈夫。そりゃマイナス20度以下になったら木が危ないし、果汁の凍るような温度(プリンセス注:零下7,8度以下)になったりすれば別だよ。

なるほど。
この辺り、ブドウの糖度が完熟に達するや否や摘んでしまわないと、酸が急降下する温暖産地や、秋が深まると雨が増え、しかも収穫期にまだまだ雑菌類の繁殖できる温度である仏のボルドーやブルゴーニュなど、ワインを扱う人間の多くが“基準”にして考えている産地とも、大きく状況が異なるところです。
そして、この雨が降っても雪が降っても『待てる』という状況こそが、ひとつの畑から、ユングヴァイン(ホイリガー、ユンカーなどの若飲ワイン)、軽快なDAC(≒フェーダーシュピール程度の糖度)、重厚なDACリザーヴ(≒スマラクトレベル)、アウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼ、TBA、アイスヴァイン…と、多様な、北国ならではのワインを造ることを可能にしています。もっと言うなら、この『待つ』行為こそが、北のワイン特有の軽やかなのに深い風味を決定付けている、と言っていいでしょう。
エラちゃんは当然雪なんかモノともしません:)
では、雨や雪が続くと一番困るのは誰でしょう? …収穫する人間です。零下で雪の降る中収穫を決行したなら、労働者は皆大風邪をひいてしまいます。
一方ワイナリーにしても、あまり遅くまで発酵を始められないと、新酒信仰のあるこの国で、それぞれの格におけるリリースの時期に出遅れることは、市場での結構な痛手を意味します。
また、収穫期が長引けば、食事や住居(当然ガス代や電気代、水道費などもかかる)を出稼ぎ労働者に提供しているワイナリーの負担もジワジワと増えて行きます。
さらに、出稼ぎ労働者の労働期間は定められており、11月半ば以降は続々とお国に帰ってしまいますから、摘み手が足りない、という事態を招きます。

けれど、やはり一番被害を受けるのは、末端出稼ぎ労働者。宇宙語としか思えなかった、彼らとお城ワイナリー労務担当者とのやり取りを聞きかじる限り、どうやら収穫のない日には、他に庭仕事などの代替労働がない限り、日当は払われていない模様だからです。
今日は霜の害の酷かったシュタインセッツのGVが収穫できました。
今日は雪も止み、シュタインセッツ畑のグリューナーを収穫。明日は泣く子も黙るハイリゲンシュタインのリースリングを予定しています。
勿論、プリンセスも収穫に参加の予定です!