2011年10月20日木曜日

ブドウ畑にUFO?!

リースリング収穫中に謎の飛行物体?!
いえいえ、これは収穫籠(こちらではキステKisteと称します)がブドウの木を飛び越える様子です。
事前に収穫の決まっている場所であれば、きちんと収穫籠を適当な間隔で木の下に配置しておくのですが、昨日のように急遽収穫場所が告げられた場合、こうしてにわか調達した収穫籠を各畝に投げて行きます。投げられる方の畝にいると、だから恐い… : )

それにしても彼のフォーム、妙に堂に入っています。元砲丸投げの選手だったりして: )
しかもちゃんと木やヒトに当てず、隣の畝に落として行きます。
ダブル投擲もお手の物…Fly, Kiste, Fly!!
 実はこの収穫籠(=キステ)のロジスティクスはとても重要。収穫も佳境に入り、収穫隊だけで40人あまりの人数を抱えていると、どの畑でも「キステが足りない」ということになりがち。
足りなくなれば、どうしてもひとつの籠に沢山ブドウを入れがちですし、パンパンに積めば積むほど、ブドウ自体の重みで実が潰れ、果実の劣化が進むのは明らか。酷い場合は収穫をスローダウン、或いは停止せねばならぬ事態となります。
また、このキステが汚れていたり湿っていたりすると雑菌の温床となり、収穫されたブドウの劣化を加速させます。
なので、ワイナリーに運ばれたキステは、ブドウをソーティング・プレスに空けると、その場で綺麗に洗われ、きちんと乾かしてから収穫畑へとトラクターで運ばれ、各畝に必要な数が適当な間隔で予め配置されます。

こちらで収穫を体験して、ワインジャーナリストとして反省するのは、こうした地味な作業の中に、実はワインの品質に決定的な影響を与える要素が沢山あることを、我々は忘れがちで、やれビオディナミだ、やれ土壌だ、それも土壌のpHや組成(石、砂、粘土)、ミネラル分などの基本を飛び越えて、三畳紀だのペルム紀だの…、というなんだか神秘的で、けれど味わいからは感知不能に近いことばかりあれこれ詮索し、もっと品質や味わい、ワイナリーのスタイルにダイレクトにつながる要素について、あまりに無知だったり、無関心だったりする傾向です。
「そんなことは一流ワイナリーだったら、皆クリアしてることだろう」と思われるかも知れませんが、皆さんのお仕事と同じく、いや自然が相手のブドウ栽培が根本のワイン造りはそれ以上に、常に予想外の出来事やトラブルの連続で、しかも様々な要件(天候、異なる畑、ブドウ品種、人員キャパ、機材キャパ、ロジスティクス…)が常に同時進行しており、完璧ということは有り得ないのです。
そんな中、品質や求めるスタイルにとってクリティカルな工程を随所随所でいかに見抜き、柔軟に高いパフォーマンスでこなして行くか、というその対処の仕方にこそ、「各ワイナリーのスタイル」というもの、つまりいつも私が言っている「らしさ」というものの根源が潜んでいるように思います。